児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

法務省の林刑事局長の「地裁レベルではありますけれども、その理由につきましては、法の一般原則からして、その名宛て人としての普通人または一般人を基準として判断するのが相当である、このような言及をする裁判例もあるものと承知しております。」という答弁は大阪高裁で修正されている。

 こういう中央での答弁を信じると、大阪高裁H24.7.12みたいに有罪になっちゃうわけですよ。
 児童ポルノは描写されたその児童に対する性的虐待だという立法趣旨なのに、児童ポルノかどうかは被害者基準ではなく一般人基準で決めるというのですよ。ホントは性的虐待であったとしても、見かけでそうみえないものは児童ポルノではないということです。そうすると、虐待事案でも児童ポルノから漏れて来ることがあって、大阪高裁が無理して修正を図ったということです。

186-衆-法務委員会-21号 平成26年06月04日
○國重委員 おはようございます。公明党の國重徹です。
 そこで、以下、法文に基づきまして、具体的に質問をさせていただきます。
 先ほど橋本岳委員の方からも、児童ポルノの定義、触れられておりましたけれども、私も若干触れさせていただきます。
 本改正案の二条三項で、児童ポルノの定義が規定されております。二条三項の二号、三号には、これは現行法上も規定されておりますけれども、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とありますけれども、この性欲を興奮させまたは刺激するものかどうかの判断は、誰を基準とするのでしょうか。刑事局長にお伺いいたします。

○林政府参考人 現行法の二条三項二号及び三号にいいます「性欲を興奮させ又は刺激するもの」といいますのは、これは一般人を基準に判断すべきものと解されていると承知しております。

○國重委員 ありがとうございます。
 今、性欲を興奮させまたは刺激するものかどうかは、一般人を基準に判断すると答弁をいただきましたけれども、なぜ一般人を基準に判断するのか、その理由について刑事局長にお伺いいたします。

○林政府参考人 一般人を基準に判断する理由でございますけれども、その理由を明らかにした裁判例の集積はまだ十分ではございません。そのため、法務当局として確たることは申し上げられないのでございますけれども、児童ポルノ禁止法の制定時には、提案者からその理由として、通常、構成要件に規定してあることは、一般通常人というものを基準としている旨の御答弁がございました。また、地裁レベルではありますけれども、その理由につきましては、法の一般原則からして、その名宛て人としての普通人または一般人を基準として判断するのが相当である、このような言及をする裁判例もあるものと承知しております。

わいせつ図画販売、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反(変更後の訴因わいせつ図画販売、わいせつ図画販売目的所持、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反)被告事件
京都地方裁判所判決平成12年7月17日

三 判断の方法
 そして、性欲を興奮させ又は刺激するものであるか否かの判断は、児童の姿態に過敏に性的に反応する者を基準として判断したのではあまりにも処罰範囲が拡大してしまうことから、前記のとおり、児童ポルノの定義から最高裁判所判例の掲げる「普通人の正常な性的羞恥心を害し」という要件が割愛されているとしても、法の一般原則からして、その名宛人としての「普通人」又は「一般人」を基準として判断するのが相当である。
 もっとも、三号児童ポルノの範囲が拡大すると、表現の自由や学問の自由等の憲法上の権利を制約することになりかねないという懸念もあろう。児童ポルノ法三条も、この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならないと定めているところである。
 そこで、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態(以下「児童の裸体等」という。)を描写した写真または映像に児童ポルノ法二条二項にいう」性器等」、すなわち、性器、肛門、乳首が描写されているか否か、児童の裸体等の描写が当該写真またはビテオテープ等ガ全体に占める割合(時間や枚数)等の客観的要素に加え、児童の裸体等の描写叙述方法(具体的には、(1)性器等の描写について、これらを大きく描写したり、長時間描写しているか、(2)着衣の一部をめくって性器等を描写するなどして性器等を強調していないか、3児童のとっているポーズや動作等に扇情的な要素がないか、(4)児童の発育過程を記録するために海水浴や水浴びの様子などを写真やホームビデオに収録する場合のように、児童の裸体等を撮影または録画する必然性ないし合理性があるか等)をも検討し、性欲を興奮させ又は刺激するものであるかどうかを一般通常人を基準として判断すべきである。そして、当該写真又はビデオテープ等全体から見て、ストーリー性や学術性、芸術性などを有するか、そのストーリー展開上や学術的、芸術的表現上などから児童の裸体等を描写する必要性や合理性が認められるかなどを考慮して、性的刺激が相当程度緩和されている場合には、性欲を興奮させ又は刺激するものと認められないことがあるというべきである。

