児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

スパッツの股間部分にペットボトルなどを入れた状態で、近くにいた女子中学生2人に下半身を見せつけた行為を「卑わい行為」として逮捕した事例

 強制わいせつ罪のわいせつの定義によっては、こういう行為も強制わいせつ罪になるかもしれません。

https://www.nishinippon.co.jp/flash/f_kyushu/article/349446/
福岡県迷惑行為防止条例違反(卑わいな言動)容疑で書類送検した。
 容疑は、5月8日、福岡県久留米市の公園で、スパッツの股間部分にペットボトルなどを入れた状態で、近くにいた女子中学生2人に下半身を見せつけ、著しく羞恥させるなどして、卑わいな言動をした疑い。

 判例上、「卑わいな言動」とは,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいうとされていますので「スパッツの股間部分にペットボトルなどを入れた状態で、近くにいた女子中学生2人に下半身を見せつけ」というのは卑わい行為に該当すると思います。

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反被告事件
最高裁判所第3小法廷決定平成20年11月10日
【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集62巻10号2853頁
       裁判所時報1471号372頁
       判例タイムズ1302号110頁
       判例時報2050号158頁
       LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 ジュリスト1433号114頁
       法曹時報63巻10号2545頁
弁護人古田渉の上告趣意のうち,憲法31条,39条違反をいう点については,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和40年北海道条例第34号)2条の2第1項4号の「卑わいな言動」とは,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいうと解され,同条1項柱書きの「公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し,正当な理由がないのに,著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせるような」と相まって,日常用語としてこれを合理的に解釈することが可能であり,所論のように不明確であるということはできないから,前提を欠き,その余は,単なる法令違反,事実誤認の主張であり,被告人本人の上告趣意は,単なる法令違反,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 所論にかんがみ,職権で検討するに,原判決の認定及び記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。
 すなわち,被告人は,正当な理由がないのに,平成18年7月21日午後7時ころ,旭川市内のショッピングセンター1階の出入口付近から女性靴売場にかけて,女性客(当時27歳)に対し,その後を少なくとも約5分間,40m余りにわたって付けねらい,背後の約1ないし3mの距離から,右手に所持したデジタルカメラ機能付きの携帯電話を自己の腰部付近まで下げて,細身のズボンを着用した同女の臀部を同カメラでねらい,約11回これを撮影した。
 以上のような事実関係によれば,被告人の本件撮影行為は,被害者がこれに気付いておらず,また,被害者の着用したズボンの上からされたものであったとしても,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな動作であることは明らかであり,これを知ったときに被害者を著しくしゅう恥させ,被害者に不安を覚えさせるものといえるから,上記条例10条1項,2条の2第1項4号に当たるというべきである。これと同旨の原判断は相当である。

北海道警察本部「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」逐条解説(平成16年1月1日施行改正版)
(4) 「卑わいな言動」とは、いやらしく、みだらな言語、動作で、通常人の性的しゅう恥心を害し、嫌悪感を催させ、又は不安を覚えさせるに足りる言語、動作をいう。
本条第1項第1号、第2号及び第3号i立、その具体的行為の例示であるが、第4号は、これらに該当しない「卑わいな言語、動作」であり、例えば、「スカートをまくり上げる行為」「女性につきまといながら、性交や性器を意味する言葉をかけ続ける行為」等、様々な卑わいな行為の形態があるが、これらの卑わいな言動は、人に対するものであれば足り、直接であると間接であるとを関わない。

大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
(卑わいな行為の禁止)
第六条 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
四 前三号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をすること。
・・・
大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例の解釈及び運用についての全部改正について
第6 卑わいな行為の禁止(第6条関係)
1 この条は、痴漢行為、のぞき見行為、隠し撮り等卑わいな行為を規制することにより、人にしゅう恥心又は不安感を抱かせる行為を防止し、個人の意思及び行動の自由を保護しようとするものである。
2 第1号関係
(1) 「人」とは、自然人をいい、性別、年齢又は国籍を問わない。
(2) 「著しく」 の程度は、具体的にどの程度と明示することは非常に困難であるが、社会通念上、容認し難い程度のものであれば足りる。
(3) 「人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような」とは、社会通念上人に著しく性的恥じらいを感知させ、又は不安を覚えさせるであろう程度のことをいい、被行為者が行われた言動を認識する必要はあるが、当該言動によって実際に性的恥じらいを感知し、又は不安を覚えたか否かは問わない。この場合において、被行為者とは、言動の直接的な対象となった人はもとより、言動の直接的な対象となった人が当該言動の内容を理解できない場合において、それを理解し得る能力があり、かつ、当該言動を認識し得る状態にある間接的な対象となった他の人も含まれる。
6 第5号関係
(1) この号は、第1号から第4号までに具体的に掲げられた行為のほか、「人を著しくしゅう恥させ又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」を規制するものである。
(2) 「卑わいな」とは、いやらしくみだらで、社会通念上、人に性的しゅう恥心を抱かせ、嫌悪感を催させ、又は不安を覚えさせるに足りることをいい、刑法上の「わいせつ」よりも広い概念である(第8条及び第9条において同じ。)。

14歳との(淫行+製造)×10回くらい・訴額400万円→80万円で訴訟上の和解

 刑事事件は執行猶予付きの懲役刑。慰謝の措置なし。
 事実関係は刑事事件で確定しているので、被告の主張立証は、金銭評価についての裁判例のみ。

 捜査・公判段階では150万円での示談を提案しましたが、弁護士に相談の上で拒絶とのこと。
 漏れ伝わるところでは、民事訴訟の原告代理人(性犯罪の被害者対応に精通しているらしい)の着手金は40万円・報酬金は10万円だったそうです。80-(40+10)=30
 「被害者側の弁護士」に福祉犯の弁償についての相場観がないので、こんなことの繰り返しです。特に訴訟になると訴額はなぜか300~400万円に揃ってきますが、淫行1回10万円程度という裁判例の影響を受けますのでよく考えてもらいたいと思います。

建造物侵入して女児の裸を撮影・盗撮する行為を、建造物侵入罪とひそかに製造罪の牽連犯とする事例(名古屋地裁h28.10.4、大分地裁H27.6.18、名古屋地裁半田H28.2.15、釧路地裁H27.10.8等)


 強制わいせつ罪(176条後段)と製造罪を併合罪だといっても、かすがいになる侵入罪とかわいせつ目的誘拐罪を起訴すると、全体が科刑上一罪になることがあります。

例1
女児にわいせつ行為しようと企て 平成29年8月5日 午後4時37分ころ、大阪市 A宅に警察官を詐称して侵入して
1 同日時 A9 13歳未満の者と知りながら 衣服脱がせて座らせ 陰部弄ぶ。強制わいせつ罪(176条後段)
2 同日時 児童であることを知りながら 露出した同児童の性器を手指で押し広げて撫で回す姿態 舌で舐める姿態 陰茎押し当てる姿態とらせて デジタルビデオカメラで撮影して動画をsdに記録して 1号 2号 3号 姿態をとらせて製造罪
法令適用
刑法54条1項後段 10条(侵入と強制わいせつ、侵入と製造罪との間には それぞれ手段結果の関係があるので、結局以上を一罪として重い強制わいせつ罪の刑で処断)
・・・
例2
着替え中の児童を盗撮する目的で 平成29年8月5日午後4時40分ころ校長が看守する 同校体育会地下倉庫内に無施錠の出入り口から侵入した上
そのころから16:50まで地下倉庫において着替え中の9Aが児童であることを知りながらひそかに児童の上半身裸の姿態を地下倉庫に設置したビデオカメラで撮影して その動画データを内蔵メモリに記録させ
もって 3号 密かに製造罪
法令適用
刑法130条前段 児童ポルノ・児童買春7条5項 2項前段 2条3項3号
54条1項後段 10条
25条1項

