児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ提供で保護観察とか不処分とか(家裁岡崎支部)

 警察に止めてもらうのが一番強力ですよね。

少女裸画像 拡散疑い 2中学生 書類送検=中部・続報注意
2019.02.06 読売新聞
 女子中学生の裸の画像を無料通話アプリ「LINE(ライン)」で同級生に拡散させたとして、愛知県警は5日、県内の中学2年の男女2人(ともに14歳)を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(提供)の疑いで名古屋地検に書類送検した。画像は県内の中学4校の2~3年生計53人に拡散したという。

 発表によると、2人は昨年6~9月、中学2年の女子生徒(13)の裸の画像1枚をそれぞれの同級生計6人に送信した疑い。2人のうち、少年は女子生徒と同じ中学の生徒で、少女は別の中学に通う女子生徒の友人だった。

 女子生徒は同年5月上旬、同じ中学の先輩の男子生徒に「誰にも見せないから」と何度も頼まれ、スマートフォンで自身の裸の上半身を撮影して送った。

 数日後、画像の存在をうわさで知った少女が女子生徒のスマホを無断で調べて画像を見つけ出し、自分のスマホで撮影の上、同級生に送信したという。少年は拡散された画像を入手し、さらに同級生に送った。少女は調べに「面白半分で拡散させた」と供述しているという。画像は県警や学校が生徒らに削除させた。女子生徒は県警に「画像の送信を断れば、学校で悪口を言われ仲間外れになると考えた」と話しているという。

 [続報]

 2019年4月6日付中部朝刊34面

 =裸画像拡散事件 少年を不処分に 少女は保護観察処分=中部

 女子中学生の裸の画像を無料通話アプリ「LINE(ライン)」で同級生に拡散させたとして、2月に県内の中学2年の男女2人(いずれも当時14歳)が児童買春・児童ポルノ禁止法違反(提供)の疑いで書類送検された事件で、名古屋家裁岡崎支部は少女について4日付で保護観察処分とし、少年は5日付で刑事裁判の無罪に相当する不処分とした。

 県警は、昨年6~9月に中学2年の女子生徒(当時13歳)の裸の画像1枚をそれぞれの同級生計6人に送信したとして2人を書類送検し、名古屋地検岡崎支部が家裁送致していた。

読売新聞社

児童買春行為で児童と知らなかった場合に、児童買春罪も青少年条例違反罪も成立しないという文献 

 「新捜査書類全集 捜査書類書式例 第4巻取調」にもありました。

栗原「児童買春の罪と青少年保設育成条例の関係について」研修644号107頁,
島戸純「児章買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保設等に関する法律」研修653号105頁
山川「いわゆる児童買春等処罰法と青少年保護育成条例の関係について」研修635号

藤宗和香(東京地方検察庁検事(当時))「青少年保護育成条例」風俗・性犯罪シリーズ捜査実務全書9第3版
淫行規制条例と児童買春罪との関係(補訂)
① 法律と条例とが同一とみられる事項を規定している場合について、最高裁判所は、「条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみではなく、それぞれの趣旨、日的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない。例えば、ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合でも、当該法令全体からみて、右規定の欠如が特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは、これについて規律を設ける条例の規定は国の法令に違反することとなりうるし、逆に、特定事項についてこれを規律する図の法令と条例が併存する場合でも、後者が前者とは別の目的に基づく規律を意図するものであり、その適用によって前者の規定の意図する日的と効果をなんら阻害することがないときや、両者が同ーの目的に出たものであっても、国の法令が必ずしもその規定によって全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨でなく、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるときは、国の法令と条例との聞に何らの矛盾抵触はなく、条例が図の法令に違反する問題は生じえないのである (最大判昭50.9.10 刑集29.8.489) としているが、両者の聞に矛盾抵触が生じた場合、法律の規定が優先され、条例の規定が無効となる
② ところで、児童買春・ポルノ法の児童買春罪と淫行規制条例とを比較すると、少なくとも対償の供与又はその約束がなされて性交等に及んだ行為を処罰するという部分に限っては、その趣旨、目的、内容及び効果において完全に重複するものと考えられ、かかる部分に|期する条例の規定は効力を有しないこととなる。児童買春・ポルノ法附則第2 条第1 項も、地方公共団体の条例の規定で、同法で規制する行為を処罰する旨を定めているものの当該行為に係る部分については、同法の施行と同時にその効力を失う旨定めているが、これは、前記の趣旨を確認的に規定したものであると考えられる
③ そして、児童買春・ポルノ法は、「児童買春」について、児童等に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせること)としているのに対し、淫行規制条例は、児童に対する「淫行」、「みだらな性行為」等を処罰対象としている。
したがって、淫行規制条例の「淫行」、[みだらな性行為」が児童買春・ポルノ法の「性交等」よりも広い場合には、同法の「性交等」 よりも広い部分について、児童買春・ポルノ法がいかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であるとは解されないから、条例の効力を認めることになると考えられる。
① なお、この場合、児童買春・ポルノ法上、児童買春罪については年齢の知情性に関する推定規定がないから、行為者に被害児童の年齢についての認識を欠いた場合に、児童買春罪による処罰ができないとしても、淫行規制条例による処罰ができないか問題となる
両者の規制が重なる部分については、児童買春・ポルノ法が児童買春罪について年齢の知情性に関する推定規定をあえて設けず、故意犯処罰の原則を貫いている以上、この法律の判断が優先されるべきであり、淫行規制規定による処罰はできないものと考えられる

新捜査書類全集 捜査書類書式例 第4巻取調
p106
都道府県の制定するいわゆる青少年保護育成条例によっても処罰可能であるから,相互の処罰の関係が問題となる。
特 に,児童買春法4条の罪の成立には買春者において被害児童が18歳未満で あることの認識が必要であるのに対して(同法9条が4条をわざわざ除外してい る。) ,青少年保護育成条例の淫行処罰規定では,被害児童が1 8歳未満であることを知らないことを理由として処罰|を免れることはできない旨の知情性推定規定を設けているため,被疑者に18歳未満であることを知らなかった旨弁解している場合に, 児撞買春罪の適用は困難であるとしても,
青少年保護育成条例違反として処罰することができるかという問題がある。児童買春処罰法附則2条1項が「「地方公共団体の条例の規定で,この法律で規制する行為を処罰する旨を定めているものの当認行為に係る部分については,この法律の施行と同時に,その効力を失うものどする」と規定していることからすれば,児章買春法が規定する対償の供与又ぱその供仔の約束をした上で行う買春(淫行)行為に関しては,青少年保護育成条例の淫行処罰規定の適用は排除されてれるが,対償の供与又はその約束を要件としない単なる淫行を処罰する部分については青少年保護育成条例のみが適用されると解すべきであろう(栗原「児童買春の罪と青少年保設育成条例の関係について」研修644号107頁,島戸純「児章買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保設等に関する法律」研修653号105頁)。

強制わいせつに引き続いて強制性交した事案につき、強制わいせつ罪と強制性交罪の包括一罪とした事例(福井地裁H30.12.6)

