児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

スェーデン最高裁での無罪判決

 児童ポルノ規制先進国であるスェーデンで「絵が衝撃的な内容ではあるにしても、実物描写と比較して、このような絵から人物を特定できる可能性は僅かであり、また一般的に児童の侮辱になる可能性も極めて少ない」として無罪判決が出たというのです。
 こんなことは、スェーデン等からは児童ポルノ後進国と揶揄されている日本の大阪高裁H12が「同法が,児童ポルノに描写される児童自身の権利を擁護し,ひいては児童一般の権利をも擁護するものであることに照らすと,児童ポルノに描写されている児童が実在する者であることは必要であるというべきである」と、金沢支部h14が「確かに,上記「児童ポルノ」は実在する児童を被写体としたものと解すべきであるが,この点は児童買春処罰法2条1項の「児童」が18歳に満たない者と定義され,これを用いて児童ポルノも定義づけられていることからすると,児童の実在を前提とする趣旨は明確となっているというべきである」と判示したのと同じです。

http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/refer/200811_694/069403.pdf
で解説しているように、各国とも、非実在の規制には難儀しているようですね。だから奥村は、規制したければ、児童ポルノ法とは別の法典で行うべきだと言っているのです。

http://www.hogstadomstolen.se/Domstolar/hogstadomstolen/Avgoranden/2012/2012-06-15%20B%20990-11%20Dom.pdf
HÖGSTA DOMSTOLENS
DOM Mål nr
meddelad i Stockholm den 15 juni 2012 B 990-11
Dok.Id 68698
HÖGSTA DOMSTOLEN Postadress Telefon 08-561 666 00 Expeditionstid
Riddarhustorget 8 Box 2066
103 12 Stockholm
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13:15-15:00
E-post: hogsta.domstolen@dom.se
www.hogstadomstolen.se
KLAGANDE
SL
Ombud och offentlig försvarare: Advokat LS


mixiで翻訳が出ていました。

http://page.mixi.jp/run_page_apps.pl?page_id=263661&module_id=1482436
スウェーデン最高裁判所
2012年6月15日 B990-11
(シモン・ルンドストロム事件)
原語(スウェーデン語)
日本語訳(第一稿:監修中)
判決

最高裁判所は起訴を却下

ハードディスクの没収請求は却下される。
押収は取り消し(ウップサラ県警察署; 押収品番号:2009-0300-BG3663  p.3:2, 5:2及び5:3及び押収品番号:2009-0300-BG3675p.1)

シモン・ルンドストロムは、犯罪被害者基金に関する法(1994年,第419号)に基づく費用の支払義務及び地方裁判所における弁護費用の返済義務から解放される。

最高裁判所におけるシモン・ルンドストロムの弁護費用に関しては、レイフ・シルベスキ(弁護士)に対し、公的資金から19,456クローナの報酬が支払われるものとする。この費用は国家が負担する。金額の内訳は、以下。業務に対し14,460クローナ、時間の浪費に対し1,105クローナ付加価値税として3,891クローナ
・・・・・
罰則から見た判断 
6.児童ポルノ犯罪に関する規定は、文言及び用いられた定義を見ると、適用範囲が幅広くなっており、特に絵に関してはそうである。法改正予備業務においては、現実描写ではない絵も刑罰範囲に含まれる可能性があると指摘されている(議案書1997年・98年第43号74頁)。絵の内容の違いによる、例えば実際の暴力行為を描いている絵、人間的な特徴を持つ架空の人物を描いている絵等に対する刑罰の区別に関する議論は行われていない。

7.しかし児童の実物描写に関し立法府は、刑罰の適用範囲が広くなり過ぎたり、その確定が困難になったりする事を防ぐ為、規定の解釈に関しては慎重になるようにと促している。予備調査においては、例え一部の人間の性欲を刺激するとしても、全ての児童の裸体絵あるいは性器が認識できる絵を違法にする事は目的ではないと述べている(議案書1978年・79年第179号9頁及び議案書1997年・98年第43号82頁参照)。実物の児童を描写しているわけではない絵或いはそれ以外の描写に関しても、規定の解釈においては同様に慎重になるべきであるという結論は妥当である。特に架空の人物あるいは漫画の登場人物に関しては、それらの絵が犯罪に当たるかどうか、明確な線引きをする事は危険である。

