児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

監護者性交・児童淫行罪の無罪判決(郡山支部H30.9.20)

被告人のタイムラインの位置情報と被害者の供述が合わないということで、被害者供述の信用性を否定しています。被害者には「司法面接」が行われています。
 

■28264636
福島地方裁判所郡山支部
平成29年(わ)第182号
平成30年09月20日
 上記の者に対する監護者性交等、児童福祉法違反被告事件について、当裁判所は、検察官北迫恵子及び国選弁護人三上将史各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
被告人は無罪。

理由
第1 本件公訴事実(以下、人名については別紙のとおり)
 本件公訴事実は、「被告人は、自己の養子であるA(当時13歳)と同居してその寝食の世話をし、その指導・監督をするなどして、同人を現に監護する者であるが、同人が18歳未満の児童であることを知りながら、同人と性交しようと考え、平成29年10月24日頃、福島県G市又はその周辺に駐車中の自動車内において、同人と性交し、もって同人を監護する者であることによる影響力があることに乗じて同人と性交等をするとともに児童に淫行をさせる行為をした」というものである。
第2 本件の争点及び証拠構造等
 1 争点
  検察官は、公判廷において、公訴事実記載の「平成29年10月24日頃」とは平成29年10月23日から同月25日までの期間を指し、本件公訴事実にかかる性交は同期間のうち、Aが被害申告する前の最後の1度の性交のことである旨釈明している。これに対して、弁護人は、被告人がAの監護者であることは争わないものの、検察官の釈明により特定された期間内に限らず、被告人がAと性交した事実はないから無罪であると主張し、被告人もこれに沿う供述をしている。したがって、本件の争点は、前記期間内に被告人がAと性交をしたと認められるか否かである。
 2 証拠構造等
  本件当時Aが通学していた中学校の教諭であるEの証言によれば、平成29年10月25日にAがEに対して前日の同月24日夜に被告人から性交された旨供述したことが認められるところ、検察官は、論告においてこのAのEに対する供述(以下、単に「Aの供述」などということがある。)を公訴事実立証の中核と位置付け、当該供述は十分信用できることから、被告人が本件公訴事実記載の犯行を行ったことは明らかであると主張している(なお、Aの供述に関するEの証言は、伝聞証言に当たるが、この点について弁護人は異議を申し立てておらず、Eの証言に至るまでの打合せの経過からしても、弁護人はEの伝聞証言に黙示の同意をしたものと認められるから、証拠能力に問題はない。)。
  しかし、当裁判所は、平成29年10月24日夜に被告人から性交されたとするAのEに対する供述の信用性には大きな疑問があり、他に検察官が主張する期間内に被告人がAと性交したと認めるに足りる証拠もないことから、同期間内に被告人が本件公訴事実記載の犯行を行ったと認めるには合理的な疑いが残ると判断した。
  以下、その理由を補足して説明する。
第3 判断
 1 前提事実
  以下の事実は、当事者も争っておらず、関係証拠により優に認定することができる。
  (1) 被告人は、平成24年9月10日、Aの母であるBと婚姻し、Aとも養子縁組をした。平成26年6月以降は現在の被告人の住居である●●●アパート(以下「●●●アパート」という。)に被告人、A及びBの3人で生活していた。
  (2) Aは、精神遅滞自閉症スペクトラム精神障害を有し、平成27年11月(小学校5年時)に実施された知能検査の結果はIQ53、MA(精神年齢)6歳0か月、SA(社会生活年齢)7歳5か月というもので(甲30)、本件当時、中学校の特別支援学級に通学するとともに軽度知的障害と判定されて療育手帳の交付を受けていた(甲9、10)。なお、Bも中度知的障害と判定されて療育手帳の交付を受けていた(甲9、10)。
  (3) 被告人は、平成29年8月に別件窃盗事件で逮捕され、その後勾留の上で起訴され、同年10月12日に執行猶予付き有罪判決を受けて釈放された。
  (4) Aは、平成29年10月25日、中学校から虐待通告を受けた児童相談所によって一時保護された(甲30)。
 2 A及び被告人の供述の概要(以下、特記なき限り日付は平成29年のものである。)
  (1) AのEに対する供述状況及びその内容
  Eの証言によれば、10月25日に前日夜の性交についてAがEに被害申告した状況及びその内容は、以下のとおりと認められる。
  社会科の授業の開始時に前日の生活状況をAに確認したところ、Aの方から、この間の月曜日(日付にすると10月23日)に、被告人と二人で温泉施設のHに行った帰りに車の中で胸とお尻と股間のあたりを触られたと打ち明けられた。Aから聞いた内容を担任のF等に報告した上で被害状況を更に確認していると、前日にも胸、お尻、股間のあたりを触られたとAが言ったので、性交までされたのか尋ねたところ、Aは肯定した(具体的なやりとりについては後記のとおり。)。性交された状況を詳しく聞くと、Aは、24日の夜9時頃に被告人から中古ゲーム販売店のIに行かないかと誘われ、Bは寝ていたので被告人と二人で車で出かけたが、Iには行かずに停車した車の中で性交されたと説明した。避妊具を装着したかどうかや射精の有無について確認すると、Aは、避妊具は装着せず、膣外に射精された旨答えた。
  (2) 10月24日夜の行動に関する被告人の公判供述
  これに対し、被告人は、10月24日夜の行動について、公判廷において、おおむね以下のとおり述べている。
  午後8時40分頃、Bと相談して、Bの母であるCからお金を借りようと思い、Bの携帯電話機及び自己の携帯電話機でC方に電話を掛けたところ、Bの兄のDに一方的に電話を切られたので、腹が立ったが、Cと直接会ってお金を借りるためにB及びAとともにC方に向かった。C方ではDと言い合いになったものの、最終的にCから1万円を借りることができた。その後、自宅に戻る途中で方向転換をしてIに寄り、Aをテレビゲームの太鼓の達人で遊ばせた後、スーパーのJで焼きそばを買って帰宅した。
 3 AのEに対する供述の信用性の検討
  (1) 他の証拠との整合性
  ア 客観的証拠から推認される10月24日の被告人とAの行動経過
  (ア) 携帯電話機の位置情報の履歴について
  関係証拠(甲12、弁3)によれば、被告人が本件当時使用していた携帯電話機には当該携帯電話機の位置情報を検索することができるアプリ(K)がインストールされ、同アプリに本件当時の被告人の携帯電話機の位置情報の履歴(以下「タイムライン履歴」という)が記録されていたことが明らかになっている。そして、被告人以外の人物がこの携帯電話機を使用していたことをうかがわせる証拠はないから、タイムライン履歴は被告人自身の行動経過を示す客観的証拠といえる。
  タイムライン履歴によると、10月24日午後5時35分から午後7時4分までの間に、L店、M店、J・N店にそれぞれ滞在した上で、●●●アパートに帰宅したこと、その後、午後9時3分まで●●●アパートに滞在し、午後9時15分から午後9時57分までC方(G市O町所在)の近くにある「P広場」(以下「P広場」という。)に、午後10時34分から午後10時55分までI店に、午後11時4分から午後11時17分までJ・Q店にそれぞれ滞在し、午後11時35分に●●●アパートに帰宅したことになっている。