 500万円で示談

TKC
【文献番号】25562172
監禁,強制性交等被告事件
福井地方裁判所平成30年12月6日刑事部判決
       判   決
       主   文
被告人を懲役4年に処する。
未決勾留日数中30日をその刑に算入する。
       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は,平成30年7月5日,福井市内の量販店内で見掛けたB(以下,「被害者」という。)に強いてわいせつな行為をしようと考え,同人を追跡し,犯行に供するために準備してあった黒色仮面,黒色ニット帽及びゴム手袋を着用した。
 そうして,被告人は,同日午前2時39分頃,福井県C市【記載省略】において,被害者が同所に駐車した軽四輪乗用自動車運転席から降車しようとするや,同人の肩付近を手で押して同車助手席まで同人を押し込み,「殺さんから。」などと言う暴行脅迫を加えた。ところが,その頃,同車のクラクションが鳴ったことから,被告人は,被害者を連行して犯行場所を移そうと考え,直ちに同車を運転して発進させ,走行中の同車内において,同人に対し,「顔を見れないようにせなあかん。」などと言って脅迫し,同人を同市【記載省略】まで連行した。そして,被告人は,同所に停車中の同車内において,前記一連の暴行脅迫により反抗を抑圧された被害者に対し,着衣の首元付近を引き下げてその乳首をなめる,パンツを引き下げてその陰部をなめる,被告人の指を膣の中に入れるなどし,さらに,強制的に性交をしようと考え,同車助手席ドア付近で被害者と性交し,引き続き,同車を運転して同県D町【記載省略】まで同人を連行し,同日午前3時21分頃,同所において同人を解放するまでの間,同人が同車内等から脱出することを著しく困難にさせ、もって同人を不法に監禁した。
(証拠の標目)
【記載省略】
 なお,被告人の脅迫文句については,被告人の「顔を見れないようにせなあかん。」との発言を,顔をぐちゃぐちゃにするとの意味に被害者が捉え,そのまま記憶した可能性も十分あり得ることから,被告人供述に従い認定した。 
(法令の適用)
1 罰条 監禁の点につき刑法220条,強制性交の点につき同法177条前段(強制わいせつ行為中に強制性交の犯意を生じてこれに及んだ点は,包括して強制性交等罪一罪が成立すると解する。)
2 科刑上一罪の処理 刑法54条1項前段,10条(1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,1罪として重い強制性交等罪の刑で処断)
3 酌量減軽 刑法66条,71条,68条3号
4 未決勾留日数の算入 刑法21条
5 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 そうすると,被告人が被害者に謝罪した上で500万円を支払って示談を成立させたことのほか,事実を認めて反省の態度を示し,性障害専門の治療に努める意向を示していること,実母と義兄が出廷してそれぞれ被告人の支援を約束し,本件犯行後に離婚した元妻も書面で更生に協力する旨述べていることから,被告人が再犯を犯さないことは相応に期待し得ることを加味しても,単独犯が路上で面識のない者に対して敢行した強制性交等(強姦)1件の量刑傾向に照らし,本件は,酌量減軽は認められるものの,刑の執行猶予を付すべき事案であるとはいえず,被告人を主文標記の実刑に処するのが相当である。
(求刑・懲役5年6月)
平成30年12月6日
福井地方裁判所刑事部
裁判長裁判官 渡邉史朗 裁判官 西谷大吾 裁判官 浅井翼

被疑者に「Eカップでした」「ボインでした」などと説明させて、青少年条例(淫行・わいせつ)の過失処罰条項の適用に反対して、起訴猶予となった事例。

 条例解説などではあらゆる方法での確認義務があるとして、青少年だと分かってしまうから、淫行しないでねという趣旨なんでしょうが、もともと営業者・使用者に対する義務なので、行きずりの淫行にはそこまできたいできません。
 検察官の著作でも、年齢確認義務については疑問が出ています。

栗原雄一「児童買春の罪と青少年育成条例の関係について」研修644号*1
そのため,形式的には,全ての行為者につき年齢の調査確認の手段を尽くしたことの挙証責任が課せられているようにみえる。 しかし,淫行しようとする者は当然にその相手方の年齢を調査確認すべき義務があるといえるかどうかは微妙である。 したがって,実務的には,年齢知情に関する規定の適用を前提として,淫行罪により処罰しようとする場合には, 「使用者性」に匹敵する事情を別途立証するのが相当であるろう。すなわち,当該青少年と知り合った経緯,当該青少年の体格,服装,言葉遣い等から,当該行為者において,当該青少年が18歳未満ではないかとの疑いを持ち得る客観的状況があったことを示す証拠を収集しておくべきこととなる。
(法務総合研究所教官)
・・・・
藤宗和香(東京地方検察庁検事(当時))「青少年保護育成条例」風俗・性犯罪シリーズ捜査実務全書9第3版*2P336
このような例では、結局は、客が既に青少年と話をする機会などがあってその身上を知り得る関係にあったとか、当該応には18 歳未満の女子ばかりを世いているなどの噌があって、容の来応理由になっていたと認められるなど、個別具体的に、淫行の相手が18 歳未満であることについて客観的に知り得る状況があったことを明らかにしなければ、過失を認めるべきではないと考える。

 そこで、被疑者から体格等(Eカップとかボインだったかとか)を細かく聴き取って、青少年とは見えない点を強調していけば、年齢知情条項があっても起訴猶予になる可能性が出てきます。

新潟県青少年健全育成条例の解説H11
5 過失犯規定の適用
第29条第6項の規定により、青少年の年齢を知らないことを理由として、処罰を免れることはできない。
「ただし、過失がないとき」とは、社会通念に照らし、通常可能な確認が適切に行われているか否かによって判断される。
具体的には、単に青少年の年齢、生年月日を尋ねただけ、あるいは身体の外観等からの判断だけでは足りず、自動車運転免許証、住民票等の公信力のある書面で確認するか、又は、保護者に問い合わせるなど客観的に通常可能とされるあらゆる方法を用いて確認している場合をいう。

第29条
1 第20条第1項又は第2項の規定に違反した者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。


6 第15条の9第1項若しくは第2項又は第20条第l項、第2項若しくは第3項の規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として、第l項又は第3項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。

【要旨】
本条は、条例違反者に対する制裁規定であり、この条例が関係者によって確実に守られ、その目的が達成されることを確保するために罰則を規定したものである。
【解説】
第6項の規定は、青少年の健全な育成を阻害するおそれが強く、当然社会的にも非難されるべき行為について、青少年の年齢を知らなかったとしても、そのことを理由に処罰を免れることができない旨を規定しているもので、青少年保護の実効性を確保しようとするものであるo
「ただし、過失がないときjとは、社会通念に照らし、通常可能な確認が適切に行われているか否かによって判断される。
具体的には、単に青少年の年齢、生年月日を尋ねただけ、あるいは身体を外観等からの判断だけでは足りず、自動車運転免許証、住民票等の公信力のある書面で確認するか、又は、保護者に問い合わせるなど客観的に通常可能とされるあらゆる方法を用いて確認している場合をいう。