大阪地裁H24.1.19
 被告人は,
平成25年6月1日,大阪府北区西天満所在のスーパー銭湯「天満温泉」において,入浴中の女児が18歳に満たない児童であることを知りながら,他人に提供する目的で,同児童の裸を携帯電話型のビデオレコーダーで撮影し,その電磁的記録を同レコーダー内蔵の記憶装置に記録して児童ポルノを製造しものである。
量刑理由
被告人のした各犯行は被害児童らの権利を害する許されないものではあるが,女湯や女子トイレ内での盗撮に比べると,犯行態様の悪質性は低い
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阪高裁H24.7.12
            判    決
 上記の者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。
)違反被告事件について,平成24年1月19日大阪地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官熊谷保出席の上審理し,次のとおり判決する。
            主    文
  本件控訴を棄却する。
            理    由
 本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に各記載のとおりであるから,これらを引用するが,論旨は,原判決の不法な公訴受理,理由不備,訴訟手続の法令違反,法令適用の誤り及び量刑不当の主張である。
1 控訴趣意中,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という児童ポルノ法2条3項3号の構成要件が記載されていない点に関する主張について
 論旨は,本件訴因には,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」としう児童ポルノ法2条3項3号の構成要件が記載されていないから,原審は,起訴状に罪となるべき事実を包含していない場合(刑事訴訟法339条1項2号)として公訴棄却の決定をすべきであったのに,審理して有罪判決を宣告している点で,原審には,不法に公訴を受理した違法(同法378条2号前段)があり,そのような訴因であるのに,原審は,検察官に対して何ら釈明を求めていない点で,原審には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反(同法379条)があり,また,原判決の罪となるべき事実には「性欲を興奮させ又は刺激するもの」との記載がなく,児童ポルノ法2条3項3号の構成要件が記載されておらず,同号の犯罪は成立しないから,原判決には理由不備の違法(刑事訴訟法378条4号)がある上,そのような事実に児童ポルノ法2条3項3号を適用しているから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤り(刑事訴訟法380条)がある,というものである。
 そこで,記録を調査して検討するに,本件訴因に「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という文言が記載されていないこと,その訴因について,原審は,検察官に対して釈明を求めていないこと,原判決の罪となるべき事実に前記文言の記載がないこと,原判決は,原判示各事実に児童ポルノ法2条3項3号をそれぞれ適用し,被告人を原判示各事実についていずれも有罪としたこと,以上の点は弁護人が指摘するとおりである。
しかし,原審のそのような措置ないし判断は,いずれも是認することができるものと解される。
 所論は,原判示各事実で3号ポルノに該当する部分は,「入浴中の児童の全裸の姿態」であると解されるが,これは,3号ポルノの要件でいえば,「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態」に関するものであり,これだけではその姿態が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であるかについては何も記載されておらず,「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態」と「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とは別個の要件であり,「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態」であっても,医学写真や芸術写真が適法とされるのは「性欲を興奮させ又は刺激するもの」といえないと解されるからであって,3号ポルノを認定するには,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の記載を省略することは許されない,というのである。
 そこで検討するに,児童ポルノ法は,その2条3項において児童ポルノを定義しているが,その1号においては,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」との要件(以下「性欲興奮刺激要件」という。
)の記載はなく(その内容からしてこの要件は当然存在するものと考えられたためである。
),同項2号及び3号においてはこの要件を付加しているのは弁護人が指摘するとおりである。
そして,この性欲興奮刺激要件は,犯罪的な描写とそうでないものとを区別する重要な要件であるから,3号ポルノの罪となるべき事実においては,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」との文言を記載して性欲興奮刺激要件があることを明記するのが望ましい。
