児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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師弟関係の児童淫行罪につき懲役3年(実刑)とした事例(岡崎支部h29.3.13)

師弟関係の児童淫行罪につき懲役3年(実刑)とした事例(岡崎支部h29.3.13)

児童福祉法違反被告事件
名古屋地方裁判所岡崎支部
平成29年3月13日刑事部判決

       判   決

被告人
検察官 西川和志
弁護人 寺田典弘(主任) 堤真吾 安田昂央


       主   文

被告人を懲役3年に処する。
未決勾留日数中240日をその刑に算入する。
訴訟費用は被告人の負担とする。


       理   由

※理由中の「A」,「B」,「C」,「F」,「G」,「I」,「高校」,「習い事の学校」は,関係者の氏名又は関係箇所に代わる呼称であり,その氏名等及び犯行場所である高校の寮の所在地は,別紙のとおりである。
(犯罪事実)
 被告人は,A(当時17歳)が満18歳に満たない児童であることを知りながら,Aが通っていた高校等の運営に関与し,生徒であるAらの音楽教育等の指導に当たるとともに,愛知県内の高校の寮でAらと共同生活をしてその生活全般の指導監督に当たっていたところ,その立場を利用して,平成28年3月8日,上記寮内において,Aをして,被告人を相手に性交させ,もって児童に淫行をさせる行為をした。
(証拠)《略》
(争点に対する判断)
1 弁護人の主張等
 弁護人は,要旨,〔1〕被告人はAと性交していない,〔2〕被告人はAに対し支配的な地位にないとして,被告人が無罪であると主張する。当裁判所は,犯罪事実のとおり,事実を認定し,被告人の行為は「児童に淫行をさせる行為」に当たると判断したので,その理由を説明する。
2 Aのちつの奥の部分から採取された内容物に被告人の精子が含まれていたこと
(1)P2医師,ちつ内容物を引き継ぐなどした各警察官,P3科捜研職員の各供述について
ア Aのちつ内容物を採取したP2の供述の信用性について検討すると,P2は,産婦人科の医師であり,知識,経験を有する専門家である。また,P2医師には虚偽の供述を行う動機はない。これらによれば,P2医師の供述は信用できる。
イ Aのちつ内容物を引き継ぎ,鑑定嘱託をするなどしたP4,P5,P6各警察官の供述について見ると,各警察官は,いずれも警察官の職務としてこれらの作業等を行っていること,鑑定書(甲14)添付の写真1によると,科学捜査研究所に持ち込まれたAのちつ内容物の付着した綿棒の入った袋には封印がされていたことなどからすると,各警察官の供述は信用できる。
ウ Aのちつ内容物の鑑定を行ったP3の供述について見ると,P3は,科学捜査研究所の警察職員であり,DNA型鑑定の知識,経験を有する専門家である。また,P3に,虚偽の供述を行う動機はない。これらによれば,P3科捜研職員の供述は信用できる。
(2)検討
 P2医師,P4警察官,P5警察官,P6警察官及びP3科捜研職員の各供述及びAのちつ内容物についての鑑定書(甲14)によれば,平成28年3月11日に採取されたAのちつ内容物には,精子が含まれており,その精子のDNA型(STR15座位)は,鑑定書(甲14)の別添表のとおりであることが認められる。
 そして,被告人の口腔内細胞についての任意提出書(甲19),領置調書(甲20),鑑定嘱託書謄本(甲21)及び鑑定書(甲22)によれば,被告人の口腔内細胞のDNA型(STR15座位)は,鑑定書(甲22)の鑑定結果のとおりであると認められる。
 これらによれば,Aのちつ内容物に含まれた精子のDNA型と,被告人のDNA型は,STR15座位の型全てにおいて一致していると認められる。そして,P3科捜研職員の供述によると,STR15座位の型全てにおいて一致する確率は,最もありふれた型で約4兆7000億人に一人であると認められる。