福岡県青少年健全育成条例 児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止

 児童ポルノが発生する前の段階で処罰しようとするので、求めたものが、画像もないのに、児童ポルノと言えるのかが問題になりそうです。

福岡県青少年健全育成条例の手引き
児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止)
第31条の2 何人も、青少年に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 青少年に拒まれたにもかかわらず、当該青少年に係る児童ポルノ等(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第2条第3項に規定する児童ポルノ又は同法第7条第2項に規定する電磁的記録その他の記録をいう。次号において同じ。)の提供を行うように求めること。
(2) 青少年を威迫し、欺き、若しくは困惑させ、又は青少年に対し対償を供与し、若しくはその供与の約束をする方法により、当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を行うように求めること。
【要旨】
本条は、すべての者に対して、青少年に、自身の姿態が描写された児童ポルノ又はその情報を記録した電磁的記録その他の記録の提供を当該青少年に不当に求める行為を禁止した規定である。
【解説】
1 「当該青少年に係る児童ポルノ等」とは、求める相手方である青少年自身の姿態が描写された児童ポルノ等をいう。
したがって、他の青少年の姿態が描写された児童ポルノ等を求めた場合については、該当しない。
また、どのような表現が「児童ポルノ」に該当するかについては、要求文言とその前後のやりとりを総合的に判断し、該当性の判断を行うこととなるが、その要求に青少年が応じてしまった場合、児童ポルノ禁止法第2条第3項に該当する児童ポルノが提供されることが社会通念上明らかに認められることが必要である。
2 「提供を行うように求める」とは、児童ポルノ禁止法第7条第2項に規定する「提供」を行うように求めることであり、当該児童ポルノ等を相手方において利用し得べき状態に置く法律上・事実上の一切の行為をいい、具体的には、有体物としての児童ポルノを交付するよう求めたり、電磁的記録を電子メールで送信するよう求める行為がこれに当たる。
3 「拒まれたにもかかわらず」とは、青少年に対して当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を行うように求めた者が、当該青少年による拒否の意思が示され、それを認識しているにもかかわらずということをいう。
したがって、やりとりの記録などから拒否されたと認識していることが明らかである場合のほか、社会通念上、青少年の意思表示が拒否したと認められるものであり、かつ、それが児童ポルノ等の提供を行うように求めた者に到達していることが明らかである場合には、拒否されたと認識していたということができる。
4 「威迫」とは、他人に対して言語挙動をもって気勢を示し、不安の感を生じさせることをいう。
「脅迫」と異なり、他人に恐怖心を生じさせる程度のものであることを要しない。
なお、「威力」との差異に関し、公職選挙法第225条第1号の「威力」とは「人の意思を制圧するに足りる勢力」、同3号の「威迫」とは「人の不安を抱かせるに足りる行為」をいい、両者の違いは、人の意思を制圧するに足りる程度の行為であるかどうかにあるものと解すべき」であると判示している(昭和42年2月4日最高裁第2小法廷判決)。
5 「欺き」とは、他人を錯誤に陥れ、虚偽の事実を真実と誤認させることをいう。
真実でないことを真実であるとして表示する行為で、虚偽の事実を摘示する場合と真実の事実を隠ぺいする場合とが含まれる。
6 「困惑させ」とは、困り戸惑わせることをいい、暴行脅迫に至らない程度の心理的威圧を加え、又は自由意思を拘束することによって自由な判断を制限することをいう。
相手方に威力を示す場合、義理人情の機微につけ込む場合、その他相手方を心理的に拘束し得るような問題を持ち込む場合などが考えられるが、いずれにしても、相手方に対する言動のほか、相手方の年齢・知能・性格、置かれた環境、前後の事情などを総合して判定する。
7 「対償を供与し、若しくはその供与の約束をする」とは、児童ポルノ等の提供に対する反対給付としての経済的な利益を供与、又はその約束をすることをいう。
「対償」は、現金のみならず、物品、債務の免除も含まれ、金額の多寡は問わない。
【罰則】
○ 30万円以下の罰金又は科料(第38条第4項)
【関係法令】
公職選挙法第225条○児童ポルノ禁止法第2条、第7条
【参考判例】昭和61年12月2日高松高裁判決(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例事件)本件は、被告人が数回にわたり徳島県所在の自宅から香川県にあるA方に電話をして、同人の妻のBに対し「あんたが好きです。会ってほしい。」などと反覆して申向け、もって同女に著しく不安又は迷惑を覚えさせるようなことをしたという事案であるところ、原審は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和38年12月23日香川県条例50号) 10条、11条1項は香川県の区域内における行為に対して適用されるのが原則であって、区域外の行為に本件条例を適用するには特段の根拠の存在することが必要であるが、本件被告人の行為は区域外でなされたものであり、本件条例を適用する特段の根拠はないとして、被告人は無罪としたのであるが、条例は当該地方公共団体の区域内の行為に適用されるのが原則であるものの、本件のように当該地方公共団体の区域外から区域内に向けて内容が犯罪となる電話をかける行為に及んだ場合には、電話をかけた場所のみならず、電話を受けた場所である結果発生地も犯罪地と認められるのであり、このように犯罪の結果発生地が香川県にあるとされる以上、行為者は直接的かつ現実的に香川県に関わりを持ったものというべく、香川県民及び滞在者と同様に本件条例が適用されるものと解すべきである。
なお、本件条例12条は本件’ 条例が適用される通常の場合の行為者として「県民及び滞在者」を挙げて適用上の注意しているに過ぎないと解すべく、同条を根拠として本件条例が適用される行為者のを直ちに限定することは相当でない。
た、原審は、香川県民及び滞在者以外の者に本件条例を適用し処罰すると、本件条例の存在、内容を了知することが不可能若しくは著しく困難なことから、行為に際し違法性の認識すら持ち得ない者が処罰される結果を招くというが、故意の内容に違法性のは必要がないのみならず、本件被告人は、一般通常人におけると同様、本件違法性の認識に欠くる所はなかったものと認められるから、右の結果が不合理であるとはいえない

性的意図による暴行につき、求刑罰金50万円、判決懲役6月執行猶予2年とした事例(岐阜地裁H31.2.6)

時系列
2018.07.18 A(34)への強制わいせつ罪で逮捕
2018.08.4 B(43) C(31)への強制わいせつ罪で逮捕
2018.08.17 ABへの暴行罪略式起訴、C強制わいせつ罪起訴猶予
2018.08.17 ABへの暴行罪正式裁判
2018.10.09 第1回
2018.12.14 論告「性的欲求」 求刑50万円
2019.2.6 判決 懲役6月執行猶予2年

 報道だけを見ると、性的意図の暴行という証拠があるので、簡裁(林道春裁判官 地裁所長歴任)は正式裁判にした。さらに、地裁に移送して、地裁で罰金求刑され、執行猶予付きの懲役刑。
 暴行罪で性的意図を主張・立証してしまうと、強制わいせつ(未遂)罪になって、暴行罪は不成立という関係になる。被告人は暴行罪の訴因で強制わいせつ罪の防御を迫られることになっておかしい。そこは原審の弁護人が指摘すべき点。
 原判決が暴行罪で性的意図を認定していると、訴因逸脱認定になる恐れがある。控訴するならば、そういう点で法令適用の誤りとか訴訟手続の法令違反を主張すればいいでしょう。

第四六三条[通常の審判]
1 第四百六十二条の請求があつた場合において、その事件が略式命令をすることができないものであり、又はこれをすることが相当でないものであると思料するときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。

裁判所法第三三条(裁判権
3 簡易裁判所は、前項の制限を超える刑を科するのを相当と認めるときは、訴訟法の定めるところにより事件を地方裁判所に移さなければならない。

刑訴法第三三二条[地方裁判所への移送]
 簡易裁判所は、地方裁判所において審判するのを相当と認めるときは、決定で管轄地方裁判所にこれを移送しなければならない

逮捕の岐阜市職員 暴行罪で正式裁判=岐阜
2018.08.18 読売新聞
 生活保護を受給する女性らにわいせつな行為をしたとして、岐阜中署に強制わいせつ容疑で逮捕された岐阜市生活福祉一課職員について、岐阜区検は17日、暴行罪で岐阜簡裁に略式起訴した。同簡裁(林道春裁判官)は同日、公判を開かずに罰金刑を科す略式命令は不相当と判断し、正式な裁判が開かれることになった。
 起訴状などによると、容疑者は昨年5月~今年4月、岐阜市役所の通路などで、同市の無職女性(当時43歳)の体に抱き付くなどしたほか、今年6月、ケースワーカーとして訪問した同市の無職女性(当時34歳)方で、女性を抱き寄せるなどしたとされる。
 一方、同市の別の無職女性(当時31歳)に対する強制わいせつ容疑について、岐阜地検は17日、不起訴とした。地検は、その理由や、暴行罪での略式起訴の理由を明らかにしていない。

 生活保護者へ暴行 罰金50万円を求刑 地裁公判で検察側
2018.12.15 中日新聞
 【岐阜県】担当する生活保護受給者の女性二人を抱き寄せるなどしたとして、暴行罪に問われた岐阜市生活福祉一課被告(45)の論告求刑が十四日、岐阜地裁であり、検察側が罰金五十万円を求刑し結審した。判決は来年一月十五日。
 検察側は論告で「立場を利用して性的欲求を満たそうとした犯行は悪質」と主張。二人に四度にわたって犯行を繰り返したとして、「被害者の肉体的、精神的苦痛は重大」と指摘した。
 弁護側は最終弁論で寛大な処分を求め、被告は最終意見陳述で「励ますつもりが結果的に被害者の意に反した行動になってしまったことを反省し、おわびしたい」と述べた。
 起訴状などによると、二〇一七年五月~今年四月ごろ、岐阜市役所内などで無職女性(45)に抱きつくなどしたほか、今年六月にも別の無職女性(35)方で女性を抱き寄せ、手を握るなどしたとされる。

