児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

裁判所あまのじゃく説

 この判決についての問い合わせが多いですが、H16.1.21被告人上告が棄却されています(第三小法廷)。
 公然陳列罪への予備的訴因変更が許可されていますが、一審判決が「児童ポルノ」と認定した画像には、人間が撮影されていなかったり、着衣であったりしたものもあったので、児童ポルノ画像の個数の認定が違っています。
 一審の私選弁護人は何してたんでしょう?証拠を検討していない。

http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/WebView2/27642C03FB01140B49256E6700180854/?OpenDocument
◆H15. 9.18 大阪高裁 平成15(う)1 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
事件番号  :平成15(う)1
事件名   :児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判年月日 :H15. 9.18
裁判所名  :大阪高
部     :第1刑事部
結果    :破棄自判,上告
原審裁判所名:奈良地裁
裁判要旨  :
1 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項にいう「その他の物」とは,同項各号に掲 げられた視覚により認識することができる方法により描写された情報が化体された有体物をいう。
2 コンピュータの記憶装置内に記憶,蔵置された児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等を撮影した画像データは,それ自体としては児童ポルノに当たらない。
1 本件控訴の趣意
本件控訴の趣意は,主任弁護人奥村徹,弁護人岡田崇及び同壇俊光共同作成の控訴趣意書1並びに主任弁護人奥村徹作成の控訴趣意書2,控訴趣意書補充書1,同2,控訴補充書3及び控訴理由補充書4ないし9にそれぞれ記載されたとおりであり,これに対する答弁は,検察官篠粼和人作成の答弁書に記載されたとおりであるから,これらを引用する。

 この大阪高裁判決に対する上告審は、高裁判決の追認を求めるための上告でした。
 最高裁裁判所に「電子データは児童ポルノ・わいせつ図画ではない」と言わせるにはどうするか?
 裁判所は、基本的に、弁護人の見解を採用しないから、弁護人が「電子データは児童ポルノ・わいせつ図画である」と主張すればいいのである。データそのものが児童ポルノだとすれば、媒体が変わっても新規性がないことになるから、製造罪の罪数が減るので、被告人に有利な主張として構成できる。
 理由付けは簡単である。大阪高検篠崎検事の答弁書をそのまま拝借した。
http://www.okumura-tanaka-law.com/www/okumura/child/osakasyber/0501sinozaki.html
 結果は上告棄却決定H16.1.21である。
 決定はいわゆる三行半であって素っ気ないが、上告理由を合わせて読めば、わいせつ画像のweb公開を「HDDの陳列」と構成する最決H13.7.6を踏襲した上に、たとえデータが閲覧者に複製保存されても公然陳列罪とは別個に販売頒布罪が成立することはないという判断であると理解できる。

 しかし、下級審ではデータを児童ポルノとしたと読める判決が結構あります。事例紹介のために、上告趣意書の一部を紹介します。
http://www.okumura-tanaka-law.com/www/okumura/child/031109deta.htm
1 データの児童ポルノ該当性
(1)最高裁H13.7.16*1
 最高裁はわいせつ画像のweb掲載について、サーバーのHDDのわいせつ物該当性を論じ、データそのもののわいせつ物該当性については、判断していない。
わいせつ物公然陳列被告事件
【事件番号】最高裁判所第3小法廷決定/平成11年(あ)第1221号
【判決日付】平成13年7月16日
 まず,被告人がわいせつな画像データを記憶,蔵置させたホストコンピュータのハードディスクは,刑法175条が定めるわいせつ物に当たるというべきであるから,これと同旨の原判決の判断は正当である。
(2)原判決
 原判決は、電子データはその存在形式ゆえ「児童ポルノ」に該当しないとした。
 児童買春児童ポルノ禁止法2条3項は,「『児童ポルノ』とは,写真,ビデオテープその他の物であって,次の各号のいずれかに該当するものをいう。」と規定しており,「その他の物」については,その例示として掲げられている物が写真,ビデオテープであることからすれば,文理解釈上,これらと同様に同条項各号に掲げられた視覚により認識することができる方法により描写した情報が化体された有体物をいうものと解すべきであるところ,関係各証拠によれば,本件において児童ポルノに該当するとされている画像データは,被告人において,契約を結んだ東京都千代田区大手町1丁目6番地の1大手町ビルディング3階所在の株式会社エヌ・テイ・ティエックス管理のサーバーコンピューターにホームページを開設し,同コンピューターの記憶装置であるディスクアレイ内に記憶,蔵置させた電磁的記録であり,このような電磁的記録そのものは有体物に当たらないことは明らかである。
(3) データを児童ポルノ・わいせつ物とする下級審判決例
 原審検察官の答弁書に言及されている判決の他にも多くの判決例が見られる。
前橋地裁H131227調書判決
 製造罪の客体は画像データである。
② 報道
【神奈川県】 2003年7月24日(木)  カメラ付き携帯電話で撮影したわいせつ画像をメール相手の男に携帯電話で送ったとして・・・
③ 報道
【北海道】 2003年5月14日(水) 白石署・児童ポルノで送検
④ 東京地裁H13.6.15H13刑わ724号
 画像情報が児童ポルノであるとしている。
金沢地裁H12わ91
 画像データを児童ポルノとしている。
千葉地裁H14わ1573.
 データを児童ポルノかつわいせつ物とした事例
⑦名古屋簡裁 h13い01465
 画像情報を児童ポルノとしている
⑧ 宇都宮地裁栃木支部H15.2.26(調書判決)
 製造罪の客体は、画像データであるとされている。
(4)実務上の不都合
 HDDを有体物として、HDDの陳列と構成するのでは、裸の児童を生中継する行為には、児童ポルノ罪が適用されない。
 中国新聞地域ニュース ネットのぞき部屋 福山の経営者ら逮捕 '03/7/31
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn03073139.html
 HDDを有体物として、HDDの陳列と構成するのでは、全裸の成人を生中継する行為には、わいせつ物の罪が適用されない。せいぜい公然猥褻罪である。法定刑の差に注意。

