児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

それでもわいせつ図画・児童ポルノは「有体物」に限る。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050811-00000036-mai-soci
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050810-00000315-yom-soci
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050810-00000072-jij-soci
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050810-00000133-kyodo-soci
のメール送信を「販売」としたのは間違っています。
 余罪もあるので無罪放免とはいかないと思いますが、起訴段階で変更されるものと予想します。ここは愛知県の弁護士にがんばってもらいたいところです。

 愛知県警がどう解釈しようと、有体物性については、大阪高裁H15.9.18で決着がついていると考えています。「少数説」とか「奥村弁護士独自の見解」なんかじゃなくて、高裁判決が大阪高裁でも東京高裁でも名古屋高裁でもわんさか(追認する最高裁決定も)あるわけです。判例ですよ。

 川崎支部h12.11.24とか川崎支部H12.7.6とかは、大阪高検からFAXで送っていただいたことがあって、マスクされていないものを持っています。
 両方、控訴されていないようです。たかだか地裁の裁判例

http://www.kanto.npa.go.jp/contents/05contents/oshirase03.html
 判 例 紹 介 1 
『有体物ではないといわれている「画像データ」が、有体物とみなされ、刑法第175条前段の「わいせつ図画販売」にあたる。』とした判例
  横浜地方裁判所川崎支部 確定 H12. 7. 6
 本件は、インターネットを利用して送信したわいせつ画像について、「わいせつ画像とは、本やビデオなど形のある有体物でなければならず、画像データは情報であり、有体物ではなく、わいせつ図画の対象にならない。」の弁護側の主張に対して、「画像データは、電子メールシステムという媒体を通して取り込んだパソコンで、いつでも再生可能な状態になることから有体物とみなすことができ、わいせつ図画に当たると解釈できる。」と判示されたものである。

3 考察
  これまでは、わいせつ画像データは有体物ではないとして、刑法第175条に規定される販売の対象とはならないとされていたが、本判決は、これを有体物とみなすものとしたもので、今後、パソコン内に販売目的でわいせつ画像データを保存している場合のわいせつ図画販売目的所持罪の適用について、大いに注目されるものである。

 しかし、今となっては関東管区の解説は理解不能です。現時点の解釈でも、媒体に化体しているデータしかわいせつ物・わいせつ図画としていません。

 旧児童ポルノ法(「販売」「頒布」)について、さんざんデータは児童ポルノではないという判決をもらっています。刑法175条も同じ用語ですから、同じ解釈です。

 奥村弁護士は、ことあるごとに、悪いのは媒体ではなくデータなのだから、データが児童ポルノなりわいせつ図画だと判示すべきだと主張していますが、高裁レベルではことごとく反対です。

阪高裁H14.9.10
③被告人が製造したのは,焼き付けられた写真ではなくネガフィルムであるのに,「写真」70枚を撮影したと摘示した原判決は罪となるべき事実の摘示に欠け(控訴理由第5),③上記撮影及び現像行為については,本件の場合には,リバーサルフィルムでなくネガフィルムが使用されていたため,撮影後フイルムが未現像の段階は勿論,フイルムが現像された後の段階でも,視覚により認識が可能とはいえず,焼付けがなされ,写真となって初めて認識可能になるから,未だ児童ポルノ製造罪は成立しないのに有罪の認定をした点において、また,児童ポルノの撮影によりその製造罪が成立するとすれば,その後の現像までの行為は不可罰的事後行為と解されるのに,現像行為を含めて児童ポルノ製造罪にあたるとして有罪の認定をした点において(控訴理由第3),原判決は児童ポルノ法7条2項の解釈,適用を誤ったものであり,以上①ないし③は判決に影響を及ぼすことが明らかである,というのである。
しかしながら,・・・③については,児童ポルノとは,「写真,ビデオテープその他の物」であって「視覚により認識することができる方法により描写したもの」であることを要するが,有体物を記録媒体とする物であれば,必ずしもその物から直接児童の姿態を視覚により認識できる必要はなく,一定の操作等を経ることで視覚により認識できれば足りるから,写真の場合は現像ないし焼付け等の工程を経てこれが可能になる未現像フイルムや現像済みネガフィルム(以下,撮影済み及び現像済みネガフィルムを「ネガ」という。)は,これに当たると解するべきであるから,本件の場合,児童ポルノ製造罪は撮影により既遂になると解するのが相当である。また,上記第1記載の児童ポルノの頒布,販売目的等による製造等を処罰することにした趣旨からみて,新たに児童ポルノを作り出すものと評価できる行為はいずれも製造に当たると解するのが相当であるところ,これを写真についてみてみると,上記のとおり児童ポルノ製造罪は撮影によって既遂となるが,現像,焼付けもまたそれぞれ製造に当たるものと解され,各段階で頒布,販売等の目的でこれを行った者には児童ポルノ製造罪の適用があり,ただ,先の行為を行った者が犯意を継続して彼の行為を行った場合には包括一罪となるものと解される。従って,本件では現像行為は不可罰的事後行為とはならないから,現像行為を製造とした原判決には法令適用の誤りはない(もっとも,原判決は撮影,現像を単純一罪とするものか包括一罪とするものか定かではないが,単純一罪とするものであるとしても判決に影響しない。)。