 これらに,被告人とAが高校の寮等でよく接触する関係であることをも併せて考えると,平成28年3月11日に採取されたAのちつ内容物には,被告人の精子が含まれていたと認められる。
 そして,P2医師の供述によれば,Aのちつ内容物は,ちつの入口に当たる外陰部ではなく,うっすらと白色の透明がかった内容物があった後ちつ円蓋を中心として,ちつの奥の部分から採取されたものであること,ちつ入口付近に精子が付着した場合,ちつの奥に精子が入り込むことは普通はないことが認められる。これらの事実を併せて考えると,被告人とAは,平成28年3月11日のAのちつ内容物の採取より前に,性交したことが強く推認される。
3 Aが被告人から性的行為を受けたというAの供述が信用できること
(1)Bの供述について
ア Bは,Aから,平成28年3月8日午後10時30分過ぎ頃,Aが被告人から性的行為を受けてきたことを聞いたなどと供述する。
イ Bの供述の信用性について検討する。
 Bの供述は,Aから,本件が警察に発覚した後に,Aが被告人から性的行為を受けたことを聞いたとするI(Aの母)の供述と符合する。また,Bは,Aに見せたというスマートフォンのメモや,Aの反応等をよく説明している。さらに,喫茶店でのやり取りについて,P7警察官の供述とも整合する。
 確かに,Bは,Aの友人である上,自身も被告人から性的行為を受けたと供述する者ではあるが,Aの受けた性的行為について断片的な情報のみ供述しているし,被告人が,喫茶店において,当初,Aに対する性的行為を否定していたことなど,被告人に有利なことも供述しており,誠実に供述しているといえる。
 これらによれば,Bの供述は信用できる。
(2)P7警察官の供述について
ア P7は,本件が警察に発覚した経緯について供述する。
イ P7は,警察官の職務として喫茶店に赴くなどしたにすぎないのであり,殊更に虚偽の供述をする動機はない。また,その供述内容は,あくまでも見聞きした断片的な情報にとどまっており,作為は見られない。これらによれば,P7警察官の供述は信用できる。
(3)I(Aの母)の供述について
ア Iは,Aから,本件が警察に発覚した以降に,Aが被告人から性的行為を受けてきたことを聞いたなどと供述する。
イ Iの供述は,同じくAから被告人によるAに対する性的行為を聞いたBの供述と符合する。また,Iは,Aの母であって,本件について利害関係があり,かつ,Aと口裏合わせをすることができる立場ではあるが,Iの供述は断片的な情報にとどまっており,殊更に虚偽を述べたり,口裏合わせをしたりしていないといえる。これらによれば,Iの供述は信用できる。
(4)Aの供述について
ア Aは,平成27年9月後半頃から,被告人から性的行為を受けるようになったことや,平成28年3月8日に,被告人から高校の寮で性的行為を受けたことなどを供述する。
イ Aの供述の信用性について検討する。
 まず,Aの供述のうち,被告人が平成28年3月8日に,Aの陰部に陰茎を突き立ててくるなどするとともに,「中に出すぞ。」と言い,その後,「今出した。」と言ったことは,そのとおりであれば,被告人がAと性交し,ちつ内に射精したことを強く推認させる。そうすると,Aのこの点の供述は,前記2(2)のとおり,平成28年3月11日にAのちつの奥の部分から採取された内容物に被告人の精子が含まれていたことと整合し,Aの供述の根幹部分の信用性を強力に支える。
 次いで,Aの供述は,Aから,平成28年3月8日午後10時30分過ぎ頃に,Aが被告人から性的行為を受けてきたことを聞いたとするBの供述と符合する。さらに,そのようにAがBに話した事実は,Aが供述するようにAが実際に被告人から性的行為を受けてきたことを強く推認させるのであり,Aの供述の信用性を相当に高める。
 加えて,信用できるB及びP7警察官の各供述によれば,Aは,まず,友人であるBに被告人によるAに対する性的行為を相談し,それがBの母らに伝わり,被告人とBの母らが話をする中で,被告人によるAに対する性的行為が警察に発覚することになったことが認められるが,このような発覚経緯は,Aの供述と符合する上,Aの警察への申告に作為がなく,Aの供述に虚偽がないことを推認させる。