  (イ) 被告人の携帯電話機の発着信記録
  被告人の携帯電話機の発着信履歴(甲11)によれば、10月24日午後8時43分に被告人の携帯電話機からC方の固定電話に発信し、5分27秒間通話した記録が残っているが、それ以降同日中は被告人の携帯電話機の発着信履歴(不在着信を含む)はない。
  (ウ) 生活日記の記載
  Aは、毎朝、中学校に登校した後に前日にあった出来事を担任教諭であるFに報告し、Fがこれを生活日記(甲30の別添資料6、弁4)と呼ばれる書面に記録していたものと認められるところ、10月24日の生活日記のメモ欄には、「〈1〉Iでたいこのたつじん、〈2〉M、〈3〉Q・J、わりばし、〈4〉R肉まん、〈5〉●●●のばあちゃん→でんわきられたのをおこりにいく、〈6〉LえいごのCD」との記載のほか、「11:00やきそば」などの記載がある。
  (エ) 上記の客観的証拠から推認できる行動経過
  10月24日にAが行ったと生活日記に記載されている場所は、その順序こそ異なっているものの、その大部分が被告人の携帯電話機のタイムライン履歴上の滞在先と一致していることからすると、実際に被告人がAを連れてこれらの場所を訪れたことが推認できる。
  この点、C方を訪れたことについてはタイムライン履歴に明確な記録がなく、その近く(直線距離にして約150m)にあるP広場に滞在したことを示す記録が残されているにとどまるが、生活日記にはC方を訪問したことがその理由と共に記載され、その内容は前記のとおり被告人が述べる理由ともおおむね合致し、その直前に被告人の携帯電話機からC方に電話が掛けられた記録も残されているのであるから、電話を切られたことをきっかけにC方を訪れたという生活日記の記載は、Aが創作したものではなく、実際に体験した出来事である可能性が高いといえる。加えて、P広場に滞在していたことを示すタイムライン履歴の画面表示(弁3の写真番号361)をより詳しく見ると、I店やJ・Q店に滞在したことを示すものとは異なる点が認められる。すなわち、上記の画面表示では位置情報の軌跡を示す青色の線は●●●アパート方面から来てC方の上で折れ曲がった後にI店方面に向かっており、P広場の上は通過しておらず、C方とP広場は青色の線ではなく灰色の線で結ばれている。しかも、P広場については「訪れた場所ですか?」と同所を実際に訪れたのか確認を求める表示がなされており、I店等に関する表示と異なり、P広場に滞在したことを断定的に示すものではない。こうした画面表示の相違からすると、弁護人が主張するとおり、携帯電話機のタイムライン履歴はC方の上に残されており、P広場に関する画面表示は、C方上の位置情報の記録を基にその付近にあり、名称や住所が登録されているP広場が滞在場所である可能性をアプリが推測して表示したにすぎないものと理解するのが合理的である。そうすると、被告人の携帯電話機のタイムライン履歴は、C方を訪れたという点を含めて生活日記の記載と整合するものといえる。
  このように被告人自身の行動の経過を示すタイムライン履歴、携帯電話機の通話履歴、Aの報告に基づいて作成される生活日記の記載が一致していることからすると、Aが被告人から性交されたと述べる10月24日夜の被告人とAの行動経過は、午後8時43分頃にC方に電話を掛けたが、その電話を切られたことをきっかけにして、午後9時頃に自宅を出てC方に行き、その後I店及びJ・Q店に行き、午後11時半頃に帰宅したというものと推認することができる。また、タイムライン履歴上の滞在地点間の移動時間について見ても、その行動経過に比して不自然に時間を要しているといえるような記録は残っていないため(甲22、23)、被告人とAが同日午後9時頃に自宅を出てから帰宅するまでの間にC方、I店及びJ・Q店以外の場所に滞在した可能性は乏しいといえる。
  イ 客観的証拠から推認できる行動経過と供述との整合性
  (ア) 被告人からIに行くように誘われたが、Iに行かずに停車した車内で性交されたとのAの供述は、外出のきっかけや外出後の滞在先の点などで、前記のとおり客観的証拠から推認される行動経過と全体として整合しない。しかも、10月24日の午後9時頃以降に被告人が滞在した場所は、C方と商業施設のみであることからすると、タイムライン履歴に多少の誤差がある可能性を踏まえても、前記のとおり推認される行動の間に、被告人が停車中の車内でAと性交し、射精に至るなどといった機会があったとは考えにくい。
  (イ) 他方、被告人が供述する10月24日夜の行動経過は、かなり具体的である上、タイムライン履歴や生活日記の内容から推認される行動経過とも合致している。確かに、Aだけではなく、Bも行動を共にしていたという点については客観的証拠による裏付けはないものの、行き先が妻の実家で、しかもその目的が妻の母親であるCに対する借金の申入れであったことからすると、妻のBも同行していたと考えるのがより自然である。そうすると、同日夜の行動経過に関する被告人の公判供述は、Bも同行していたという点も含め、信用性に疑問を抱くべき点は見当たらない。被告人が供述するようにBも同行していたとすると、同日午後9時頃から帰宅するまでの間に被告人がAと性交することはほぼ不可能であり、犯行の機会がなかったことになる。
  なお、Bは、検察官からの尋問の際に、10月24日の夜にお金を借りるためにC方に電話を掛けたところ、Dから一方的に電話を切られ、その後、被告人とAはどこかに出かけてしまったが、自分は外出しなかったなどと被告人の公判供述に反する内容の供述をしている。
  しかし、Bは、弁護人からの反対尋問において、いったんは、Bが児童相談所に一時保護される前日の夜に被告人とAの3人でIに行き、Aが太鼓の達人で遊んだ後にJで焼きそばを買ったと被告人の公判供述に沿う内容の供述をしていた。その後これを翻してそうした出来事があったのは10月22日であったかのように供述したものの、同日の被告人の携帯電話機のタイムライン履歴にはIとJを訪れたことを示す記録がなく、客観的証拠と整合しない。加えて、Bは、10月24日夜にDに電話を切られた後自分は外出しなかったという話の流れの中で、被告人が外出した後に何度か電話を掛けてどこにいるのか聞いたなどとも供述しているが、前記のとおり、10月24日には、午後8時43分にC方に発信して以降、被告人の携帯電話機には発着信履歴がない。こうした供述の変遷状況や客観的証拠との整合性の問題に加え、Bが知的障害を抱えていることを勘案すると、Bが他の日の出来事と区別して10月24日の出来事を供述することができているのか疑問が残るのであって、そのまま信用することはできない。
  したがって、Bの供述は10月24日の行動経過に関する被告人の供述の信用性に対する前記判断を左右するものではない。
  ウ 10月24日以外の性的被害に関する供述と客観的証拠との整合性
  Aは、Eに対する被害申告の際に、10月24日に限らず日常的に被告人から性的被害を受けていた旨述べているところ、同月23日に被告人とHに行った帰りに車の中で体を触られたと述べる点は、被告人の携帯電話機のタイムライン履歴によれば、同日にH及びその周辺に滞在した記録は存在しないこと(甲12、弁3)と整合しない。
  また、Aは、前記の被害申告の際に、中学校に進学した後(年月で言うと、平成29年4月以降)に被告人と一緒にS温泉の近くにあるホテル(ホテルT)に何回か行ったとも述べているが、同ホテルが利用者の車両ナンバーにより特定して記録している利用記録(弁8)によれば、被告人車両は、平成29年以降に同ホテルに来ていないことが認められるのであって、Aの供述は、このこととも整合しない。