8.EUは2011年、児童に対する性的暴行、児童の性的利用及び児童ポルノに対する抑制、さらに委員会の枠組決議2004年第68号RIFの差し替えに関する指示書(2011年第93号・EU)を採択した。いわゆる*最低限度指示書である、指示書の第2章中の本件と関係する部分において、児童ポルノとは、児童が明らかに性的行為に参加する実物描写の絵、または主に性的目的で児童の性器を描いた写実的な絵であると定義されている。指示書の作成にあたり非現実的な人物、例えば漫画の登場人物等が児童ポルノという定義に当てはまるかどうかは不確実であった。委員会は、共通の目的は現実を描写する絵のみを罰する事であったと注記している(2010年/0064/COD文書番号10335/1/10改正版1)。上記の指示書もこの目的に合わせて作成された。

9.スウェーデン法において、写実的な絵と架空の人物を描いている絵の区別はしていないが、写実的な絵の方がより明確に防御意識を高める。そのような絵は明らかに罰則対象であると判断ができる。

10.従って写実的であると判断せざるを得ない絵(5を参照)に関しては、罰則の対象となる。後は、シモン・ルンドストロムによるその絵の所持が正当であったかどうかを審理する事である。(26を参照)

11.前述のように、その他の38枚の絵に関して確実に言えるのは、それが児童を描写しているという事である(4を参照)。しかし、これらは明らかに実在の児童の描写ではなく架空の人物の絵である。児童ポルノに関する規定の土台である防御意識は、これらの絵に関しては比較的薄い。(比較:準児童ポルノに関する議案書1997年・98年第43号103頁〜)

12.上記で述べた背景を鑑みると、罰則の適用範囲の境界線は当該の38枚の絵に関しては曖昧である。それならば、この場合は言論の自由と情報の自由に関する基本原則を考慮した上で罰則の解釈を行うべきである。


言論の自由及び情報の自由

・・・・
22.立法府が主張した児童ポルノを犯罪の一種と見なす理由は、前述のように背後にあり得る暴行から児童を保護する為であり、また児童ポルノの画像が児童を性的行為に誘う為に利用され得る為である。
更に法の目的として挙がっているのは、児童ポルノ的な画像は児童に対する侮辱に当たる為、このような一般的な侮辱から児童を保護する事である。後者は、絵をも犯罪の一種と見なす理由としても挙がっている。また実在の児童を描写している可能性もあるとも述べている。

23.これらの38枚の絵が衝撃的な内容ではあるにしても、実物描写と比較して、このような絵から人物を特定できる可能性は僅かであり、また一般的に児童の侮辱になる可能性も極めて少ない。当該の絵に関しては、実際の暴行を描いている内容ではないという事は明らかである。児童を想像させるようなポルノ的な絵の存在自体が、このような非現実的な絵を例外なく犯罪の一種と見なすような言論の自由と情報の自由の相当幅広い規制をする程、児童全般に対する侮辱に当たるという事はない。更に子供が性的行為に参加する事を防ぐ為という理由も、そこまでの規制をする理由にはならない。それに加えて漫画絵は日本の文化に深く定着しており、その背景を鑑み言論の自由及び情報の自由を可能な限り重視する理由がある。

24.上述の内容から、本案件の当該38枚の絵の所持を犯罪の一種と見なす事は罰則に至る原因となった目的を鑑み、必要な限度を凌駕している。憲法に則り解釈すると、これらの絵の所持は罰則対象にはならないと判断ができる。

阪高裁h12.10.24
(2) 法2条3項について
  ア 所論は,法2条3項によって規制対象とされる児童ポルノとは,被撮影者となっている子供の人権を救済し,保護するという児童ポルノ法の規制目的に照らすと,被撮影者の氏名,住所が判明しているまでの必要はないにしても,具体的に特定することができる児童が被撮影者となっている場合に限るとすべきであるのに,同条項において,そのような特定を要求していないのは,表現の自由に対する過度に広範な規制と言うべきである,という。
    しかし,前記(1)において説示したような児童ポルノ法の立法趣旨,すなわち,同法が,児童ポルノに描写される児童自身の権利を擁護し,ひいては児童一般の権利をも擁護するものであることに照らすと,児童ポルノに描写されている児童が実在する者であることは必要であるというべきであるが,さらに進んで,その児童が具体的に特定することができる者であることまでの必要はないから,所論のような規定が設けられていないからといって,法2条3項が,表現の自由を過度に広範に規制するものとは言えない。
 イ 所論は,児童ポルノの被撮影者は,一見児童であるように見えても,18歳以上の者である場合があり得るから,検察官は,被撮影者となっている児童が存在し,その者が児童であることを積極的に立証する必要があるのに,法2条3項にその趣旨が明記されていないのは,表現の自由に対する過度に広範な規制をするものであって,憲法21条に違反する,という。
  しかし,所論の指摘するような構成要件該当事実について検察官に立証責任があることは,刑訴法上当然であるから,法2条3項に所論指摘のような規定が設けられていないからといって,同条項が,表現の自由を過度に広範に規制するものとは言えない。