名古屋地裁平成28年10月 4日
事件名 建造物侵入,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
 上記の者に対する建造物侵入,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について,当裁判所は,検察官木村友香,弁護人太田重俊(私選)各出席の上審理し,次のとおり判決する。
 (罪となるべき事実)
 被告人は
 第1 女児の裸体を盗撮するためのデジタルビデオカメラを設置する目的で,平成28年6月16日午後7時頃,名古屋市〈以下省略〉名古屋市立a小学校校長Aが看守する同小学校4階児童会室内に,その出入口ドアから鍵を使用して侵入し,同月17日午後1時25分頃から同日午後3時20分頃までの間,前記児童会室内において,水泳の授業のため着替え中の同小学校の女子児童である複数名の女児がいずれも18歳に満たない児童であることを知りながら,ひそかに,各女児の乳首又は胸部等の姿態を動画撮影機能を作動させたデジタルビデオカメラで撮影し,同月18日,愛知県清須市〈以下省略〉被告人方において,その電磁的記録である動画データ3点を,同ビデオカメラに装着されたマイクロSDカードを経由して,パーソナルコンピュータのハードディスクに記録して保存し,もってひそかに衣服の一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより,児童ポルノを製造した。
 第2 女児の裸体を盗撮するためのデジタルビデオカメラを設置する目的で,同月23日午後7時55分頃,前記Aが看守する前記児童会室内に,その出入口ドアから鍵を使用して侵入し,同月24日午前10時50分頃から同日午後零時30分頃までの間,前記児童会室内において,水泳の授業のため着替え中の同小学校の女子児童である複数名の女児がいずれも18歳に満たない児童であることを知りながら,ひそかに,各女児の乳首又は胸部等の姿態を動画撮影機能を作動させたデジタルビデオカメラで撮影し,その電磁的記録である動画データ5点を同ビデオカメラに装着されたマイクロSDカードに記録させ,もってひそかに衣服の一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより,児童ポルノを製造した。
 (証拠の標目)
 (法令の適用)
 被告人の判示第1及び第2の各所為のうち,各建造物侵入の点はいずれも刑法130条前段に,各児童ポルノ製造の点はいずれも児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項,2項,2条3項3号にそれぞれ該当するところ,判示第1及び第2のそれぞれの建造物侵入と児童ポルノ製造との間にはいずれも手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条により1罪としてそれぞれ犯情の重い児童ポルノ製造の罪の刑で処断することとし,各所定刑中判示第1及び第2の各罪についてそれぞれ懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の重い判示第1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役2年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予することとする。
 (量刑の理由)
 (求刑―懲役2年)
 (裁判官 小川貴紀)

川端説では、強制わいせつ罪の保護法益は性的羞恥心だったり、性的羞恥心+性的意思決定の自由だったり

 わいせつの定義はどうなるんでしょう?


発表年 著者 書名 保護法益 わいせつ定義 傾向犯・性的意図に関する記載 性的意図要否
1996 川端博編 刑法総論現代法学双書12 p74(担当:小野寺一浩)②傾向犯における傾向傾向犯とは、行為者の心情または内心の傾向を主観的構成要件要素とする犯罪である。たとえば、強制猥褻罪は、猥褻の傾向を主観的構成要件要素とする傾向犯である。この「傾向」を欠く場合には、犯罪は成立しない。たとえば、報復目的で女性を裸にして写真をとったとしても、強制猥褻罪は成立しない。自己の性欲を刺激、興奮させ、または満足させるという性的傾向の下にそのような行為を行なった時にはじめて、強制猥褻罪が成立する(最判昭四五・一・二九刑集二四・一・一)。 必要説
1987 川端博 事例式演習刑法1987主観的違法要素 P40 羞恥心 強制猥褻罪は傾向犯ではないと解すべきであろう。というのは、本罪における保護法益は「被害者の差恥心」とみるのが妥当だからである(平野一二八頁)。すなわち、客観的に見て被害者の性的自由が害されていれば足り、行為者の動機・目的を問題にする必要はないことになる。・・客観的にみてBは被害者の性的蓋恥心を害している以上、強制わいせつ罪が成立すると解すべきである(平野・一二八頁。なお、曽根・現代刑法論争Ⅱ七五頁以下も同旨と見てよいであろう)。 不要説
2009 川端博 事例式演習刑法第2版 「性的差恥心」・性的意思決定の自由 p42しかし、強制わいせつ罪は傾向犯ではないと解すべきである。なぜならば、本罪における保護法益は被害者の「性的差恥心」・性的意思決定の自由と解するのが妥当だからである。したがって、客観的に見て被害者の性的意思決定の自由が害されていれば足り、行為者の動機・目的を問題にする必要はない」とになる。 不要説
2016 川端博 レクチャー刑法各論第4版 p50しかし,その本質は,個人の人格的自由の一種としての性的自由を侵害する点にあり,本罪は,個人的法益に対する罪として捉えるべきです。 わいせつとは、いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反することをいいます(金沢支判S36.5.2)~ 本罪のわいせつ行為は被害者の性的自由の侵害の観点から把握されるべきですから、性的風俗の保護を主たる目的とする公然わいせつ罪におけるわいせつ行為ちがその内容を異にします。 傾向犯説ではないとする立場 不要説
2013 川端博 レクチャー刑法各論3版 p54しかし,その本質は,個人の人格的自由の一種としての性的自由を侵害する点にあり,本罪は,個人的法益に対する罪として捉えるべきです。 徒に性欲を興奮または刺激せしめ,且つ普通人の正常な性的蒸恥心を害し,善良な性的道徳観念に反すること」をいいます(名古屋高裁金沢支判昭36. 5 . 2下刑集3巻5=6号399頁)。これは,通常は,性欲を興奮または刺激させようとする意図のもとになされますが,客観的には,一般人の正常な性的蓋恥心を害し善良な性的道徳観念に反する行為がなされることを要する趣旨であると解されます。 判例・通説によりますと,本罪は傾向犯であると解されますから,本罪の行為は行為者の性欲を刺激興奮させ, または満足させるという性的意図のもとになされる必要があります。したがって, もっぱら報復または侮辱・虐待の目的で女性を強制して全裸にさせその姿態を撮影する行為は,本罪を構成せず強要罪を構成するにすぎないとされることになります(最判昭45・l 。29刑集24巻1号1頁)。しかし,本罪は傾向犯ではないと解する説によりますと,上記の行為は本罪を構成することになります。わたくしは, この立場に立っています 不要説

教員の淫らな書き込みがサイバーパトロールに見つかって、児童淫行罪が発覚したという報道

 児童淫行罪は実刑率が高いので、認否は慎重に。
 同一児童への数回の児童淫行罪は包括一罪

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170731-00000550-san-soci
女子生徒と淫行容疑、中学校講師を逮捕 書き込みで発覚 大阪府警
7/31(月) 18:21配信
 逮捕容疑は、6月上旬と中旬の2回、女子中学生が18歳未満と知りながら自宅などに呼び出し、淫らな行為をしたとしている。
 同署によると、容疑者がインターネット上の掲示板に淫らな内容の書き込みをしているのをサイバーパトロールで発見。任意で事情を聴いた容疑者の携帯電話を調べたところ、生徒との不適切なやり取りが見つかり、事件が発覚したという。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170731-00000066-mbsnewsv-l27
容疑者がインターネット上の掲示板に18歳未満の少女に対するわいせつな書き込みをしているのを捜査員が発見。スマートフォンを調べたところ、女子中学生とやり取りをしたLINEが残されていたということです。
 関係者によりますと容疑者は勤務先の社会科の講師で1年生の担任も務めていたということで、取り調べに対し「間違いありません」と容疑を認めているということです。
毎日放送

京都府内における同一青少年に対する5回の淫行又はわいせつ行為の処断刑

 併合罪説だと、2回以上やると、「懲役刑選択で懲役1年6月まで、罰金刑は250万円まで」ということになります。
 判例では包括一罪なので、何回淫行・わいせつ行為しても「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」ということになります。

http://www.pref.kyoto.jp/reiki/reiki_honbun/aa30003411.html
青少年の健全な育成に関する条例
(淫いん行及びわいせつ行為の禁止)
第21条 
1何人も、青少年に対し、金品その他財産上の利益若しくは職務を供与し、若しくはそれらの供与を約束することにより、又は精神的、知的未熟若しくは情緒的不安定に乗じて、淫行又はわいせつ行為をしてはならない。
2 何人も、青少年に対し、淫いん行又はわいせつ行為を教え、又は見せてはならない。
(罰則)
第31条 
1第21条の規定に違反した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
。。。
【解説
1 本条は、青少年に対し、淫行又はわいせつ行為をすること及び当該行為を教え、又は見せることを禁止し、刑法その他関係法令では規制し得ない反社会的行為から青少年を保護しようとするものである。
なお、淫行罪及びわいせつ行為罪は、祁手方たる青少年の( 形式的な意味での) 同意又は承諾がある場合にも成立する。この点で刑法第177条の強姦罪及び第176条の強制わいせつ罪が、13歳以上の者については暴行又は脅迫による等自由な意思決定ができない状態の下での行為だけを規制対象にしているのとは異なる。
2「淫行」 とは、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲裂を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいう。
3 「わいせつ行為」とは、いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識ある一般社会人に対し、性的に蓬恥嫌悪の情をおこさせる行為をいう。