ただ,この要件が付加されたのは,弁護人も指摘するとおり,例えば医学書などの学術的な必要のために撮影されたものや家族間や親しい人間関係が介在するなかでの児童の自然な姿を撮影したものなど相応の社会的正当性のある場合を除外する趣旨のものであり,3号ポルノの「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態」については,前記のように違法ではないとして除外される場合でないことがその判示事実から分かるような記載があれば,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」との文言そのものの記載がなくとも,それに該当する事実摘示があるということができ,そのような場合には性欲興奮刺激要件は満たされるものと解される。
 これを本件についてみると,本件各訴因及び原判示各事実は,いずれも,「銭湯で,他人に提供する目的で,入浴中の女児の裸を携帯型のビデオレコーダーで撮影した」という事実が記載されているところ,そのような場所,目的,態様での入浴中の全裸の女児の撮影,すなわち,盗撮された入浴中の全裸の女児の画像の記録が違法と解されるものであることは前記記載事実自体から認識できるのであり,これがおよそ学術的なものや家族等の人間関係に基づき許される描写でないことは明らかであると認められる。
そうすると,本件各訴因及び原判示各事実において,児童ポルノ法2条3項3号にいう「性欲を興奮させ又は刺激するもの」との文言の記載そのものはないが,本件の事実摘示でも,3号ポルノの「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態」のうち,社会的正当性の認められない場合であることが認識できる程度の記載はされているものと認められ,それが違法であることを示すものである性欲興奮刺激要件の摘示がされている場合と構成要件上同等に評価できるものと解することができる。
 したがって,原審が公訴棄却の決定をしなかったのは正当である。
また,原審が訴因について検察官に対して釈明をしなかったことに必ずしも訴訟手続の法令違反があるとはいえない。
さらに,原判示各事実は児童ポルノ法2条3項3号の性欲興奮刺激要件を含む構成要件事実が記載されているのと同等に評価できるから,原判決には理由不備の違法はなく,原判示各事実に児童ポルノ法2条3項3号を適用したのも正当である。
所論は採用の限りでなく,論旨は理由がない。
2 控訴趣意中,その余の法令適用の誤りの主張について
 論旨は,(1)本件各画像は,児童の裸が撮影されているが,一般人を基準とすると「性欲を興奮させ又は刺激するもの」ではないから,児童ポルノ法7条2項の製造罪(以下「2項製造罪」という。
)は成立しないのに,原判決は原判示罪となるべき事実に同法7条2項,1項,2条3項3号を適用しており,また,(2)本件は,公衆浴場内での4件の2項製造罪であって,常習的に撮影,提供がされていたのであるから,それらは包括一罪となり,また,被害児童が特定されているのは1件だけであり,3件は被害児童が特定されておらず,結局被害児童は1名としか認定できないから,その意味でも包括一罪とすべきであるのに,原判決は,併合罪として処理しており,以上の各点で,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
 そこで検討するに,(1)の点は,本件各画像が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」といえるかどうかについては一般人を基準として判断すべきものであることはそのとおりである。
しかし,その判断の基準とすべき「一般人」という概念は幅が広いものと考えられる。
すなわち,「一般人」の中には,本件のような児童の画像で性的興奮や刺激を感じる人もいれば,感じない人もいるものと考えられる。
本件は,公衆浴場の男湯に入浴中の女児の裸の画像が対象になっており,そこには大人の男性が多数入浴しており,その多くの男性は違和感なく共に入浴している。
そのことからすると,一般人の中の比較的多くの人がそれらの画像では性的興奮や刺激を特に感じないということもできる。
しかし,その一方で被告人のようにその女児の裸の画像を他の者から分からないように隠し撮りし,これを大切に保存し,これを密かに見るなどしている者もおり,その者らはこれら画像で性的興奮や刺激を感じるからこそ,これら画像を撮影し,保存するなどしているのである。
そして,これらの人も一般人の中にいて,社会生活を送っているのである。
ところで,児童ポルノ法が規制をしようとしているのはこれらの人々を対象にしているのであって,これらの人々が「一般人」の中にいることを前提に違法であるか否かを考える必要があると思われる。
他人に提供する目的で本件のような低年齢の女児を対象とする3号ポルノを製造する場合は,提供を予定されている人は一般人の中でそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人達が対象として想定されているものであり,そのような人に提供する目的での3号ポルノの製造も処罰しなければ,2項製造罪の規定の意味がそのような3号ポルノの範囲では没却されるものである。
したがって,比較的低年齢の女児の裸の画像では性的興奮や刺激を感じない人が一般人の中では比較的多数であるとしても,普通に社会生活を営んでいるいわゆる一般の人達の中にそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人がいれば,それらの画像は,一般人を基準としても,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であると解するのが相当である。
 したがって,原判決が原判示各事実に児童ポルノ法7条2項,1項,2条3項3号を適用したのは正当である。

 以上のとおりであるから,前記法令適用の誤りをいう論旨も理由がない。
4 よって,刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
 平成24年7月12日
    大阪高等裁判所第5刑事部
         裁判長裁判官 上垣 猛
            裁判官 佐堅哲生
            裁判官 坂本好司