岡山地方裁判所、平成11年(わ)第524号わいせつ図画公然陳列被告事件*2
 電子データも有体物と同様同程度に法益侵害の危険性があるにもかかわらず、有体物性にこだわる限り、処罰できない行為が残る。

(5)まとめ
 以上に見たように、最高裁判決が沈黙しているデータのわいせつ物・児童ポルノ該当性について、下級審判決はこれを肯定するものが多い。
 これに対して、原判決は、児童ポルノについてこれを否定したものである。
 肯定する裁判例と原判決とは相容れないものであり、原判決が正当であれば、裁判例はいずれも法令適用に誤りがあることになり、場合によっては非常上告手続が取られるべきことになる。
 そこで、法令解釈の統一性を保つために、最高裁は、データのわいせつ物・児童ポルノ該当性について判断を示さなければならない。
2 販売・頒布の定義について
(1)原判決
 原判決は、販売頒布について次のように判示し、いずれも「交付」=占有移転が要件であるとした。
 これは、わいせつ図画に関する伝統的判例大審院刑事判例集15巻大正11年1月31日「猥褻被告事件」)を踏襲するものである。
児童買春児童ポルノ禁止法7条の児童ポルノ販売,頒布罪における販売ないしは頒布は,不特定又は多数の人に対する有償の所有権の移転を伴う譲渡行為ないしそれ以外の方法による交付行為をいうものであるところ,本件において,上記B1,B2及びB3は,それぞれ,被告人から教示されたホームページアドレス等を自己のパーソナルコンピューターにおいて入力することにより,被告人が開設した上記会社管理のサーバーコンピューター内のホームページにアクセスし,同サーバーコンピューターのディスクアレイに記憶,蔵置された本件の画像データをそれぞれ自己のパーソナルコンピューターにダウンロードし,ハードディスクないしはフロッピーディスクにその画像データを記憶,蔵置させて画像データを入手していることが認められるが,上記サーバーコンピューターのディスクアレイ上に記憶,蔵置された画像データそのものは上記B1らのダウンロードによってもその電磁的記録としては何らの変化は生じていないのであり,画像データの入手者であるB1らに上記サーバーコンピューターに記憶,蔵置された電磁的記録そのものの占有支配が移転したと見る余地もなく,この点で原判示第2に認定された事実のもとでは児童ポルノの販売に該当する事実もないというべきである。
(2) 刑法改正動向
 ところで、法制審議会の答申によれば、「わいせつな電磁的記録を電気通信の送信により頒布する行為」が処罰される。メール送信によって配布する行為である。
 この場合、占有移転はないから、旧来の頒布概念を維持するのであれば、永遠にメール送信は処罰し得ない。
http://www.moj.go.jp/SHINGI/030807-1.html
第二  わいせつ物頒布等の罪(刑法第百七十五条)の改正
 一  わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科するものとすること。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も同様とすること。
 二  有償で頒布する目的で、一の物を所持し、又は一の電磁的記録を保管した者も、一と同様とすること。
(3)サイバー犯罪条約*3*4
 サイバー犯罪条約では、「児童ポルノ画像データ自体をインターネットを通じて送信する行為」が処罰されなければならず、留保は許されていないが、販売頒布には児童ポルノの占有移転が必要とする限り、条約は批准できない。現行法としても、サイバー犯罪条約に対応する解釈が必要である。
 すなわち、経済産業省では、サイバー犯罪条約の批准に備えて、国内法との関連性を調査するために、サイバー刑事法研究会を設けた。
 「児童ポルノ画像データ自体をインターネットを通じて送信する行為、および「不特定又は多数」の者に対して行う意図を有しない「特定」の者に頒布する行為が、同法で規制されておらず、担保できない」と報告している。すなわち電子データの送信は、販売頒布に当たらないことを明らかにしている。
 サイバー刑事法研究会報告書P27