東京高裁H15.6.4(被告人上告)
②「製造」とは,撮影,編集等により新たに児童ポルノを作り出すことをいうところ,電子データも児童ポルノであり,MOに蔵置されたデータは,撮影されてコンパクトフラッシュカードにいったん蔵置されたデータを,ハードディスクを経由して無編集でコピーしたものであるから,MOの作成は不可罰的事後行為ないし所持罪を構成するものにすぎず,製造罪(法7条2項)には当たらない(控訴理由第9)・・・・
②の点は,全く同一のデータを異なる媒体にコピーした場合であっても,その媒体は新たな取引の客体となり得るのであって,「製造」というを妨げない。デジタルカメラで撮影し,コンパクトフラッシュカードにその映像を蔵置した行為も当然製造に当たるところ,犯意を継続させてMOにそのデータを転送すれば,両者が包括一罪として評価されることになるが,そうであるとしても,後のMOの作成行為が不可罰となるわけではない。

東京高裁H16.6.23(被告人上告)
5法令適用の誤りの論旨について
(1)所論は,要するに,①本件掲示板に児童ポルノ画像を掲載,公開することは,法7条1項所定の「陳列」に当たらないのに,これに当たるとした原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある(控訴理由第8),②本件犯行において,児童ポルノ公然陳列罪の客体とされるのは,これらの画像データ自体であって,これが記憶・蔵置されている本件ディスクアレイではないのに(ディスクアレイだとした場合には,そこに記憶・蔵置されている適法なデータも児童ポルノとして没収されることになるから,憲法21条,29条,31条等に違反することになる。),本件ディスクアレイだとした原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある(控訴理由第9),と主張する。
 しかし,本件ディスクアレイに児童ポルノ画像を記憶・蔵置させ,これをインターネットに接続したコンピュータを有する不特定又は多数の者に閲覧可能な状況を設定することが法7条1項所定の「陳列」に当たるとした原判決の判断は正当なものとして肯認できるし,児童ポルノが記憶・蔵置されている本件ディスクアレイを児童ポルノであると認定した原判決の判断も正当である。所論は,いずれも当裁判所とは異なる見解を前提とするものであるから,採用の限りではない。また,本件においては,本件ディスクアレイの没収は問題とされていないから,これを前提とする憲法違反の主張は,その前提を欠いていて失当である。
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所論は,要するに,原判決は,被害児童ごとに法7条1項に違反する罪(児童ポルノ公然陳列罪)が成立し,結局これらは観念的競合の関係にあるとして,その罪数処理を行っているが,本罪については,被害児童の数にかかわらず一つの罪が成立するというのが従来の判例であるから,原判決には,判決に影響を及ばすことの明らかな法令適用の誤りがある,と主張する(控訴理由第16)。
 そこで,本件に即して検討すると,法7条1項は,児童ポルノを公然と陳列することを犯罪としているから,同罪の罪数も,陳列行為の数によって決せられるものと解するのが相当である。確かに,所論もいうように,児童個人の保護を図ることも法の立法趣旨に含まれているが,そうであるからといって,本罪が,児童個人に着目し,児童ごとに限定した形で児童ポルノの公然陳列行為を規制しているものと解すべき根拠は見当たらず,被害児童の数によって,犯罪の個数が異なってくると解するのは相当でない。
 そして,本件では,被告人は,22画像分の児童ポルノを記憶・蔵置させた本件ディスクアレイ1つを陳列しているから,全体として本罪1罪が成立するにすぎないものと解される。したがって,この点に関する所論は正当であって,被害児童ごとに本罪が成立するとした原判決の法令解釈は誤りである。

