児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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キャバクラ嬢が客に強姦されたと虚偽告訴したいう損害賠償請求が請求棄却された事案(東京高裁H25.2.15)

 「原告は,被告から抵抗することが困難な程度の暴行行為や脅迫行為を受けていなかったにもかかわらず,ラブホテルである本件ホテルに入り,被告との性交渉に応じていることからすると,被告としては,原告が被告と性交渉をすることに同意していると考えても無理はないということができる。そして,仮に,原告が主張するように,原告が,本件ホテルに入る前に,被告に対し,交際中の男性がいるので被告と性交渉をする意思はない旨告げていたとしても,原告が,被告から抵抗することが困難な程度の暴行行為や脅迫行為を受けていなかったにもかかわらず,ラブホテルである本件ホテルに入って被告との性交渉に応じている以上,やはり被告としては,原告が被告と性交渉をすることに同意していると考えても無理はないというべきである。」というのです。

東京地方裁判所
損害賠償請求事件(本訴)
損害賠償反訴請求事件(反訴)
平成25年4月5日民事第49部判決
口頭弁論終結日 平成25年2月15日

       判   決
本訴原告・反訴被告 a
同訴訟代理人弁護士 上谷さくら
本訴被告・反訴原告 b
同訴訟代理人弁護士 伊藤芳朗
       主   文
1 本訴原告・反訴被告及び本訴被告・反訴原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,本訴,反訴を通じ,これを2分し,その1を本訴原告・反訴被告の負担とし,その余を本訴被告・反訴原告の負担とする。