 さらに,Aの供述は,Aの母親であるIがAから聞いた内容とも整合する。
 そもそも,Aが被告人による虚偽の性的行為を作出し,警察に申告するなどしたとは考えにくい。というのは,まず,Aは当時,高校等の生徒であり,被告人はAを高校や高校の寮などで指導する立場の者にすぎず,Aに被告人による虚偽の性的行為を作出する動機は考えにくい。また,Aの供述を見ても,Aは被告人から陰部に陰茎を挿入されたと断定していないなど,殊更に自己が受けた性的行為を強調していない。
 さらに,Aやその他の者は,被告人に対して,少なくとも逮捕後に金銭の要求をしていないから,Aが示談金欲しさに嘘をついたとは考えにくい。さらに,Aが,被告人に厳しく叱責されたことや,被告人に対する恋愛感情が満たされなかったことなどが原因でその報復のために被告人による虚偽の性的行為を作出したとは考えにくい。すなわち,Aは報復のために,自己のちつ内に被告人の精液を挿入したことになるが,Aが妊娠のリスクを冒してまで,被告人への報復を考えたとの事情は見出し難い。さらに言えば,平成28年3月11日のAのちつ内容物の採取時に,被告人の精液がAのちつの奥の部分に少量存在し,偽装した様子はうかがえないことや,Aは最初に友人であるBに被告人から性的行為を受けてきたことを打ち明け,Bがその母にその話を伝えるなどの経過をたどって本件が警察に発覚したことは,いずれも,Aが殊更に被告人を陥れようとしていないことを示すといえる。
 以上によれば,Aの供述は信用性できる。
ウ これに対して,弁護人は,被害時刻に関するAの供述が捜査段階から変遷していることを指摘する。しかし,性的被害に遭った者が時刻について記憶を混乱させることはあり得るのであり,Aが習い事の学校のカリキュラムを見るなどして被害時刻を整理して考えて供述内容を変えたとしても不自然ではない。
 また,弁護人は,Aの供述する犯行態様が極めて不自然であると主張する。しかし,Aにおいて性的経験が十分でないことなどからすると,Aが被告人の陰茎が自己の陰部に挿入されたかどうかを明確に供述できないことや,AにおいてAが供述するように犯行の態様を述べることなどが不自然とはいえない。
 さらに,弁護人は,Cの警察官調書抄本写し(弁3)等を根拠に,Aが事件後もCらの前で普段と変わらない様子でいたことを指摘する。しかし,一般に,性的被害に遭った女性が第三者の前で平静を装うことはあり得ることであるし,ましてやAは,以前から被告人から性的行為を受けてきたというのであるから,Aがそのような行動をとっていたからといって,Aの供述の信用性は否定されない。
 加えて,弁護人は,Aが以前から被告人から性的行為を受けてきたのに,母親や友人等に言わず,高校の寮から出るなどしていない事実を指摘して,不自然であると主張する。しかし,一般に性的被害に遭っている女性が周りの人に相談できずにいることはあり得ることであるし,Aも母親に気を遣うなどして相談できなかったなどと供述しているのであり,そのことが不自然であるとはいえない。
 Aの供述が信用できないという弁護人の主張は採用できない。
(5)Fの供述について
ア Fは,平成28年3月8日午後7時31分及び同日午後7時51分に被告人からメールを受け取ったことや,同月10日に,被告人からメールと電話で,前日に被告人が使用し,高校の寮で捨てたコンドームがなくなっていると伝えられたことなどを供述する。
イ Fと被告人との関係や,Fと被告人との面会の状況などからすると,Fは,被告人のために虚偽の供述をする動機があり,被告人と口裏合わせの機会がある。また,Fが供述する各メールについては,客観的な裏付けを欠く。Fは,交際相手であって無罪を争う被告人からこれらのメールの確認を頼まれ,平成28年3月後半から4月頃に各メールを見たにもかかわらず,警察や弁護人に依頼してパソコンなどのデータを保存しなかったというのであり,Fの言動は不自然である。
 これらによれば,Fの供述は,直ちに信用することができない。