名古屋高裁金沢支部H17.6.9
4 画像データが児童ポルノであり,ハードディスク等が児童ポルノではないと の所論について(控訴理由第10)
所論は,児童ポルノとされるのは画像データそのものであるのに,原判決は, ミニディスク,メモリースティック,ハードディスクという有体物を児童ポル ノと認定したのは,法令適用を誤っているとする。しかし,法2条3項は, 「児童ポルノ」とは,写真,電磁的記録に係る記録媒体と規定しているのであ るから,記録媒体が児童ポルノであるのは明らかである。

 写真集は糸で閉じてあるから写真集ごとに児童ポルノ性が判断されるというのも、まさに有体物説。ばらされたり、個別にスキャンされたりしてデータとして流通することは考えない。

阪高裁H14.9.12
児童ポルノが本件のように複数の写真が掲載された写真集である場合には,そのうちの1枚の写真が児童ポルノ法2条3項3号の要件を満たしてさえいれば,その余の写真がその要件を満たしているか否かを問わず,その写真集は児童ポルノに当たると解すべきである(なお,所論は,写真集も児童ポルノに当たると解すれば,表現の自由を不当に侵害するし,複数の写真が一冊にまとめられることによって児童の保護も後退すると主張する。しかしながら,1冊にまとめられた複数の写真は,販売等の際には同じ運命をたどるから,これを一体のものとしてみることはその実態に適っている上,所論がいうように個々の被撮影者を特定しなければならないとすれば,そのために多大な時間と労力を要し,ひいては写真集を児童ポルノ法による規制から逃れさせることになり,かえって,児童の保護に適わず,不合理である。)

 最高裁も有体物説を追認しています。

阪高裁H15. 9.18(上告棄却H16.1.21 最高裁第3小法廷)
http://courtdomino2.courts.go.jp/Kshanrei.nsf/WebView2/27642C03FB01140B49256E6700180854/?OpenDocument
裁判要旨  :
1 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項にいう「その他の物」とは,同項各号に掲 げられた視覚により認識することができる方法により描写された情報が化体された有体物をいう。
2 コンピュータの記憶装置内に記憶,蔵置された児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等を撮影した画像データは,それ自体としては児童ポルノに当たらない。

 このように裁判所が有体物に固執して行き詰まったところ、立法者がデータの児童ポルノ性を宣言するかと思いきや、改正法でも「その他の物」とされた。

法2条
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

 改正後の判例もデータではなく媒体が児童ポルノだという。

名古屋高裁金沢支部H17.6.9
4 画像データが児童ポルノであり,ハードディスク等が児童ポルノではないと の所論について(控訴理由第10)
所論は,児童ポルノとされるのは画像データそのものであるのに,原判決は, ミニディスク,メモリースティック,ハードディスクという有体物を児童ポルノと認定したのは,法令適用を誤っているとする。しかし,法2条3項は, 「児童ポルノ」とは,写真,電磁的記録に係る記録媒体と規定しているのであ るから,記録媒体が児童ポルノであるのは明らかである。

 刑法175条の改正も、「電磁的記録」という媒体に化体した概念を用いています。メールシステムでコピーが電送されるのは、電磁的記録の「頒布」とした。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g15905046.htm
犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案

第百七十五条中「図画」の下に「、電磁的記録に係る記録媒体」を加え、「、販売し」を削り、「又は二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処する」を「若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する」に改め、同条後段を次のように改める。
   電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
  第百七十五条に次の一項を加える。
 2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。