秋山千明(東洋英和女学院大学・保護司) 性犯罪の現状と性犯罪者処遇プログラムの有効性について 「更生保護学研究」第13号
大法廷判決は更生保護にも影響するのか。
5.まとめ
被害者学の観点からすると,我が国の性犯罪者処遇プログラムは、刑事施設においては,性犯罪再犯防止指導の中で,被害者理解が指導科目に組み込まれている。
この点は評価できるであろう。
また,保護観察所においては,性犯罪者処遇プログラムのコア・プログラムのセッションDの被害者への共感で,被害者が受ける影響について,被害者の立場に立って考えさせることにより,事件につながる認知の歪みを修正するとともに,再犯の防止に向けた動機付けを高める24という処遇を行っているが, この点も評価できるであろう。
しかしながら,性犯罪者処遇プログラムの有効性を考えると,社会的なスキルの欠如,被害者への共感性の乏しさ,動機付けの低さ25などが指摘されていることから,認知行動療法による性犯罪者処遇プログラムは, まだ不十分な要素が多々あるように思われる。
また,我が国の性犯罪処遇プログラムにおいては, 自分の起こした性犯罪が, どのような過程で起きたのかを一定の仮説的モデルを用いて理解させ,性犯罪がコントロール可能なものであるという意識を高め,変化の動機付けを強化するように働きかける弱ということであるが, しかし,筆者が入手した資料は限られているものの, もっと具体的に踏み込んだ被害者に対する教育が必要ではないかと考えられる。
我が国の性犯罪者処遇プログラムの対象者は,平成29年の刑法の一部改正前までは男性ではあるが,現時点においてさえ, もし, 自分が同性愛者で好きでもない相手から自分の意思に反して性行為を強制された時のことを想像させ,それがどれだけ侮辱的なことをされたかを考えさせるような指導方法を採用すれば,処遇対象者は,恋愛のプロセスなしに,性行為を強要された相手の気持ちが少しは分かるのではないかと筆者は思うのである。
また,強制わいせつ罪の成立に「性欲を満たす意図」が必要かが争われた刑事裁判で,最高裁大法廷は,別17年11月29日,性的意図を「必要」とした最高裁判例を47年ぶりに変更し, 「一律に必要とするのは不相当」との初判断を示した。これは,被害者保護を重視した変更である。
強制わいせつ罪の成立には,性的意図があるといった加害者側の事情ではなく,「被害者が受けた性的被害の有無や内容,程度こそ目を向けるべきだ」とした27.筆者がこれまで重視している被害者の視点から性犯罪を考えるという視点がここにも展開されていると思う。
刑事施設はもとより,保護観察所においても,被害者のことを考えさせる機会をなるべく多く作ることによって,再被害の防止,再犯防止につながるのではないだろうか。