 暴行岐阜市職員に有罪 地裁も厳しい判断
2019.02.07 中日新聞
 【岐阜県】担当する生活保護受給者の女性への暴行罪に問われた岐阜市職員に、岐阜地裁が求刑を上回る判決を言い渡した。検察側は略式起訴したが、岐阜簡裁が「略式不相当」と判断した異例の事案は、公開の法廷でも厳しい判断が示された。
 岐阜地裁で、検察側の求刑(罰金五十万円)を上回る懲役六月、執行猶予二年の判決を言い渡された岐阜市生活福祉一課副主査は、昨年七月と八月、女性二人に対する強制わいせつ容疑で逮捕された。岐阜区検は同月、暴行罪で略式起訴した。
 略式手続きは公開の法廷ではなく、簡裁で書面審理される。略式命令で科せる刑罰は百万円以下の罰金または科料に限られる。岐阜簡裁は「略式不相当」とし、その上で、禁錮刑以上の刑罰を科せる地裁で裁判を開くことを判断した。
 岐阜地裁によると、二〇一五~一七年に岐阜簡裁に略式起訴された五千二百四十件のうち、「略式不相当」と「略式不能」とされた事件は六件(0・1%)。一五~一七年に岐阜簡裁が地裁での審理が相当と認め、判決が出た事件はないという。この日の判決について、検察関係者は「懲役刑も十分考えられる事案だった」と話した。
 判決を受け、岐阜市は「改めて市職員がこのような重大事件を起こしたことを大変遺憾に思います」とコメントを出した。市によると、高瀬被告は約七十の生活保護世帯を担当。ケースワーカーとして受給者の生活状況の把握や、就労の指導などに当たっていた。
 ケースワーカーは年間計画に従って受給者の自宅を戸別訪問する。単身世帯や母子世帯を異性の担当者が一人で訪れると誤解を招く恐れがあるとして、市は一月、ケースワーカーに配られるマニュアルに「事情に応じて複数人での対応を適宜行うこと」とする留意点を加えた。(下條大樹)

 生活保護者に暴行 岐阜市職員認める 簡裁初公判
2018.10.10 中日新聞
 自分が担当する生活保護受給者の女性二人を抱き寄せるなどしたとして、暴行罪に問われたの初公判が九日、岐阜簡裁で開かれた。被告は「相違ございません」と起訴内容を認めた。検察側は証拠調べで「話を聞いているうちに情が湧き、女性として見るようになった。市職員の立場を超えて、性欲を満たすために触れたいと思った」などとする被告の供述内容を明らかにした。
 起訴状などによると、被告は二〇一七年五月~今年四月ごろ、岐阜市役所内や被告の自動車内などで同市の無職女性(44)に抱きつくなどしたほか、今年六月十四日には市内の別の無職女性(34)方で女性を抱き寄せ、手を握るなどの暴行をしたとされる。どちらの女性も被告がケースワーカーとして担当していた。
 岐阜区検は八月、同罪で略式起訴したが、岐阜簡裁が「略式不相当」と判断し、公開の法廷で審理された。

準強姦無罪判決のなぜ その経緯と理由は?

判決要旨を見せられてコメント求められたんですが、角が取れてたり、端折られたりです。
判決には一応理由が付いていて、見た感じ不合理な印象はありません。

https://mainichi.jp/articles/20190325/k00/00m/040/263000c?pid=14509
「状況を精査すれば違った判決の可能性も」
 では専門家はこの判決をどう見ているのだろうか。
 元刑事裁判官の陶山博生弁護士(福岡県弁護士会)は「女性は抵抗不能となるほど酒に酔っているのに同意のそぶりを示せるわけがない。論理的に苦しい判決」と首をかしげる。一方で「今回は男性の弁解を崩すに足る証拠が乏しかったのだろう」とも指摘。飲食店に居合わせた人たちの動きや女性のその後の行動などを詳しく調べれば、違った判決になっていた可能性もあるとみている。

 「古い刑法の考え方に基づく判決だ」と批判するのは甲南大の園田寿教授(刑法)だ。刑法38条は「罪を犯す意思がない行為は罰しない」としており、今回の判決も「女性が許容していると誤信してしまうような状況にあった」として男性の故意を否定した。だが、園田教授は「被告側が同意の存在を誤信したことについて合理的に説明できなければ故意犯と認定すべきだ。そうでなければ、身勝手な誤信は全て無罪になってしまう」と主張する。

「検察官が証拠を示せなかった結果」
同意のない性行為を巡る各国の法制度
 一方、性犯罪事件の被告の弁護を多く手掛ける奥村徹弁護士(大阪弁護士会)は「女性が明確に拒絶しなかったとする男性の説明について、検察官がはっきりと否定する証拠を示せなかった結果だ」と指摘。「同種事件の裁判例も踏襲しており、手堅い手法で事実認定している。立証が不十分であれば無罪となるのは当然だ」と評価する。今後、検察側が控訴した場合、どのように追加の立証をするかにも注目したいとする。そのうえで「今回の判決のポイントは男性の認識についての法的評価であり、性犯罪事件特有の問題ではない。ネットの記事だけで判決の是非を論じるのは自由だが、無罪判決を受けた男性への配慮も必要だ」として冷静な議論を求めている。<<

紙面
性犯罪事件の被告の弁護を多く手掛ける奥村徹弁護士(大阪弁護士会)は「女性が明確に拒絶しなかったとする男性の説明について、検察官がはっきりと否定する証拠を示せなかった結果であり、無罪となるのは当然だ」と判決に一定の理解を示した。

