児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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足の指を嘗める行為を強制わいせつ罪とした事例(神戸地裁h15.4.10)

 「被害者の足の指を舐める行為についてもわいせつ行為に該当することは当然である。」というのですが、裁判例はヒットしません。

神戸地方裁判所/平成15年4月10日
       理   由
(罪となるべき事実の要旨)
 被告人は,タクシー運転手として稼働していたものであるが,平成14年11月23日,かつて被告人運転のタクシーを利用したA(当時24歳)から電話があったことを奇貨として,同女を被告人方に連れ込めば同女と性交したりできると考え,その電話での会話中,同女に対し,「もうそろそろ俺の命がないから会いたい。」「きてくれたら死なない。」「早く来てくれ。」などと嘘を言うなどし,同日午後9時ころ,同女を肩書住居地の被告人方に連れ込み,その後,同女に対し,「エッチだけさせてくれ。」等と申し向けたところ期待に反して同女に拒絶されたことから,同女に強いてわいせつな行為をしようと決意し,同日午後9時20分ころから午後10時ころの間,同所において,座している同女の膝を右手で押さえるなどしてその左右の靴下を左手ではぎ取り,同女の両足指を舐め,ついで,同女の両脚部を両手でつかんで押しひろげた上,着衣の上からその陰部を右掌で揉んでもてあそぶなどし,もって,同女に強いてわいせつな行為をした。
(証拠の標目)
 (括弧内の「検」で始まる数字は証拠等関係カードにおける検察官の請求番号を示す。)
 省略
(補足説明)
第1 弁護人は,1被告人は被害者とされる判示A(以下「被害者」という。)に対し判示のようなわいせつ行為(以下「本件行為」という。なお,被害者の足の指を舐める行為についてもわいせつ行為に該当することは当然である。)をしていない,2本件行為が存在していたとしても,被害者は被告人が本件行為をすることにつき明示または黙示の承諾をしていた,3被害者が本件行為につき承諾していなかったとしても被告人はこれがあると誤信していた,とし,無罪を主張する。被告人は,捜査段階では本件行為のうち一定のものを認めていたが,公判廷では全く記憶がない旨述べている。そこで事実認定の理由について補足する。
第2 本件行為の存在について
1 被害者の供述の信用性
(1) 弁護人の指摘
 被害者は,被告人と知り合った経緯,被告人方に行くことになった事情,被告人方でのできごとを詳細に供述しているところ,弁護人は,その行動は以下のようなもので,通常の若い女性の行動として不可解を通り過ぎた疑念があると指摘する。
 すなわち,被害者は,被告人のタクシーを利用していたが,初対面の時を含め,家族関係や交際相手の存在,消費者金融会社に多額の負債を負っている状況,近日勤務先を解雇される危険を感じていること等,さほど親しいとはいえない被告人にかなりプライベートな事情を話している。また,被害者は,その後被告人から被害者の携帯電話の留守番電話に「おれはだめや。俺は死ぬ。」等という録音が頻繁になされるようになって困惑したとするが,交際相手にそのことを話したところきっぱり断るように忠告され,本件当日,被害者に電話をかけてこないように言おうと思って被告人に電話をかけたというのに,勤務先をくびになるなどと相談を持ちかけるような切り出し方をし,その後ようやく被告人に苦情を言うについても,電話回数を減らしてほしいなどときっぱり断るということとは相当かけはなれた態度を示している。そして,被害者は,その際被告人から判示のようなことを言われて自宅に来てくれるよう頼まれたというものの,その際わいせつなことをも言われたにもかかわらず,誰にも相談せず被告人方に行くこととし,被告人方に行って本件被害にあったという。また,被害者は,被告人方では,被告人から「エッチさせてくれ。」などと言われたのに対しては明確に拒絶したのに,本件行為に対しては拒絶の態度を示していない。
 弁護人は,被害者のこのような行動が不可解にすぎるなどとし,さらに,被害者が,被告人方でいったん被告人に性交やわいせつ行為に応じるよう言われたのに対し断っているのに,その後被告人が本件行為に出たのに対してはじっとしたまま何らの言葉も発しなかったことも不自然を通り越すようなことであるとしている。
(2) そして,このうち,被告人方を訪れるまでの被害者の行動は,被告人の電話を気味が悪いとして困惑しながら一人で被告人方に行くことを含め,最近の社会情勢のもとでは,特定の交際相手のある24歳の働く女性として無防備であるといえ,弁護人の指摘ももっともな面があるかのようである。