  これらの点も、AのEに対する供述全体の信用性に疑問を抱かせる事情である。
  なお、検察官は、タイムライン履歴上は自宅にいたものとされている10月23日午後3時7分に被告人の携帯電話機に自宅の固定電話からの不在着信があることからすると、同日にHへの滞在記録がないのは被告人が自宅に携帯電話機を忘れて外出したことが原因である可能性があるから、Aの供述の信用性を否定する事情にはならないと主張している。
  しかし、被告人は、自動車を運転する際に運転免許証の携帯を忘れることがないように携帯電話機のケースの中に運転免許証を入れて持ち歩くことにしていたため、携帯電話機を自宅に置いたまま自動車で外出することは絶対にないと供述している上、上記の不在着信の際に誰がどのような目的で電話を掛けたのかは一切立証がなされていないことを踏まえても、被告人が携帯電話機を忘れて外出したために自宅からの不在着信が残された具体的な可能性があるとはいえない。この点に関する検察官の主張は採用できない。
  エ 小括
  以上のとおり、10月24日夜に被告人に性交されたとするAのEに対する供述は、その内容が客観的証拠から推認される被告人とAの行動経過と整合しないため、被告人がそのような犯行が可能であったか疑問が残るだけでなく、被告人の公判供述の方が客観的証拠と整合的であり、これによると、被告人には犯行の機会がなかった可能性が高い。10月24日以外の性的被害に関する供述にも、客観的証拠と整合しない点が見られることからすると、これらの点だけからしても、AのEに対する供述の信用性には重大な疑問があるといわざるを得ない。
  (2) 供述経過について
  ア Eの証言によれば、10月24日に性交されたとAが最初に申告した際の具体的状況は以下のとおりと認めれる。
  10月23日に被告人にわいせつ行為をされたという申告を受けた後に被害の日付を確認しようとして「最近触られたのは23日でいいんだよね。」とEが尋ねると、Aが「昨日もやられたよ。」と同月24日にも被告人から体を触られた旨申告した。それ以上の被害を受けていないか確認するため、Eの方から、Aに対して、被告人の男性器をAの女性器に挿入されていないか、ジェスチャーも交えながら確認したところ、Aが「まあね。」という言葉でこれを肯定した。Eが性交までされたか尋ねるまで、Aはジェスチャー等も含め、性交に該当するような表現をしていなかった(E証人尋問調書10頁、11頁、30頁)。
  イ Aは、当時中学1年生であったが、知的障害を抱えており、年齢相応の知的能力は備わっていないため、年少者同様に、大人からの誘導等を受けて事実と異なる供述をしてしまうおそれが比較的高かったといえるのであって、信用性判断に当たってはこのことを踏まえる必要がある。
  そこで、Aの供述経過を改めて見ると、Aは、わいせつ被害の点については自発的に申告したと評価し得る一方で、性交に該当する事実についてはEから尋ねられるまで一切申告しておらず、Eから尋ねられた際も曖昧な表現でこれを肯定したにすぎない。
  しかも、Aが最初に被害申告したのは10月23日のわいせつ行為であり、より深刻で直前の被害に当たる同月24日の出来事についてはEが被害の日付を改めて確認するまでわいせつ行為をされたことさえ述べていなかった。
  このようなAの供述経過は、性交の被害まで直ちに申告することについて躊躇する気持ちがあった可能性を考慮しても、容易に理解し難いものであり、少なくとも10月24日夜の性交については、Eの質問の仕方等に影響を受けて事実と異なる供述をした可能性を疑わざるを得ない。
  ウ また、その後の供述経過をみても、Aは、捜査段階で司法面接の手法を用いた検察官による取調べを2回受けているところ(甲33)、11月3日に実施された初回の取調べの際にEに対して被害申告した日付について尋ねられると、10月25日と正確に答えることができていたが、同月24日に被告人から性交されたことは否定し、同月17日以降に被告人から性交されたのは同月20日と23日だけである旨述べている。Aは当時13歳の児童で知的障害もあるため日付に関する記憶が定着しにくいという指摘(aa証言)を十分考慮しても、検察官による初回の取調べの時点ではEに被害申告をした日付については記憶が正確に保たれていたのに、申告の前日にあったはずの被害の日付については、単に答えが曖昧になったのではなく、当初の説明を否定し、10月23日だと明確に異なる供述をしているのは不自然といわざるを得ず、年齢や知的障害の影響だけでは合理的な説明が困難である。
  エ 以上によれば、AのEに対する供述には、供述経過の観点からも看過できない問題があるといえる。
  (3) まとめ
  以上のとおり、10月24日夜に被告人から性交されたと述べるAのEに対する供述は、客観的証拠との整合性等の観点からして重大な疑問がある上、供述経過にも看過できない問題があるから、その信用性を肯定することは困難といわざるを得ない。
  これに対し、検察官は、〈1〉Aの性器に慢性的な性的接触の痕跡があったとの産婦人科医の診断(甲5)は、以前から繰り返し被告人に性交されていたとのAの供述と整合していること、〈2〉被告人車両の運転席座面部から被告人の精液が検出されていることは、自動車の中で性交されたというAの供述と整合していること、〈3〉Aの供述が被告人から性交される被害を受けたという根幹部分では一貫していること、〈4〉Aに虚偽供述の動機がないことなどを根拠として、Aの供述が信用できると主張する。
  しかし、〈1〉の点については、そもそもAの性器に見られた慢性的な性的接触の痕跡は、性交によるものと断定することはできない上、証拠(甲15ないし17、Aの供述等)によれば、被告人以外の複数の男性がAと性的接触を持っていたことが認められるのであって、性器にみられる性的接触の痕跡が、被告人以外の男性によるものである可能性を排斥することはできない。
  〈2〉の点についても、被告人は、自動車の運転席に座って成人向けDVDを見ながら自慰行為をしたことが複数回あると供述しており、現に車内から成人向けDVDが発見されていることからすると、そうした経緯で精液が付着した可能性も否定できないのであって、Aの供述の裏付けとしての価値はごく限られている。
  〈3〉、〈4〉の点については、供述が根幹部分で一貫しており、虚偽供述の具体的な動機が見当たらなかったとしても、それだけでは、客観的証拠との整合性や供述経過に大きな問題を含んだ供述の信用性を肯定する根拠としては不十分である。
  したがって、この点に関する検察官の主張は採用できない。
第4 結語
  以上のとおり、検察官の主張を十分踏まえて検討しても、10月24日夜に被告人から性交されたというAのEに対する供述を信用することは困難であり、それに基づき本件公訴事実を認定することはできない。また、その他の証拠を検討しても、同月23日から同月25日までの間に、被告人がAと性交したことを認めるに足りる証拠は見当たらない。
  したがって、本件公訴事実については、合理的な疑いを超えた証明がなされたとはいえず、犯罪の証明がないことになるから、刑訴法336条により、被告人に対して無罪の言渡しをする。
(求刑 懲役8年)
 (裁判長裁判官 須田雄一 裁判官 佐藤傑 裁判官 米満祥人)

