児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ:「所持合法の日本、のんき」 被害相談増える

 年末に取材の申し込みがあったのに、毎日新聞はまだ来ません。

 この記事、所持規制側の意見しかないじゃないですか。
 反対勢力が顔出して抵抗しないから、いい加減な立法になっていると思うんですけど。
 無責任に議員立法でやるからだと思います。この法律を解説できる議員はいませんから。引退・落選・離党・復党したりして責任もって説明できる人がいません。

http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20070610k0000m040121000c.html
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070610-00000023-mai-soci
◇通報の7割、性的行為 ネット上有害情報 
 10代で知らない相手から性的暴行を受けたという30代の女性は「一生忘れられないし、20年たった今でも悪夢に悩まされる」という。「児童ポルノは持っているだけでも処罰すべきで(単純所持が合法の)日本が、いつまでものんきなことを言っていていいのか、と首をひねりたくなる」
 2児の母という兵庫県の女性(37)は「娘がいるので、人ごとではありません。厳罰に処してほしい。女性と子供が安全に暮らせる社会でなければ少子化は止まらない」と訴える。
 幼いころ性的被害を受けた女性も「当時は幸いにビデオや携帯電話がなかったが、今は映像に残され、さらに傷つけられてしまう。一生を台無しにされるかもしれないのに、刑罰の甘さにはあきれてしまう」と言う。

 現行法でも一番のんきだと思うのは、3項製造罪(姿態とらせて製造)の「姿態をとらせて」の要件を入れたところですね。
 島戸検事も論文で「盗撮は製造罪にあたらない。窃視罪が別にあるからそれでいいのだ。ダビングに権利侵害なし。」と言い切ってしまいました。
 これじゃあ、ダビングが規制できないので、最高裁判例解説で「『姿態をとらせて』は『身分』であって『実行行為』ではない」と訂正したりしたんですが、どう読んでも「身分」には読めないので、東京高裁や札幌高裁などで今なお「姿態をとらせて」実行行為説の判決が続々出ているというところです。

追記
 最高裁が採用しなかった島戸さんの解説を載せておきます。不用意に信じてはいけません。これを信用してこの通り主張した弁護人がバサッと斬られた。
 やっぱり、盗撮合法というのは、おかしいと思いますね。

島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08
(5)第3項の罪
ア 趣   旨
他人に提供する目的を伴わない児童ポルノの製造であっても、児童に児童ポルノの姿態をとらせ、これを写真撮影等して児童ポルノを製造する行為については、当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為に他ならず、かつ、流通の危険性を創出する点でも非難に値する。実際、児童の権利条約選択議定書においても、「製造」(producing)を犯罪化の対象としており、かつこれについては、「所持」について目的要件を係らせているのとは異なり、目的のいかんにかかわらず、犯罪として処罰することが求められている。
一方、既に存在する児童ポルノを複製する行為それ自体は、必ずしも直ちに児童の心身に有害な影響を与えるものではない上、いわゆる単純所持と同様、児童ポルノの流通の危険を増大させるものでもないから、複製を含めすべからく製造について犯罪化の必要があるとまでは思われない。
そこで、複製を除き、児童に一定の姿態をとらせ、これを写真等に描写し、よって児童ポルノを製造する行為については処罰する規定を新設したものである。
イ 保護法益
第7条第3項は、児童に第2条第3項各号に掲げる姿態をとらせた上、これを写真等に描写し、よって当該児童に係る児童ポルノを製造する行為が、児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為に他ならないことから、これを処罰するものであり、その保護法益は、第一次的には描写対象となる児童の人格権である。加えて、ひとたび児童ポルノが製造された場合に
は、流通の可能性が新たに生ずることとなり、このような場合には児童を性的行為の対象とする社会的風潮が助長されることになるので、このような意味において、抽象的一般的な児童の人格権もその保護法益とするものである。
ウ 構成要件
第2項に規定するもののほか、児童に第2条第3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造する行為である。
(ア)「姿態をとらせ」
「姿態をとらせ」とは、行為者の言動等により、当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい、強制によることは要しない。
いわゆる盗撮については、本項の罪に当たらない(注22)。一般的にそれ自体が軽犯罪法に触れるほか、盗撮した写真、ビデオ等を配布すれば名誉毀損の罪も成立し得るし、他人に提供する目的で児童ポルノを製造すれば、第7条第2項、第5項により処罰されることとなる。
(イ)第1項の目的で児童ポルノを製造した場合は本項の罪からは除かれる。これは単に重複を避けるための技術的なものにすぎない。
エ 被写体となる児童が児童ポルノの製造に同意していた場合
たとえ描写される児童が当該製造について同意していたとしても、当該児童の尊厳が害されているといえるし、その児童ポルノの流通可能性も全くないわけではなく、抽象的一般的な児童の尊厳をも害するともいえるから、当罰性が認められ、第7条第3項の罪が成立すると解される。もっとも、児童と真筆な交際をしている者が、児童の承諾のもとでその裸体の写真を撮影する等、児童の承諾があり・かつこの承諾が社会的にみて相当であると認められる場合には、違法性が阻却され、犯罪が成立しない場合もあり得る。
なお、他者が児童に対して働きかけをすることを予定するものであって、児童自身が姿態をとって児童ポルノを製造した場合に処罰する趣旨ではないから、児童が、自身の児童ポルノの製造に同意していたからといって、この児童に第7条第3項の罪の共犯が成立するものではない(注23)。