横浜地裁横須賀 H18.10.24
福岡簡裁h25.10.1

名古屋高裁金沢支部H19.3.22
 原判決は、第1~第3の青少年条例違反の罪を併合罪としているが、青少年条例違反は、青少年の健全な育成を保護法益としているのであるから、同一犯意の下に同一の青少年に対して継続的に反復してみだらな性行為をした場合には、これを包括的に観察して一罪とすべきである。
福岡高裁h26.2.26
 論旨は量刑不当の主張である。
 被告人は,当時歳の女子中学生の心身の未成熟に乗じ,単に自己の性的欲望を満足させるため,前後4回,うち3回は性交をもともなった行為を行ったものであって,包括評価されるとはいえ被害者の心身の健やかな成長を阻害する身勝手な行為を繰返したもので,犯情は悪質で,被告人の刑責を軽くみることはできない。

http://www.sankei.com/west/news/170731/wst1707310015-n1.html
逮捕容疑は6月28~30日、自宅アパートで広島県の中3女子にわいせつな行為を5回したとしている。

 同署によると、2人は動画配信サイト「ツイキャス」で今年1月ごろに知り合い、無料通信アプリ「LINE(ライン)」などでやりとりをしていた。女子生徒は6月26日に母親とけんかをして家出。翌日から男の家に身を寄せていたという。

 女子生徒が友人に「金閣寺の周辺にいる」と連絡したことなどから居場所が判明。北署員が6月30日、女子生徒を保護した。

自撮り製造は犯罪にならないかのような報道

f:id:okumuraosaka:20170731105947j:plain

この記事だと、女児児童が②裸画像を撮影送信した行為が犯罪にならないようにみえますが、
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170730-00000051-asahi-soci.view-000
 法文上は児童も製造・提供の主体になりますし、そういう解説や判例も存在します。
 それなのに、警察が運用で法を曲げて、児童を検挙しないというチグハグなことをするので、児童に「汝の裸を撮る勿れ」という規範が届かないし、取締が行き届かないのだと思います。

森山野田「よくわかる改正児童買春ポルノ法」p190
Q42
18歳未満の児童が、交際相手に対し、自分の裸体の写真や、その交際相手との性交等の写真を渡した場合にも第7条第1の罪は成立するのですか。
A 他人に児童ポルノを提供する行為については、第7 条第1 項の罪が成立し、これは児童による場合であっても、自己を描写したものであっても、また交際相手に対するものであっても、変わるところがありません
もっとも、第7条第1項の罪が保護しようとする対象は、主として描写される児童の尊厳にあると考えられますから、当該児童ポルノにおいて描写される児童がその交際相手に対して提供したり、交際相手が当該被描写児童に対して提供する場合のように、提供者、被提供者と描写される児童との関係や被描写児童の承諾の経緯、理由等を考察し、当該提供行為について真撃に承諾し、かっその承諾が社会的に見て相当と認められる場合には、違法性が認められない場合もありうると考えられます。

園田寿「いわゆるセクスティングと児童ポルノ単純製造罪一東京高裁平成22年8月2日判決(公刊物未登載)」甲南法務研究No.7
さらに、本判決も認めるように、本罪は、児童に対して「強制的に姿態をとらせる」ことを要件としておらず、被害児童が被写体となることに同意していても本罪が成立するのである。すると、セクステイングの場合は、被害児童が自らの自発的判断に基づいて(すなわち、自己答責的に)、3項製造罪における実行行為の一部である「描写」行為を行ったと解さざるをえないことになる。
では、本件の場合はどうか。確かに、本件では、被告人が、グラビアのモデルの仕事であるなどとA子を欺いて錯誤に陥らせてはいるが、そこに強制的契機はなく、しかもA子は13歳という、刑法で性的同意が有効とされる年齢であり、自分が何を行っているのかは十分に理解できていたと考えることができる。つまり、「グラピアのモデルの仕事」と欺かれたA子が、たとえ「児童ポルノ」の定義を知らなかったとしても、被告人が指示する言葉を理解し、その通りの行動を自らとっているのであって、「児童ポルノ」を製造しているという被告人の認識と、その指示に従っているA子の認識内容は一致しているのである。したがって、本件は、被害児童が被告人の指示に従っているものの、A子自身はなお自由意思を失った状態ではなく、自己の自発的な意思で「姿態」をとり、また「描写」行為を行っていると解されるのである。
ただ、A子は自らの姿態を「描写」しているが、この点はどう考えるべきか。本法は、児童の性的搾取ないしは性的虐待からの保護を目的とするものであるが、およそ児童が児童買春罪や児童ポルノ製造罪の主体となることを否定するものではない。18歳未満の者が18歳未満の者に対して買春行為を行ったり、18歳未満の者を被写体として児童ポルノを製造することはありうることである。自分自身を被写体とした児童ポルノの製造に関しては、「(児童に対して)姿態をとらせ(る)」ことを要件としている3項製造罪は考えられないが、それを要件としていない提供目的製造罪の成立は可能である。実際、18歳未満の者が、自らの裸体などをあらかじめ写真などに写して「ストック」し、他人からの求めに応じて、有償でメールの添付ファイルとして送信しているようなケースもある(この場合、それを取得した者は不可罰である)。
ところで、本件のように、被告人の指示に従って児童がシャッターを押し、メールに画像を添付して被告人指定のアドレスに送信した場合、「描写」行為はいつ完了するのか。これについて、「メールに添付した画像が送信された後、被告人が使用するプロパイダー会社のサーバーに受信されて記憶・蔵置された時点で完成すると解する見解があるが、被告人が同じ行為をした場合には、シャッターを押す行為で「描写」行為は完了するのであり、本件のように被告人の指示に従って児童自らがシャッターを押した場合であっても、これは同じことである。
また、児童ポルノがサーバーに記憶・蔵置されれば、昨今、悪意のコンピュータ・ウイルスによって、管理者の気づかないうちにインターネット上に流出する危険性が高まることから、より早い段階で、児童ポルノが電磁的な記録媒体に書き込まれた時点で既遂と解することには合理的な理由が認められるであろう。さらに、このように解さないと、かりに撮影はされたが、送信はきれなかったというケースでは、児童ポルノじたいが法の規制を受けずに社会に存在し続けることにもなるのである

神戸地裁h24
罪となるべき事実
被告人はa17が児童であることを知りながら、同女と共謀の上 平成25年12月8日午後11時40分ころ、大阪市北区西天満所在の同女方において、同女に上半身裸で乳房を露出した姿態をとらせた上 同女において 同女の携帯電話機のカメラ機能を利用して静止画像として自ら撮影して、平成25年12月8日午後11時46分ころその画像データを被告人が使用する携帯電話機にあてて電子メールの添付ファイルとしてそれそれ送信してそのころ 東京都千代田区の被告人方において 同画像データを 同携帯電話機に受信してこれを記憶させて蔵置して もって 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものをとらせ これを視覚により認識する事ができる方法により電磁的記録にかかる記憶媒体に描写し、当該児童にかかる児童ポルノを製造した
主位的訴因について
主位的訴因にかかる公訴事実においては被告人が単独で児童ポルノを製造したとされており この点 検察官は被告人が自らの携帯電話機に画像データが添付されたメールを受信してそのデータを保存した行為が児童ポルノ製造の実行行為であると主張する
しかし 当裁判所は証拠上 被告人が製造行為を行ったとはみとめず 従って単独正犯としての被告人の罪責を問うことはできないと判断して 予備的訴因(児童との共同正犯)に基づき有罪と認定した
その理由は次の通りである
 本件のメールの受信については関係証拠によっても被告人がその受信のさいに事故の携帯電話機を用いて何らかの具体的操作を行ったことを示唆する証拠はない 昨今の携帯電話機のメール機能ではサーバーから自動的に個々の携帯電話機にメールデータが保存される設定となっているのが通常であり(これは公知の事実である) 被告人の携帯電話機も同様であったとうかがわれること(甲5)、からすれば 被害児童が当該画像データを添付したメールを被告人の携帯電話器宛に送信したことにより その後 被告人において特段の操作を行うことなく サーバーを介して自動的に同携帯電話機かそのデータを受信し、メールに添付された画像データごと同携帯電話機に保存されたものと推認される
このように メールの受信が自動的に行われ 被告人の側で受信するメールを選別したり 受信するかどうかを決定することができない状態であったこを踏まえれば このような方法で行われるメールの受信(厳密にはメールデータの携帯電話への保存)をもって 被告人による製造行為ととらえることは困難というほかない
 以上の通り 被告人が児童ポルノの製造の実行行為を行ったとは認められず 主位的訴因については犯罪の成立を認めることができないと判断した(なお 付言すると 当時16歳という被害児童の年齢や 被告人は要求の際に欺罔脅迫等の手段を用いて織らず、被害児童が被告人の要求に応じた主たる理由は被告人への好意にあったことなどすれば 本件については証拠上 間接正犯の成立も認めることができない)。
併合罪(重い第1の罪に加重)
国選弁護人