       事実及び理由

第1 請求
1 本訴
 本訴被告・反訴原告(以下「被告」という)は,本訴原告・反訴被告(以下「原告」という)に対し,金330万円及びこれに対する平成22年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴
 原告は,被告に対し,金350万円及び内金300万円に対する平成24年8月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告から,意思に反する性交渉に応じさせられ,多大な精神的苦痛を被った旨主張し,不法行為に基づく損害賠償請求として,被告に対し,慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の合計330万円及びこれに対する不法行為の日である平成22年7月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める(本訴)のに対し,被告が,原告から,被告に強姦された旨の虚偽の申告が警察になされ,警察から取り調べを受けたことにより多大な精神的苦痛を被り,また,原告から,虚偽の内容の本訴を提起されたことによって被告の名誉が毀損された旨主張し,不法行為に基づく損害賠償として,原告に対し,慰謝料300万円及び弁護士費用50万円の合計350万及び慰謝料300万円に対する反訴状送達の日の翌日である平成24年8月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める事案である。
 本件における当事者の主張は次のとおりである。
1 本訴
【原告の主張】
(1)原告は,東京都品川区αのキャバクラ「G」(以下「本件キャバクラ」という)でホステスのアルバイトをしていたところ,平成22年7月16日の深夜,被告が本件キャバクラに来店し,原告が被告のテーブルにつき接客をした。その際,原告は,被告から,「気に入った」と言われ,原告と被告は,携帯電話の番号とアドレスを交換した。
(2)原告は,同月26日,被告からの食事の誘いに応じて被告と食事をすることになり,同日午後8時ころ,JRα駅前で被告と待ち合わせ,αの飲食店「」で一緒に食事をし,同日午後9時20分ころ同店を出た。被告は,「明日はゴルフだ」と話していたことから,原告は,そこで解散し,帰宅すると考えていた。
 ところが,被告は,同店のすぐ近くのラブホテル「X」(以下「本件ホテル」という)に入り,原告は,突然の展開に驚き,呆然としたまま本件ホテル入口内に入ってしまった。しかし,原告は,被告と性交渉をしたくなかったので,「私,彼氏いるから,やるとかないよ」と被告に拒絶の意思を告げたが,被告は,これを無視して原告の腰に手を回して強く引き寄せ,いきなり原告の唇にキスをした。原告は,被告を突き放すようにして,拒絶の意思を告げたが,被告は,「いいからとりあえず来い」と言って原告の手をつかみ扉の開いたエレベーターに連れ込んだ。原告は,被告に対し恐怖感を抱き,エレベーターを降りてからもそこから動かずにいたが,被告が原告の手を強く引っ張り,「とりあえず入れ」と命じて原告を部屋の中に入れた。
 原告は,部屋に入ってからも,「する気はないけど」「嫌だ」と拒絶の意思を告げたが,被告は意に介さず,「東京では,客とセックスすることがあるんだ」「愛人,恋人,客のどれがよいか」「彼氏はどうでもいい。早く選べ」等と威圧的な口調で話し,被告が原告の服を引っ張りながら「いいからとりあえず脱げ」と命じた。原告が,もう逃げられないと感じ,洋服のボタンをはずすと,被告は原告の下着を脱がせ,原告は泣きながら「嫌だ」と抵抗したが,無理矢理に性行為に応じさせられた。
(3)以上のとおり,原告は,被告から,意に反する性交渉に応じさせられたことにより,多大な精神的苦痛を被ったのであり,その慰謝料の金額は300万円を下らない。また,弁護士費用として,その1割である30万円の損害が発生している。
【被告の主張】
 争う。
(1)平成22年7月26日,原告と被告が,「」という飲食店で一緒に飲食した際,原告は,被告に「今からホテルに行かないか」と誘ったところ,被告はこれに同意した。そこで,原告と被告は,同店を出てラブホテルに向かった。
(2)原告と被告は,ラブホテルの中で,自然に性交渉を行ったのであり,何ら揉めることはなかった。原告と被告は,2時間の休憩だけでホテルを出たが,2人で「また会おう」と言ってにこやかに別れた。
2 反訴
【被告の主張】
(1)原告は,平成22年7月26日の夜,合意の上で被告と性交渉を行っておきながら,翌27日,警視庁大崎警察署(以下「大崎警察署」という)を訪れ,あたかも被告が原告に対して強姦罪に該当するような行為をしたかのように申告した。
 原告による上記虚偽告訴行為により,被告は,被疑者として扱われ,同年11月24日と同月29日の2回,大崎警察署の取調べを受けるなどして精神的苦痛を被った。
(2)また,原告は,本訴請求において,被告が原告に強姦行為をしたかのような主張をし,これにより被告の名誉は毀損され,被告の社会的評価は著しく低下した。
(3)被告は,原告の上記各行為により,多大な精神的苦痛を被ったのであり,その慰謝料は300万円を下らない。また,弁護士費用は,本訴,反訴を併せ50万円を下らない。
【原告の主張】
 争う。
(1)原告が大崎警察署に被害申告をしたのは,被告から強姦の被害にあったからであり,虚偽告訴行為等ではない。