ウ もっとも,仮に,Fが供述するように,被告人が平成28年3月8日午後7時31分及び同日午後7時51分に習い事の学校で使っていたパソコンからメールを送信したという事実があったとしても(特に,同日午後7時51分のメール),Aの供述と,実際に被告人とAが同日に習い事の学校に戻った時刻が多少違うことはあり得るのであり,このことで,Aの供述の重要部分が信用できないということにならない。また,仮に,Fが供述するように,被告人が使用し,高校の寮内で捨てられたコンドームが,同月10日に見当たらなくなったことがあったとしても,Aの供述と整合しないといえないのであり,Aの供述の重要部分が信用できないことにならない。
(6)被告人の供述について
ア 被告人は,平成28年3月8日を含めて,Aに対して性的行為をしたことは一切ないなどと供述する。
イ しかし,被告人の供述は,被告人がAに対して,平成28年3月8日やそれ以前に,性的行為をしたかどうかなどについて,信用できるAの供述と大きく異なる。
 被告人の供述のうち,少なくとも,信用できるAの供述に反する部分は信用できない。
4 被告人がAと性交し,Aが「淫行」をしたことについて
(1)被告人がAと性交したこと
 前記2(2)のとおり,Aのちつ内容物の鑑定の結果等によれば,被告人とAは,平成28年3月11日のAのちつ内容物の採取より前に,性交したことが強く推認される。
 加えて,Aは,「被告人は,Aに対して,平成28年3月8日,高校の寮で,様々な性的行為をしたほか,Aの陰部に被告人の陰茎を突き立てて,激しく上下するという行為を何度も行い,その際,被告人は『中に出すぞ。』と言い,その後,『今出した。』と言った。」などと供述しており,その供述は,前記3(4)のとおり,信用できる。ここで,被告人がAの陰部に被告人の陰茎を突き立てて,激しく上下するという行為をした際に,「中に出すぞ。」と言い,「今出した。」と言ったことは,それぞれ,「ちつ内に射精する。」,「ちつ内に射精した。」という意味で言ったことであると認められる。
 以上を併せ考えると,被告人は,平成28年3月8日に,高校の寮において,Aに対して様々な性的行為を行うとともに,Aのちつ内に自己の陰茎を挿入し,ちつ内に射精したと認められる。
 したがって,被告人は,Aと性交をしたことが認められる。
(2)Aが「淫行」をしたこと
 信用できるA,B,Gの各供述及びCの警察官調書抄本写し(弁3)並びに被告人の公判供述によると,〔1〕被告人は,Aらの通う高校や習い事の学校の運営に関与し,高校や習い事の学校の生徒であるAらに対する音楽教育等の指導を行うとともに,Aらと高校の寮で共同生活をしていたこと,〔2〕被告人(当時41歳)とA(当時17歳)との間には,男女間の交際関係はなく,被告人には当時,交際相手がいたことが認められる。
 これらによれば,被告人とAとの間の性交は,Aにとって,児童であるAを単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交であって,児童の心身の健全な育成を阻害する恐れがあると認められる性交であるといえる。
 以上によれば,Aが「淫行」をした事実が認められる。
5 被告人が,自己の立場を利用して,Aに被告人を相手に性交させ,Aに淫行を「させる行為」をしたことについて
(1)認定事実
ア 信用できるA,B,Gの各供述及びCの警察官調書抄本写し(弁3)並びに被告人の公判供述によると,次の事実が認められる。
 すなわち,〔1〕被告人(当時41歳)とA(当時17歳)は,男女間の交際関係でなかった。被告人は,生徒としてAらが通う高校及び習い事の学校の運営に関与し,Aらの音楽教育等の指導に当たっていた。また,被告人は,生徒だけでなく,高校等の教師に対しても叱るなどして指導していた。さらに,被告人は,Aらと共に高校の寮で共同生活をし,Aらの生活全般の指導監督にも当たっていた。〔2〕被告人は,平成28年3月8日,Aを習い事の学校から,A及び被告人らが生活する高校の寮に連れ出し,寮に二人きりの状況で,Aがやめるように懇願したにもかかわらず,執ように性的行為を行うことを促して,性的行為及び性交に及んだ。〔3〕被告人は,本件時,脱衣所及び浴室内等で,Aの胸や陰部を一方的に触り,陰茎を陰部に押し付けるなどした上、避妊の措置をとることなく陰茎を陰部に挿入し,そのままちつ内に射精した。また,被告人は,約半年前から,繰り返しAに対して一方的に性的行為に及んでいる中で,本件性交に及んだ。