名古屋高等裁判所金沢支部
平成14年3月28日
平成13年(う)第78号
弁護人奥村弁護士
(3)所論は,児童買春処罰法により規制される児童ポルノ(同法2粂3項)は,実在する児童が被写体となった視覚的表現手段に限るべきものであるところ,同条項では児童の実在性が明文化されておらず,萎縮効果のおそれがあるから,憲法21条に違反するという(控訴理由第8)。確かに,上記「児童ポルノ」は実在する児童を被写体としたものと解すべきであるが,この点は児童買春処罰法2条1項の「児童」が18歳に満たない者と定義され,これを用いて児童ポルノも定義づけられていることからすると,児童の実在を前提とする趣旨は明確となっているというべきである。所論は採用できない。

阪高裁H21.9.2
1法令適用の誤りの主張について
弁護人は,本件犯行時に児童が生存して実在していることが必要である旨主張するが,児童ポルノ法が児童ポルノを規制の対象とするのは,それが児童を性の対象とする風潮を助長することになるのみならず,描写の対象となった児童の人権を侵害するとの考えに基づくものであり,このような立法趣旨にかんがみれば,児童ポルノが作成された時点で対象児童が実在すれば足りるというべきである。そして,関係証拠によれば,本件児童ポルノのもととなった児童ポルノが作成された時点で対象児童が実在したことは明白である。

追記

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120831-00000301-kinyobi-soci
漫画からのイメージ・ファイルをパソコンに持っており、児童ポルノ所持で有罪判決を受けていたスウェーデンの漫画専門家に最高裁判所が無罪判決を出したと、英国・BBCやスウェーデン・The Localなど複数のメディアが報じた。

 日本の漫画『ネギま!』や『ナルト』のスウェーデン語版翻訳をするなど、スウェーデンの漫画界で有名なシモン・ルンドストロム氏(三七歳)は二〇一一年、パソコンにあった漫画のイメージ・ファイルの三九点が児童ポルノ所持に当たるとされ、地域法廷で二万五〇〇〇クローナ(約二九万円)の罰金が科せられた。二審では五六〇〇クローナ(約六万五〇〇〇円)と減ったものの有罪は変わらなかった。

 ところが、ルンドストロム氏の上訴に対し、最高裁判所は六月一五日に無罪判決を出した。裁判で検察側は「実物の児童の写真であるか描かれたものであるかにかかわらず、児童は性的対象として描写されてはいけない」と主張。これに対しスウェーデン漫画協会長のフレデリック・ストロンバーグ氏は「ヨーロッパの基準で児童と判断してはいけない」と訴えた。

 同氏によれば「日本人は年齢を問わず『可愛い』という感覚」を持っていて、「漫画のキャラクターは小さくて可愛く、若く描かれる傾向があり、これは年齢を示すためではない」からだという。

追記9/17

外国の立法 No.252-2 (2012年8月:月刊版)
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_3517521_po_02520106.pdf?contentNo=1
スウェーデン非実在青少年ポルノ所持を無罪とする最高裁判決
所有するコンピュータのハードディスク内に日本のマンガイラストを保存していたことにより、スウェーデンのマンガ研究家が、児童ポルノ所持の罪で第一審、第二審とも有罪判決を受けた事件について、スウェーデン最高裁は、2012 年 6 月 15 日、無罪判決を下した(事件番号 B990-11)。第一審、第二審とも、児童ポルノに関する罪において保護されるのは、児童の尊厳であり、描写される児童が実在の人物か否かは、絵画が児童ポルノであるかどうかを判定する場合に問題とされないという理由で、マンガイラストは、刑法上の児童ポルノに該当すると判断していた。最高裁も、マンガイラストが「ポルノ」であり、「児童」を描写した絵画であることは認めたが、マンガイラストは、想像上の児童の姿であり、実際の児童と誤認されるおそれは皆無であるため、その所持までも犯罪とすることは、表現及び情報の自由に対する制限の必要性を超え、刑法上の児童ポルノに該当しないと判断した。 (海外立法情報課・井樋 三枝子)