児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強制わいせつ罪と性的姿態等影像送信とは観念的競合

 画像が関係する罪は、児童ポルノ罪の解釈に影響されます。

 なお、解説では「影像送信行為の被害者が児童である場合には、当該影像送信行為の対象となった影像を記録する行為について、ひそかに児童の姿態を描写して児童ポルノを製造する罪(児童買春等処罰法第7条第5項)が成立し得るところ」というのは、児童から生中継で送信させて、オッサンが録画する場合をいうと思いますが、それは姿態をとらせて製造罪であって、ひそかに製造罪ではありません。

性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律案【逐条説明】令和五年二月法務省


○第5条(性的姿態等影像送信)
【説明】
1趣旨
本条は、性的な姿態の影像の影像送信行為(例えば、インターネット上のライブストリーミングによる配信行為)が不特定又は多数の者に対してなされた場合には、性的な姿態が不特定又は多数の者に見られるという重大な事態を生じさせる危険が現実化し、不特定又は多数の者に対する性的影像記録の提供行為や公然陳列行為と同様の法益侵害を生じることから、これを処罰するものである(注1)。
また、影像送信の対象となった影像を更に不特定又は多数の者に対して転送する行為がなされた場合にも、同様の法益侵害が生じることから、情を知って、不特定又は多数の者に対して、本条第1項各号のいずれかに掲げる行為により影像送信をされた影像を影像送信する行為も処罰することとしている。
2処罰対象行為
性的姿態等撮影罪(第2条)においては、処罰対象行為として、
○ひそかに撮影する行為
○刑法第176条第1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて撮影する行為
○人に一定の誤信をさせ、又は一定の誤信があることに乗じて撮影する行為(注2)
○16歳未満の者の性的姿態等を撮影する行為
を掲げているところ、これと同様の態様・方法等で送信対象となる性的な姿態の影像を捕捉して、その影像送信をする行為がなされれば、保護法益の侵害が生じると考えられる。
そこで、本条第1項においては、性的姿態等撮影罪と同様の態様・方法等の要件を設けることとしている。
3第3項
本項は、性的姿態等影像送信罪に当たる影像送信行為が行われ、当該影像送信行為が強制わいせつ罪等にも該当する場合について、第2条第3項と同趣旨の確認規定を設けるものである(注3)。
4法定刑
性的姿態等影像送信罪は、性的な姿態の影像を不特定又は多数の者に向けて送るという点で、不特定又は多数の者に対する提供行為と共通する面を有し、法益侵害の程度も同等であると考えられることから、その法定刑も、不特定又は多数の者に対する性的影像記録提供罪と同じ「5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はその併科」としている。
(注1)本条第1項は、「対象性的姿態等の影像(性的影像記録に係るものを除く。・・・)の影像送信」としているところ、影像を電気通信回線で送る行為のうち、性的影像記録を送る行為(例えば、ひそかに性的な姿態を撮影した動画の電磁的記録を再生するなどして影像を送る行為)については、性的影像記録提供罪又は性的影像記録公然陳列罪が成立し得ることから、これと区別する趣旨で、「性的影像記録に係るものを除く。」こととしている。
(注2)本条第1項第3号にいう「行為」は、影像送信行為(実行行為)を意味する。
(注3)罪数関係については、個別の事案ごとに、具体的な事実関係も踏まえて判断されるべき事柄であるが、一般論としては、性的姿態等影像送信罪に当たる影像送信行為が行われ、当該影像送信行為が強制わいせつ罪又は監護者わいせつ罪にも該当する場合、
○性的姿態等影像送信罪は、性的な姿態を他の機会に他人に見られるかどうかという意味での被害者の性的自由・性的自己決定権を保護法益として設けるものであり、また、侵害の態様も性的な姿態の影像を不特定又は多数の者に送信するというものであることからすると、性的な行為を行うかどうかの自由が問題となる強制わいせつ罪・監護者わいせつ罪との法益侵害の同一性があるとはいえない
ことから、強制わいせつ罪又は監護者わいせつ罪と性的姿態等影像送信罪の両罪が成立するものと考えられる。
その上で、社会的見解上の行為が一個であれば、観念的競合(一個でなければ併合罪)となる。
○第6条(性的姿態等影像記録)
【説明】
1趣旨
本条は、影像送信行為によって影像送信をされた影像を記録する行為がなされれば、視覚的情報が記録されて固定化され、性的姿態等撮影罪と同様に、自己の性的な姿態が他の機会に他人に見られる危険が生じ、ひいては、不特定又は多数の者に見られるという重大な事態が生じる危険があることから、これを処罰するものである(注1)。
また、性的姿態等撮影罪と同様、性的姿態等影像記録罪についても、その未遂を処罰することとしている(注2)。
2法定刑
性的姿態等影像記録罪の法定刑については、
○記録行為は、影像送信をされた影像を記録して固定化し、新たに被害者の性的な姿態の影像の記録を生じさせるものであり、その法益侵害の程度は、性的姿態等撮影罪と同等のものと考えられること
○影像送信行為の被害者が児童である場合には、当該影像送信行為の対象となった影像を記録する行為について、ひそかに児童の姿態を描写して児童ポルノを製造する罪(児童買春等処罰法第7条第5項)が成立し得るところ、その法定刑が「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」であることとのバランスを考える必要があること
から、性的姿態等撮影罪と同じ「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」としている。
(注1)性的姿態等影像記録罪は、記録行為の対象を、「前条第一項各号のいずれかに掲げる行為により影像送信をされた影像」としており、不特定又は多数の者に対して影像送信をされた影像に限定しておらず、特定かつ少数の者に対して行われた影像送信行為(性的姿態等影像送信罪自体は成立しないもの)により送られた影像を記録する行為を含めて処罰対象とする趣旨である。
(注2)例えば、行為者が影像送信をした影像について、受信者が、機材を準備するなどした上で、情を知って、記録する行為に及んだものの、操作ミス等により記録に失敗した場合が考えられる