 わが国における児童ポルノグラフィに関連する様々な犯罪行為の処罰については、「児童買春・児童ポルノ禁止法(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律)」で規定されているが、第1 項cについては、児童ポルノ画像データ自体をインターネットを通じて送信する行為、および「不特定又は多数」の者に対して行う意図を有しない「特定」の者に頒布する行為が、同法で規制されておらず、担保できない。
 児童買春・児童ポルノ禁止法第2 条第3 項にいう「児童ポルノ」は、従来より一般に有体物と解されているところ、横浜地裁川崎支判平成12・7・6(電子メールシステム上の画像データを有体物に化体されたのと同視して「図画」に該当するとして、「猥褻物」概念を拡張解釈)の考え方に立てば、児童ポルノをデータとして送信することも現行法で処罰の対象となると解する余地はある。尤も、最決平成13・7・16 は、「わいせつな画像データを記憶、蔵置させたホストコンピュータのハードディスクは、刑法第175 条が定めるわいせつ物に当たるというべきである」としており、これに従えば児童ポルノデータ自体を児童ポルノと解することには困難が生じることになろう。いずれにせよ、児童ポルノデータを「物」と解すること自体は解釈として疑問が残る以上,同項の「児童ポルノ」の定義規定を改正し、児童ポルノ画像データが含まれることを明文で追加するか、又は児童ポルノデータをコンピュータ・システムを通じて送信することを処罰する規定を創設する等、新たな刑事立法を行うことが本来望ましいものと解される。
 第1 項dおよびe、ならびに第2 項b およびc については、わが国の国内法が規制の対象としていない類型であるから、第4 項の規定に基づいて、それらを適用しない権利を留保しなければならない。
(3) 研究会における意見
 児童ポルノに情報を含むか否かという点の解釈については、川崎支部判例最高裁判例のいずれが今後の主流となっていくかという問題もさることながら、そもそも定義規定それ自体が明確性を欠いているという問題も看過されてはならない。
米国においては、児童ポルノの配布、送信についての規制をめぐって、憲法訴訟がおきており、「表現の自由を侵害する」という違憲判決が出た場合には、本条による規制が人権保障に反するのではないかという点が、正しく問題となる。この点に関しては、たしかに「児童ポルノは特別である」旨の連邦最高裁判例が存在するが、米国も本条についてはなお留保の可能性がある。
P90
2.1.2.条約第9 条関係
【担保されていない可能性が高い行為】
 児童ポルノ画像自体をインターネットを通じて送信する行為。
(4) まとめ
 最高裁は、ネットによってデータとしての児童ポルノ・わいせつ情報が主流となりつつあることに対応すべく、新しい解釈を明らかにしなければならない。
3 web掲載行為の擬律の問題
 児童ポルノをweb上の掲載する行為の擬律については、幾つか考えられるところである。
1 自分のPCのHDDに画像を記憶している状態=陳列目的所持罪
2 サーバーのHDDに画像を記録する行為=陳列目的製造罪
3 サーバーのデータを不特定多数から閲覧可能な状態にする行為=公然陳列罪
 これに、本件を販売にあたるとすれば、さらに
4 サーバーのHDDにデータを送信して記録する行為=頒布罪
5 クライアントに対して、データをDLさせる行為=販売罪
が成立する。
 2の製造罪との評価も実在する。
前橋地裁H131227調書判決
② 宇都宮地裁栃木支部H15.2.26

 実質は「インターネットに掲載して、児童の姿態をさらす行為」という今や一つの行為類型であるが、5罪も成立するというのは、実務家の感覚としては常軌を逸する。
 翻って見れば著作権法が一言で「公衆送信化」と規定する行為を本法の回りくどい規定5個で規制するというのは、法の無策を示している。
 最高裁はweb掲載行為の擬律についても判断しなければならない。

                                                                                                                                                              • -