「心の殺人・魂の殺人」 裁判員裁判における量刑評議の在り方について 司法研修所編

裁判員裁判における量刑評議の在り方について 司法研修所
p8
第3 裁判員裁判における量刑判断の在り方
1 量刑に国民の視点,感覚,健全な社会常識などを反映させるという視点
(1 )法益についての意識
前述したとおり,量刑の本質は.「被告人の犯罪行為に相応しい刑事責任を明らかにすること」にある。
そして,量刑においては,基本的には法益保護の要請に反した程度に応じて刑罰的非難の強弱が決められるべきであるから,裁判員には,まず,当該事案で問題とされている法益が何か,その内容がどのようなものかについて意識してもらう必要がある。
生命犯・身体犯・財産犯等における保護法益については裁判員も理解が容易であり,裁判員に対する特段の説明は不要と思われるが,裁判員は強姦致傷罪,強制わいせつ致傷罪などにおける保護法益(傷害の点を除く)を理解するのは必ずしも容易ではないということは経験するところである。
強制わいせつ罪及び強姦罪の保護法益についての通説的な理解は,性的自由(性的な事項についての自己決定の自由)であり,性的自由とは.「誰と,いつ,どのように性的関係をもつかの自由を意味する」とされている。
特に強姦罪においては,被害女性の心身に与える影響の甚大さなどから「心の殺人」と呼ばれることもあるが,裁判員に対しては,刑法上はあくまで自由に対する罪として位置付けられていることについて理解を求めておく必要がある。
その際は.「性的行為の自由」といった,教科書的な説明をしても裁判員はピンと来ないことはよく経験するところであるから.「意思に反して性的行為を強制きれない利益Jr性的攻撃を受けない自由」というような表現を用いるなどの工夫をするとともに,必要に応じて,刑法が他に自由に対する罪としてどのようなものを規定しているか,それらの自由と性的自由とはどのように違うのか,などを各罪の法定刑をも参照しつつ検討することにより,理解を深めることが考えられよう。
性犯罪については,時代により保護法益の重視の度合いも異なり,また,男性と女性によって法益侵害の受け止め方にも違いがある可能性があり,なるべく多角的な視点、で検討できるよう配慮すべきである。
なお,強姦致傷罪等の保護法益の基本部分を性的自由と捉える以上は,姦淫行為が未遂に終わったことは,意思に反した性交まではなかったという点で,姦淫行為が既遂に達した場合と比べて,通常,軽い違法評価がなされるということになると思われる。
裁判員から. (被害女性の精神的被害の大きさ等を踏まえて)「既遂の場合も未遂の場合も同じ」との意見が表明されたとしても,上記の理解からすれば,単純に「既遂も未遂も同じ」とすることは妥当でないということになる。
この点については,裁判員に対する適切な説明を工夫し,理解を得る必要があろう。
(2) 国民の視点,感覚,健全な社会常識などの反映の在り方
次に,当該法益の重さをどのようにみるかが問題となる。刑法は法益の内容に応じて異なった法定刑を規定しているから,こうした刑法の条文に則して,他の保護法益とも関連させながら,法益の重きを推し測ることになる。その結果,例えば,裁判官と裁判員とで当該事案で問題とされている法益についての評価が異なっており,そうした裁判員の意見が反映されて,従来の量刑傾向よりも一定程度重い又は軽い量刑判断がなされることは,まさに裁判員制度の趣旨に合致するところといえる。
裁判員制度施行後2年間の量刑についてのデータからすると,強姦致傷罪については量刑の分布をグラフ化してみた際のピークが2年ほど重い方向にスライドしていることが見て取れる*5。裁判員制度の導入によりこの種の犯罪については量刑が重くなったと一応いうことができるであろう。
裁判員が性犯罪事件で重い量刑意見を述べる背景には,性的自由という保護法益を重視する姿勢があるように思われるが*6,こうした感覚が量刑に反映されることは,裁判員制度導入の趣旨の現れということができょう。
もっとも,裁判員の保護法益の重視の程度がわが国の法体系から許容されないものとならないよう留意すべきである(例えば,一般的に,故意の生命侵害である殺人罪よりも性的自由〔及び身体〕の侵害である強姦致傷罪の刑が重くなるようなことになれば問題があると考えられる。)。
裁判官は,当該事案の罪だけでなく,刑法等に規定されている各種の犯罪を体系的に理解し,その中で当該犯罪の重さを位置付けることができるであろうが,裁判員は,裁判官から的確な説明がない限り,そのような考慮をして刑を決めることは困難で、あるから,他の罪の法定刑との差異やその量刑傾向との比較なと裁判員が保護法益の重さについて適正な評価ができるような様々な視点,素材を裁判官の方から提供する必要がある。
裁判員から,例えば,性犯罪の犯人は非人間性を感じさせ,嫌悪すべき異質な者たちで社会から徹底的に排除すべきであるというような意見が述べられるような場合は,裁判官としては,犯罪行為に相応しい刑を決めるということが量刑の基本であることについて改めて説得的に説明する必要があるしまた,例えば. 「出てきたら,またやるかもしれないので,できるだけ長く入れておきたい」とか.「社会に戻ってほしくない」など,被告人の再犯の危険性(特別予防の必要性)を殊更に重視して過重な量刑意見が述べられた場合は,まずは.その被告人について再犯のおそれを認めるに足りる根拠があるのか具体的に検討し,それが分からない場合にも,公刊物等に基づき刑事学的な知見(とりわけ性犯罪者の再犯率に関する統計的資料*7)を提供したりするなどして,然るべき対処をする必要がある。
再犯率などについても抽象的に説明するのではなく,例えば,再犯率が2割である場合には. 5人のうち4人は再犯をせずに社会に復帰できるのに,そのおそれがあるというだけで長く拘禁してよいかというような問題提起をして考えてもらうなど,理解しやすく,具体的な議論をしやすいような説明や論点の提供を心掛けるべきである。

わいせつ行為とは「社会通念に照らし,それ自体性的な意味合いが強い行為」(福岡地裁H30.10.31)

 控訴審判決が出てから1審判決が公開される。
 「社会通念に照らし,それ自体性的な意味合いが強い行為」という定義は初耳です。
 大法廷H29はわいせつの定義を回避しているので、大法廷判決を引っ張ってきてもわいせつの定義は出てこないんですよ。

裁判年月日 平成30年10月31日 裁判所名 福岡地裁 
文献番号 2018WLJPCA10316002
出典
エストロー・ジャパン
裁判官
太田寅彦、 松村一成、 池上恒太
訴訟代理人
被告人側訴訟代理人
田豊,武寛兼,税所知久,今西眞

第3 強制わいせつ罪の成否について
 1 刑法176条前段の「わいせつな行為」に当たるかどうか
 刑法176条前段にいう「わいせつな行為」に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断すべきである(最高裁平成28年(あ)第1731号同29年11月29日大法廷判決・刑集71巻9号467頁参照)。
 そこで,本件についてみると,被告人Y2は,Aの両足を両手で掴んで広げて持ち上げた上で,Aの足の間に自己の腰を入れ,腰を数回振ったり,Aの身体に覆い被さったりしたのであり,AやCらも証言するように,その行為は,明らかに性交(正常位)を模したものであるところ,それは被告人Y2とAの股間同士が近接する体勢で行われただけでなく,被告人Y2の股間付近とAの陰部付近を複数回接触させているのであって,これらの行為が,社会通念に照らし,それ自体性的な意味合いが強い行為であることは明らかである。
 この点について,被告人両名の弁護人らは,被告人両名にとって宴会の最中の悪ふざけやいたずらにすぎず,実際に周囲に被告人両名の行為を制止するものもいなかったなどと主張する。しかし,被告人Y2の前記一連の行為の性的な意味合いの強さに照らせば,被告人両名としては,あくまで宴会の中での悪ふざけ,あるいはAに対する嫌がらせなどといった認識の下に行ったすぎないとしても,そのような主観的な事情は,本件においては,「わいせつな行為」に当たるか否かの判断に影響を及ぼすものではない。
 したがって,被告人Y2の前記一連の行為は,刑法176条前段の「わいせつな行為」に当たる。

児童ポルノ摘発 大阪府警で最多」
 アリスクラブのDVDの単純所持罪が、全国協働捜査方式で、何十件も降ってきたので、増えただけだと分析しています。

https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20190320/0013653.html?fbclid=IwAR18AyjnniMDlgzDNYWdnDaYfvXfwey-PA5blWIE3im5Zq7aRR1SGsRF5rQ
児童ポルノ摘発 大阪府警で最多
03月20日 06時35分

去年、大阪府警が摘発した児童ポルノに関する事件は160件と過去最多になりました。

去年1年間に大阪府警が摘発した児童ポルノに関する事件は160件と、おととしに比べて39件増え、統計を取り始めた平成12年以降で最も多くなりました。
被害にあった子どもの数は120人で、このうち、相手に脅されて自分の裸の画像を送ってしまう「自画撮り」の被害にあった子どもが35人に上りました。
「自画撮り」の被害にあった子どものうち中学生が21人と、6割を占めたほか、小学生も3人が被害にあいました。
被害にあった子どものほとんどは、SNSで知り合った相手に対して画像を送っていて、警察は▼教育委員会などと連携して子どもに自分の画像を送らないよう呼びかけるほか、▼保護者に対して、子どものスマートフォンの利用方法について注意するよう呼びかけています。

強制性交等、わいせつ略取、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件(名古屋地裁h30.12.17)

 判示第2わいせつ略取と判示第3製造罪との間にも牽連犯認める余地があるし、第3の製造罪は包括一罪じゃないかな。

■28270027
名古屋地方裁判所
平成30年(わ)第1136号/平成30年(わ)第1280号
平成30年12月17日
本籍 (省略)
住居 (住所略)
職業 無職
Y1
平成8年(以下略)生(以下「被告人Y1」という。)
本籍 (省略)
住居 愛知県(以下略)
職業 無職
Y2
平成8年(以下略)生(以下「被告人Y2」という。)
被告人Y1に対する強制性交等、わいせつ略取、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、被告人Y2に対する強制性交等、わいせつ略取各被告事件について、当裁判所は、検察官小林修、同後藤拓志、被告人Y1の弁護人(国選)森戸尉之、被告人Y2の弁護人(私選)松本昌悦各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
被告人Y1を懲役8年6月に処する。
被告人Y2を懲役8年に処する。
被告人両名に対し、未決勾留日数中各80日を、それぞれその刑に算入する。

