児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「わいせつな行為」とは,被害者の意思に反して,上記のような身体的内密領域を侵害し,そのことにより被害者の性的羞恥心を害し,かつ一般通常人でも性的羞恥心を害されるであろう行為のことをいう。井田良『講義刑法学・各論』


 刑法改正H29に対応して差し替え版が公開されました
 
 保護法益については、「これら性犯罪の保護法益は,身体的内密領域を侵害しようとする性的行為からの防御権という意味での性的自己決定権として捉えられるべきである」と個人的法益で、性的意図不要説ですけど、一般通常人の性的羞恥心を考慮されますから、一般的にはわいせつとされない行為アブノーマルな行為は除外されると思われます。
 で、結局、わいせつ行為の辺縁が不明になるので、「わいせつ行為とは,性器・乳房・尻や太もも等に触れたり,これらをもてあそんだりする行為,裸にして写真を撮る行為,強いてキスしようとする行為等のことである」などという例を挙げています。
 結局、定義をいらっても、処罰範囲は変わらないということかなあ。

井田良『講義刑法学・各論』
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641139176
http://www.yuhikaku.co.jp/static_files/13917_P103.pdf

103頁から118頁(「第5章・身体的内密領域に対する罪」をすべて削除し,「103頁以下.pdf」の記述と差し替える

(2) わいせつな行為と性交等
強制わいせつ罪にいう「わいせつな行為」11とは,被害者の意思に反して,上記のような身体的内密領域を侵害し,そのことにより被害者の性的羞恥心を害し12,かつ一般通常人でも性的羞恥心を害されるであろう行為のことをいう。「わいせつ」という概念は社会的法益に対する罪である174 条や175 条の罪においても用いられているが,そこにいう「わいせつ」と(→491 頁以下),個人の性的自由を保護する本罪における「わいせつ」とは,同一の文言であっても,その意味は異なる(概念の相対性。→総論53 頁)。
強制わいせつ罪におけるわいせつ行為とは,性器・乳房・尻や太もも等に触れたり,これらをもてあそんだりする行為,裸にして写真を撮る行為,強いてキスしようとする行為等のことである。その行為がそれを見る人に与える不快感や性的嫌悪感などは(174 条や175 条の場合とは異なり)重要ではない。被害者をして行為者自身の性器等に触れさせる行為も含む。着衣の上から尻や胸をなで回す等の行為についても,その程度・執拗さのいかんによりわいせつな行為となる13。電車内などにおける痴漢行為のうち,着衣の上から触れる程度にとどまるものについては,直ちに「わいせつな行為」とまでいえるか明らかでなく,また,それが「暴行」にあたるともいいにくいことから,強制わいせつ罪にはならないとされている(ただ,それは都道府県の迷惑行為防止条例等により犯罪となる14)。

11 将来のための立法論としては,「わいせつな行為」という文言を維持すべきかどうかは問題である。
これを「性的行為」とか「性的侵害行為」とかの概念に置き換えることも考慮すべきであろう。
12 かりに被害者が就寝中にその行為が行われたとしても,被害者が目覚めてから性的羞恥を感じる行為であれば足りるように,被害者が幼児であったとしても(この点につき,中森・65 頁注38)を参照),後に成長してから性的羞恥を感じる行為であることが必要であり,それで足りる。
13 本罪の成立を肯定したものとして,東京高判平成13・9・18 東高刑時報52 巻1.12 号54 頁,名古屋高判平成15・6・2 判時1834 号161 頁がある

(4) 目的
最高裁判例28は,強制わいせつ罪につき,特別な主観的要素(故意に付加して要求される主観的違法要素)として,「犯人の性欲を刺激興奮させまたは満足させるという性的意図」が必要だとしている(→総論109 頁)。したがって,そのような性的意図がなく,もっぱら報復侮辱の目的で女性を脅迫し裸にして写真撮影する行為については,強要罪その他の罪の成立が考えられるにすぎないとする。たしかに,行為者が報復ないし制裁の目的で被害者の下半身を露出させ陰茎に傷害を加えたというような事例では傷害罪の成立のみが問題であって,強制わいせつ罪の規定の適用が考慮されないことを考えると,このような最高裁判例の解釈にも理由があるようにも見える。しかしながら,強制わいせつ罪が不当な方法で性欲を満足させることを処罰の対象とするのではなく,その保護法益はあくまでも被害者の性的自己決定権であるとすれば(→104 頁以下),行為者において,被害者の意思に反してその身体的内密領域を侵すという違法内容についての認識(故意)がある以上,強制わいせつ罪の成立を認めない理由はない。故意に付加して主観的違法要素を要求することは不要であり不当である29。
29 学説の多くは,上記判例に反対しており,前掲注28)最判昭和45・1・29 以降,性的意図の不存在を理由に強制わいせつ罪の成立を否定した判例・裁判例は存在しない。大阪高判平成28・10・27 高刑集69巻 2 号 1 頁は,本罪の成立に性的意図は不要であるとし,被告人に性的意図があったことにつき合理的疑いが残るとされたケースについて本罪の成立を肯定した(事件は上告中であり,最高裁判例を見直すことが予想されている)。