・・・
広島高裁H26
要するに,原判決は,Aの原判示の姿態を撮影して,その画像データを被告人の携帯電話機に送信し,その携帯電話機の記録媒体に蔵置させるに至らせるという,児童ポルノ製造の犯罪の主要な実行行為に当たるものを行ったのはA自身であるという事実を摘示しているが,Aが共同正犯に当たるとは明示しておらず,被告人に関する法令の適用を示すに当たっても,刑法60条を特に摘示していない。
他方,原判決は,本件について間接正犯の関係が成立するという事実を示しているものでもなく,本件の関係証拠に照らしても,間接正犯の成立をうかがわせる事実関係があるとは認め難い。
しかし,原判決は,罪となるべき事実として,Aが上記の実行行為を自ら行ったという事実は摘示し,これらの行為は,被告人が,自らの意思を実現するため,Aとの意思の連絡の下,Aに行わせたものであるという趣旨と解される事実関係を摘示しているものと理解することが可能であるし,かつ,そうした事実関係を前提に犯情評価等を行っていると見ることができることなどに照らすと,原判決が,被告人とAとの共謀の存在を明示せず,法令の適用に刑法60条を挙示していないことが,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認ないし法令適用の誤りに当たるとは,いまだいい難いと考えられる。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170730-00000051-asahi-soci
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170730-00000051-asahi-soci.view-000
ある男子生徒が「裸の画像を(自分で)撮影して送って」と女子生徒に要求し、複数人分の画像を入手。その後、別の生徒らの間で転送が繰り返されたという。

 県警は、画像提供を求めた男子生徒を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造、提供)容疑で、画像を転送した男子生徒2人を同法違反(提供)容疑でそれぞれ書類送検。男子生徒と画像を交換し合った女子生徒1人も同法違反(製造)容疑で立件した。

 交際相手が関わるケースも。同県内の高校では一昨年から昨年にかけ、相手から求められて自画撮りした女子生徒の裸の画像が同級生17人に拡散したほか、別の学校では「元彼」が性行為の動画を別の生徒に送り、約20人の高校生に広まる事件も起きた。県警は、両事件でそれぞれ5人以上の生徒を同法違反容疑で書類送検した。


f:id:okumuraosaka:20170731105947j:plain

「ホテルの女性従業員の「指」をなめて逮捕…「強制わいせつ」にあたるの?」という取材には、「強制わいせつ罪にならないんだから取材自体失当じゃないかと対応したんだがそれを説明してくれというので記事になりました・・。不起訴

https://www.bengo4.com/c_1009/n_6416/
 奥村がここ15年集めている強制わいせつ事件の裁判例に「手指を舐める」というのはありません。これは実務家の常識。
 「わいせつ行為に当たるかどうかは,社会通念に照らして客観的に判断されるべきものであって,社会通念上わいせつ行為に当たらないものが,被告人の特別の内心の意図によってわいせつ行為となることはない」(東京高裁H22.3.1)というのは未公開判例

5月 犯行
7/20 逮捕
7/27 釈放
7/27 議員辞職
7/31 不起訴
 暴行罪でも起訴されなかったことからは、示談できたと推測します。

奥村の原稿
ホテルの女性従業員の「指」をなめて逮捕…「強制わいせつ」にあたるの?

▼本文
視察のために訪れた兵庫県姫路市のホテルで、フロントの女性従業員の手の指を無理やりなめたとして、静岡県焼津市市議会議員の男性(69)が7月20日、強制わいせつの疑いで兵庫県警に逮捕された。

報道によると、逮捕された男性は今年5月、姫路市内のホテルで、フロントにいた女性従業員に両手を出すよう求めたうえで、その指を無理やりなめた疑いが持たれている。男性は当時、酒に酔っていたとみられ、警察の取り調べに「まったく記憶にない」と否認しているという。

今回の逮捕容疑となった「強制わいせつ」といえば、胸を触ったりする行為が典型的だが、指をなめる行為はあてはまるのだろうか。どんな場合でも、指をなめれば「強制わいせつ」にあたるのだろうか。奥村徹弁護士に聞いた。

●コメント(計600字程度)
(1)強制わいせつにあたらないような気がするのですが、強制わいせつにあたる可能性はあるのでしょうか?
 強制わいせつ罪(刑法176条)の「わいせつ」とは、伝統的な判例では「いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。」と解されていて、「わいせつ行為に当たるかどうかは,社会通念に照らして客観的に判断されるべきものであって,社会通念上わいせつ行為に当たらないものが,被告人の特別の内心の意図によってわいせつ行為となることはない」(東京高裁H22.3.1)とされていますので、結局「社会通念」で判断されることになります。
 何が「社会通念」かというのも難しいですが、参考として、「なめる行為」が起訴された強制わいせつ罪の裁判例を見ても、性器・臀部・乳房・乳首・首・唇・膝・足を舐めた事例はありますが、手の指を舐めた事例は見当たりませんので、一般には,手の指を舐める行為は、「いたずらに性欲を興奮,刺激させ,性的羞恥心を害して性的道義観念に反する」とはとらえられていない思います。
 なお、報道によれば、近々、最高裁においてわいせつの定義については「わいせつ行為=客観的に性的自由・性的羞恥心を害する行為」などとする方向への判例変更の可能性がありますが、その場合でも、被害者の主観のみによってわいせつ性が決まるわけではないので、結論は変わらないと思います。
(2)強制わいせつにあたらないとすれば、ほかにどんな罪が考えられますか?
 「従業員に「両手を出して」と声を掛け、従業員が手を前に伸ばしたところ、いきなり口元まで引っ張った」「なめた」というのは「人の身体に対する有形力の行使」となるので、暴行罪(刑法208条)に該当する恐れがあります。
 また、ホテルのフロントあたりは「公共の場所」ですし、いきなり指を舐める行為は「人に対する、不安を覚えさせるような卑わいな言動」(兵庫県公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例3条の2第1項1号)い該当する可能性があります。
 逮捕容疑は強制わいせつ罪でしたが、実際の処分はこの辺りの罪名に落ちると予想します。


参照条文
刑法
第二〇八条(暴行)
 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

兵庫県公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
卑わいな行為等の禁止)
第3条の2 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 人に対する、不安を覚えさせるような卑わいな言動
(2) 正当な理由がないのに、人の通常衣服で隠されている身体又は下着を撮影する目的で写真機、ビデオカメラその他これらに類する機器(以下「写真機等」という。)を設置する行為
2 何人も、集会所、事業所、タクシーその他の不特定又は多数の者が利用するような場所(公共の場所を除く。)又は乗物(公共の乗物を除く。)において、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 正当な理由がないのに、人の通常衣服で隠されている身体又は下着を写真機等を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機等を向ける行為
(2) 前項第2号に掲げる行為
3 何人も、正当な理由がないのに、浴場、更衣室、便所その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所にいる人を写真機等を用いて撮影し、撮影する目的で写真機等を向け、又は撮影する目的で写真機等を設置してはならない。
第15条 
1第3条の2第1項から第3項まで、第5条第1項若しくは第2項又は第10条の2第1項の規定に違反した者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
2 常習として前項の違反行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。


(3)その他オピニオンなど
 強制わいせつ罪の「わいせつ行為」の定義については、判例変更の可能性があり、着衣の上から胸や尻を触る行為など、わいせつ性が微妙で現時点では卑わいな言動(迷惑防止条例違反)とされている行為については影響を受ける可能性がありますので、判例の動向に注意して下さい。

井田良『講義刑法学・各論』における監護者性交罪の説明

井田良『講義刑法学・各論』
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641139176
http://www.yuhikaku.co.jp/static_files/13917_P103.pdf

