児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

送信型強制わいせつ行為(長崎地裁R010917)

 脅して撮影送信させる行為がわいせつ行為かどうかの判例はありません。強制わいせつ罪ではなく強要罪だという高裁判例がいくつかあります。

 東京高裁判例などによれば「その姿態の映像を前記ビデオ通話機能を用いて被告人の携帯電話機に送信させ、もって強いてわいせつな行為をした。」の部分はわいせつ行為と評価されないと思われます。




長崎地方裁判所令和1年9月17
強制わいせつ、長崎県少年保護育成条例違反被告事件
理由
以下、匿名表記した被害者氏名は別紙のとおりである。
(犯罪事実)
第1 被告人は、A(当時16歳)から入手した同人の画像データ等を利用して強いてわいせつな行為をしようと考え、平成30年10月26日午後10時6分頃から同月27日午前2時21分頃までの間に、D市内又はその周辺において、自己の携帯電話機及びタブレットから、同人が使用する携帯電話機に、アプリケーションソフト「E」の通話機能及びビデオ通話機能を利用して通信し、D市内にいた同人に対し、「写真を援助交際サイトに載せる。」「学校や家の近くに何人かの人が来る。」「連れていかれたことがある。」などと脅迫し、もしこの要求に応じなければAの自由や名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨畏怖させ、その反抗を著しく困難にし、ビデオ通話機能を通じて、同人に胸や陰部を露出した姿態及び陰部を指で触るなどした姿態をとるよう指示し、同人にそれをさせた上、その姿態の映像を前記ビデオ通話機能を用いて被告人の携帯電話機に送信させ、もって強いてわいせつな行為をした。
第2 被告人は、平成30年12月2日、D市(以下略)「ホテルF」(省略)号室において、C(当時15歳)が18歳に満たない少年であることを知りながら、もっぱら自己の性的欲望を満足させる目的で同人と性交し、もって少年に対し、みだらな性行為をした。
(証拠の標目)(各証拠書類等に付記した番号は、検察官請求の証
(事実認定の補足説明)
1 弁護人は、被告人が、Aに写真を援助交際サイトに載せる旨などを言った事実はあるが、Bの代わりに交渉役として登場したAにBに対する怒りをぶつけたに過ぎず、Aにわいせつ行為をする目的で発したものではない旨主張し、被告人も、「最初は怒りに任せていろいろ言っていたと思うが、その後はAと仲良くなれたという感じだった。」などと弁護人の主張に沿う供述をしているが、裁判所は前記のとおりに認定をしたので、補足して説明をする。
2 Aの公判供述について
 (1) Aは、概ね以下のとおりに述べている。
  「被告人と電話で話を始めた時、被告人は怒っているように見えて、『Bの写真を援助交際サイトに載せる。』『援助交際サイトに載せると、何人かの人が来て、連れていかれたこともある。』という話をした。その後、落ち着いて雑談をするようになったが、被告人が怖かった。被告人から自分の写真を送るよう言われたので、3枚送った。自分の写真を送った直後に、被告人からそれを援助交際サイトに載せる旨言われたことはない。」
  「被告人との電話を早く切りたかったので終わらせようとしたが、被告人から『終わらせたら載せる。』と言われた。被告人からビデオ通話に応じるように言われ、応じないと『じゃ、切るね。』と言われた。被告人から胸を見せるよう言われたときは断っていたが、『もう切るから。』と言われたので見せた。陰部を見せた際に言われた言葉は覚えていないが拒否した覚えはある。勝手に通話を終了すると、写真を拡散されると思っていた。」
 (2) Aの公判供述の信用性について
  Aの公判供述は、その内容に覚えていない部分が多いなどあいまいな部分があることは否定できないものの、Aが虚偽の供述をしていることを窺わせるような不自然、不合理な点はない。供述内容があいまいな点については、Aの証人尋問が実施されたのは既に本件から9か月近く経過した時点であったことを考えると、時間の経過による記憶の劣化があったとしても何ら不自然ではないから、そのことが直ちにその供述内容の信用性に影響を及ぼすようなものではない。また、被告人がAが自己の要求に応じないと、連絡を絶つ旨をAに申し向けてAを困惑させ、自己の要求に従わせるという手法は、本件以後にEアプリで被告人がAに対し会うことを求める際の手口と全く同じであり、前記の供述内容は、本件より後のAと被告人のEアプリを通じた会話内容に非常に整合している。
  次に、前記のとおり時間の経過によりAの記憶が劣化していることは否めないことから、Aの記憶が変容し事実と異なる供述をしている可能性について検討すると、本件の出来事は日常的な出来事ではなく、当時16歳のAにとって非常に衝撃的な出来事であったと考えられるから、前記公判供述のような出来事がなかったにもかかわらずあるものと記憶が変容するということはおよそ考え難いし、他の事実と混同するようなこともない。前記のとおりの客観的事実関係との整合性も考え合わせると、Aの供述内容にはあいまいな部分こそあるものの、その述べている限りの内容については記憶違いにより事実と異なる供述をしている可能性はないといえる。
 (3) 弁護人の主張について
  弁護人は、〈1〉Aは、被告人が写真を援助交際サイトに載せると言っているのを直接聞いておらず、Bから聞いたに過ぎないということを前提として、Aの供述は、Bから聞いた印象だけで被告人から脅されたと言っているに過ぎない旨、〈2〉Aは、被告人に顔写真を送った理由について「怖かった。」と述べているが、被告人のBに対する怒りがおさまった後、雑談をしている際に写真を送付しているのであるから「怖かった。」というのは信用性に乏しい旨主張している。しかし、〈1〉の点については、Aは「ビデオ通話をする前に、写真を援助交際サイトに載せる旨言われた。」旨明確に答える(A証人尋問調書203項)など、被告人がAに対し写真を援助交際サイトに載せる旨を言ったことを明言しているのであるから、弁護人の主張はその前提を欠くものである。また、〈2〉の点についても、前記(1)のとおり、Aは、被告人と電話で会話を始めた時点で、被告人がAに対し「Bの写真を援助交際サイトに載せる。」「援助交際サイトに載せると、何人かの人が来て、連れていかれたこともある。」旨述べているのであり、当時16歳で社会経験も乏しいAの立場になれば、見も知らない被告人がそのようなことを語り、自身の親友であるBが同様の事態になるかもしれないというだけで、被告人に対し恐怖を感じるのは自然なことである。被告人とAが雑談を始め、被告人の会話内容が落ち着いてきていたのだとしても、Aが被告人に対し恐怖感を持っていたというのは非常に自然であり、この点の弁護人の主張も理由がない。
3 被告人供述について
  被告人は、「Bに対しては腹を立てていたが、Aがいい子そうだったので仲良くなりたいと思い、その旨をAに言うと『いいですよ。』と言ったので、雑談を始めた。その後、会って食事をするという話になったが、会うのをやめるという話になったので、Aの胸を見せてくれるという約束でビデオ通話をするようになり、ビデオ通話の中でAの胸や陰部の画像を送信してもらった。」旨述べている。
  しかし、被告人の公判供述の内容は、明らかに被害者の供述内容に整合しないし、本件より後のAと被告人のEアプリを通じた会話内容にも整合しない。また、当初、Bに対し腹を立て、Bの代わりに話をするようになったAに対しても30分くらいその怒りを示すなどしていたのに、被告人がAに仲良くなりたいというとそれをAがいきなり受け入れるというのは、被告人とAがそれまで全く面識がなかったことを考えるとあまりに唐突過ぎ、不自然である。また、被告人が述べるところによれば、Aが被告人と会うことを渋ったために会うのをやめてビデオ通話をすることになったというのであるが、被告人と会うことを渋ったAがビデオ通話に応じるようになった合理的な説明ができていないし、被告人と会うことを渋ったというAが、特に被告人がAを脅すこともなく、Aに金銭的な対価を示したわけでもないのに、これまで全く面識もない被告人に胸を見せる前提でビデオ通話に応じるというのもおよそ信じ難い。
  以上のとおりであるから、被告人の公判供述は信用できない。
4 結論
  関係証拠により認められる事実及び信用できるAの公判供述により認定できる事実によれば、判示の事実は優に認定できる。なお、弁護人は、「写真を援助交際サイトに載せる。」などという文言を言っていたとしても、被害者に対しわいせつ行為をする目的で発せられたものではない旨主張するが、一連の経過に照らせば、「写真を援助交際サイトに載せる。」などと言って、Aの恐怖をあおる理由はAに本件のようなわいせつ画像の送信を含む何らかの自己の性欲を満たす行為を求める以外に考えられないのであり、被告人が電話でAに対して、「Bの写真を援助交際サイトに載せる。」旨述べた時点から、被告人にはそのように述べることによりAを困惑させて何らかの自己の性欲を満たす行為を求める目的があったと推認でき、この時点が実行の着手といえる。