琉球政府の児童淫行罪も「10年以下の懲役又は6ドル以上85ドル以下の罰金」だったこと

 日本と歩調合わせてたようです。

児童福祉法
1953年10月19日
立法第61号
施行1953年10月19日
(児童保護のための禁止行為)
第36条何人も、左の各号に掲げる行為をしてはならない。
一不具奇形の児童を公衆の観覧に供する行為
二児童を利用して、こじきをする行為
三公衆の娯楽を目的として満15才に満たない児童にかるわざ又は曲馬をさせる行為
四満15才に満たない児童に戸戸について、又は道路その他これに準ずる場所で歌謡、遊芸その他の演技を業務としてさせる行為
五児童に午後10時から午前5時まで(満15才に満たない児童については、午後8時から午前5時まで)の問、戸戸について、又は道路その他これに準ずる場所で物品の販売、配布、展示若しくは拾集又は役務の提供を業務とし
てさせる行為
六戸戸について、又は道路その他これに準ずる場所で物品の販売、配布、展示若しくは拾集又は役務の提供を業務として行う満15才に満たない児童を、当該業務を行うために、風俗営業等取締法(1952年立法第四号)第1条に掲げる営業を営む場所に立ち入らせる行為
七満15才に満たない児童に酒席に待する行為を業務としてさせる行為
八児童に淫行させる行為
九前各号に掲げる行為をするおそれのある者その他刑罰法令に触れる行為をなすおそれのある者に、情を知って児童を引渡す行為及び当該引き渡し行為のなされるおそれがあるの情を知って他人に児童を引き渡す行為
十成人及び児童のための正当な職業紹介の機関以外の者が営利を目的として児童の養育をあっ旋する行為
十一児童が4親等内の児童である場合及び児童に対する支配が正当な雇用関係に基くものであるか又は行政主席の承認を得たものである場合を除き、児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもって、これを自己の支配下に置く行為
2 養護施設、精神薄弱児施設、精神薄弱児通園施設、盲ろうあ児施設、虚弱児施設、肢体不自由児施設又は教護院においては、それぞれ第44条から第48条まで及び第49条に規定する目的に反して、入所した児童を酷使してはならない。


(禁止行為違反の罰則)
第62条第36条第1項第8号の規定に違反した者は、10年以下の懲役又は6ドル以上85ドル以下の罰金に処する。
2 第36条第1項第1号から第7号まで、若しくは第9号から第11号までの規定又は同条第2項の規定に違反した者は、l年以下の懲役又は30ドル以下の罰金に処する。
3 児童を使用する者は、児童の年令を知らないことを理由として前2項の規定による処罰を免れることができない。但し、過失のないときは、この限りではない。
4 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人文は人の業務に関して第1項又は第2項の違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その法人又は人に対しても、各同項の罰金刑を科する。但し、法人又は人の代理人、使用人その他の従業者の当該違反行為を防止するため当該業務に関し相当の注意及び監督が尽きれたときは、その法人又は人については、この限りでない。

調査と情報―⼦供に対する性犯罪の現状と課題

 親族間の性行為の量刑が、監護者性交罪になって倍くらい重くなりました。
 非親告罪化については、結局被害者が捜査に消極的な場合は起訴できないので事件の掘り起こしにはなてないと思います。

国⽴国会図書館
調査と情報―ISSUE BRIEF―
第1025号
No. 1025(2018.11.22)
⼦供に対する性犯罪の現状と課題
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11182423_po_IB1025.pdf

はじめに
Ⅰ 法令の規定
1 既存の犯罪類型
2 監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪
の新設
Ⅱ 被害状況
1 刑法犯の被害認知件数の推移
2 福祉犯の検挙件数の推移
Ⅲ 課題
1 監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪
における「現に監護する者」の範囲
2 公訴時効の撤廃又は停止
3 性交同意年齢の引上げ
おわりに

数回の(強制わいせつ罪+児童淫行罪)を科刑上一罪とした事例(北陸の高裁支部)

 児童淫行罪を起訴しなければ処断刑期は15年。
 
 児童淫行罪と強制わいせつ罪が観念的競合、児童淫行罪は包括一罪なので、串刺しになって科刑上一罪になるという判例です。かすがい現象
 1審が一部行為否認で、控訴審弁護人も気付かず、量刑不当だけで控訴されましたが、高裁が職権で罪数処理を訂正しています。

罪となるべき事実
児童A 父親的立場利用して 児童であることを知りながら、強いてわいせつ行為しようと企て
第1 平成30年11月29日、被告人方 性交類似行為させ、 もって、強いてわいせつ行為するとともに 児童に淫行させる行為をした
第2 平成30年8月29日、被告人方 性交類似行為させ、 もって、強いてわいせつ行為するとともに 児童に淫行させる行為をした

内妻の娘に対する監護者性交で求刑6年判決5年(長崎地裁H30.5.16)

 1回性のようです。

裁判年月日  平成30年 5月16日  裁判所名  長崎地裁  裁判区分  判決
事件名  監護者性交等被告事件
文献番号  2018WLJPCA05166004
出典
エストロー・ジャパン
主文
 被告人を懲役5年に処する。
 未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
理由
 (犯罪事実)
 被告人は,平成29年8月当時,内縁の妻Aの娘であるB(当時16歳)と同居してその寝食の世話をし,その指導・監督をするなどして,同人を現に監護していた者であるが,Bが18歳未満の者であることを知りながら,同人と性交をしようと考え,平成29年8月25日から同月26日までの間に,福岡市〈以下省略〉において,Bを現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて同人と性交をした。
 (証拠の標目)(各証拠書類等に付記した番号は,検察官請求の証拠番号である。)
 (法令の適用)
 罰条
 被告人の判示行為は,刑法179条2項,177条前段に該当する。
 宣告刑の決定
 所定刑期の範囲内で,被告人を懲役5年に処する。
 未決勾留日数の算入
 刑法21条を適用して未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
 訴訟費用の処理
 訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。
 (量刑の理由)
 犯行態様は,被告人がAやBらとホテルに宿泊した際,隣のベッドにAらが寝ているにもかかわらず,同じベッドに寝ていたBと性交するというものであり,大胆かつ悪質である。しかも,被告人は避妊措置をとっておらず,その点でも非難は免れない。Bは,すぐ近くに実母であるAらが寝ている中で性交をするという異常な状況に置かれており,本件犯行により受けた精神的苦痛は非常に大きく,また,肉体的苦痛も軽視できない。犯行の動機も,自身の性欲を解消するとともに,Bの実母であるAらが横で寝ている状態でBと性行為に及ぶスリルを感じるためという身勝手極まりないもので,特に酌むべき事情はない。
 以上によれば,被告人の刑事責任は重く,酌量減軽を行うべき事情は見当たらないが,他方で,想定される監護者性交等の犯行態様の中で,本件をことさらに重く処罰すべき事情も存在しない。
 そして,被告人が公判廷において事実を認め,反省の弁を述べていること,Bとその家族に二度とかかわらない旨誓約していること,被告人に前科がないこと等の被告人に有利な事情が認められるので,それらの事情も考慮し,主文のとおりの刑に処するのが相当と判断した。
 (検察官大西杏理,国選弁護人中田昌夫各出席)
 (求刑―懲役6年)
 平成30年5月17日
 長崎地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 小松本卓 裁判官 堀田佐紀 裁判官 佐野東吾)

