伝播可能性~「1対1のLINEやDMでは罪にならず…“侮辱罪”厳罰化」
虚偽風説罪の高裁判例によれば「特定少数人に対して虚偽の事実を告知した場合であっても,その者から順次その事実が不特定多数人に伝播される可能性があり,そのことを認識している限り,その者の人数の如何を問わず,同条の流布にあたると解すべきであるから,これと見解を異にする所論は採用できない」と言われそうです。
第二三一条(侮辱)
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
条解刑法なんてこれくらいの解説しかない。
条解刑法
第231条(侮辱)
事実を摘示しなくても,公然と人を侮辱した者は,拘留又は科料に処する
1 ) 本条の趣旨
本条の保護法益については見解の対立がある。判例通説は侮辱罪の保護法益も名誉段損罪と同じく名誉であり,両罪は名誉を害する具体的事実を摘示するか否かという行為態様において異なると解する(大判大15・7・5集5303,大判昭8.2~22集12154, 名古屋高判昭26・3・17判特27-59)。
これに対して, 名誉感情など主観的名誉を侮辱罪の保護法益とする見解(主観的名誉説)が有力に主張されている(注釈(5)336)o
名誉毀損行為について事実の証明があって名誉段損罪により処罰されない場合,主観的名誉説によると侮辱罪が成立するが,両罪の保護法益を同一とする判例通説によると,侮辱罪も成立しない(大判大5・11・1録22-1644)。
2) 事実の不摘示
判例通説の立場からは, 「事実を摘示しなくても」という
文言は,事実の摘示がないことを意味するのに対して,主観的名誉説によれば,事実を摘示してなされる侮辱罪もあり得ることになる。事実の摘示については, 230条注3参照。
3) 公然
侮辱行為は公然と行われなければならない(230条注2参照)。判例 §§231注4)。5) ・232注l)~4)
通説は保護法益を人の名誉とすることから,被害者が侮辱行為のときにその場所に現在することを必要としない(大判大4.6.8新聞1024-31)。
4) 人
本罪の対象となる「人」の範囲について, 判例通説の立場からは,名誉設損罪の場合と同じであり(230条注4参照) ‘行為者以外の自然人及び法人その他の団体を含む(法人に対する侮辱罪が認められたものとして, 最決昭58・11・1集3791341)。死者は含まれないと解される。
5) 侮辱行為
侮辱とは,他人に対する軽蔑の表示である。軽蔑の表示の方法は特に限定されず,言語はもちろん, 図画動作等によっても可能である。侮辱罪は危険犯であり, 人に対する社会的評価等を害する危険を含んだ軽蔑の表示がされれば成立する。
公然性については、名誉毀損罪の項を参照
条解刑法 名誉毀損罪
2) 公然
不特定又は多数人が認識できる状態をいう(最判昭36・10・13集15-9-1586)。
不特定とは,特殊な関係によってその属する範囲が限定された場合ではないことをいい,誰でも見聞し得た場合をいう。限られた数名の者に対して摘示した場合であっても, その場所の通行, 出入りが自由であって, たまたまそこに居合わせたのが数名に過ぎないのであれば,不特定と解される(例えば,大判昭6・10・19集10462は、公衆数名が居合わせた裁判所の公衆控室で他人の悪事を口外した事案につき,公然性を肯定している。これに対し,最決昭34.2.19集13-2186は,被告訴人が検事と検察事務官のみが在室する取調室で告訴人に関する侮辱的発言をした事案につき,最決昭34.12.25集13-133360は, 自己の母と妻のみが居合わせた自宅の玄関内で他人を罵った事案につき, いずれも公然性を否定している)。
公然性が認められるためには,不特定又は多数の者が現実に摘示内容を認識することを必要とせず,認識できる状態に置かれれば足りる(大判大6.7.3録23-782)。
また,摘示の相手方は特定少数人であっても,伝播して間接的に不特定多数人が認識できるようになる場合も含まれる(最判昭34.5.7集13-5-641)。伝播可能性を理由に公然性を認めることについては, 直接の相手方の意思により犯罪の成否が左右されることの不当性や表現の自由に対する不当な抑制になるとして反対する見解があるが, その場合の故意の要素としては伝播の可能性について認識することが必要であろうし,行為態様(当該情報の性質内容。形式,相手方の立場等)からも伝播可能性が具体的に認められる場合に限定すれば‘ 犯罪の成立範囲が不当に拡大することはないであろう(高等学校教諭の名誉を段損する内容を記載した文書を教育委員会委員長校長,PTA会長宛てに各1通郵送した事案につき,相手方に守秘義務があることなどを理由として伝播可能性がないとしたものとして,東京高判昭58,4.27高集36-1-27)
医師→警察→報道機関と拡がった場合の虚偽風説流布罪で高裁判例があります。
裁判年月日 平成14年 6月13日 裁判所名 大阪高裁 裁判区分 判決
事件番号 平14(う)52号
事件名 信用毀損、業務妨害、窃盗被告事件
