児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、(177条1項)

「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、(177条1項)

城元検事も「8号については従来の強制わいせつ罪等には含まれていなかったとの評価もあり得よう。」とされています。

第百七十七条
1前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
第百七十六条
1次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
八経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。

法務省逐条説明
ク第8号(経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること)
第8号は、
○行為者自身が、被害者に対して、自己の言動によって、行為者との性的行為に応じなければ、行為者の経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力によって、自らやその親族等に、身体上、精神上又は経済上の不利益が及ぶのではないかとの不安を抱かせる行為
○被害者が、行為者の言動によらずにそのような不安を抱いている場合を原因行為・原因事由として定めるものである。

捜査研究No.876
性犯罪規定の大転換
~令和5年における刑法および刑事訴訟法の改正の解説~(前)
城祐一郎
8 刑法176条1項8号の構成要件
次に、同項8号の構成要件について検討する。ここでは、犯行の手段として、「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」と規定されているが、ここでも柱耆の部分と連携して読むことで、4通りの犯罪成立の場合が規定されていることが分かる。それは、
①経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させることにより、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせて、わいせつな行為をした場合
②被害者が経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮していることで、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした場合
③経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させる行為に類する行為により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせて、わいせつな行為をした場合
④被害者が経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮していることに類する事由があることで、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした場合
の4つである。
これらは、これまでの刑法では規定されていなかった類型である。これは、「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること」などによって、被害者側の同意しない状態でのわいせつ行為を処罰の対象とするものであるが、例えば、上司から出張中のホテルで明日の打合せがあると呼び出されて性行為をされたという事例などもあり、これがなかなか現在の類型で捕捉されていないという問題があるということから、優越的な地位を利用して、従わざるを得ない状況での被害についても、捕捉する規定が必要であるとの意見67)などに基づいて制定されたものである。このような類型が設けられるべき理由としては、「地位・関係性を濫用し
67) 第3回議事録33頁(山本委員発言)
た上で、自由な意思決定の機会を奪って行われる性行為は、意思に反する性行為であり、これを処罰することは当然です。」、「行為者と被害者の間の関係性や具体的な働き掛けの内容、影響の程度等を個別に判断した上で、性犯罪の成否を検討する必要があると考えるべきで」68)あるとされ、つまるところ、優越的地位における服従心の利用や、性的行為は行われないという信頼による無防備な状態への付けこみが禁じられるべきである69)との考え方によるものである。
ここでいう「地位」に関して、「経済的関係」としては、債権者と債務者、雇用主と従業員、重要な取引先と取引関係のある者などが挙げられるであろ
うし、また、「「社会的関係』としては、例えば、祖父母と孫、おじ・おばとおい・めい、兄弟姉妹といった家族関係、あるいは上司と部下、先輩と後輩、教師と学生、コーチと教え子、介護施設職員と入通所者といった社会生活上の人間関係が広く含まれる」70)と考えられている。
また、この要件に関して、「不利益の憂慮については、あまり限定的に捉える必要はない」ことに留意しておく必要がある。というのは、「ここでは、客観的に憂慮すべき不利益があったかどうかは重要ではなく、あくまでも、被害者本人の主観面において不利益を憂慮・懸念すべき事情があれば、これに該当すると考えて」よいからである。「例えば、一種の洗脳として行為者に完全に心酔しており、およそ命令に従わざるを得ないような精神状態にあり、したがって、もし命令に背いた場合には、相手から見放されてしまうおそれがあり、それ自体が不利益であるというケースもあると思うのです。このように、具体的な経済的不利益に還元できなくても、およそ命令に従わなければ精神的にダメージを受けるというケースについても、『不利益の憂慮」に該当するケースがあると思われますので、実はこの要件に該当し得る範囲はかなり広くなる」71)と考えられるからである。
