児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「ひそかに、同所側溝内に動画撮影状態にしたスマートフォンを設置し、同スマートフォンで同側溝上を通行中の氏名不詳者12名が身に着けている下着の性的な部位を覆っている部分を撮影した」という性的姿態撮影罪は包括一罪(神戸地裁r6.1.26)

「ひそかに、同所側溝内に動画撮影状態にしたスマートフォンを設置し、同スマートフォンで同側溝上を通行中の氏名不詳者12名が身に着けている下着の性的な部位を覆っている部分を撮影した」という性的姿態撮影罪は包括一罪(神戸地裁r6.1.26)
 性的姿態撮影罪の保護法益は不同意わいせつ罪と接近した個人的法益だと説明されていますが、足下からの下着盗撮はわいせつ行為ではないので個人的法益が薄まって12人でも包括一罪になりますかね。
 

法務省逐条説明
第2章前説
【説明】
第2条から第6条までの各罪は、人の意思に反して性的な姿態を撮影したり、これにより生成された性的な姿態の記録を提供するといった行為がなされれば、当該記録の存在・流通等により、性的な姿態が当該姿態をとった時以外の機会に他人に見られる危険が生じ、ひいては、不特定又は多数の者に見られるという重大な事態を生じる危険があることから、それらの行為を処罰するものであり、その保護法益は、
〇自己の性的な姿態を他の機会(すなわち、当該姿態をとった時以外の他の機会)に他人に見られるかどうか
という意味での被害者の性的自由・性的自己決定権である。
(注3)強制わいせつ罪(刑法第176条)にいう「わいせつ」は、行為が持つ性的性質の程度を問題にする概念である(最高裁判所判例解説刑事篇平成29年度202~205頁〔向井香津子〕)。
これに対し、性的姿態等撮影罪の保護法益は、自己の性的な姿態を他の機会に他人に見られるかどうかという意味での性的自由・性的自己決定権であるところ、被害者が、行為が持つ性的性質の程度について誤信していなくても、行為が持つ性的性質について誤信して撮影行為に応じたものであれば、保護法益の侵害が認められると考えられることからすれば、行為が持つ性的性質の程度を問題にする刑法第176条の「わいせつ」から離れて誤信の対象を定めるのが適当と考えられる。
その上で、性的姿態等撮影罪は、「性的な部位等」や「わいせつな行為又は性交等がされている間における人の姿態」を対象とするものであり、基本的に行為の性質は性的なものであると考えられるものの、被害者が、四囲の状況や行為者の主観について誤信しているために、行為の性質が性的なものでないと誤信している場合には、被害者が、撮影行為に応じるかどうかについて自由な意思決定をしたとはいえず、保護法益の侵害が生じると考えられる。
そこで、本条第1項第3号においては、「行為の性質が性的なものではないと誤信させ、・・・又はその旨の誤信をしていることに乗じ」た撮影行為を処罰対象としている。
(注4)罪数関係については、個別の事案ごとに、具体的な事実関係も踏まえて判断される
べき事柄であるが、一般論としては、性的姿態等撮影罪に当たる撮影行為が行われ、当該撮影行為が強制わいせつ罪又は監護者わいせつ罪にも該当する場合、
○ 性的姿態等撮影罪は、性的な姿態を他の機会に他人に見られるかどうかという意味での被害者の性的自由・性的自己決定権を保護法益として設けるものであり、また、侵害の態様も性的な姿態の影像を記録して固定化するというものであることからすると、性的な行為を行うかどうかの自由が問題となる強制わいせつ罪・監護者わいせつ罪との法益侵害の同一性があるとはいえない
ことから、強制わいせつ罪又は監護者わいせつ罪と性的姿態等撮影罪の両罪が成立するものと考えられる。
その上で、社会的見解上の行為が一個であれば、観念的競合(一個でなければ併合罪)となる。