監護者性交罪1罪で懲役6年(松山地裁H30.7.24)

 
 児童淫行罪の流儀を引き継いで量刑理由として過去の性交が考慮されています。併合罪関係にあって、さらに訴追可能性があるのに。

上記の者に対する監護者性交等被告事件について、当裁判所は、検察官矢尾板隼、国選弁護人和田資篤各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
被告人を懲役6年に処する。
未決勾留日数中20日をその刑に算入する。

理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、実子である□□□□(当時14歳・以下「A」という。)と同居してその寝食の世話をし、その指導・監督をするなどして、Aを現に監護する者であるが、Aが18歳未満の者であることを知りながら、Aと性交をしようと考え、平成30年4月24日頃、愛媛県□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□被告人方において、Aを現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてAと性交をしたものである。
(証拠の標目)
(法令の適用)
罰条 刑法179条2項、177条前段
未決勾留日数の算入 同法21条
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 被告人は、遅くとも被害者が小学5年生の頃から胸や陰部を触るなどの性的接触を始め、被害者が中学1年生の夏頃以降、繰り返し性交をするようになった。本件犯行は、こうした常習的行為の一環として行われたものである。
 被害者は、本件犯行時、未だ中学3年生であるところ、本来は家庭内で健全な愛着関係が築かれるべき時期に、信頼を寄せるべき実父から性的接触を継続される中、本件被害を受けているのであり、他者に対する基本的な安心感や信頼感が壊され、心理的・精神的にも大きな傷を残してしまうことが危惧されるなど、人格的にも性的にも未熟な時期に被った被害者の悪影響は誠に深刻である。
 被告人は、実父として被害者を特に保護すべき関係にあるのに、常習的に性的接触を持ち続け、その間、被害者が泣きながら性交を拒絶したこともあったのに、被害者の心情を何ら顧慮することなく、被害者も受け入れているなどと自己に都合よく考え、本件犯行にまで至っている。また、被告人は、一連の性的接触について、単なる性欲解消目的ではなく、大切に思う被害者を誰にも渡したくないという思いになり、自分によく懐いていた被害者に女性として好意を寄せてしまったなどとも述べるところ、そのような考え自体が大きく歪み偏っているのであり、常軌を逸した自分本位な経緯・動機等に酌むべき事情は一切見受けられない。
 このような観点からすると、本件は、監護者性交等1件の事案において軽い部類に属するものとはいえず、法定刑の下限である懲役5年をある程度上回る範囲の刑を念頭に置くべき事案と考えることができる。
 その上で、被告人に前科前歴がないこと、犯罪事実を認めて被告人なりに反省の態度を示していることなどの事情を考慮し、刑期については主文のとおりにするのが相当であると判断した。
(求刑-懲役8年)
刑事部
 (裁判長裁判官 末弘陽一 裁判官 南うらら 裁判官 重田裕之)

速報番号3459号で「児童福祉法34条1項7号の児童に淫行させる行為をするおそれのある者への「引渡し」とはいえず,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律5条1項の児童買春周旋罪が成立すると判示した事例。」とされる東響高裁H24.1.30は、児童淫行の恐れがある者への引き渡しではなく、児童買春をする恐れがある者への引き渡しであった。

速報番号3459号で「児童福祉法34条1項7号の児童に淫行させる行為をするおそれのある者への「引渡し」とはいえず,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律5条1項の児童買春周旋罪が成立すると判示した事例。」とされる東響高裁H24.1.30は、児童淫行の恐れがある者への引き渡しではなく、児童買春をする恐れがある者への引き渡しであった。

児童福祉法34条1項7号「前各号に掲げる行為をするおそれのある者その他児童に対し、刑罰法令に触れる行為をなすおそれのある者に、情を知つて、児童を引き渡す行為」となっていて、児童淫行罪に限らないんですが、原判決の静岡地裁では、「児童買春をする恐れがある者に引き渡した」とされていて、児童淫行罪の恐れではありませんでした。
 控訴審で予備的訴因変更請求があった、児童買春周旋罪に変更されて、同じ量刑になっています。上告棄却

児童福祉法第三四条[禁止行為]
1 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
一 身体に障害又は形態上の異常がある児童を公衆の観覧に供する行為
二 児童にこじきをさせ、又は児童を利用してこじきをする行為
三 公衆の娯楽を目的として、満十五歳に満たない児童にかるわざ又は曲馬をさせる行為
四 満十五歳に満たない児童に戸々について、又は道路その他これに準ずる場所で歌謡、遊芸その他の演技を業務としてさせる行為
四の二 児童に午後十時から午前三時までの間、戸々について、又は道路その他これに準ずる場所で物品の販売、配布、展示若しくは拾集又は役務の提供を業務としてさせる行為
四の三 戸々について、又は道路その他これに準ずる場所で物品の販売、配布、展示若しくは拾集又は役務の提供を業務として行う満十五歳に満たない児童を、当該業務を行うために、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和二十三年法律第百二十二号)第二条第四項の接待飲食等営業、同条第六項の店舗型性風俗特殊営業及び同条第九項の店舗型電話異性紹介営業に該当する営業を営む場所に立ち入らせる行為
五 満十五歳に満たない児童に酒席に侍する行為を業務としてさせる行為
六 児童に淫いん行をさせる行為
七 前各号に掲げる行為をするおそれのある者その他児童に対し、刑罰法令に触れる行為をなすおそれのある者に、情を知つて、児童を引き渡す行為及び当該引渡し行為のなされるおそれがあるの情を知つて、他人に児童を引き渡す行為

速報番号3459号
児童福祉法違反
(認定罪名児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反)〔平成23年(う)8 4 3号東京高等裁判所第9刑事部平成24年1月30日
原判決破棄・自判
(被告人に関する部分)
原審 静岡地方裁判所
判示事項
いわゆる「出会い喫茶」の従業員が,男性客が女性客である児童と買春することを認識しながら,男性客と,その指名する児叢である女性客とを引き合わせた事案について,両者が合意すれば男性客に外出料を支払わせて外出させるシステムになっており,外出するかどうかは女性客の意思にかかっている場合は,児童福祉法34条1項7号の児童に淫行させる行為をするおそれのある者への「引渡し」とはいえず,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律5条1項の児童買春周旋罪が成立すると判示した事例。
裁判要旨
被告人は,経営者と共に,本件出会い喫茶の運営に携わり,男性客が児童である女性客の買春をすることがあり得ることを認識しながら,トークルームで男性客と児童である女性客を引き合わせていたものであるが,男性客からの求めに応じて一緒に外出し,また買春の求めに応じるか否かは女性客の自由意思によっており,児童福祉法34条1項7号にいう「児童に淫行をさせる行為をするおそれのある者に,情を知って,児童を引き渡す行為」に当たると認めるには合理的な疑いが残る。
原判決は,出会い喫茶店員が,外出料を支払った男性客と共に児童の外出を許す行為を同号にいう「引き渡し」に該当すると判示しているが,男性客と外出するか否かは児童である女性客の意思にかかっており,そもそも店員は男性客と共に児童の外出を許すことなどできないのであり,店員である被告人がした行為は,男性客と児童の引き合わせであり,このような行為は,引渡しとはいえず,破棄は免れない。