注22)盗撮された児童は、盗撮の事実に気付かず何ら特別の性的行為を強いられ・あるいは促されるわけではないから、直ちに性的虐待を受けたものとはいえないし、提供目的を欠く場合、盗撮の結果が児童の心身に悪影響を及ばす危険が具体化しているともいえないから、盗撮を手段とした単純製造の行為を直ちに児童ポルノに係る罪として処罰する必要はない。他人に提供する目的がある場合は、第7条第2項又は第5項の罪が成立する。
注23)もっとも、例外的に、児童が他者に対して執拗、積極的に自身の児童ポルノを作成させるよう働きかけたような場合に、製造罪の共犯が成立することは理論上考えられる。

最高裁H18.2.20の解説

判例タイムズ1206号93頁
 本件は改正法施行直後に起訴された事件であり,本件1,2審判決以前に,本論点について判示した下級審裁判例は見当たらないようであるが,前記法改正にかかわった立法関係者らによる解説中には,(1)本罪では,「児童に2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ,これを・・・・・・描写することにより」との手段の限定があるので,複製は除外される(森山一野田・前掲100頁,198頁),(2)既に存在する児童ポルノを複製する行為それ自体は,必ずしも直ちに児童の心身に有害な影響を与えるものではない上,いわゆる単純所持と同様,児童ポルノの流通の危険を増大させるものでもないから,複製を含めすべからく製造について犯罪化の必要があるとまでは思われないので,複製を除き,児童に一定の姿態をとらせ,これを写真等に描写し,よって児童ポルノを製造する行為を処罰する規定を新設した(島戸純「『児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律』について」警論57巻8号96頁)等の説明がされていた。
 そこで,本件行為は,行為時点では「既に存在する児童ポルノ」であるともいえるメモリーステイックのデータを更にハードデイスクにコピーするというものであるから,これらの文献にいう「複製」に当たるというべきであって,本罪の処罰対象から除外するのが立法者の意図に沿うものであるとする解釈(以下「消極説」という。)も,考え得る立場のーつではあったと思われる(なお,本決定前に出された東京高判平17.12.26判時1918号122頁のコメントは,このような見解に立つものと理解されよう。ちなみに,同判決が採り上げた論点は本決定が触れていないものであるが,同判決がよって立つ前提と本決定の判旨との関係には注意すべき点があると思われる。後記5(1)等参照)。
 消極説においては,(1)法7条3項が「児童に姿態をとらせた者がこれを・・・・・・描写することにより」等ではなく「児童に姿態をとらせ,これを・・・・・・描写することにより」と規定していることからすれば,姿態をとらせることは本罪の実行行為(あるいは実行行為たる「製造」に必ず伴うべき行為)であると解すベきところ,姿態をとらせる行為はオリジナルの児童ポルノの作成時にのみ存し,コピーの作成時には存しないから,本件のようなコピー行為は本罪には当たらない(換言すると,本罪は第1次製造に当たる行為を処罰するものであって,第2次以降の製造に当たる行為を処罰するものではない。),(2)原判決がいうように他に流通の危険性が高い媒体や長期間保存できる媒体にコピーされることを問題視するとしても,それはコピー元とコピー先の各媒体の性質の相違によるものであって,コピー行為の主体がオリジナルの児童ポルノ製造者と同一人であろうと別人であろうと変わりはないから,主体がいずれであるかによって犯罪の成否を区別する解釈を採る理由にはならない,といった立論が考えられるであろう。