児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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児童淫行罪の被害者と示談(300万円)・宥恕えて、2項破棄された事例(名古屋高裁H29.9.12)

 

名古屋高等裁判所
平成29年9月12日刑事第2部判決

       判   決
 上記の者に対する児童福祉法違反被告事件について,平成29年3月13日名古屋地方裁判所岡崎支部が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官江幡浩行出席の上審理し,次のとおり判決する。


       主   文

原判決を破棄する。
被告人を懲役2年6月に処する。
原審における未決勾留日数中240日をその刑に算入する。
原審における訴訟費用は被告人の負担とする。


       理   由

 本件控訴の趣意は,弁護人熊谷考人作成の控訴趣意書(当審第1回公判期日における口頭による訂正後のもの)に記載されているとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の認定事実と本件控訴の趣意等
(1)原判決は,罪となるべき事実として,要旨,被告人が,当時17歳の被害者(以下「A」ともいう。)が満18歳に満たない児童であることを知りながら、Aが通っていた高校等の運営に関与し,生徒であるAらの音楽教育等の指導に当たるとともに,愛知県内の高校の寮でAらと共同生活をしてその生活全般の指導監督に当たっていたところ,その立場を利用して,平成28年3月8日(以下「本件当日」という。),上記寮内において,Aをして,被告人を相手に性交させ,もって児童に淫行をさせる行為をした,という児童福祉法違反の犯罪事実を認定,摘示している。
(2)論旨は,要するに,被告人は,Aと性交しておらず,また,自己の立場を利用して,Aに淫行をさせる行為をしていないのに,前記(1)の犯罪事実を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というものである。 
 もっとも,弁護人は,当審第2回公判期日において,弁論の再開を求め,その後行われた被告人質問で,被告人は前記(1)の犯罪事実を認めるに至った。さらに,弁護人は,事実の取調べによって明らかになった,被害者側と示談が成立し,被害者側から減刑嘆願がなされていること等を,原判決後の事情として考慮し,量刑について職権判断を求めるに至った。
2 論旨に対する検討
(1)既に述べたとおり,現時点においては,被告人は,前記1(1)の犯罪事実を認めるに至っており,それを裏付けるAの原審公判証言(以下「A証言」のようにいう。)等の証拠が存在するから,前記1(1)の犯罪事実を優に認めることができ,同事実を認めた原判決の判断に,結論において,誤りがないことは明らかである。
(2)念のため,論旨に鑑み,前記1(1)の犯罪事実を認定した原判決の判断に誤りのないことを確認しておく。
ア 原判決は,概要以下のような判断をしている。すなわち,平成28年3月11日にAの膣の奥の部分から採取された内容物に被告人のDNA型とそれが一致する精子が含まれていたことなどから,同日に近接した時点で,被告人とAが性交した事実がほぼ確実なものと推認され,これと,本件当日,被告人に性交されたとするA証言(後記イのとおり信用できるものである。)を併せれば,被告人がAと性交した事実自体は,優に認定できる。さらに,被告人が,Aの通う高校及び習い事の学校の運営に関わるとともに,Aらと高校の寮で共同生活をし,Aを指導監督する立場にあったところ,約半年前からAに対して性的行為に及んでいた中で,Aを連れ出して高校の寮に二人きりでいた際に,Aから生理中であることを理由に再三拒まれたにもかかわらず,Aに対し,執ように被告人と性的行為を行うよう求め,被告人が一方的に胸や陰部を触るなどの性的行為を行い,性交にも及んだことが認められるから,被告人は,自己の立場を利用して,Aに「淫行をさせる行為」をしたと認定できる。