元警官、淫行の無罪主張「恋愛感情に基づいていた」(長野地裁)

 最決h28.6.21に「行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断する」という基準が示されているというのですが、考慮要素だし、総合考慮なので、はっきりしないです。
 少年補導担当の警察官と、対象の少女の関係の場合は、影響関係を払拭するのは難しいでしょう。
 実刑危険がある。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85960
児童福祉法違反被告事件
裁判年月日  平成28年6月21日
法廷名  最高裁判所第一小法廷

判例番号】 L07110035
【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集70巻5号369頁
       裁判所時報1654号174頁
       LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 警察学論集69巻10号162頁
       警察公論71巻10号87頁
       研修820号15頁
       論究ジュリスト22号229頁
       法学セミナー61巻10号115頁
       刑事法ジャーナル51号125頁
 弁護人竹永光太郎の上告趣意のうち,憲法31条違反をいう点は,児童福祉法34条1項6号の構成要件が所論のように不明確であるということはできないから,前提を欠き,その余は,単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 所論に鑑み,職権で判断する。
 児童福祉法34条1項6号にいう「淫行」とは,同法の趣旨(同法1条1項)に照らし,児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為をいうと解するのが相当であり,児童を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交又はこれに準ずる性交類似行為は,同号にいう「淫行」に含まれる。
 そして,同号にいう「させる行為」とは,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいうが(最高裁昭和39年(あ)第2816号同40年4月30日第二小法廷決定・裁判集刑事155号595頁参照),そのような行為に当たるか否かは,行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断するのが相当である。
 これを本件についてみると,原判決が是認する第1審判決が認定した事実によれば,同判示第1及び第2の各性交は,被害児童(当時16歳)を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交であり,同児童が通う高等学校の常勤講師である被告人は,校内の場所を利用するなどして同児童との性的接触を開始し,ほどなく同児童と共にホテルに入室して性交に及んでいることが認められる。このような事実関係の下では,被告人は,単に同児童の淫行の相手方となったにとどまらず,同児童に対して事実上の影響力を及ぼして同児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をしたと認められる。したがって,被告人の行為は,同号にいう「児童に淫行をさせる行為」に当たり,同号違反の罪の成立を認めた原判断は,結論において正当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小池 裕 裁判官 櫻井龍子 裁判官 山浦善樹 裁判官 池上政幸 裁判官 大谷直人)

 この判例によると師弟関係がベースにあると、「させる」は認められやすく払拭するのは難しいと思います。

最高裁第一小法廷平28.6.21決定児童淫行罪_判タ_1452号_72頁
(3) 「させる行為」について
本決定が示した判断方法以上のとおり,「させる行為」の解釈が次第に変遷していく中で,「させる行為」の本質部分をどのように捉えるべきかや,その類型化をめぐる議論は,未だ十分に熟しているとはいい難い状況にあるように思われる。
そのような中,本決定は,「同号にいう『させる行為』とは,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいう」と判示し,昭和40年判例で示されていたとおり,「させる行為」該当性について,①「事実上の影響力」を児童に及ぼしているか,②児童が淫行をすることを助長し促進する行為であるか,の二つの観点から判断する解釈を踏襲する判示をし,その上で,「させる行為」に該当するかどうかについては,「行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断するのが相当である」と判示して,その判断方法を明らかにした。
本決定は,「淫行をさせる行為」が,立法当初の解釈に比べて相当に広範囲なものを含む解釈が定着している中で,本号による重い処罰にふさわしい行為に限定されていなければならないとの要請も満たしつつ,児童保護の観点からも適切な処罰範囲を画するため,本罪に該当するとされた裁判例の集積を踏まえ,「させる行為」を判断する際の具体的考慮要素を明示して判断方法を明らかにすることにより,処罰範囲の明確化を図ろうとしたものと思われる。
本決定によれば,「させる行為」に当たるかどうかを評価するに際しては,当該児童に及んでいる「事実上の影響力」の程度を踏まえた上で,「させる行為」と評価できるような「助長・促進行為」があるかどうかを,当該児童が淫行に及んだ具体的状況に照らして個別に検討していくことになろう。
4 本決定は,①本件各性交が,被害児童を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交であること,②被告人と同児童との関係について,被告人が同児童(当時16歳)の通う高等学校の常勤講師であったこと,③被告人の具体的行為として,校内の場所を利用するなどして同児童との性的接触を開始し,ほどなく同児童と共にホテルに入室して性交に及んだことを簡潔に指摘しており,本件においては,強力といえるような助長・促進行為はないものの,高校講師である被告人が被害児童に及ぼした「事実上の影響力」を踏まえれば,本件各性交をした行為が,「児童に淫行をさせる行為」に当たると判断されたものと考えられる。
ただし,この判断は,第1審判決が詳細に認定した具体的事実関係が前提とされている点にも留意すべきであろう。

元警官、淫行の無罪主張「恋愛感情に基づいていた」
[2018年10月24日18時18分]
https://www.nikkansports.com/general/news/201810240000626.html
18歳未満の少女にみだらな行為をしたとして、児童福祉法違反の罪に問われた元巡査部長、被告の初公判が24日、長野地裁(室橋雅仁裁判長)で開かれ、起訴内容を一部否認した。
被告は少女との行為を認めた上で「双方の恋愛感情に基づいていた」などと述べた。弁護側は、被告が警察官としての立場を利用したわけではないとし、無罪を主張した。
起訴状などによると、被告は県内の警察署の生活安全課に勤務していた2016年11月~17年3月に計4回、県内のホテルで、当時18歳未満だった少女にみだらな行為をしたとしている。
県警監察課によると、被告は16年8月、業務を通じて少女と知り合い、非番や休みの日に会っていた。17年3月に松本署に異動し少年非行防止などに当たっていたが、今年5月に逮捕され、懲戒免職となった。(共同)

内妻の娘に対する監護者性交1罪で懲役5年(長崎地裁H30.5.16)