理由
(罪となるべき事実)
第1 被告人両名は、共謀の上、自転車で通行中のA(別紙記載)と強制的に性交等をしようと考え、平成30年5月29日午後9時10分頃から同日午後9時50分頃までの間、愛知県(以下略)内の桃畑東側歩道上(別紙記載)において、同人(当時20歳)に対し、被告人Y1が、擦れ違いざまにAの首に腕を巻き付けて同人を自転車から引き降ろし、被告人Y2が、さらにAの足を持って、被告人両名が、Aを前記桃畑内に連れ込み、引き続き、同所において、同人に対し、被告人Y1が、仰向けにさせたAの口を手で押さえるなどし、被告人Y2が、「次うるさくしたら、いつでも殺せるから。」などと言い、Aの首に腕を巻き付けてその首を絞めるなどの暴行脅迫を加え、その反抗を抑圧した上、被告人Y1がAと口腔性交をし、被告人Y2がAと性交をし

第2 被告人両名は、共謀の上、自転車で通行中のB(別紙記載)と強制的に性交等をしようと考え、同年6月29日午後10時20分頃、同県(以下略)内の路上(別紙記載)において、自転車に乗っていた同人(当時17歳)に対し、被告人Y2が、Bの後方からその口を手で塞ぎながら同人を自転車から引き降ろした上、同人の上半身に腕を回して引っ張るなどして、同所付近に停車中の被告人Y1が運転席に乗車する自動車(登録番号(省略))の後部座席にBを押し込むなどの暴行を加え、被告人Y1が、同所から同車を発進させ、同市内の駐車場(別紙記載)まで同車を走行させてBを連れ去り、もってわいせつ目的で同人を略取し、さらに、その頃から同日午後11時30分頃までの間に、前記一連の暴行等により畏怖して反抗抑圧状態にある同人に対し、被告人Y1が、同所に駐車中の同車内において、Bと口腔性交及び性交をし、引き続き、被告人Y2が、Bを抱きかかえて同車から同所に駐車中の自動車(登録番号(省略))に乗り換えさせ、同車内において、同人と性交をし
第3 被告人Y1は、Bが18歳未満の者であることを知りながら
 1 同日午後10時32分頃から同日午後10時39分頃までの間、前記駐車場に駐車中の自動車(登録番号(省略))内において、Bに被告人Y1の陰茎を口淫させる姿態及びBに被告人Y1を相手として性交させる姿態等をとらせ、これを被告人Y1の撮影機能付き携帯電話機で動画撮影し、同月30日午前零時44分頃から同日午前1時30分頃までの間に、(住所略)C(省略)号被告人Y1方において、その動画データをアプリケーションソフト「D」を使用して、被告人Y1が所有する別の携帯電話機の内蔵記憶装置に記録させて保存し、
 2 同月29日午後10時39分頃から同日午後11時30分頃までの間に、前記駐車場に駐車中の自動車(登録番号(省略))内において、Bに被告人Y2を相手として性交させる姿態をとらせ、これを被告人Y1の撮影機能付き携帯電話機で動画撮影し、同月30日午前零時44分頃、前記被告人Y1方において、その動画データをアプリケーションソフト「E」を使用して、被告人Y1が所有する別の携帯電話機の内蔵記憶装置に記録させて保存し
 もってそれぞれ児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造し
たものである。
(証拠の標目) 括弧内の甲乙の番号は検察官請求証拠番号を示す。
(法令の適用)
○ 被告人Y1について
1 罰条
 判示第1について 刑法60条、177条前段
 判示第2のうち
  わいせつ略取の点について 刑法60条、225条
  強制性交等の点について 刑法60条、177条前段
 判示第3について 包括して児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項1号
2 科刑上一罪の処理
 判示第2について 刑法54条1項後段、10条(重い強制性交等罪の刑で処断)
3 刑種の選択
 判示第3の罪について 懲役刑を選択
4 併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(刑及び犯情の最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重)
5 未決勾留日数の算入 刑法21条
6 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
○ 被告人Y2について
1 罰条
 判示第1について 刑法60条、177条前段
 判示第2のうち
  わいせつ略取の点について 刑法60条、225条
  強制性交等の点について 刑法60条、177条前段
2 科刑上一罪の処理
 判示第2について 刑法54条1項後段、10条(重い強制性交等罪の刑で処断)
3 併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(犯情の重い判示第2の罪の刑に法定の加重)
4 未決勾留日数の算入 刑法21条
5 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 本件は、幼なじみである被告人両名が、いわゆるナンパ目的で女性に声をかけては体を触って逃げるなどの行為を繰り返すうち、女性と強制的に性交等をしようなどと考え、夜間、一人で通行中の女性を物色して判示第1の犯行に及び、その犯行が発覚しないとみるや、わずか約1か月後に別の被害者に対して判示第2の犯行に及ぶなどしたもので、強制性交等の事案の中でも特に悪質な部類に入る。
 判示第1の犯行では、自転車で走行中の被害者を引き降ろし、激しく抵抗する被害者の首を絞めるなど強度の暴行を加え、「いつでも殺せる」などと強烈な言葉で脅迫した上で、こもごも口淫、姦淫に及んだ。判示第2の犯行でも、自転車で走行中の被害者を引き降ろし、車内に押し込んで連れ去り、1時間余りにわたって順次口淫、姦淫した。いずれの犯行も、性欲の赴くまま被害者の人格を無視してその身体を弄び、口内ないし膣内に射精しており、犯行態様は卑劣で悪質極まりない。被告人両名が各犯行において果たした役割、責任の重さに軽重はない。
 さらに、被告人Y1は、判示第2の犯行の際、口止め目的で動画を撮影して判示第3の犯行に及び、犯行後は、被害者の携帯電話に性交を求めるようなメッセージを送っており、犯行後の情状も悪い。
 各被害者の身体的、精神的苦痛は甚大であり、被告人両名に対する処罰感情が厳しいのも当然である。
 以上の諸事情からすれば、被告人両名は、若年で前科前歴がなく更生の余地が大きいこと、各公訴事実を認め、被害者に対する謝罪と反省の弁を述べていること、被告人Y1の母親及び被告人Y2の父親がそれぞれ出廷して監督を誓約していること、被告人Y1が被害者の一人に対して謝罪文を送付し、被告人Y2が20万円を贖罪寄付したことなどを考慮しても、被告人両名の刑責は重く、主文の刑を科すのが相当であると判断した。
(求刑 被告人Y1に対し懲役10年、被告人Y2に対し懲役9年)
刑事第2部
 (裁判長裁判官 齋藤千恵 裁判官 近藤和久 裁判官 鈴木真理子)

h27.3.23 22:20ころの死亡交通事故について、禁錮3年、執行猶予5年(求刑・禁錮3年4月)(佐久支部H27.9.7)が確定した後、同日22:07の道交法違反(速度超過)等で起訴して、懲役3月罰金20万円が求刑され、公訴棄却となった事例(佐久支部H31.3.18)

「両親の願いは、有罪判決を受けた上で、15年の判決の執行猶予が取り消されること。」と報道されています。
 実体判決された場合、後の有罪判決(求刑懲役3月罰金20万円)については、前刑の余罪になるので、25条1項の要件で執行猶予が検討されることになります。
 参考条文と文献を挙げておきます。

模範六法
刑法第五〇条(余罪の処理)
 併合罪のうちに既に確定裁判を経た罪とまだ確定裁判を経ていない罪とがあるときは、確定裁判を経ていない罪について更に処断する。
併合罪の関係に立つ数罪が前後して起訴され、前に起訴された罪について刑の執行猶予が言い渡されていた場合に、後に起訴された余罪が同時に審判されていたならば一括して執行猶予が言い渡されたであろうときは、右の後に起訴された罪については、本条一項によってさらに執行猶予を言い渡すことができる。(最大判昭31・5・30刑集一〇━五━七六〇)
※本条一項によって刑の執行を猶予された罪の余罪について、さらに執行猶予を言い渡すためには、両罪が併合罪の関係にあれば足り、実際上、同時審判が不可能ないし著しく困難であるかどうか、または同時に審判されたならば執行猶予を言い渡しうる情状があるかどうかを問わない。(最大判昭32・2・6刑集一一━二━五〇三)

