タナー法って信用できないですよね。

- 作者: 井田良,井上宜裕,白取祐司,高田昭正,松宮孝明,山口厚
- 出版社/メーカー: 成文堂
- 発売日: 2016/09/29
- メディア: 単行本
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はじめに
児童性認定とは
タナー法
海外における児童性認定をめぐる状況
日本における児童性認定をめぐる状況
おわりに
一はじめに
本稿は、児童ポルノ規制法制に規定される、規制対象となりうる映像や画像の被写体となっている人物の年齢を、戸籍等の公的証明手段によらず、医学的手法を用いることで推定し、もって、「18歳に満たない者であること」(以下、「児童性」ともいう)を認定しようとする方法について、その是非を含め、検討を加えるものである。
「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」(以下、「児童買春・児童ポルノ法」あるいは「本法」「法」ともいう)は、平成26年に従来の「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(平成11年法律第52号)から、法律名を変更し、内容にも変更を加えたうえで、同年より施行されているところである。
この平成26年改正では、いわゆる、児童ポルノの単純所持規制(法7条1項)が報道等で大きく取り上げられたことは周知の通りであるが、その他にも、盗撮による児童ポルノ製造罪の新設(法7条5項)や、いわゆる「3号ポルノ」(法2条3項3号)の定義が変更されるなどしている。
もっとも、本稿の主たる関心は、今次の改正において新たに発生した問題でもなければ、改正法の是非を問うことでもない。
しかし、児童ポルノの単純所持規348制が始まり、盗撮による児童ポルノ製造罪が新設されるに至った今日、本法における重要な構成要件要素の1つである、被害者(とされる人物)'の児童性の認定は、決定的に重要かつ慎重になされる必要があり、このことは今次の改正によって高まりこそすれ減じられるようなものではない。
ところが、わが国における本法をめく、る議論は、実体法的議論を中心になされており、事実認定方法を含む手続法的議論は必ずしも十分とは言えないように思われる。
本稿は、そのような状況の中にあって、児童性認定をめく、る問題についての検討のきっかけを提供することを企図している。
また、冒頭に述べた通り、本稿の検討の中心になるのは「児童ポルノ」であり、「児童買春」については検討の対象としていない。
。。。。
5児童性認定におけるタナー法の用いられ方
タナー法は、児童ポルノ事件における児童性認定の場面では、
?身体の発育(変化)の状況からタナー度数を判定し、
?そのタナー度数に対応する標準的な年齢から対象者(=被写体)の年齢を推定(し、18歳未満であると推定すれば児童性を認定)する、という方法で用いられる。
ここで特に注意する必要があるのは、
・タナー法は、年齢推定法として開発されたものではないこと。
・タナー法は、小児医学等の現場で「生身の人間」に対して用いられることを想定しており、映像や画像の被写体に対するタナー度数の判定は、本来の用いられ方とは異なるものであること。
・タナー度数と、それに基づく年齢の推定については、両者の対応関係の調査自体が統計的研究に依拠しており、適切なタナー度数の判定がなされた場合であっても、ある程度の幅をもった年齢の推定にならざるを得ず、さらに、個人差や疾患等の理由で、実際の年齢が、タナー度数に対応する標準的な年齢から外れる場合があり得ること。
といった点である。そこで、次章及び次々章では、海外及びわが国におけるタナー法を用いた児童性認定の状況を明らかにし、上記のような問題点がどのように取り扱われているのか、確認する。
四 海外における児童性認定をめぐる状況