 児童ポルノひそかに製造罪でも被害者の個性は重視されません。

【文献番号】25596585
横浜地方裁判所令和4年(わ)第687号、令和4年(わ)第1028号
令和5年12月6日第1刑事部判決
 上記の者に対する強制わいせつ、建造物侵入、栃木県公衆に著しく迷惑をかける行為等の防止に関する条例違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、窃盗被告事件について、当裁判所は、検察官地引彩乃並びに弁護人小松圭介(主任)、奥村徹及び彦坂幸伸出席の上審理し、次のとおり判決する。
(罪となるべき事実)
 被告人は、
第1 別紙記載の小学校において、下記の同校の女子生徒が18歳に満たない児童であることを知りながら、
1 平成31年4月17日午前9時頃から同日午前11時25分頃までの間に、ひそかに、同校保健室内に小型カメラを設置して健康診断のため露出した女子生徒71名の胸部等を動画撮影し、その動画データを同カメラに装着されたマイクロSDカードに記録させた上、同日午後11時47分頃から同日午後11時50分頃までの間に、同市α区β××××番地××の当時の被告人方において、同マイクロSDカードから同動画データを被告人が使用するノートパソコンに接続された電磁的記録媒体である外付けハードディスク内に記録して保存し、
2 令和2年10月6日午前10時15分頃から同日午前11時25分頃までの間に、ひそかに、同校なかよしルーム内に小型カメラを設置して着替えのため露出した女子生徒6名の胸部等を動画撮影し、その動画データを同カメラに装着されたマイクロSDカードに記録させた上、同月7日午前零時27分頃から同日午前零時28分頃までの間、前記被告人方において、同マイクロSDカードから同動画データを被告人が使用するパソコンに接続された電磁的記録媒体である外付けハードディスク内に記録して保存し、
3 同月13日午前8時30分頃から同日午前11時35分頃までの間に、ひそかに、同校教室内に小型カメラを設置して着替えのために露出した女子生徒3名の胸部等を動画撮影し、その動画データを同カメラに装着されたマイクロSDカードに記録させた上、令和3年7月30日午後8時56分頃から同日午後8時58分頃までの間、前記被告人方において、同マイクロSDカードから同動画データを被告人が使用するパソコンに接続された電磁的記録媒体である外付けハードディスク内に記録して保存し、
4 同年4月22日午前9時頃から同日午前11時25分頃までの間に,ひそかに、同校保健室内に小型カメラ2台を設置して健康診断のため露出した女子生徒23名の胸部等を動画撮影し、その動画データを同カメラ2台にそれぞれ装着されたマイクロSDカードに記録させた上、同年7月30日午後9時6分頃、前記被告人方において、前記各マイクロSDカードから同動画データを被告人が使用するパソコンに接続された電磁的記録媒体である外付けハードディスク内に記録して保存し、
5 令和3年10月28日午前9時頃から同日午前10時20分頃までの間に、ひそかに、同校保健室内に小型カメラを設置して内科検診のため露出した女子生徒48名の胸部等を動画撮影し、その動画データを同カメラに装着されたマイクロSDカードに記録させた上、同日午後9時59分頃から同日午後10時頃までの間、前記被告人方において、同マイクロSDカードから同動画データを被告人が使用するノートパソコンの内蔵記録装置に記録して保存し、
もってひそかに衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより、児童ポルノを製造し
・・・・・・・

弁護人の主張に対する判断)
1 弁護人の主張
 判示第1の1~5、第2及び第4の各事実が認められること、また、判示第3の事実について被告人による被害品の窃取行為があったことは当事者間に争いがなく、関係証拠から認めることができる。
 弁護人は、〔1〕判示第1の1~5について、〔ア〕訴因不特定であり刑訴法256条3項に反する、〔イ〕各動画データは児童ポルノに該当しない、〔ウ〕児童ポルノ法7条5項の製造罪は成立しない、〔2〕判示第3について、不法領得の意思がない、〔3〕いずれの事実についても、心神耗弱の状態にあった、と主張するので、以下検討する。
2〔1〕判示第1の1~5について
(1)〔ア〕訴因不特定との主張について
 弁護人は、児童ポルノ製造罪は個人法益に関する罪であり、個人の実在性、年齢、児童ポルノ該当性が訴因において特定されなければならず、判示第1の1~5において「18歳に満たない」「女子生徒71名」等としか記載されていないのは、訴因が特定されておらず刑訴法256条3項に反すると主張する。
 しかし、判示第1の1~5はいずれも、被告人が勤務する小学校内で行われた同校の女子児童に対する盗撮であることを示し、健康診断、着替えなどと撮影の状況も付した上で、犯行時刻、犯行場所を特定していることなどからすれば、審判対象は明確であり、被告人の防御に支障を生じさせるおそれもないから、訴因は特定されているといえる。

神戸地方裁判所令和6年1月26日第4刑事部判決
       判   決
 上記の者に対する性的姿態等撮影、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和38年兵庫県条例第66号)違反被告事件について、当裁判所は、検察官安藤恵実子及び国選弁護人片岡昌樹各出席の上審理し、次のとおり判決する。
       主   文
       理   由
(罪となるべき事実)
 被告人は、
第1 正当な理由がないのに、令和5年9月8日午後2時56分頃から同日午後3時46分頃までの間、神戸市α区β×丁目×番B地下道南側出入口付近において、ひそかに、同所側溝内に動画撮影状態にしたスマートフォンを設置し、同スマートフォンで同側溝上を通行中の氏名不詳者12名が身に着けている下着の性的な部位を覆っている部分を撮影した
第2 常習として、女性のスカート内をのぞき見する目的で、
1 令和5年9月8日午後3時2分頃から同日午後3時48分頃までの間、神戸市α区β△丁目△番△号南西側に設置された側溝に入り、同側溝上を通行する氏名不詳の女性のスカート内をのぞき見し
2 同月13日午前5時33分頃から同日午前10時6分頃までの間、神戸市α区γ×丁目×番×号南東側に設置された側溝に入り、同側溝上を通行する氏名不詳の女性のスカート内をのぞき見し
3 同月14日午後5時24分頃から同日午後5時53分頃までの間、前記1記載の場所に設置された側溝に入り、同側溝上を通行する氏名不詳の女性のスカート内をのぞき見し
もってそれぞれ公共の場所において、人に対する、不安を覚えさせるような卑わいな言動をした
ものである。
(法令の適用)
罰条
判示第1の所為 包括して性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律2条1項1号イ、同法律附則2条
判示第2の所為 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和38年兵庫県条例第66号)15条2項、1項、3条の2第1項1号
刑種の選択 いずれも懲役刑を選択
併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(重い判示第1の罪の刑に47条ただし書の制限内で法定の加重)
刑の執行猶予 刑法25条1項
保護観察 刑法25条の2第1項前段
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
神戸地方裁判所第4刑事部
裁判官 荒金慎哉