条解刑法
10)余罪と執行猶予
執行を猶予された罪の余罪の場合本条1項l号の要件を文字どおりに解釈すると,ある罪について執行猶予を言い渡す有罪判決が確定した後にその確定前に犯した罪について刑を言い渡すべき場合でも執行猶予を言い渡すことはできないように思われる。しかし判例は,もしこれらが同時に審判されていたら一括して本条I項により刑の執行を猶予することができたのであるから,それとの権衡上,本条1項l号の欠格事由がないものとして更にその刑の執行を猶予することができるとする(最大判昭28・6・10集76~1404)。判例はこの考え方を更に進め,同時審判を受ける可能性がなかった余罪,すなわち,前の裁判の言渡し後確定前に犯した罪も同様に解している(最大判昭32・2・6集112 503)。したがって,ここでいう余罪とは,前の裁判確定時を基準としてそれ以前に犯した罪をいい,こ
の場合の執行猶予は本条2項ではなく1項によって言い渡すべきことになる(最大判昭31・5・30集105 760)。この場合に前の刑と余罪の刑とが合算して3年以下であることを要するかという問題があるが,消極に解すべきであろう(大阪高判昭42・10・6高集20-56230 なお,本条注15参照)。

判例秘書
判例番号】 L02220501
       賍物故買被告事件
【事件番号】 大阪高等裁判所判決/昭和41年(う)第984号
【判決日付】 昭和42年10月6日
【判示事項】 数個の罪の中間に確定裁判があるため同時に2個以上の刑に処する場合に、全部の刑について初度の執行猶予を言い渡すための宣告刑の刑期
【判決要旨】 数個の中間に確定裁判が介在するため、2個以上の懲役若しくは禁錮に処すべき場合、刑法25条1項の規定により右各刑につき刑の執行猶予の言渡をするには、それぞれの刑期が3年以下であれば足り、その各刑期を合算したものが3年以下であることを要しない。
【参照条文】 刑法25-1
【掲載誌】  高等裁判所刑事判例集20巻5号623頁
       判例タイムズ213号249頁
       判例時報510号76頁
【評釈論文】 研修236号31頁
       判例評論116号41頁

https://digital.asahi.com/articles/ASM3J6HXLM3JUOOB00P.html?iref=pc_extlink
 一度判決が確定した交通事故を巡り、その後判明した速度違反を改めて罪に問えるのか。こうした点が争点となった裁判で、長野地裁佐久支部は18日、長野県御代田町の会社員男性(46)に公訴棄却(求刑懲役3カ月)の判決を言い渡した。事故で中学3年の息子を失った両親が、男性を執行猶予とした1度目の判決に不満を抱き、独自の調査で大幅な速度超過の疑いを訴え実現した2度目の裁判だったが、思いは届かなかった。

 被告側は今回の裁判で、一つの事件について再び罪に問えない「一事不再理」の原則を訴えて免訴を求めた。この点、勝又来未子裁判官は「(両事件は)社会的見解上、別個のものと評価できる。一事不再理には当たらない」と判断。そのうえで、法定速度を36キロ上回る時速96キロだったとする検察側の主張については「合理的な疑いが残る」とし、時速76キロだったと認定。道路交通法上の反則行為に当たると判断したが、裁判を起こすには本人に通知したうえ、未納のまま納付期間を経過する必要があるが、それを踏んでいない形式上の不備があるとして公訴を棄却した。

https://digital.asahi.com/articles/ASM3J4VTCM3JUOOB00B.html
地検、告発受け起訴
 「謝罪はいらないから、本当のことを話してほしい」。事故の1年後、男性から届いた2回目の手紙にこう返事を書いたが、反応はなかった。「真相を知りたい」という思いは、怒りに変わっていた。17年5月、地検に告発状を提出した。
 地検は告発を受けて捜査を始めた。事故があった午後10時7分ごろの時速は96キロだったとして、18年2月、男性を道交法違反(速度超過)の罪で起訴。事故後の車の改造についても問い、道路運送車両法違反(不正改造)の罪も加わって、再び裁判が始まった。
 そして18日、判決の日を迎える。検察側は速度超過について懲役3カ月を、不正改造について罰金20万円を求刑。両親の願いは、有罪判決を受けた上で、15年の判決の執行猶予が取り消されること。刑務所に、ただ入ってほしいわけではない。「反省の機会にしてほしいんです」と善光さん。1人の命を奪ったという事実と、向き合ってほしいだけだ、という。
     ◇
 男性側は速度超過の罪について、判決で確定済みの事件については再度、罪には問われない刑事訴訟法上の原則「一事不再理」にあたると主張。有罪か無罪かを判断せず、裁判を打ち切る免訴などを求めている。不正改造の罪についても違法とまでは言えないとし、無罪を主張している。
 長野地検の干川亜紀次席検事は、15年の時点で道交法違反を適用しなかった理由について、「お答えできません」とした。当時は時速70~80キロとしており、捜査不足ではなかったのかとの指摘にも、コメントはしなかった。

「CD-Rを顧客に販売するに当たり,警察の摘発に備えて,顧客から注文を受ける前にはCD-Rに同データファイルをコピーしないようにしていた行為について、わいせつ電磁的記録記録媒体有償頒布目的所持罪のみならず,わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪の成立も考えられる」司法研修所検察教官 古賀由紀子「わいせつ物頒布等」捜査研究820号

 検察教官は「保管罪」も成立するといいますが、
 名古屋高裁H31.3.4によれば、わいせつ電磁的記録媒体の有償頒布所持罪であって、保管罪は成立しないことになります。

名古屋高裁H31.3.4
 2 判示第2
 (1) 同事実(被告人弁護人も争わない)は児童ポルノ禁止法7条7項,刑法175条2項の「所持」罪該当(検察官はこれらの「保管」罪該当をいうけれども,被告人は電磁的記録に係る記録媒体を所持したから「所持」該当。「保管」不該当。訴因変更不要)

設問
例3 日本在住の丙は, 男女の性交場面を露骨に撮影した動画のデータファイルを自己のパソコンのハードディスクに記録・保存し,ハードディスクから同データファイルをCD-Rにコピーして, CD-Rを顧客に販売するに当たり,警察の摘発に備えて,顧客から注文を受ける前にはCD-Rに同データファイルをコピーしないようにしていた。丙は, 同データファイルを記録・保存したハードディスク自体については販売するつもりはなかった。
設問のポイント
事例3では,丙は, わいせつなデータを記録.保存したハードディスク自体については有償で頒布する目的がないことから,刑法175条2項のわいせつ電磁的記録記録媒体有償頒布目的所持罪が成立するのかが問題となる。
解答
わいせつ電磁的記録記録媒体有償頒布目的所持罪とわいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪一有償頒布目的の意義
「有償で頒布する目的」とは,有償でわいせつな電磁的記録媒体等を頒布する目的をいい,平成23年の改正前の刑法に規定されていた「販売の目的」を含む。
また,日本国内において有償で頒布する目的をいい,外国において有償で頒布する目的は含まれない(最判昭52.12.22刑集31-7-1176)。
わいせつ電磁的記録媒体という有体物については「所持」,わいせつ電磁的記録という無体物には「保管」の概念が当てられている。
刑法175条2項は,「有償で頒布する目的」で,わいせつな電磁的記録媒体等を所持し,又はわいせつな電磁的記録その他の記録を保管した者と規定しているのみで,所持の対象物と頒布する対象物との一致や,保管の対象となる記録と頒布する記録との一致が条文上要求されているわけではないことから,わいせつな電磁的記録を保存した元の記録媒体から,その電磁的記録を別の媒体にコピーして販売する目的であったとしても,コピー元の電磁的記録記録媒体自体について,「有償で頒布する目的」で所持したものと認められる(最決平18.5.16刑集60-5-413参照)。
なお,インターネット上のレンタルサーバーコンピュータに,有償で頒布する目的でわいせつな電磁的記録を記憶・蔵置させた場合,前記3-1(1)に記載のとおり、わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪が成立する。
事例3においては,わいせつ電磁的記録記録媒体有償頒布目的所持罪のみならず,わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪の成立も考えられるが,有体物であるわいせつ電磁的記録記録媒体有償頒布目的所持罪が成立する場合には,同罪で処罰すれば足りるであろう。