イ(ア)上記判断の骨格となるA証言の信用性を検討する。その内容を見ても,被告人から性的行為を受けるようになった経緯や,本件当日の被告人とAの行動,さらには,被告人がAと前記寮内で性交した際の行為態様や発言内容(性交中に,被告人は,「中に出すぞ」とか,「今出した」などとも言った。)等,具体性に富み,特段不自然なところがない。加えて,被告人から性的被害を受けていることを同じ習い事の学校に通う被害者の友人(以下「B」という。)に打ち明けた経緯や状況については,B証言によって十分その信用性が裏付けられている。また,Aが直接警察に被害を申告したわけではなく,Bに,いわば偶然に被害を打ち明けたという経緯からすれば,Aが被告人を意図的に陥れようとしたものとは考えられない。
 したがって,A証言は十分信用することができる。
(イ)所論は,A証言やその信用性を支えるB証言等の信用性を論難するが,A証言に所論が指摘するような不自然・不合理な点は認められず,BがAと口裏合わせをしたような事情などもうかがわれないことなどに照らすと,いずれも理由がない。
ウ 所論は,種々の点を指摘して,被告人の原審公判供述は信用性が高い旨主張するが,特にその信用性を支持するような客観的な裏付け等があるわけでもなく,上記A証言の信用性を左右するような事情は見当たらないから,原判決が指摘するとおり,それに反する被告人の原審公判供述は信用性に欠けるものといわざるを得ない。
エ 以上の次第であるから,A証言の信用性を認めた原判断に誤りはなく,それらの関係証拠に基づいて,前記1(1)の犯罪事実を認めた原判決に誤りはない。論旨は理由がない。
3 職権判断
(1)原判決の量刑について,弁護人は,当審での事実取調べの結果明らかとなった示談の成立等の原判決後の事情を指摘して職権判断を求めているから,この点につき職権で調査する。
 原判決が指摘するとおり,被告人は,自己の立場を利用し,高校の寮内で,被害児童の懇願に応じることなく,執ように性的行為を促して,性交に及び,膣内に射精までして,妊娠の危険にさらしたのであるから,卑劣で悪質な犯行というほかない。被害児童の受けた精神的・肉体的苦痛は大きく,結果は重大である。被害児童に対して性的行為を繰り返していたという被告人には,常習性もうかがわれる。
 被告人は,平成16年に青少年との性交2件を内容とする条例違反の罪により執行猶予付きの懲役刑に処せられ,次に,平成25年8月には,本件と同種の,被告人が実質的に経営していた塾の生徒である児童2名と性交等して淫行をさせる行為をしたという児童福祉法違反等の罪により懲役3年,5年間保護観察付き執行猶予に処せられた。それにもかかわらず,その判決宣告から約2年7か月という,保護観察付き執行猶予期間中に,更に本件犯行に及んでいるから,被告人にはこの種犯罪傾向が顕著であると評価せざるを得ず,遵法精神の乏しさもまた明らかであり,非難の程度は相当に厳しい。
 原判決は,そのほか,被告人が不合理な弁解に終始し,反省の態度が見られないこと,前刑の執行猶予の取消しが見込まれることをも考慮し,被告人を懲役3年に処するのが相当であるとの判断を示している。原判決の言渡しの時点でみる限り,この量刑判断が重過ぎて不当であるとは認められない。
 しかし,当審での事実取調べの結果,被告人が,被害児童の将来をもおもんぱかるなどして事実を認めるに至り,被害児童側との間で示談を成立させて300万円を支払ったこと,それを受けて被害児童側も減刑等の寛大な処分を求めるに至っていることが認められる。これらの事情は,事後の事情であっても,相応に量刑に影響を与えるものであるから,現時点においては,原判決の量刑は,いささか重過ぎるに至ったものと考えられ,刑期の点で是正を要する。
(2)よって,刑訴法397条2項により原判決を破棄し,同法400条ただし書により更に次のとおり判決する。
 原判決の認定した罪となるべき事実に,原判決と同じ罰条の適用,刑種の選択をし,その刑期の範囲内で被告人を懲役2年6月に処し,刑法21条を適用して原審における未決勾留日数中240日をその刑に算入し,原審における訴訟費用は刑訴法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとして,主文のとおり判決する。
平成29年9月12日
名古屋高等裁判所刑事第2部
裁判長裁判官 村山浩昭 裁判官 入江恭子 裁判官 赤松亨太