児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

執行猶予判決後に当該判決が出る前の余罪ので逮捕された場合に「執行猶予が取り消され、懲役が合算されてしまうのでしょうか?そのとおりです。」とか「その人が2度目の判決を受けるとき、その判決が1年以下の刑であり情状に特に酌量すべきものがあるときは、再度、執行猶予にすることができる」とかいう実名弁護士の回答

 執行猶予の要件は、みんな間違えるので、これはドットコムで聞いてはいけない質問だと思います。
 k弁護士の「執行猶予が取り消され、懲役が合算されてしまうのでしょうか?そのとおりです。」というのは執行猶予の可能性がないとする点で誤りで、併合審理した場合の刑を理想としてそれに近い量刑になります。
 後の事件の弁護人は、執行猶予取消の場合には、水増しされた刑期が執行されるので後刑として科すべき刑期がないとか、併合審理した場合の量刑を示してそれから前刑の刑期を引いた刑を求めることになります。

 n弁護士の回答も誤りで、前刑確定前に犯した余罪の執行猶予の要件は刑法25条1項であって、同条2項ではありませんので、「その人が2度目の判決を受けるとき、その判決が1年以下の刑であり情状に特に酌量すべきものがあるときは、再度、執行猶予にすることができる」ということにはなりません。前刑も懲役3年執行猶予、後刑も懲役3年執行猶予ということもありえます。

条解刑法56頁
10)余罪と執行猶予
執行を猶予された罪の余罪の場合本条1項l項の要件を文字どおりに解釈すると,ある罪について執行猶予を言い渡す有罪判決が確定した後にその確定前に犯した罪について刑を言い渡すべき場合でも執行猶予を言い渡すことはできないように思われる。しかし判例は,もしこれらが同時に審判されていたら一括して本条I項により刑の執行を猶予することができたのであるから,それとの権衡上,本条1項l号の欠格事由がないものとして更にその刑の執行を猶予することができるとする(最大判昭28・6・10集76~1404)。判例はこの考え方を更に進め,同時審判を受ける可能性がなかった余罪,すなわち,前の裁判の言渡し後確定前に犯した罪も同様に解している(最大判昭32・2・6集112 503)。したがって,ここでいう余罪とは,前の裁判確定時を基準としてそれ以前に犯した罪をいい,この場合の執行猶予は本条2項ではなく1項によって言い渡すべきことになる(最大判昭31・5・30集105 760)この場合に前の刑と余罪の刑とが合算して3年以下であることを要するかという問題があるが,消極に解すべきであろう(大阪高判昭42・10・6高集20-56230 なお,本条注15参照)。
・・・
条解刑法p200
第50条(余罪の処理) 併合罪のうちに既に確定裁判を経た罪とまだ確定裁判を経ていない罪とがあるときは,確定裁判を経ていない罪について更に処断する。
1 ) 本条の趣旨本条は,併合罪中のいわゆる余罪(45条後段に定める禁銅以上の刑に処する確定裁判の確定前に犯した罪で,まだ確定裁判を経ていないもの)につき,執行の調整について定める次条とともに,その取扱いを定めるものである。本条は,余罪について更に処断する場合における処断の基準については定めていない。この点,実務上,余罪については,それのみを裁判する場合と同じように量刑するのではなく,同時に全部の罪を裁判した場合における量刑を念頭に置いて刑を定めているのが通例である。

量刑実務体系Ⅰp302
第3 刑法45条後段の確定裁判がある場合の量刑判断
これまでの検討を前提として考えるならば,有期自由刑の確定裁判がある場合に,それ以前の余罪について刑法50条により更に処断し,再び有期自由刑を宣告するときには,併合の利益を考慮して刑を定めなければならず,基本的には,両者を合わせて総合的に刑を量定しこれから確定裁判の刑期を控除して刑を定めるのが正しいということになろう。確定裁判の刑によって余罪に対する刑罰の必要性は低下しているし.犯罪の性質によっては違法評価に重複がある可能性もあり,また,確定裁判の刑と合わせて刑期が長期化することによる特別予防的効果の逓減などにも配慮する必要があるからで
ある45)46) 47) 48)。
もっとも,このような場合には常に総合的な量刑を行うべきであるとまではいえない。前述のとおり,複数の犯罪について併合して処断する場合であっても,実務上,常にいきなり総合的な量刑をしているわけではなく,まず個別に刑を量定してこれらを合算してから若干減らしたり,重い罪について刑を決めた上,他の罪を考慮してこれに若干の加算をしたりしている。そのような発想での量刑に適した事案においては,余罪についての刑の定め方も,そのような発想に対応したものになるのが自然であろう。要するに,併合の利益を考慮した量刑さえ行われていれば,具体的なd思考の過程はどのようなものであってもかまわないということができる。