そこで、例えば、この「不利益の憂慮」に関して、これは降格されるとか、辞めさせられるとか、被害者としてはそのような不利益を憂慮したという場合が当てはまるのはもちろんであるが、では、それ以外の、例えば、昇進をさせるとか給料を上げるなどということを言われ、それを断った場合のような利益誘導型の提案が、当てはまるのかという問題に対し、「具体的な事実関係によるとは思いますが、利益を供与できる立場・地位にある場合、言わ
第6回議事録34~35頁(橋爪委員発言)
第3回議事録33頁(小島委員発言)
第10回議事録9頁(浅沼幹事発言)
第8回会議録35頁(橋爪委員発言)
捜査研究No.876 (M2ヌ9.5)
ばその裏返しのようなものとして、不利益を与えることができる立場・地位にもあるということが性々にしてあり得ます。そのような事実関係の下で、利益を提供することを示しているということは、裏返せば、応じないと不利益が及ぶかもしれないということにもなり得ますので、そういう観点から被害者の方が不利益を憂慮したということであれば」72)、この要件に該当すると説明されている。ただ、この場合、注意しておかなければならないのは、「利益を期待して性的行為に応じたことを処罰対象とし得るという趣旨ではなくて、利益を供与するという申出があったことを、被害者側がそれによって不利益を想起して憂慮する、そのような状況があると処罰対象になるという趣旨」73)であるということである。
・・・
10刑法176条1項の罪についての検察官による立証事項
上述してきた各号の構成要件について、検察官としてはどのような事実についての立証が求められるのであろうか。
この点について、客観的な構成要件としては、
①本項各号に掲げられている行為があること、そして、柱耆の部分の関係で、
②それによって被害者が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」になったこと75)、そして、
③当該状態の下でわいせつな行為が行われたこと、
この3つが客観的な要件として、まず必要になる76)。
次に、主観的な要件としては、故意として、上記の各事実についての認識が必要になってくると考えられる。その場合、例えば、柱耆にある困難な状態というような、その評価にわたる部分、規範的な要件の部分については、これまでの判例の考え方によれば、評価そのものの認識までは必要ではなく、その評価を基礎付ける事実についての認識があれば足りると考えられる77)。
そして、この考え方を前提として、捜査機関においては必要な証拠を収集し、立証していくことになる。例えば、1号の構成要件に関していえば、まず、①の要件として、暴行あるいは脅迫に該当する行為があったことを立証できるかどうかを考える際、行為者が被害者に対して何らかの有形力の行使をしていれば、それを暴行と捉えることができるかが検討されることになる。
次に、②の要件として、柱書にある同意しない意思の形成等が困難な状態になったかどうかという点を検討することになる。この点については、行為の場所や時間帯、その状況、行為者と被害者との体格差など諸般の事情を考慮して、この困難な状態になったといえるかどうかを検討することになる78)。
さらに、③の要件として、わいせつな行為があったかどうかについても必要な証拠によって立証していくことになる。
その上で、主観面である故意についても、上記の客観的な事実について被告人が認識をしていたといえるかどうかについて、自白だけでなく客観的な間接事実などからその認識が立証できるかということを精査していくことになるものと考えられるところである79)。
75) この要件に関して、そのような状態に至った原因として、被害者の属性、例えば、まだ大学生で社会経験がないとか、知的障害があるとかいう属性についても立証対象になる場合があるのは当然である(第13回議事録17頁(吉田幹事発言))。
76) 第13回議事録13頁(吉田幹事発言)
77) 第13回議事録13頁(吉田幹事発言)
78) 第13回議事録14頁(吉田幹事発言)
79) 第13回議事録14頁(吉田幹事発言)

https://news.yahoo.co.jp/articles/53ac4a407b0036273d96e5275aab053501b0bc77
県警捜査1課によると、容疑者は9月30日午後10時半~午後11時40分ごろ、広島市中区の宿泊施設で、出会い系アプリで知り合った20代の女性に「実は警察官なんだよ。売春を担当する部署にいる。これは犯罪になる」などと言い、抵抗できない状況にして性的暴行を加えた上、「始末書」と題した書面を作成させた疑いがある。2人はこの日、初めて会ったという。
 また、10月2日午後6時半ごろに女性の自宅近くで待ち伏せ、女性から電話番号を聞き出した疑いもある。翌3日に女性から「個人情報を教えてしまった」と相談を受けた県警が、捜査していた。
容疑者は女性と会った際、背広の下に警察の制服を着用して女性に見せたといい、警察官であることを信用させようとしたとみられるという。県警は、容疑者が脅迫や社会的な地位にもとづく影響力を使って女性の抵抗を困難にしていたとみて、不同意性交罪にあたると判断した。