 児童淫行罪に比べると2倍くらいの量刑です 

westlaw
裁判年月日 平成30年 5月16日 
裁判所名 長崎地裁 裁判区分 判決
事件名 監護者性交等被告事件
文献番号 2018WLJPCA05166004
主文
 被告人を懲役5年に処する。
 未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
理由
 (犯罪事実)
 被告人は,平成29年8月当時,内縁の妻Aの娘であるB(当時16歳)と同居してその寝食の世話をし,その指導・監督をするなどして,同人を現に監護していた者であるが,Bが18歳未満の者であることを知りながら,同人と性交をしようと考え,平成29年8月25日から同月26日までの間に,福岡市〈以下省略〉において,Bを現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて同人と性交をした。
 (証拠の標目)(各証拠書類等に付記した番号は,検察官請求の証拠番号である。)
 (法令の適用)
 罰条
 被告人の判示行為は,刑法179条2項,177条前段に該当する。
 宣告刑の決定
 所定刑期の範囲内で,被告人を懲役5年に処する。
 未決勾留日数の算入
 刑法21条を適用して未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
 訴訟費用の処理
 訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。
 (量刑の理由)
 犯行態様は,被告人がAやBらとホテルに宿泊した際,隣のベッドにAらが寝ているにもかかわらず,同じベッドに寝ていたBと性交するというものであり,大胆かつ悪質である。しかも,被告人は避妊措置をとっておらず,その点でも非難は免れない。Bは,すぐ近くに実母であるAらが寝ている中で性交をするという異常な状況に置かれており,本件犯行により受けた精神的苦痛は非常に大きく,また,肉体的苦痛も軽視できない。犯行の動機も,自身の性欲を解消するとともに,Bの実母であるAらが横で寝ている状態でBと性行為に及ぶスリルを感じるためという身勝手極まりないもので,特に酌むべき事情はない。
 以上によれば,被告人の刑事責任は重く,酌量減軽を行うべき事情は見当たらないが,他方で,想定される監護者性交等の犯行態様の中で,本件をことさらに重く処罰すべき事情も存在しない。
 そして,被告人が公判廷において事実を認め,反省の弁を述べていること,Bとその家族に二度とかかわらない旨誓約していること,被告人に前科がないこと等の被告人に有利な事情が認められるので,それらの事情も考慮し,主文のとおりの刑に処するのが相当と判断した。
 (検察官大西杏理,国選弁護人中田昌夫各出席)
 (求刑―懲役6年)
 平成30年5月17日
 長崎地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 小松本卓 裁判官 堀田佐紀 裁判官 佐野東吾)

監護者性交罪数罪で懲役6年(千葉地裁H30.10.18)

 併合罪加重されていると思いますが、併合罪にしておいて、「高学年の頃から繰り返し行為に及んでおり」として起訴されてない余罪(訴追可能性がある事実)を考慮して重い刑にされることに警戒する必要があります。
 児童福祉法違反(淫行させる行為・児童淫行罪)であれば、3~4年の実刑だと思います

https://www.chibanippo.co.jp/news/national/540526
配偶者の子ども(養女)にみだらな行為をしたとして、監護者性交罪に問われた千葉県内に住む40代のトラック運転手の男に千葉地裁は18日、懲役6年(求刑懲役7年)の実刑判決を言い渡した。同罪は昨年7月に施行され、親など監護者が18歳未満にみだらな行為をすれば、暴行や脅迫がなくても罰することができる。同罪の判決は県内で初めて。

 判決によると、養女=当時高校1年(16)=が18歳未満と知りながら今年2~3月、コンビニ駐車場に止めたトラックの後部座席や自宅で、監護者の立場に乗じてみだらな行為をした。

 楡井英夫裁判長は判決理由で「養女の家族関係を壊したくないとの心情につけ込むなどした卑劣で悪質な犯行で、心身の健全な育成に大きな悪影響を与えた。小学校高学年の頃から繰り返し行為に及んでおり、強い非難に値する」とした。

 公判は被害者保護を理由に、被告人の氏名などを伏せて審理された。

妊娠中絶した師弟関係の児童淫行罪で7700万円の損害賠償を請求した事例(水戸地裁)

 執行猶予になってるようです。

「教諭から性行為」提訴、茨城 妊娠中絶の元生徒、損害賠償求め
2018.10.11 共同通信 
 茨城県内の県立高校で2016年、男性教諭に性行為をされ、妊娠中絶手術などで心身に回復不能な被害を受けたとして、元女子生徒が県と元教諭に慰謝料など約7700万円の損害賠償を求めて水戸地裁に提訴していたことが11日、分かった。同日、地裁(前田英子裁判長)で第1回口頭弁論が開かれ、県は争う姿勢を示したとみられる。
 訴状によると、元教諭は16年9月に進路指導室などで2度性行為をし、元生徒は後に人工妊娠中絶手術を受けた。さらに幻覚や抑うつなどの解離性障害の症状が悪化し、学校に通えなくなって大学進学も断念せざるを得なかったと主張している。
 元教諭は17年1月に児童福祉法違反容疑で県警に逮捕され、同2月に懲戒免職処分となった。同6月に同法違反罪で懲役3年、執行猶予5年の有罪判決を受け、既に確定した。
 県高校教育課は「プライバシーの問題があるのでコメントできない」としている。
共同通信社

監護者性交事件につき娘を含む家族から、被告人を実刑に処することがないよう求める嘆願書が出た事例(懲役6年 大津地裁h30.7.31)

 児童淫行罪の量刑の2倍くらいになっているようです。
 1件で起訴されて余罪として考慮されるので、起訴されていない性行為の回数・期間を争うことがあります。

■28263965
津地方裁判所
平成30年07月31日
国選弁護人 西村一
主文
被告人を懲役6年に処する。
未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、妻及びその父母のほか、実の娘であるAと同居して同人の寝食の世話をし、指導、監督をするなどして同人を現に監護する者であるが、同人が18歳未満の者であることを知りながら、同人と性交をしようと考え、平成30年3月上旬頃、滋賀県B市●●●所在の当時の同居先において、自室で就寝しようとする同人(当時15歳)に対し、現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交をしたものである。
(法令の適用)
 被告人の判示所為は刑法179条2項、177条前段に該当するので、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役6年に処し、刑法21条を適用して未決勾留日数中60日をその刑に算入し、訴訟費用は、刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 本件犯行は、監護者が被監護者に対し性交をする類型の中にあって、出生から継続的に養育に携わってきた実の娘を対象としている点に重大な特徴がある。
 また、被告人は、娘が小学校の高学年の頃から性的行為に応じさせるようになり、その延長上で常習的に本件性交の犯行に及んでいる点にも重大な特徴がある。
 しかも、以上の振る舞いは、妻ら家族と同居する環境で繰り返されていたと認められるし、被告人は、本件に先立つ頃に一度、娘に対する性的接触を察知した妻から厳しく注意され、制止されていたにもかかわらず、自身の性的欲求を満たすためになおも本件に及んだものと認められる。動機に酌量の余地がないことはもとより、守り育てるべき娘の貞操を強い犯意のもとで蹂躙し、その尊厳を著しく傷付けた悪質な犯行であることを指摘せねばならない。
 監護を担う実の親の立場であれば決して揺るがせてはならない倫理に、真っ向から背いたものとして、被告人は、厳しい非難を免れないというべきである。
 もっとも、娘を含む家族から、被告人を実刑に処することがないよう求める嘆願書が提出されたことにも示されているとおり、従前、被告人は、子どもらの養育において、性的に逸脱した部分を除くその余の領域においては様々に尽力し、よって良好な家庭を支える役割を果たしてきたと認められるから、そのような態度もなくかえって家族を虐げていた経緯の事案などと同等の重い評価までは当たらない。そこで、前科もない被告人が罪を認めて反省の態度を示していることとも併せて斟酌し、刑事責任の評価を抑えることができないか検討したが、倫理に背き、規範を逸脱した程度が非常に大きい本件の罪質に照らし、この点の斟酌を深いものとするには至らなかった。
 主文の刑はやむを得ないと判断した次第である。
(求刑・懲役7年)
刑事部
 (裁判長裁判官 伊藤寛樹 裁判官 加藤靖之 裁判官 平井美衣瑠)