文献番号 2002WLJPCA06139003以下,所論に即して検討する。
1 【要旨1】「流布」について
所論は,刑法233条の「流布」とは,不特定または多数人に虚偽の事実を伝播させることをいうところ,本件では,Bという特定人かつ1人の者に告げたものであるから,「流布」には該当しない旨主張する。確かに,同条の「流布」の意義は所論指摘のとおりであるけれども,特定少数人に対して虚偽の事実を告知した場合であっても,その者から順次その事実が不特定多数人に伝播される可能性があり,そのことを認識している限り,その者の人数の如何を問わず,同条の流布にあたると解すべきであるから,これと見解を異にする所論は採用できない。なお,所論は,このような場合にまで「流布」にあたると認めると,その意義が際限なく拡大され,罪刑法定主義に反すると主張するが,虚偽の事実の告知を受けた特定少数人からの伝播可能性については,単に伝播の抽象的な恐れがあるというのではなく,告知した者と告知を受けた者の関係,告知を受けた者の地位や立場,告知の状況等を総合して具体的にその可能性の有無を判断すべきものであるから,「流布」の意義は限定されているということができ,所論は失当である。
また,所論は,原判決は被告人が申告した虚偽の事実がBから他の警察職員に伝わり,それが報道機関に伝播する可能性が存在することを前提にしているが,Bや他の警察職員には法律上守秘義務があり,原則として捜査に関する情報が報道機関に公開されることはないのであるから,およそこのような経路で伝播する可能性は客観的に存在しない旨主張する。確かに,Bや他の警察職員には地方公務員法や刑事訴訟法等において守秘義務が課せられていることは所論が指摘するとおりである。しかしながら,警察は,個人の生命,身体及び財産の保護に任じ,犯罪の予防等に当たることをもってその責務としている(警察法2条1項)のであるから,被疑者の犯罪にかかる事実であっても,その犯罪の罪質,態様,結果,社会的影響,公表される事実の内容とその方法等に照らし,これを公表することが職責上許される場合があると解するのが相当である。これを本件についてみると,被告人が申告した事実は,上記のとおり,コンビニエンスストア「C」で購入した紙パック入りオレンジジュースに異物が混入していたというものであるところ,仮にこれが真実であったとするならば,公衆の生命,身体に危険を生じかねない重大事犯で,その犯行態様は不特定の者を無差別に狙ったものである上,被告人の検察官調書(検察官証拠請求番号乙10,11)及び警察官調書(同乙2),証人Bの原審公判廷における供述並びにDの警察官調書(同甲67,ただし,不同意部分を除く。)によれば,本件当時,飲食物に異物を混入するという被告人が告げた虚偽の内容と同様の事犯が現実に全国各地で多発していたことが認められるのであって,これらの事情に照らすと,Bから被告人の申告内容を伝えられた警察職員が,事件発生の日時,場所,被害者の氏名や被害状況,飲物の内容及びその鑑識結果はもとより,その飲物の購入場所等の情報をも報道機関に公表することは,類似の犯罪の再発を予防し,その被害を未然に防ぐため公衆に注意喚起する措置として許容されるものというべきであるから,所論は採用できない。
更に,所論は,本件において報道機関の情報入手ルート等に関する証拠がなく,被告人のBに対する虚偽の申告と報道機関からの報道との間の因果関係が明らかでない上,そもそも報道機関は警察の広報機関ではなく,独自の判断で報道しているのであるから,被告人の上記申告と報道機関の発表との因果関係をおよそ認めることはできない旨主張する。しかしながら,司法警察員作成の報告書(同甲57号)によって認められる新聞記事の内容と,司法警察員作成の報告書(同58号)によって認められる警察による報道機関への発表内容に照らすと,上記新聞記事の内容が警察による報道機関への発表内容に基づくものであることは明らかであって,その因果関係を認めることができる。そして,報道機関が警察の広報機関ではなく,独自の判断で報道していることは所論が指摘するとおりであるが,上記のような罪質,態様,本件当時の社会状況等に照らすと,報道機関が警察発表に基づき上記事件を報道することは当然考えられるから,所論が指摘する報道機関の立場をもって,上記因果関係を認めることの妨げにはならないというべきであり,所論は採用できない。
https://news.yahoo.co.jp/articles/8e9cadb2ce06e13f3abe3c8ce411f82d43093087?page=2
菊地弁護士:
「この罪はとにかく古いんですね。時代に合わせたルールで対策を強化してほしいと思います。今の侮辱罪は公然とやらなければ罪になりません。例えばLINEやDMなど1対1のSNSなど公然ではないところでの誹謗中傷を侮辱罪でとうのは難しいのです。一方で1対1でも誹謗中傷でも大きな被害をもたらすというケースもありますので、それらも含めてどう対処していくのか。場合によってはまた法改正が必要なのか、今の時代にマッチした侮辱への対処というのが要求されているかと思います」