 同居している内妻の連れ子と真剣な恋愛関係になったとか、施設の職員と児童とが真剣な恋愛関係になったという場合にも「乗じて」が否定されることになるでしょう。

第179条
① 18歳未満の者に対し,その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は,第176条の例による。
② 18歳未満の者に対し,その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は,第177条の例による。
2017(平成29)年の刑法一部改正により新設された犯罪類型である。暴行・脅迫による強制という手段を用いることなく,地位・関係性を利用して行われた性的侵害行為であって,同意がおよそ問題にならない状況下にあったと捉えられる場合を類型化したものである。被害者が精神的に未成熟であり,かつ監護者との関係で精神的・経済的に依存しているときには,監護者がその影響力があることに乗じて行う行為に対し「抗拒不能」とまではいえないとしても(この要件が充足されれば,準強制わいせつ罪・準強制性交等罪〔178 条〕が成立しうる),被害者の有効な同意に基づく行為とはいえず32,被害者を刑法典の性犯罪処罰規定により保護する必要があるとする考え方に立脚している。
なお,18 歳未満の者に対するその種の行為は,これまで児童福祉法34 条1 項6号の「児童に淫行をさせる行為」として処罰されてきたが(罰則は60 条1 項により,10年以下の懲役もしくは300 万円以下の罰金またはこれらの併科),その違法性の程度において強制わいせつ罪・強制性交等罪と変わらないところから,新規定が加えられたのである(学校の教師やスポーツクラブの指導者など,被害者との関係で監護者に当たらない者が地位・関係性を利用して行う性的侵害行為については,今後も児童福祉法34 条1 項6 号により対応することとなるが,むしろ心理的な「抗拒不能」を肯定して準強制わいせつ罪・準強制性交等罪の規定〔178 条〕を適用すべきケースもありえよう)。
「現に監護する者」とは,親権者のように法律上の監護権に基づきこれを行う者(民法820 条を参照)に限られない。事実上,現に18 歳未満の者を監督・保護する者であればこれに当たりうる(ただ,親子関係と同視しうる程度に,居住場所の提供・生活費用の支出・人格形成等の生活全般にわたる指導・監督などを継続的に行うによる依存関係・保護関係が形成されていなければならない)。逆に,法律上の監護権を有する者であっても,実際に監護しているという実態がなければこれから除かれることもありうる。「現に監護する者」の具体例としては実親や養親等が挙げられるが,養護施設等の職員についても具体的事情の下でこれに該当する場合がある。「影響力があることに乗じて」とは,影響力があることを明示し積極的にこれを利用するところまでは必要でなく,影響力があるにより可能となった状況において行為を行うことで足りる(単に,監護者であることを相手に認識させなかったというような稀有なケースがこれから除かれることになる)。

「わいせつな行為」とは,被害者の意思に反して,上記のような身体的内密領域を侵害し,そのことにより被害者の性的羞恥心を害し,かつ一般通常人でも性的羞恥心を害されるであろう行為のことをいう。井田良『講義刑法学・各論』


 刑法改正H29に対応して差し替え版が公開されました
 
 保護法益については、「これら性犯罪の保護法益は,身体的内密領域を侵害しようとする性的行為からの防御権という意味での性的自己決定権として捉えられるべきである」と個人的法益で、性的意図不要説ですけど、一般通常人の性的羞恥心を考慮されますから、一般的にはわいせつとされない行為アブノーマルな行為は除外されると思われます。
 で、結局、わいせつ行為の辺縁が不明になるので、「わいせつ行為とは,性器・乳房・尻や太もも等に触れたり,これらをもてあそんだりする行為,裸にして写真を撮る行為,強いてキスしようとする行為等のことである」などという例を挙げています。
 結局、定義をいらっても、処罰範囲は変わらないということかなあ。

井田良『講義刑法学・各論』
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641139176
http://www.yuhikaku.co.jp/static_files/13917_P103.pdf

103頁から118頁(「第5章・身体的内密領域に対する罪」をすべて削除し,「103頁以下.pdf」の記述と差し替える

(2) わいせつな行為と性交等
強制わいせつ罪にいう「わいせつな行為」11とは,被害者の意思に反して,上記のような身体的内密領域を侵害し,そのことにより被害者の性的羞恥心を害し12,かつ一般通常人でも性的羞恥心を害されるであろう行為のことをいう。「わいせつ」という概念は社会的法益に対する罪である174 条や175 条の罪においても用いられているが,そこにいう「わいせつ」と(→491 頁以下),個人の性的自由を保護する本罪における「わいせつ」とは,同一の文言であっても,その意味は異なる(概念の相対性。→総論53 頁)。
強制わいせつ罪におけるわいせつ行為とは,性器・乳房・尻や太もも等に触れたり,これらをもてあそんだりする行為,裸にして写真を撮る行為,強いてキスしようとする行為等のことである。その行為がそれを見る人に与える不快感や性的嫌悪感などは(174 条や175 条の場合とは異なり)重要ではない。被害者をして行為者自身の性器等に触れさせる行為も含む。着衣の上から尻や胸をなで回す等の行為についても,その程度・執拗さのいかんによりわいせつな行為となる13。電車内などにおける痴漢行為のうち,着衣の上から触れる程度にとどまるものについては,直ちに「わいせつな行為」とまでいえるか明らかでなく,また,それが「暴行」にあたるともいいにくいことから,強制わいせつ罪にはならないとされている(ただ,それは都道府県の迷惑行為防止条例等により犯罪となる14)。

11 将来のための立法論としては,「わいせつな行為」という文言を維持すべきかどうかは問題である。
これを「性的行為」とか「性的侵害行為」とかの概念に置き換えることも考慮すべきであろう。
12 かりに被害者が就寝中にその行為が行われたとしても,被害者が目覚めてから性的羞恥を感じる行為であれば足りるように,被害者が幼児であったとしても(この点につき,中森・65 頁注38)を参照),後に成長してから性的羞恥を感じる行為であることが必要であり,それで足りる。
13 本罪の成立を肯定したものとして,東京高判平成13・9・18 東高刑時報52 巻1.12 号54 頁,名古屋高判平成15・6・2 判時1834 号161 頁がある

(4) 目的
最高裁判例28は,強制わいせつ罪につき,特別な主観的要素(故意に付加して要求される主観的違法要素)として,「犯人の性欲を刺激興奮させまたは満足させるという性的意図」が必要だとしている(→総論109 頁)。したがって,そのような性的意図がなく,もっぱら報復侮辱の目的で女性を脅迫し裸にして写真撮影する行為については,強要罪その他の罪の成立が考えられるにすぎないとする。たしかに,行為者が報復ないし制裁の目的で被害者の下半身を露出させ陰茎に傷害を加えたというような事例では傷害罪の成立のみが問題であって,強制わいせつ罪の規定の適用が考慮されないことを考えると,このような最高裁判例の解釈にも理由があるようにも見える。しかしながら,強制わいせつ罪が不当な方法で性欲を満足させることを処罰の対象とするのではなく,その保護法益はあくまでも被害者の性的自己決定権であるとすれば(→104 頁以下),行為者において,被害者の意思に反してその身体的内密領域を侵すという違法内容についての認識(故意)がある以上,強制わいせつ罪の成立を認めない理由はない。故意に付加して主観的違法要素を要求することは不要であり不当である29。
29 学説の多くは,上記判例に反対しており,前掲注28)最判昭和45・1・29 以降,性的意図の不存在を理由に強制わいせつ罪の成立を否定した判例・裁判例は存在しない。大阪高判平成28・10・27 高刑集69巻 2 号 1 頁は,本罪の成立に性的意図は不要であるとし,被告人に性的意図があったことにつき合理的疑いが残るとされたケースについて本罪の成立を肯定した(事件は上告中であり,最高裁判例を見直すことが予想されている)。

