児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

石井徹哉「個人の尊重に基づく児童ポルノの刑事規制」 川端古稀下

川端博先生古稀記念論文集[下巻]
http://www.seibundoh.co.jp/pub/search/028009.html

P377
今回の改正による児童ポルノの所持等の犯罪化は、合理的な処罰根拠、児童ポルノ法の目的との整合性を十分に吟味したものとはいえない。「児童ポルノの所持を処罰していないのは先進国では日本だけである。」などの発言(6)もみられるが、他国が規制しているからといって当然わが国において規制すべきとの論拠にはならない。国ごとに法制度が異なる以上、わが国固有の状況をも十分にふまえて合理的な処罰を基礎づけることが必要である。
また、個別の改正部分を相互に照らし合わせてみても整合的かどうか疑問となる部分も存在している。例えば、右に述べたように被害者にわからないような製造行為を新に犯罪としているが、被害者が気付いていない以上、被害感情を持つことはあり得ず、当該画像の存在により被害者が精神的な困窮状態に陥ることもなく、当該画像の所持(7)を処罰する理由に欠けることになる。法律内部における不整合は、実際のところ、児童ポルノ法の制定当時から内在(8)していたものといえる。そこで、本稿では、児童ポルノ法の改正を契機として、新法を主たる素材としつつも(9)、本法に限らず改めて立法のあり方に関する議論を呼び起こすための問題提起を行うものである。また、論争的なものとなるようあえて自由主義を最大限尊重するとの立場に立脚し、その検討を行う。結論を先取りするなら、児童ポルノ法には他の法制度とより整合的であり、かつ個人の自由保障をより十全に図りつつも、児童ポルノの所持も含めて児童ポルノ罪の刑事規制を的確に実施可能な、よりスマートな刑事法制があるのではないかとの強い疑念がある。この疑念は、児童ポルノ法が、立法者のいわば感情的な(しかも諸外国からのもの含む)処罰要求(11)に応えた合理性を欠く立法であり、抜本的に改められるべきであるとの問題提起を行うものである。

(6)例えば、日本ユニセフ協会による二〇一三年一月の緊急声明を参照のこと。需要側の行為の処罰に関しても述べているが、論理が飛躍している。
(7)日本ユニセフ協会中井裕真広報室長の「児童ポルノの被害者は、自分の写った写真や映像が誰かに見られていると思うだけで一生恐怖にさいなまれてしまい、自殺願望を強める人もいる」との談話を参照。NHKNEWSWEB児童ポルノ禁止法改正へ背景と課題
(8)旧法時における処罰規定のあり方が惹き起こしている保護法益論の錯綜状況については、渡遺卓也「児童ポルノ処罰法における目的犯規定の意義」姫路ロー・ジャーナル四号(二〇一〇年)一頁以下、特に三頁以下を参照。