 しかし,被害者がわざわざ虚偽の供述をして被告人を罪に陥れる理由は全くない。また,被害者の供述する同人の行動は被害者の生活状況に照らし落ち度があると言われるべきことがらであり,仮に被害者が被告人方に行ったことを交際相手に知られたくない等の理由があるとしても,このような経過まで作り上げる必要がないことも明らかである。
 むしろ,被害者の供述は,経験したものでないと述べることができない具体性,迫真性を有する上,携帯電話の着信履歴や通話明細といった客観的証拠や,被害者以上に信用性に疑いの余地がない,交際相手や本件行為の当時たまたま被害者に電話をかけた知人B等関係者の供述とよく符合する。
(3) なお,被害者が被告人にプライベートな事実を話しすぎていることが不自然であるという点は,被害者が話した内容は被告人も争わないことであり,また被害者が被告人にこのようなことを話したからといって被害者の供述が信用できなくなることにはならない(なお,被害者は本件当日被告人方に行く際被告人が手配したその友人Cのタクシーを利用しているところ,同人にも近日勤務先を解雇されることを話すなどしており,被害者は単に他人との会話等に無警戒であるというだけであると認められる。)。また,弁護人は,被害者は被告人方で被告人から「エッチ(だけ)させてくれ。」などと言われたのに対しては明確に拒絶したのにその後本件行為に対しては拒絶の態度を示していないとするが,被害者が本件行為の間泣いていたことは弁護人の認めるとおりであって被害者や前記Bの供述からも明らかであるところ,これは明確な拒絶の態度である。
 そして,被害者が一人で被告人方に行った点についても,被告人から自殺をほのめかされるなどされて心配になり被告人方へ行ったとする被害者の心情は理解することができるものであり,不可解ではない。
 結局,弁護人の指摘するような理由から同女の供述の信用性がないとすることはできない。
(4) 以上のとおりであって,被害者の供述には高い信用性が認められるというべきである。
2 ところで,被告人の捜査段階における供述調書には,本件行為のうち一定の範囲で,被告人がこれを行ったことを認める,すなわちその記憶がある旨の供述をしていることが録取されているのであるが,被告人は,当公判廷において,被告人方で被害者に対し何をしたか全く覚えておらず,前記供述調書にそのような記載があるのは,被告人に記憶がないため捜査官が示す被害者の供述に反論ができなかったためであると弁解する。しかし,そうだとすれば,被告人の供述調書には本件行為の少なくとも大部分を認める供述が記載されていてしかるべきと考えられるところ,被告人の供述調書には被害者の供述内容をそのまま受け入れたようなものでは全くなく,本件に至る経緯については被害者の供述を否定している部分もあり,本件行為についても記憶がない部分が多いとしているもので,被告人の弁解は不合理である。また,前記Cは,被告人は,被害者が被告人方に到着した当時,いつもと変わらないしっかりした口調で話をしており,酔っ払っている様子はなかったと供述しているのであって,被告人は少なくともその段階まではそれほど酩酊していなかったと認められる。
 そうすると,被告人は,本件行為について少なくとも捜査段階で供述している程度の記憶があると認められ,まず,本件について全く覚えていないとする公判廷における被告人の供述は信用できない。
 さらに,被告人の携帯電話の通話明細によれば,被告人が本件の後である平成14年10月31日被害者に対して電話をしたことが認められるところ,前述のことからすると,被告人はこの電話の時点で本件行為の一部を覚えていながら被害者に電話したものと認められる。この点をふまえ検討すると,さらに,被告人が本件までにも被害者に対して頻繁に電話をかけていたとする被害者の供述を否定する被告人の公判供述も信用できず,被害者とその交際相手の供述からは,被告人が本件以前から被害者に対し頻繁に電話をかけていたことや,被告人が同年12月30日に被害者に電話をして「この間のことごめんね。酔っ払っていてごめんね。」等と言ったこともまた十分認定できる。
3 以上のとおりであって,本件行為の存在は,被害者等,被告人以外の者の供述からだけでも疑いの余地がなく,被告人の捜査段階における供述についても被害者の供述と合致する範囲では信用性がある。
第3 被害者の承諾及びその誤信等について
1 被害者の承諾の存在について
 弁護人は,被告人が被害者に対して格別の有形力を行使しなかったこと,被害者が被告人の本件行為に対して積極的な抵抗をせず,電話をしてきた前記Bに対しても結局助けを求めなかったこと,被害者が被告人からわいせつなことを言われながら被告人方に行っていること,被害者が被告人方から逃げずに1時間余りもとどまっていたこと等の事実から,被害者は被告人が本件行為をすることを承諾していた旨主張する。