「わいせつ=主観にかかわらず、社会通念上、性的な意味合いが強い行為」と判示したような事例(福岡高裁H31.3.15)

 最高裁レベルでわいせつの定義がなく、高裁レベルでは

 いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう(金沢支部
 性的自由を侵害する行為(大阪高裁 大法廷h29.11.29の控訴審
 「一般人の性欲を興奮,刺激させるもの,言い換えれば,一般人が性的な意味のある行為であると評価するものと解されるから,強制わいせつ行為に該当する。」東京高裁H30.1.30(奥村事件 上告棄却)
 「被告人が13歳未満の男児に対し,~~などしたもので,わいせつな行為の一般的な定義を示した上で該当性を論ずるまでもない事案であって,その性質上,当然に性的な意味があり,直ちにわいせつな行為と評価できることは自明である。」(広島高裁H30.10.23 奥村事件 上告中)

と割れていますので、判例状況を当職らに問い合わせた上で上告してください。

元警部補の2人 2審も有罪判決 女性部下にわいせつ
2019.03.16 
 部下の女性警察官への強制わいせつ罪に問われた福岡県警の元警部補2人の控訴審で、福岡高裁(鬼沢友直裁判長)は15日、A被告を懲役1年4月、執行猶予3年、B被告を懲役1年6月、執行猶予3年(ともに求刑・懲役1年6月)とした1審・福岡地裁判決を支持、両被告の控訴を棄却する判決を言い渡した。
 高裁判決によると、両被告は共謀し、2015年9月18日夜、福岡市内の飲食店で開かれた職場の飲み会で、A被告が女性を羽交い締めにしてB被告が女性の両足を広げ、股間を複数回接触させるなどした。
 弁護側は「悪ふざけで性的な意図はなかった」などと主張したが、高裁判決は、同罪の成立に「犯人の性的意図は不要」とした17年の最高裁判決を引用し、「女性の羞恥心を著しく害する行為」と認定。「職場の力関係に乗じた卑劣な犯行」と断じた。
読売新聞社

福岡・元警部補部下わいせつ:元警部補2人の控訴棄却 高裁
2019.03.16 西部朝刊 28頁 社会面 (全447字) 
 職場の飲み会で部下の女性警察官にわいせつ行為をしたとして、強制わいせつ罪に問われた、ともに福岡県警元警部補のA被告とBの控訴審判決が15日、福岡高裁であった。鬼沢友直裁判長は、A被告を懲役1年4月、執行猶予3年、B被告を懲役1年6月、執行猶予3年とした1審・福岡地裁判決を支持し、両被告の控訴を棄却した。
 控訴審でA被告側は「関わっていない」、B被告側は「被害者を性的対象と考えていなかった」と無罪を主張したが、鬼沢裁判長は性的意図がなくても罪が成立するとした2017年の最高裁判決を踏まえ「被告らの主観にかかわらず、社会通念上、性的な意味合いが強い行為だ」と指摘。「職場の力関係に乗じ、体力に劣る女性を2人で襲う卑劣な犯行だ」と批判した。
 控訴審判決によると、2人は15年9月18日、福岡市内の飲食店であった懇親会に参加。A被告が女性警察官を背後から両脇をつかんで押さえつけ、B被告が女性を無理やり開脚させ、腰を振るなどした。
毎日新聞社

神元隆賢〈刑事判例研究〉16歳の被害者に対し、事実上の養父が自己の立場を利用して性交した事案につ監護者性交等罪に児童福祉法違反が吸収され法条競合となるとした事例札幌地裁小樽支部平成29年12月13日判決(事件番号不明・監護者性交等、児童福祉法違反被告事件) (判例集未登載)+堀田さつき検事「監護者性交等罪と,児童福祉法における自己を相手方として淫行をさせる行為とが,法条競合の関係にあり,監護者性交等罪のみが成立するとされた事案(平成29年12月13日札幌地裁小樽支部判決(確定))」研修843号

神元隆賢〈刑事判例研究〉16歳の被害者に対し、事実上の養父が自己の立場を利用して性交した事案につ監護者性交等罪に児童福祉法違反が吸収され法条競合となるとした事例札幌地裁小樽支部平成29年12月13日判決(事件番号不明・監護者性交等、児童福祉法違反被告事件) (判例集未登載)

堀田さつき検事「監護者性交等罪と,児童福祉法における自己を相手方として淫行をさせる行為とが,法条競合の関係にあり,監護者性交等罪のみが成立するとされた事案(平成29年12月13日札幌地裁小樽支部判決(確定))」研修843号

 両方併せると判決が再現できます。

 検察官は、監護者性交罪と児童淫行罪の観念的競合として、控訴事実第1と第2を起訴して、児童淫行罪は包括一罪になるけど、監護者性交が伴う場合には、かすがい現象は生じず、併合罪になると主張しています。ややこしいこと言わずに、児童淫行罪起訴しなきゃいいじゃん。
 法条競合もおかしいなあ。児童淫行罪の保護法益と監護者性交罪の保護法益は違うから、重い監護者性交罪で評価され尽くしてない。全く同じ罪であれば、監護者性交罪の立法事実はなかったことになる。児童淫行罪の法定刑を引き上げれば済んだ。


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【事実の概要】
被告人は、平成21年頃から、内縁の妻(以下「被害者の母親」)及びその娘(当時小学二年生、以下「被害者」)らの居宅に同居し、被害者らの生活費を相当程度負担し、被害者の身の回りの世話をし、被害者の母親に代わって被害者の話を聞くなどして被害者を精神的に支え、時には被害者に対して生活上の指導をするなどして、事実上の養父として被害者を現に監護していたところ、平成26年頃から被害者に対し性的虐待を繰り返した末、平成29年7月17日午後九時頃、上記居宅において、被害者(当時一六歳)を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて被害者と性交等をし(以下「第一行為」)、
同月20日午前五時頃にも同様に性交等をした(以下「第二行為」)
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2 罪数について
(1)検察官の主張
ア 監護者性交罪と児童福祉法違反(淫行させる行為・児童淫行罪)の構成要件及び保護法益は異なるから ある行為が監護者性交罪と児童淫行罪のそれぞれの構成要件を充足する場合には両罪が成立し観念的競合となる
 本件では第1行為及び第2行為のいずれについてもそれぞれ監護者性交と児童淫行罪が成立して両者は観念的競合となる
イ 第1項の監護者性交と第2行為の監護者性交との罪数を検討すると、監護者性交の保護法益である個別の性交等についての性的自由ないし性的自己決定権は、性交等の都度侵害される性質者であること、本件では両行為の間に2日間もの間隔があり、その間被告人及びひがいしゃは勤務先や学校に出かけるなどしていたことなどに照らせば、第2行為の監護者性交罪は、第1行為の監護者性交罪とは別個の犯意に基づく別個の法益侵害であるから、両者は二個の行為であり両者は併合罪となる
ウ 第1行為にかかる児童淫行罪と第2行為に掛かる児童淫行罪は、同一の児童に対し, 同一の支配関係を利用して, 同一の意思の下に行ったものであるから,包括一罪となる
ところで、監護者性交等罪及び児童福祉法違反は観念的競合の関係なるが(上記ア)、次の通り、児童福祉法違反を「かすがい」として第1,第2行為全体が科刑上一罪となることはない。
すなわち、
そもそも「かすがい理論」には,新たな犯罪が加わるのに処断刑が下がるという逆転現象が生じ,一事不再理効の範囲が不当に拡張されるという不合理があり、この不合理は,格段に重い罪数罪(監護者性交等罪)が比較的軽い罪(児童福祉法違反)をかすがいとして科刑上一罪とされることにより,その不合理が極めて顕著なものとなるところ、本来併合罪である二件の監護者性交を法定刑の格段に低い児童福祉法違反をかすがいとして科刑上一罪とすればまさに上記不合理をもたらすことになる。よって本件では第1行為全体と第2行為全体はかすがい理論により科刑上一罪となることはなく併合罪になるというべきである