両親が関与する着エロの児童ポルノ製造事件

 着エロの製造事件の場合、たいてい親が関与していて親に利益が帰属しているのですが、被害感情を供述するなどして被害者として振る舞っていることが多いですね。
 着衣で、絡んで無い場合は、 提供目的製造罪(最高5年)以外の罪(児童淫行罪とか青少年条例違反とか)が考えられないので、実刑にもなりません。

http://digital.asahi.com/articles/ASK7X3FSMK7XUTIL00Y.html
ポルノ出演させた疑いで父逮捕 長女「収入源なので…」
2017年7月28日11時58分
 当時13歳だった長女(16)を児童ポルノビデオに出演させたなどとして、警視庁は、父親兵庫県に住む映像制作業の男(46)ら4人を児童買春・児童ポルノ禁止法違反容疑で逮捕し、28日発表した。いずれも容疑を認めている。
 長女は「家の収入源なので我慢した」と説明、8歳から13歳までの間に計12本出演させられていたという。同庁は母親(46)についても同容疑で書類送検する方針。
 父親ら2人は2015年2月、兵庫県内のマンションで、13歳だった長女に露出度の高い水着を着せるなどして動画を撮影した疑い、ほか2人は昨年8月以降、DVDなど3枚を販売した疑いがある。父親はこのビデオで約500万円の収入を得ていたという。
・・・
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201707/CK2017072802000262.html
長女の児童ポルノ5年間作成容疑 父親らを逮捕「金もうけで」
2017年7月28日 夕刊
 長女のわいせつな動画を製造したなどとして、警視庁は二十八日、児童買春・ポルノ禁止法違反の疑いで、兵庫県父親の男(46)と、容疑者(57)ら計四人を逮捕したと発表した。母親(46)も同容疑で書類送検する方針。
 少年育成課によると、長女(16)が八~十三歳だった五年間に十二種類のDVDなどを製造し、インターネット通信販売サイトを通じて販売していた。父親は「金もうけのために、娘の幼少期を台無しにしてしまった」と述べ、四人とも容疑を認めている。長女は「恥ずかしいけど、家の収入源だったので我慢した」と話しているという。
 逮捕容疑では二〇一五年二月下旬、兵庫県内のマンションで、当時十三歳だった長女に水着を着させ、胸などを強調した動画を製造したなどとされる。父親は一本の動画で約五百万円を得ていた。

卑わいな言動(迷惑防止条例)と、わいせつ行為(刑法176条)の関係

 条例によってニュアンスが違いますが、法条競合としているようです。
 理論的には保護法益の違いがあるので、観念的競合が説明しやすいと思います。

大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例の解釈及び運用についての全部改正について h17
第6 卑わいな行為の禁止(第6条関係)
1 この条は、痴漢行為、のぞき見行為、隠し撮り等卑わいな行為を規制することにより、人にしゅう恥心又は不安感を抱かせる行為を防止し、個人の意思及び行動の自由を保護しようとするものである。
2 第1号関係
( 1 ) 「人」とは、自然人をいい、性別、年齢又は国籍を問わない。
(2 ) 「著しく」 の程度は、具体的にどの程度と明示することは非常に困難であるが、社会通念上、容認し難い程度のものであれば足りる。
(3 ) 「人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような」とは、社会通念上人に著しく性的恥じらいを感知させ、又は不安を覚えさせるであろう程度のことをいい、被行為者が行われた言動を認識する必要はあるが、当該言動によって実際に性的恥じらいを感知し、又は不安を覚えたか否かは問わない。この場合において、被行為者とは、言動の直接的な対象となった人はもとより、言動の直接的な対象となった人が当該言動の内容を理解できない場合において、それを理解し得る能力があり、かつ、当該言動を認識し得る状態にある間接的な対象となった他の人も含まれる。
(4) 「衣服等」 の「等」とは、人が身にまとっているバスタオル等をいう。

6 第5号関係
( 1 ) この号は、第1号から第4号までに具体的に掲げられた行為のほか、「人を著しくしゅう恥させ又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」を規制するものである。
(2) 「卑わいな」とは、いやらしくみだらで、社会通念上、人に性的しゅう恥心を抱かせ、嫌悪感を催させ、又は不安を覚えさせるに足りることをいい、刑法上の「わいせつ」よりも広い概念である(第8条及び第9条において同じ。)。

北海道警察本部「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」逐条解説(
(4) 「しゅう恥」とは、卑わいな行為によって惹起されるものであり、性的しゅう恥心を意味
する。
(5) 「不安」 とは、第2条用語の解説(2)参照。
(6) 「衣服等の上から」とは、身体にまとっている衣服等の上からという意味であるが、衣撮等とは、人が着るものの総称であって、シャツ、ズボン、スカートはもちろん、パンツ等の下着類も含まれる。
(7) 「直接」 とは、直(じか〉にという意味であり、衣服等を介さず、「身体」 に直に触れることを意味する。
(8) 「身体」 とは、胸部、下腹部、臀部部、大腿部、腹部、背中等のみならず、行為の方法、程度によって人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような首筋、腕、足等の部位も含まれる。
(9) 「触れる」 とは、手で触れる行為が一般的でd5るが、行為者が肘、膝、足等を使思して人の身体等(衣服等に覆われた身体を含む。)の一部に触れた場合であっても、卑わいな行為と認められる限りにおいて本条の触れるに該当する。
行為者が所携の傘等で、本号にいう人の「身体」に触れるなど当該行為が卑わいなものと認められる場合は、本号によらず、本条第l項第4号のf卑わいな言動」に該当する。
・・・
(4) 「卑わいな言動」とは、いやらしく、みだらな言語、動作で、通常人の性的しゅう恥心を害し、嫌悪感を催させ、又は不安を覚えさせるに足りる言語、動作をいう。
本条第1項第1号、第2号及び第3号は、その具体的行為の例示であるが、第4号は、これらに該当しない「卑わいな言語、動作」であり、例えば、「スカートをまくり上げる行為」「女性につきまといながら、性交や性器を意味する言葉をかけ続ける行為」等、様々な卑わいな行為の形態があるが、これらの卑わいな言動は、人に対するものであれば足り、直接であると間接であるとを問わない。
4 本罪と既存去令の関藤
(2) 刑法との関探
本条と;刑法第176条(強制わいせつ罪〉との関係は法条競合であり、第174条(公然わいせつ罪)との関係は、観念的競合である。

島根県迷惑行為防止条例の解説
(2) 第1項
ア本項は、「人を著しく羞恥させるような方法」又は「人に不安を覚えさせるような方法」による各号の行為を規制するものである。「・・ような方法」とは、
具体的状況に照らして、社会通念上、通常人が「著しく羞恥又は不安」を覚えると認められる方法をいい、現に被害者が著しい羞恥又は不安を覚えなくてもよい。従って、被害者が行為に気付かない場合でも本項違反は成立する。
イ犯行場所は、公共の場所又は公共の乗物である必要がある。
ウ第1号(痴漢の規制)について
本号は、刑法に規定する強制わいせつに至らない程度のいわゆる街頭や電車内等での痴漢行為を規制するものであり、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しく羞恥させ、又は不安を覚えさせるような方法で「衣服等の上や直接に人の身体に触れること」を禁止している。
※ 強制わいせつ罪の構成要件等については「既存法令との関係」を参照
  「身体」とは、大腿部、腹部、背中のほか、卑わいな行為と認められる限りにおいて、首筋、腕、足等の部位も含まれる。
 行為の手段については、手で触る行為が一般的であるが、肘、膝、足等を使用して身体に触る場合であっても、卑わいな行為と認められる限りにおいて、違反が成立することとなる。

4 既存法令との関係
(1) 刑法第17 6条(強制わいせつ罪)との関係等
ア強制わいせつ罪との相違点
刑法第17 6条(強制わいせつ罪)は、「13歳以上の男女に対して暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為を行った場合」に成立し、13歳未満の男女に対しては、暴行、脅迫を必要としないとしている。
本条第1項は、年齢の規制はなく、かつ、暴行又は脅迫を用いることを要件としていないが、羞恥心、不安を覚えさせる行為を対象としている。
具体的には、バスや列車内での女性の身体に触れる行為、又はカバンに隠しカメラを仕掛けてスカートの下から下着等を撮影する行為等を規制するものである。
イ関係
強制わいせつ罪が成立する場合は、本条例の適用はない(法条競合)。

足の指を嘗める行為を強制わいせつ罪とした事例(神戸地裁h15.4.10)