イ なお,被告人は,Aらの音楽教育等の指導に当たっていないと供述するが,信用できるA,B,Gの各供述によれば,被告人は,高校や習い事の学校で決まった授業を担当することはなかったものの,Aらに対して歌を教えるなど,音楽教育等の指導をしていたと認められる。 
 被告人は,Aらと高校の寮において共同生活をしていたが,Aらの生活の指導監督はしていないと供述する。しかし,信用できるGの供述及びCの警察官調書抄本写し(弁3)並びに被告人の公判供述によれば,被告人は,Gに対して自分はボディーガード役として寮に入るなどと言って,高校の寮に住むようになったこと,被告人は,高校の寮において,日常,夕食の準備や,自動車による高校等への生徒らの送り迎えを行っていたこと,被告人はAらに対して,「早く寝るように。」と言うことがあったことが認められる。そして,これらに,被告人が高校や習い事の学校でAらを指導していたことなどを併せ考慮すると,被告人は,Aらと高校の寮において共同生活をしていただけでなく,Aらの生活全般の指導監督をしていたと認められる。
(2)検討
 前記(1)アのような被告人とAとの関係,被告人がした淫行への助長・促進行為の内容及びAの意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る経緯等を考慮すると,被告人は,Aに対して事実上の影響力を強く及ぼしてAが淫行をなすことを助長し促進したといえる。
 そうすると,被告人は,自己の立場を利用して,Aに被告人を相手に性交させ,Aに淫行を「させる行為」をしたと認められる。
6 結論
 以上から,犯罪事実を認定した。
(法令の適用)
罰条 児童福祉法60条1項,34条1項6号
刑種の選択 懲役刑を選択
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の負担 刑事訴訟法181条1項本文
(量刑の理由)
 被告人は,犯罪事実記載の自己の立場を利用し,高校の寮内で,被害児童がやめるように懇願したにもかかわらず,執ように性的行為を行うことを促して,性交に及んだもので,卑劣で悪質な犯行である。被告人は,本件時,避妊具を用いなかったばかりか,ちつ内に射精をしており,被害児童を妊娠の危険にさらした点でも悪質である。また,被告人は,以前からその寮内で被害児童に対してたびたび一方的に性的行為に及んでいたのであり,被告人の行為には常習的な面がある。被害児童は,被告人からの要求を拒みにくい状況で,性交させられ,精神的肉体的苦痛を被ったのであり,結果は重大である。他方,被害児童は被害当時17歳であり,より年少の児童に対する事件と比べると,悪質さに差異がある。
 さらに,被告人は,平成16年に岐阜県青少年健全育成条例違反の罪(青少年との性交2件)により執行猶予付きの懲役刑の有罪判決を受け,平成25年8月には,傷害,児童福祉法違反(本件と同種の,児童との性交により淫行をさせる行為等)等により懲役3年,執行猶予5年保護観察付きの有罪判決を受けたにもかかわらず,前刑の判決宣告から約2年7か月後に本件犯行に及んでいるのであり,被告人には,この種事件についての常習性や,法律を守る意識の乏しさが認められ,被告人に対しては厳しい非難が妥当する。また,被告人は,自己の犯行を否認し,不合理な弁解に終始しており,反省の態度は見られない。他方,被告人について,前刑の執行猶予の取消しが見込まれる。
 以上によれば,被告人に対しては,主文の刑に処するのが相当であると判断した。
(求刑 懲役4年)
平成29年3月13日
名古屋地方裁判所岡崎支部刑事部
裁判官 近道暁郎