 しかしながら,前記のように信用性の高い被害者の供述等関係各証拠によれば,被害者と被告人は被害者が被告人の運転するタクシーを3回利用したという関係に過ぎなかったこと,被害者には交際相手がいたこと,被害者は被告人から頻繁に電話がかかってくることを気味悪く思い,前記交際相手に相談していること,被害者は被告人に対し電話をかけてくるのをやめて欲しい旨言っていること,被害者は被告人から「彼氏(交際相手)と別れろ」とか「エッチだけさせてくれ」等と言われたことに対して明確に「嫌です。」と繰り返し言っていること,被告人の本件行為に対して,被害者は涙を流したりする等強くはないが拒否の態度を示しており,また被害者は本件行為時に明確な抵抗をしていないがその当時被害者は被告人方という密室で被告人と二人だけでいたものであること(また本件行為は被害者も供述するように気味が悪い行為であり,身動きできなかったという被害者の供述も信用できる。),被害者は前記Bの電話に対し「いたずらされている。」と助けを求めようとしていること,被害者は被告人が本件行為後ズボンを脱がそうとしてきたことに対しては強く抵抗していること,被害者は本件の3日後に前記交際相手に対し被害を打ち明けており,その際の被害者の様子がパニック状態になったような感じであったこと,被害者が本件の5日後には警察に被害届を提出していること等が認められ,これらの事実からすると,弁護人指摘の事情を考慮してもなお,被害者は本件行為を承諾していなかったと認められる。
2 被害者の承諾の誤認について
 弁護人は,1でみた弁護人主張の点,とりわけ被害者が被告人の本件行為に対して積極的な抵抗をしなかったこと,被告人が電話で前述のように卑猥なことを言ったにもかかわらずその誘いに応じて一人で被告人方へ来たこと,被害者が被告人方から逃げようとしなかったこと等の事実から,被告人は被害者が本件行為につき承諾しているものと誤認していた旨主張する。
 しかしながら,まず,被害者が被告人方に来たのは被告人が被害者に対し「もうそろそろ俺の命がないから会いたい。」「薬を大量に飲んで死ぬ。」「きてくれたら死なない。」と自殺をほのめかすような嘘を言うなどしたためである。弁護人はこれを戯れ言であって非難することはできないと言うが,これらが客観的にみて虚偽であること,被告人が被害者を自宅に呼び寄せる手段としてこのようなことを述べたことは疑いがない。また,被告人自身認めることであるが,被害者に交際相手がいることは被告人も認識していた。そうすると,被告人はそのような嘘を言わなければ被害者が自宅に来ることはないと思っていたと認められるのであって,被告人は,被害者の同情心に訴えて同人を自宅におびき寄せたというほかない。
 そして,これらのことや被害者が被告人から「エッチだけさせてくれ」等と言われたことに対して明確に「嫌です。」と繰り返し拒絶したこと等1でみた事実,第2の2でみたとおり,被告人が同年12月30日に被害者に対し謝罪の電話をしていること等からすると,被告人が本件行為当時被害者がこれを承諾していないと認識していたと明らかに認められる。被告人は本件行為について被害者の承諾があると思っていた旨の弁解もするが,被告人は公判廷では本件行為をしたこと自体の記憶がないとしているのであって,被告人の弁解には大きな自己矛盾がある上,第2でみた点からしてもとうてい信用できない。
3 犯意の発生時期
 しかし,その一方で,被害者の言動に問題があることは否定できず,また,被告人は被害者を自宅に連れ込んでからただちにわいせつ行為に及んだのでもない。そして,被告人が本件行為に及ぶ前に被害者に対し「エッチだけさせてくれ」等と言っていることに照らすと,2で検討した点を前提としても,被告人が被害者に「もうそろそろ俺の命がないから会いたい。」等と述べた時点や被害者に「エッチだけさせてくれ」等と言った時点では,被告人には被害者を自宅に呼び寄せれば渋々でもその承諾を得て同人と性交等ができるのではないかと期待していたと考える余地があり,関係証拠によっては,被告人にその時点前に強いて本件行為をする意思があったことまで認められるとはいい難い。そうすると,犯意の発生時期については,判示のとおり,被告人が被害者に「エッチだけさせてくれ」等と言ったことに対して被害者が「嫌です。」と拒否した時点と認めるほかない。
(法令の適用)
 被告人の判示所為は刑法176条前段に該当するので,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役1年8か月に処することとし,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予し,なお同法25条の2第1項前段を適用して被告人をその猶予の期間中保護観察に付することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
   平成15年4月10日
 神戸地方裁判所第11刑事係乙
         裁判官  橋本 一