児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

非実在の児童の児童ポルノ犯罪有罪判決

 日本も個人的法益とかいいつつ、運用では社会的法益的ですからね。

http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/legis/pdf/02480004.pdf
スウェーデンにおける児童ポルノ処罰規定
児童ポルノ対象範囲の拡大と新たに処罰される行為―
海外立法情報課  井樋 三枝子
? 非実在の児童の児童ポルノ犯罪有罪判決 ―日本のマンガイラスト所持に関する事件―
これまで紹介した2010 年の児童ポルノ犯罪関係の一連の法改正の施行日 である2010 年7月1 日の前日、6 月30 日に、児童ポルノ犯罪に関する有罪判決が、ウプサラ地方裁判所で出された。この裁判は改正前の法律に基づいている。2010 年6 月30 日、ウプサラ地方裁判所は、日本のマンガの画像を所持していたマンガ研究・翻訳者である被告人に対し、軽度の児童ポルノ犯罪の有罪判決を下した。被告人自宅のコンピュータとその他の記録媒体の中に保存していた合計51 点の画像が、警察の捜査の結果、児童ポルノであるとみなされ、児童ポルノ犯罪として起訴された事件である。地裁判決は、まず、児童ポルノ犯罪規定の立法趣旨から、児童ポルノ犯罪において、ポルノに描かれた児童の実在・非実在は問われないこと、写実的でないイラストも処罰対象となることを示し、その上で、問題のイラストは明らかにポルノの性質を有しており、描かれている人物は、思春期の成長が未完了であり、刑法典で規定する「児童ポルノ」における「児童」に該当すると判定した。いわゆる非実在の児童のポルノが処罰される理由としては、児童ポルノ犯罪規定が、刑法典中、性犯罪に関する章ではなく公の秩序に対する犯罪の章に置かれていること、立法趣旨から、その保護法益は実際に描かれた特定の児童と児童一般の両方であると解釈されることから、モデルの実在性や具体的な性的な侵害の存在は必ずしも必要とされないためとしている。判決後も被告人は一貫して、児童ポルノについては、児童への搾取であり許されるものではないことを認めながらも、被害者のいない架空の「単なるマンガ、単なるイラスト」に過ぎない物の所持までも犯罪として取り締まる必要はないと主張している。さらに、実際に問題とされたイラストは、単に裸体の全身が描かれている等、特に残酷な取扱もなされておらず、性行為の表現などもなく、あったとしても単に裸の2 人の児童がベッドに横たわるといった程度のものであることも述べている 。また、日本のマンガ表現の特質として、人物描写が、大人か児童かを問わず、大きな目やふわふわの髪等を有するといった画一的なものであり、総じて人物が子どもっぽく描かれていることを挙げ、思春期の成長を完了していない者が児童ポルノにおける「児童」であるという刑法典の条項は、あらゆるマンガイラストに対して安易に適用されるおそれがあると主張している。被告人は、控訴する方を表明した。出版関係者には、被告人の立場を擁護する意見も多く、インターネットでのファイル交換の自由を求め、著作権等の知的財産権保護に否定的な政策を持つスウェーデン海賊党欧州議会に2 議席を有する)は、「マンガ・アニメは児童ポルノではない」という主張を打ち出している 。
おわりに
このように、2010 年はスウェーデンでは児童ポルノ犯罪取締の強化の傾向がみられたが、2010 年前半の国会においては、本稿で紹介した児童ポルノ犯罪関係法のほかにも、重度とされる犯罪についての厳罰化や時効期間の延長等を内容とする刑事法制の改正が、数多くなされた 。2010 年9 月の総選挙では前政権の中道右派連立政権が引き続き勝利しており、新政権においても、児童ポルノ関連規制の強化の動きは継続するとも予想される。しかし一方で、第?章に紹介したとおり、ウプサラ地方裁判所が日本のマンガイラスト所持に対し、児童ポルノ犯罪の有罪判決を下したことを契機に、規制強化の行きすぎを訴える意見も現れ始めている。この事件についての控訴審判決が、2011 年1 月28 日にスヴェア高等裁判所から出され、問題とされた51 点のマンガイラストのうち、少なくとも39 点については児童ポルノであるとして、地裁の判決が大筋で認められた結果となった 。高裁判決を受け、被告人は、最高裁判所に上訴しており 、今後の動向が引き続き注目される。また、スウェーデンは、ウィキリークスのサーバ設置国であること等も引き合いに出されるように、世界的にも表現の自由が最も保護された国と評されているが、その国において、現在日本で一般的に流通していると考えられるマンガイラストについて、犯罪となる児童ポルノであるという判決が下されたことは、その是非にかかわらず、日本の児童ポルノ規制を議論するにあたって、参考となる点が多いと考えられる。