堀田さつき「監護者性交等罪と,児童福祉法における自己を相手方として淫行をさせる行為とが,法条競合の関係にあり,監護者性交等罪のみが成立するとされた事案(平成29年12月13日札幌地裁小樽支部判決(確定))」研修843号

 処断刑期の上限が変わるので、控訴すべきだったと思います。

第2事案の概要及び本判決の要旨
1 事案の概要
本判決により認定された事実は,被告人は, 内妻とその娘である被害者と同居し(同居開始時,被害者は小学校低学年),被害者らの生活費を相当程度負担し,被害者の身の回りの世話をするなど事実上の養父として生活していたものであるが,平成26年頃から被害者に対する性的虐待を繰り返した末,平成29年7月中旬頃被害者(当時16歳)と性交し(以下「第1行為」という。), さらに, その3日後にも被害者と性交した(以下「第2行為」という。) というものである。
検察官は,第1行為について,監護者性交等罪及び児童福祉法違反
により起訴した後,第2行為について,両罪により追起訴した。
・・・
検察官は,第1行為と第2行為との関係につき,監護者性交等罪と児童福祉法違反がそれぞれ成立し(観念的競合),それらは併合罪であると主張し(処断刑は5年以上30年以下の懲役),弁護人は,前記のとおり,児童福祉法違反は成立せず,監護者性交等罪のみが成立するとした上で,第1行為と第2行為とは
包括一罪であると主張した(処断刑は5年以上20年以下の懲役)。<<

沖縄県青少年保護育成条例における年齢確認義務

 児童淫行罪の判例であったのは、児童が他人の名前をかたったので、使用者が戸籍を確認しても18歳だったという場合です。
 それが淫行者に当てはまるとも思えません。

沖縄県青少年保護育成条例逐条解説書(平成29年3月)
第22条
1 第17条の2第1項の規定に違反した者は、2年以下の懲役又は100万円以下
の罰金に処する。
。。。
8 第9条第2項、第10条第3項、第11条第1項、。第12条第4項、第13条第3項又は第15条から第18条の4までの規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として前各項の規定による処罰を免れることができない。ただし、当該青少年の年齢を知らないことに過失のないときは、この限りでない。

解説
〔解説〕
1 青少年を、自己又は他人の情欲を満たすための相手とすることは社会的に許されるべき行為ではない。また青少年の心身に及ぼす悪い影響は計り知れないものがある。
これらのことから、青少年を淫行の相手とした者に対しては、青少年への影響の重大性を鑑み、条例で定めることができる最高刑を科している。
・・・
7 第8項の規定に違反した者については、青少年の年齢を知らなかったことを理由として処罰を免れ得ないこと及び年齢確認に関する無過失の挙証責任があることを規定したのである。
8 「当該青少年の年齢を知らないことを理由として」とは、通常可能な調査が適切に尽くされているか否かによって決せられることになるが、具体的に相手方となる青少年に年齢、生年月日等を尋ね、又は運転免許証等公信力のある身分証明書の提出、あるいは、父兄に直接問い合わせる等客観的に妥当な確認措置をとったにもかかわらず、青少年自身が年齢を偽り、又は虚偽の証明書を提出する等行為者の側に過失がないと認められる場合をいう。
9 「過失のないとき」とは、
(1)その者が青少年でないことを確認するにつき全く遺漏がなかったことを意味し、過失がないことの挙証責任は営業者等が負う。
(2) 過失推定規定であり、座のような手段・方法を講じれば過失がないとされるかは、年齢確認に用いた資料、その資料の入手方法、当該相手との面談状況等を判断し、営業者として可能な限りの調査を尽くしているかどうかを、社会通念に照らして判断されるべきである。
(3) 青少年の身体的発育状況、態度、職歴、本人や紹介者等の単なる申告等からその者が青少年でないと信じたというだけでは足りない。
(4) 客観的資料として、本人の戸籍謄本、住民票、運転免許証等公信力のある書面等に基づく調査、保護者等に面接する等客観的に通常可能とされるあらゆる手段方法を識じて、当該青少年の年齢確認に万全を期した結果青少年でないと信じた場合にのみ過失がなかったと認めるべきである。

派遣型jkリフレを称する児童淫行事件(さいたま地裁H30.5.9)

 ホテルに派遣してリフレしてくれる業態

■28262830
さいたま地方裁判所
平成30年05月09日
主文
被告人Y1及び被告人Y2をそれぞれ懲役1年6月に、被告人Y3を懲役1年に処する。
この裁判が確定した日から、被告人Y1及び被告人Y2に対し4年間、被告人Y3に対し3年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

罪となるべき事実の要旨
  起訴状記載の公訴事実と同一であるから、これを引用する。
  公訴事実
 被告人Y1及び同Y2は、雇用する女子児童を遊客が利用するホテルに派遣してリフレクソロジー等をさせる形態のいわゆる派遣リフレ店である「D」を営んでいたもの、被告人Y3は、その従業員として、女子児童をホテルまで案内したり、女子児童が遊客から受け取った利用料金を回収したりするなどしていたものであるが、被告人3名は、共謀の上、前記「D」で雇用する「E」こと●●●(当時17歳)が満18歳に満たない児童であることを知りながら、平成29年10月28日午後4時25分頃、(住所略)所在の「F」(省略)号室において、同児童に淫行等の相手方として●●●を引き合わせるなどし、その頃から同日午後5時51分頃までの間、同所において、同児童に、前記●●●を相手に同児童の乳房や陰部を触らせるなどさせ、さらに、同児童をして前記●●●を相手に手淫等の性交類似行為をさせ、もって児童に淫行をさせる行為をしたものである。
  罪名及び罰条
  児童福祉法違反 同法60条1項、34条1項6号、刑法60条


適用した罰条
  刑法60条、児童福祉法第60条1項、34条1項6号、刑法25条1項、刑事訴訟法181条1項ただし書
量刑の理由
 被告人3名は、被害児童らを使って本件事業を行っていた一環として、被害児童に対する悪影響を全く顧みずに、自身の利益のみを考えて本件犯行に及んだと認められるのであって、その動機及び経緯は強い非難に値する。そして、本件犯行時には被害児童に客と性交類似行為をさせており、被害児童の健全な育成を阻害するその態様及び結果は重大である。本件犯行における被告人らの役割をみると、被告人Y1及び被告人Y2は、本件犯行における中心的な役割を担い、両名で事業による利益を折半していたものであって、その責任は重い。また、被告人Y3は、被害児童らを送迎したり、料金を回収したりするなどの役割を担いつつ日当を受け取っていたものであって、被告人Y1及び被告人Y2程ではないとはいえ、その役割も重要であったと認められる。以上の事情等に照らすと被告人3名の犯情はいずれも悪く、本件ではそれぞれ主文掲記の懲役刑は免れない。
 しかしながら他方で、被告人3名ともに本件事実を認めて反省の弁を述べていること、いずれも前科はないこと、情状証人が今後の監督を約束していること等の被告人3名にとって有利な事情も認められるので、今回は、それぞれ主文掲記の期間、その刑の執行を猶予するのが相当である。
第1刑事部
 (裁判官 加藤雅寛)