判例も公表されています。

奈良地方裁判所葛城支部平成26年11月12日
児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,わいせつ電磁的記録記録媒体陳列,奈良県青少年の健全育成に関する条例違反(昭和51年奈良県条例第13号)被告事件
       主   文
 被告人を懲役2年6か月に処する。
 この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。
       理   由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 平成26年1月6日から同月14日までの間,前後2回にわたり,奈良県C市(省略)において,同所に設置されたパーソナルコンピュータから,児童であるDを相手方とする性交又は同人による性交類似行為に係る同人の姿態等を視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録であり,かつ,男女の性器又は性交場面等を露骨に撮影したわいせつな電磁的記録である(省略)と題する各動画データを,「FC2,Inc.」がアメリカ合衆国カリフォルニア州内に設置して管理運営するFC2コンテンツマーケットのサーバコンピュータにそれぞれ送信して記憶・蔵置させ,不特定多数のインターネット利用者に対し,前記動画データ2点の閲覧が可能な各状況を設定し,もって児童ポルノであるわいせつな電磁的記録に係る記録媒体を公然と陳列した
第2 前記Dが18歳に満たない青少年であることを知りながら,同年4月18日午後0時頃から同日午後4時30分頃までの間,奈良県E市の当時の被告人方において,単に自己の性的欲望を満たす目的でDと性交し,もって青少年に対してみだらな性行為をした
      (以上,平成26年7月9日付け起訴状記載の各公訴事実に対応)
第3 同年4月23日から同月27日までの間,前後2回にわたり,奈良県C市(省略)において,同所に設置されたパーソナルコンピュータから,児童であるFを相手方とする性交に係る同人の姿態等を視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録であり,かつ,男女の性器又は性交場面等を露骨に撮影したわいせつな電磁的記録である(省略)と題する各動画データを,「FC2,Inc.」がアメリカ合衆国カリフォルニア州内に設置して管理運営するFC2コンテンツマーケットのサーバコンピュータにそれぞれ送信して記憶・蔵置させ,不特定多数のインターネット利用者に対し,前記動画データ2点の閲覧が可能な各状況を設定し,もって児童ポルノであるわいせつな電磁的記録に係る記録媒体を公然と陳列した
      (平成26年9月8日付け起訴状記載の公訴事実に対応)
ものである。
(証拠の標目)
(省略)
(法令の適用)
 被告人の判示第1及び第3の各所為のうち,各児童ポルノ公然陳列の点はいずれも包括して平成26年法律第79号附則2条により同法による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条4項前段,2条3項1号に,各わいせつ電磁的記録記録媒体陳列の点はいずれも包括して刑法175条1項前段に,判示第2の所為は奈良県青少年の健全育成に関する条例(昭和51年奈良県条例第13号)42条1項,34条1項にそれぞれ該当するが,判示第1及び第3の各所為のうち各児童ポルノ公然陳列と各わいせつ電磁的記録記録媒体陳列はいずれも1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,いずれも刑法54条1項前段,10条により1罪として重い平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反(児童ポルノ公然陳列罪)の刑で処断し,判示各罪についていずれも所定刑中懲役刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役2年6か月に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
(検察官 P,弁護人 B)
(求刑 懲役2年6か月)
  平成26年11月12日
    奈良地方裁判所葛城支部
        裁判長裁判官  五十嵐常之
           裁判官  谷口真紀
           裁判官  三嶋朋典