 「被害者の足の指を舐める行為についてもわいせつ行為に該当することは当然である。」というのですが、裁判例はヒットしません。

神戸地方裁判所/平成15年4月10日
       理   由
(罪となるべき事実の要旨)
 被告人は,タクシー運転手として稼働していたものであるが,平成14年11月23日,かつて被告人運転のタクシーを利用したA(当時24歳)から電話があったことを奇貨として,同女を被告人方に連れ込めば同女と性交したりできると考え,その電話での会話中,同女に対し,「もうそろそろ俺の命がないから会いたい。」「きてくれたら死なない。」「早く来てくれ。」などと嘘を言うなどし,同日午後9時ころ,同女を肩書住居地の被告人方に連れ込み,その後,同女に対し,「エッチだけさせてくれ。」等と申し向けたところ期待に反して同女に拒絶されたことから,同女に強いてわいせつな行為をしようと決意し,同日午後9時20分ころから午後10時ころの間,同所において,座している同女の膝を右手で押さえるなどしてその左右の靴下を左手ではぎ取り,同女の両足指を舐め,ついで,同女の両脚部を両手でつかんで押しひろげた上,着衣の上からその陰部を右掌で揉んでもてあそぶなどし,もって,同女に強いてわいせつな行為をした。
(証拠の標目)
 (括弧内の「検」で始まる数字は証拠等関係カードにおける検察官の請求番号を示す。)
 省略
(補足説明)
第1 弁護人は,1被告人は被害者とされる判示A(以下「被害者」という。)に対し判示のようなわいせつ行為(以下「本件行為」という。なお,被害者の足の指を舐める行為についてもわいせつ行為に該当することは当然である。)をしていない,2本件行為が存在していたとしても,被害者は被告人が本件行為をすることにつき明示または黙示の承諾をしていた,3被害者が本件行為につき承諾していなかったとしても被告人はこれがあると誤信していた,とし,無罪を主張する。被告人は,捜査段階では本件行為のうち一定のものを認めていたが,公判廷では全く記憶がない旨述べている。そこで事実認定の理由について補足する。
第2 本件行為の存在について
1 被害者の供述の信用性
(1) 弁護人の指摘
 被害者は,被告人と知り合った経緯,被告人方に行くことになった事情,被告人方でのできごとを詳細に供述しているところ,弁護人は,その行動は以下のようなもので,通常の若い女性の行動として不可解を通り過ぎた疑念があると指摘する。
 すなわち,被害者は,被告人のタクシーを利用していたが,初対面の時を含め,家族関係や交際相手の存在,消費者金融会社に多額の負債を負っている状況,近日勤務先を解雇される危険を感じていること等,さほど親しいとはいえない被告人にかなりプライベートな事情を話している。また,被害者は,その後被告人から被害者の携帯電話の留守番電話に「おれはだめや。俺は死ぬ。」等という録音が頻繁になされるようになって困惑したとするが,交際相手にそのことを話したところきっぱり断るように忠告され,本件当日,被害者に電話をかけてこないように言おうと思って被告人に電話をかけたというのに,勤務先をくびになるなどと相談を持ちかけるような切り出し方をし,その後ようやく被告人に苦情を言うについても,電話回数を減らしてほしいなどときっぱり断るということとは相当かけはなれた態度を示している。そして,被害者は,その際被告人から判示のようなことを言われて自宅に来てくれるよう頼まれたというものの,その際わいせつなことをも言われたにもかかわらず,誰にも相談せず被告人方に行くこととし,被告人方に行って本件被害にあったという。また,被害者は,被告人方では,被告人から「エッチさせてくれ。」などと言われたのに対しては明確に拒絶したのに,本件行為に対しては拒絶の態度を示していない。
 弁護人は,被害者のこのような行動が不可解にすぎるなどとし,さらに,被害者が,被告人方でいったん被告人に性交やわいせつ行為に応じるよう言われたのに対し断っているのに,その後被告人が本件行為に出たのに対してはじっとしたまま何らの言葉も発しなかったことも不自然を通り越すようなことであるとしている。
(2) そして,このうち,被告人方を訪れるまでの被害者の行動は,被告人の電話を気味が悪いとして困惑しながら一人で被告人方に行くことを含め,最近の社会情勢のもとでは,特定の交際相手のある24歳の働く女性として無防備であるといえ,弁護人の指摘ももっともな面があるかのようである。
 しかし,被害者がわざわざ虚偽の供述をして被告人を罪に陥れる理由は全くない。また,被害者の供述する同人の行動は被害者の生活状況に照らし落ち度があると言われるべきことがらであり,仮に被害者が被告人方に行ったことを交際相手に知られたくない等の理由があるとしても,このような経過まで作り上げる必要がないことも明らかである。
 むしろ,被害者の供述は,経験したものでないと述べることができない具体性,迫真性を有する上,携帯電話の着信履歴や通話明細といった客観的証拠や,被害者以上に信用性に疑いの余地がない,交際相手や本件行為の当時たまたま被害者に電話をかけた知人B等関係者の供述とよく符合する。
(3) なお,被害者が被告人にプライベートな事実を話しすぎていることが不自然であるという点は,被害者が話した内容は被告人も争わないことであり,また被害者が被告人にこのようなことを話したからといって被害者の供述が信用できなくなることにはならない(なお,被害者は本件当日被告人方に行く際被告人が手配したその友人Cのタクシーを利用しているところ,同人にも近日勤務先を解雇されることを話すなどしており,被害者は単に他人との会話等に無警戒であるというだけであると認められる。)。また,弁護人は,被害者は被告人方で被告人から「エッチ(だけ)させてくれ。」などと言われたのに対しては明確に拒絶したのにその後本件行為に対しては拒絶の態度を示していないとするが,被害者が本件行為の間泣いていたことは弁護人の認めるとおりであって被害者や前記Bの供述からも明らかであるところ,これは明確な拒絶の態度である。
 そして,被害者が一人で被告人方に行った点についても,被告人から自殺をほのめかされるなどされて心配になり被告人方へ行ったとする被害者の心情は理解することができるものであり,不可解ではない。
 結局,弁護人の指摘するような理由から同女の供述の信用性がないとすることはできない。
(4) 以上のとおりであって,被害者の供述には高い信用性が認められるというべきである。
2 ところで,被告人の捜査段階における供述調書には,本件行為のうち一定の範囲で,被告人がこれを行ったことを認める,すなわちその記憶がある旨の供述をしていることが録取されているのであるが,被告人は,当公判廷において,被告人方で被害者に対し何をしたか全く覚えておらず,前記供述調書にそのような記載があるのは,被告人に記憶がないため捜査官が示す被害者の供述に反論ができなかったためであると弁解する。しかし,そうだとすれば,被告人の供述調書には本件行為の少なくとも大部分を認める供述が記載されていてしかるべきと考えられるところ,被告人の供述調書には被害者の供述内容をそのまま受け入れたようなものでは全くなく,本件に至る経緯については被害者の供述を否定している部分もあり,本件行為についても記憶がない部分が多いとしているもので,被告人の弁解は不合理である。また,前記Cは,被告人は,被害者が被告人方に到着した当時,いつもと変わらないしっかりした口調で話をしており,酔っ払っている様子はなかったと供述しているのであって,被告人は少なくともその段階まではそれほど酩酊していなかったと認められる。
 そうすると,被告人は,本件行為について少なくとも捜査段階で供述している程度の記憶があると認められ,まず,本件について全く覚えていないとする公判廷における被告人の供述は信用できない。
 さらに,被告人の携帯電話の通話明細によれば,被告人が本件の後である平成14年10月31日被害者に対して電話をしたことが認められるところ,前述のことからすると,被告人はこの電話の時点で本件行為の一部を覚えていながら被害者に電話したものと認められる。この点をふまえ検討すると,さらに,被告人が本件までにも被害者に対して頻繁に電話をかけていたとする被害者の供述を否定する被告人の公判供述も信用できず,被害者とその交際相手の供述からは,被告人が本件以前から被害者に対し頻繁に電話をかけていたことや,被告人が同年12月30日に被害者に電話をして「この間のことごめんね。酔っ払っていてごめんね。」等と言ったこともまた十分認定できる。
3 以上のとおりであって,本件行為の存在は,被害者等,被告人以外の者の供述からだけでも疑いの余地がなく,被告人の捜査段階における供述についても被害者の供述と合致する範囲では信用性がある。
第3 被害者の承諾及びその誤信等について
1 被害者の承諾の存在について
 弁護人は,被告人が被害者に対して格別の有形力を行使しなかったこと,被害者が被告人の本件行為に対して積極的な抵抗をせず,電話をしてきた前記Bに対しても結局助けを求めなかったこと,被害者が被告人からわいせつなことを言われながら被告人方に行っていること,被害者が被告人方から逃げずに1時間余りもとどまっていたこと等の事実から,被害者は被告人が本件行為をすることを承諾していた旨主張する。
 しかしながら,前記のように信用性の高い被害者の供述等関係各証拠によれば,被害者と被告人は被害者が被告人の運転するタクシーを3回利用したという関係に過ぎなかったこと,被害者には交際相手がいたこと,被害者は被告人から頻繁に電話がかかってくることを気味悪く思い,前記交際相手に相談していること,被害者は被告人に対し電話をかけてくるのをやめて欲しい旨言っていること,被害者は被告人から「彼氏(交際相手)と別れろ」とか「エッチだけさせてくれ」等と言われたことに対して明確に「嫌です。」と繰り返し言っていること,被告人の本件行為に対して,被害者は涙を流したりする等強くはないが拒否の態度を示しており,また被害者は本件行為時に明確な抵抗をしていないがその当時被害者は被告人方という密室で被告人と二人だけでいたものであること(また本件行為は被害者も供述するように気味が悪い行為であり,身動きできなかったという被害者の供述も信用できる。),被害者は前記Bの電話に対し「いたずらされている。」と助けを求めようとしていること,被害者は被告人が本件行為後ズボンを脱がそうとしてきたことに対しては強く抵抗していること,被害者は本件の3日後に前記交際相手に対し被害を打ち明けており,その際の被害者の様子がパニック状態になったような感じであったこと,被害者が本件の5日後には警察に被害届を提出していること等が認められ,これらの事実からすると,弁護人指摘の事情を考慮してもなお,被害者は本件行為を承諾していなかったと認められる。
2 被害者の承諾の誤認について
 弁護人は,1でみた弁護人主張の点,とりわけ被害者が被告人の本件行為に対して積極的な抵抗をしなかったこと,被告人が電話で前述のように卑猥なことを言ったにもかかわらずその誘いに応じて一人で被告人方へ来たこと,被害者が被告人方から逃げようとしなかったこと等の事実から,被告人は被害者が本件行為につき承諾しているものと誤認していた旨主張する。
 しかしながら,まず,被害者が被告人方に来たのは被告人が被害者に対し「もうそろそろ俺の命がないから会いたい。」「薬を大量に飲んで死ぬ。」「きてくれたら死なない。」と自殺をほのめかすような嘘を言うなどしたためである。弁護人はこれを戯れ言であって非難することはできないと言うが,これらが客観的にみて虚偽であること,被告人が被害者を自宅に呼び寄せる手段としてこのようなことを述べたことは疑いがない。また,被告人自身認めることであるが,被害者に交際相手がいることは被告人も認識していた。そうすると,被告人はそのような嘘を言わなければ被害者が自宅に来ることはないと思っていたと認められるのであって,被告人は,被害者の同情心に訴えて同人を自宅におびき寄せたというほかない。
 そして,これらのことや被害者が被告人から「エッチだけさせてくれ」等と言われたことに対して明確に「嫌です。」と繰り返し拒絶したこと等1でみた事実,第2の2でみたとおり,被告人が同年12月30日に被害者に対し謝罪の電話をしていること等からすると,被告人が本件行為当時被害者がこれを承諾していないと認識していたと明らかに認められる。被告人は本件行為について被害者の承諾があると思っていた旨の弁解もするが,被告人は公判廷では本件行為をしたこと自体の記憶がないとしているのであって,被告人の弁解には大きな自己矛盾がある上,第2でみた点からしてもとうてい信用できない。
3 犯意の発生時期
 しかし,その一方で,被害者の言動に問題があることは否定できず,また,被告人は被害者を自宅に連れ込んでからただちにわいせつ行為に及んだのでもない。そして,被告人が本件行為に及ぶ前に被害者に対し「エッチだけさせてくれ」等と言っていることに照らすと,2で検討した点を前提としても,被告人が被害者に「もうそろそろ俺の命がないから会いたい。」等と述べた時点や被害者に「エッチだけさせてくれ」等と言った時点では,被告人には被害者を自宅に呼び寄せれば渋々でもその承諾を得て同人と性交等ができるのではないかと期待していたと考える余地があり,関係証拠によっては,被告人にその時点前に強いて本件行為をする意思があったことまで認められるとはいい難い。そうすると,犯意の発生時期については,判示のとおり,被告人が被害者に「エッチだけさせてくれ」等と言ったことに対して被害者が「嫌です。」と拒否した時点と認めるほかない。
(法令の適用)
 被告人の判示所為は刑法176条前段に該当するので,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役1年8か月に処することとし,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予し,なお同法25条の2第1項前段を適用して被告人をその猶予の期間中保護観察に付することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
   平成15年4月10日
 神戸地方裁判所第11刑事係乙
         裁判官  橋本 一