法令の適用)
 罰条
  被告人の判示第1の行為は刑法176条前段に該当する。
  被告人の判示第2の行為は長崎県少年保護育成条例22条1項1号、16条1項に該当する。
 刑種の選択
  判示第2の罪につき、所定刑中懲役刑を選択する。
 併合罪の処理
  判示各罪は刑法45条前段の併合罪であるから、同法47条本文、10条により重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をする。
 宣告刑の決定
  以上のとおり加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役2年6か月に処する。
 未決勾留日数の算入
  刑法21条を適用して未決勾留日数中190日をその刑に算入する。
 訴訟費用の処理
  訴訟費用は、刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。
(量刑の理由)
 第1の犯行の態様は、被害者が当時16歳で社会経験が少ないことを利用して、インターネット上に顔写真を拡散させることによる害悪を告知し、被害者の恐怖をあおるというものであり、その脅迫行為はこの種事犯の中でも非常に悪質といえる。本件により被害者は、乳房を露出させた姿や陰部を露出させて触る姿をビデオ通話を通じて被告人に見せている。性的自由の侵害の程度も相当程度に及んでおり、これにより当時16歳であった被害者が受けた精神的苦痛には甚大なものがある。また、これを撮影した画像が拡散するおそれもあり、二次被害が生じるおそれについても指摘できる。
(検察官榊原詩音、国選弁護人池内愛各出席)
(求刑-懲役3年)