児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
奈良地方裁判所葛城支部平成27年6月11日
       主   文
 被告人を懲役6月に処する。
 この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
       理   由
(罪となるべき事実)
h25.7.30の児童ポルノ製造行為
(確定裁判)
 被告人は,平成26年11月12日,奈良地方裁判所葛城支部で児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,わいせつ電磁的記録記録媒体陳列,奈良県青少年の健全育成に関する条例違反(昭和51年奈良県条例第13号)の各罪により懲役2年6月に処せられ,4年間その刑の執行を猶予され,この判決は同月27日確定したものであり,以上の事実は,(証拠略)によって認める。
(法令の適用)
罰条 平成26年法律第79号附則2条により同法による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項,1項前段,2条3項1号
刑種の選択 懲役刑を選択
併合罪の処理 刑法45条後段,50条(確定裁判を経ていない判示の罪について更に処断)
(量刑の理由)
 他方において,被告人が本件犯行と一連の犯行である前記確定裁判に係る罪についてすでに前記の刑に処せられていること,被告人が,本件犯行を認めて反省の態度を示していること,母親が情状証人として出廷し,被告人の監督を誓約していることなど,被告人のために酌むべき事情が存在する。
 当裁判所は,以上を総合して,被告人に対しては,懲役刑を選択の上,確定裁判を経ていない判示の罪について更に処断することとし,主文のとおり量刑の上,その刑の執行を猶予し,社会内で更生する機会を与えることとする。
 よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役6月)
  平成27年6月11日
    奈良地方裁判所葛城支部

https://www.bengo4.com/c_1009/c_19/c_1095/b_443682/?k=0b9d1&via
Q2016年04月17日 20時42分 執行猶予判決後に当該判決が出る前の余罪ので逮捕された場合

A2016年04月17日 21時12分 k弁護士
質問者がありがとう
> 質問させてください。
> 執行猶予判決後の執行猶予期間中に犯罪を犯して逮捕されると、執行猶予が取り消されてその後の判決による懲役と前の判決の懲役が合算されてしまうというのはよく聞く話です。
>
> では執行猶予判決後の執行猶予期間に執行猶予判決前の犯罪が明るみになって逮捕、起訴された場合はどうなるのでしょうか?
> 執行猶予判決後に改心して真面目に生活していても執行猶予が取り消され、懲役が合算されてしまうのでしょうか?
そのとおりです。俳優の押〇学氏のケースもこれではなかったかと思います。
私は刑事弁護人として,同種余罪を多数抱えた方の弁護をする場合,同種の余罪が多数ありそれらについても反省していることを被告人質問などで述べさせるようにしています。最初の執行猶予判決の捜査・公判で,こうしたことがなされていれば,可及的に,質問者の想定されるようなケースは回避できると考えています。

A2016年04月17日 21時20分 N弁護士
質問者がありがとう
その人が2度目の判決を受けるとき、その判決が1年以下の刑であり情状に特に酌量すべきものがあるときは、再度、執行猶予にすることができるようになっています。

A 2016年04月17日 23時09分K弁護士
一番上の弁護士の「執行猶予判決後に改心して真面目に生活していても執行猶予が取り消され、懲役が合算されてしまうのでしょうか?そのとおりです。」というのも誤りで、前刑が懲役2年執行猶予だとして、前刑確定前の事件の判決については、刑法25条1項の要件で執行猶予が検討されて、併合審理した場合でも執行猶予相当だとすれば、前刑確定前の事件について、さらに、懲役1年とか2年とか3年で執行猶予付きの判決が宣告されることがあります。合計の刑期が3年を越えることもあり得るというのが判例です。
私は,弁護士ドットコムの質問者に対する回答として,先の回答が誤りとは考えていません。
まず,質問者の設例が再度の執行猶予の適用がなく,適用される法令としては,刑法26条2号,同50条であることは指摘されているとおりと思います。
ここで,条解刑法(私の所持しているのは第2版)192頁に,「本条(刑法50条)は,余罪についてさらに処断する場合における処断の基準については定めていない」と記載されています。これに続いて,「この点,実務上余罪については,それのみを裁判する場合と同じように量刑するのではなく,同時に全部の罪を裁判した場合における量刑を念頭に置いて刑を定めているのが通例である」との記載があります。しかし,この通例が実感として違うなという事案を振り込め詐欺の共犯事案などで見聞きしました。
俳優の押〇学氏のケースも,①MDMA服用事案,②保護責任者遺棄(起訴は遺棄致死)が同時期に行われたケースのようですが,上記法条に該当するケースだと思います。
この事件で,①MDMA服用事案が猶予付の1年6月の判決が取り消され,②保護責任者遺棄について2年6月の実刑となっているようですが,計4年の実刑は同時に処理された場合より心持ち重いのではないかという印象を受けます。
なお,刑法等の一部を改正する法律(平成25年法律第49号)は,まだ施行されていません(平成28年6月1日施行)。