13歳未満のAB2名に対する強制わいせつ罪・児童ポルノ製造罪を科刑上一罪にした事例(某地裁H27)

 わいせつ行為が撮影しかない場合で複製行為がない場合には、こうなります

被告人は、
平成29年7月27日 午後7時ころから7時30分ころの間
大阪市北区のホテル203号室において、
A(6)及びB(6)が、いずれも13歳未満の者と知りながら
ABの陰部露出させる姿態を取らせてデジタルカメラで撮影して、動画3点を生成して、同データを同カメラに装着した電磁的記録であるmicrosdカードに記録保存して、
もって、13歳に満たない女児にわいせつな行為をするとともに、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、性欲を興奮させ又は刺激するものを描写した児童ポルノを製造した

法令適用
 強制わいせつ罪の点 被害者ごとに176条後段
 児童ポルノ製造の点 被害者ごとに 改正前の7条3項
科刑上一罪の処理 54条1項前段 10条(1罪として刑及び犯情が最も重い被害者1名に対する強制わいせつ罪の刑で処断) 被害者の性的自由に優劣は付けられず各強制わいせつ罪相互の間の犯情には軽重の差があるとは認められないから、各被害者に対する強制わいせつ罪のうちいずれが重いかを決することはできない

強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を観念的競合とする裁判例58個

 東京高等裁判所h24.11.1が併合罪だって言っても、地裁・高裁で観念的競合説の判決が出続けています。
 裁判所にも判らないんだろうな。
 大法廷で決まるかな
 刑法の強制わいせつ罪に重なるところに不用意(不勉強)に議員立法の特別法で製造罪を被せてくるからだと思います。

名古屋地裁一宮 H17.10.13
東京地裁 H18.3.24
東京地裁 H19.2.1
東京地裁 H19.6.21
横浜地裁 H19.8.3
長野地裁 H19.10.30
7 札幌地裁 H19.11.7
東京地裁 H19.12.3
高松地裁 H19.12.10
10 山口地裁 H20.1.22
11 福島地裁白河支部 H20.10.15
12 那覇地裁 H20.10.27
13 金沢地裁 H20.12.12
14 金沢地裁 H21.1.20
15 那覇地裁 H21.1.28
16 山口地裁 H21.2.4
17 佐賀地裁唐津支部 H21.2.12
18 仙台高裁 H21.3.3
19 那覇地裁沖縄支部 H21.5.20
20 千葉地裁 H21.9.9
21 札幌地裁 H21.9.18
22 名古屋高裁 H22.3.4
23 松山地裁 H22.3.30
24 さいたま地裁川越支部 H22.5.31
25 那覇地裁沖縄 H22.5.13
26 横浜地裁 H22.7.30
27 高松高裁 H22.9.7
28 高知地裁 H22.9.14
29 水戸地裁 H22.10.6
30 さいたま地裁越谷支部 H22.11.24
31 松山地裁大洲支部 H22.11.26
32 名古屋地裁 H23.1.7
33 広島地裁 H23.1.19
34 広島高裁 H23.5.26
35 高松地裁 H23.7.11
36 大阪高裁 H23.12.21
37 秋田地裁 H23.12.26
38 横浜地裁川崎支部 H24.1.19
39 福岡地裁 H24.3.2
40 横浜地裁 H24.7.23
併合罪説 東京高等裁判所h24.11.1)
41 福岡地裁 H24.11.9
42 松山地裁 H25.3.6
43 横浜地裁横須賀 H25.4.30
44 大阪高裁 H25.6.21
45 横浜地裁 H25.6.27
46 福島地裁いわき支部 H26.1.15
47 松山地裁 H26.1.22
48 福岡地裁 H26.5.12
49 神戸地裁尼崎 H26.7.29
50 神戸地裁尼崎 H26.7.30
51 津地裁 H26.10.14
52 名古屋地裁 H27.2.3
53 岡山地裁 H27.2.16
54 長野地裁飯田 H27.6.19
55 広島地裁福山 H27.10.14
56 千葉地裁松戸 H28.1.13
57 横浜地裁 H28.7.20
58 名古屋地裁岡﨑 H28.12.20