(2)また,本訴請求は,正当なものである。
第3 当裁判所の判断
1 証拠(甲1,4,5,7の1ないし5,乙1,原告,被告)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)原告は,平成元年○月○日生まれの女性であり,平成22年7月13日ころから,本件キャバクラでホステスのアルバイトをしていた者である。原告には,平成22年7月当時,交際をしていた男性がいたところ,原告は,本件キャバクラでホステスのアルバイトをしていることを,交際中の男性に隠していた。
 被告は,昭和48年○月○○日生まれの男性であり,本件キャバクラの常連客であった者である。
(2)被告は,平成22年7月16日ころ,本件キャバクラを客として訪れ,原告がホステスとして被告の接客をし,原告と被告は知り合った。その際,原告と被告は,携帯電話の番号とメールアドレスを交換した。
 その後,被告は,携帯電話やメールで何度か原告を食事に誘い,原告がこれに同意したことから,同月26日に一緒に食事をすることになり,同日午後8時ころα駅前のモスバーガーで待ち合わせをする約束をした。なお,同月26日は,原告が本件キャバクラでホステスの仕事をしない日であった。
(3)原告と被告は,平成22年7月26日午後8時ころ,約束どおり,α駅前のモスバーガーで会い,α駅西口にある「」という飲食店で約1時間,一緒に食事をした。
 原告と被告は,同日午後9時すぎころ,一緒に「」を出た後,被告は,同店の近くにある「」というラブホテルのエントランスに入ったが,ホテルが満室であったとしてすぐに出てきた。その間,原告は,ホテルの前で被告を待っていた。その後,被告は,「」の隣にあるラブホテルである本件ホテルに入り,原告も,被告に続いて本件ホテルのエントランスの中に入ったが,その際,被告が,原告に対して,抵抗をすることが困難な程度の暴行行為や脅迫行為をしたことはなかった。被告は,本件ホテルのフロントで受け付けをした後,原告と一緒にエレベーターに乗ってホテルの部屋に入ったが,その際にも,被告が,原告に対して,抵抗をすることが困難な程度の暴行行為や脅迫行為をしたことはなかった。そして,原告と被告が,本件ホテルの部屋に入った後,原告は,自ら洋服を脱いで被告と性交渉をしたが,その際にも,被告が原告に対して,抵抗をすることが困難な程度の暴行行為や脅迫行為をしたことはなかった。原告と被告は、性交渉をした後,一緒に本件ホテルを出てから別れた。
(4)原告は,被告と別れた後,交際をしていた男性とメールや電話で連絡を取り,原告の自宅を訪れた男性に対し,本件キャバクラでアルバイトをしていたこと及び本件キャバクラの客である被告から,意に反する性交渉に応じさせられた旨の話をした。 
 その後,原告は,帰宅した姉と相談した上で,同月27日,大崎警察署に連絡し,女性警察官と一緒に病院で診察を受けるとともに,警察から事情聴取を受け,被告から強姦された旨の申告をした。さらに,原告は,同月28日,大崎警察署で詳しい事情聴取を受け,重ねて被告から強姦された旨の申告をした。
 被告は,大崎警察署から呼び出しを受け,同年11月24日及び同月29日,警察から事情聴取を受け,原告とは合意の上での性交渉である旨の主張をした。その後,被告は,現在に至るまで,原告に対する強姦罪で起訴されていない。
2 本訴請求について
(1)上記1認定の事実のうち,〔1〕原告には,本件当時,交際中の男性がいたこと,〔2〕原告が,被告と本件ホテルで性交渉をして被告と別れた後,原告の自宅を訪れた交際中の男性に対し,本件キャバクラでアルバイトをしていたこと及び本件キャバクラの客である被告から,意に反する性交渉に応じさせられた旨の話をしたこと,〔3〕原告が,本件の翌日には,姉と相談した上で,大崎警察署に連絡し,被告から強姦された旨の申告をしたことは,いずれも原告が合意の上で被告と性交渉をしたのではなく,被告から意に反する性交渉に応じさせられたことをうかがわせる事実であるということができる。また,被告も,原告が,被告との性交渉の後,交際中の男性に申し訳ないと言って,泣いていた旨の供述をしている。
 そうすると,被告から意に反する性交渉に応じさせられた旨の原告の供述は,ある程度信用することができるというべきであり,原告が被告から意に反する性交渉を応じさせられたとの認識を有していた可能性も十分にあると考えられる。
(2)しかしながら,仮に,原告が被告から意に反する性交渉に応じさせられた旨の認識を有していたとしても,以下の理由により,被告が原告に対して不法行為責任を負うことはないというべきである。
 上記1認定の事実によれば,原告は,被告から抵抗することが困難な程度の暴行行為や脅迫行為を受けていなかったにもかかわらず,ラブホテルである本件ホテルに入り,被告との性交渉に応じていることからすると,被告としては,原告が被告と性交渉をすることに同意していると考えても無理はないということができる。そして,仮に,原告が主張するように,原告が,本件ホテルに入る前に,被告に対し,交際中の男性がいるので被告と性交渉をする意思はない旨告げていたとしても,原告が,被告から抵抗することが困難な程度の暴行行為や脅迫行為を受けていなかったにもかかわらず,ラブホテルである本件ホテルに入って被告との性交渉に応じている以上,やはり被告としては,原告が被告と性交渉をすることに同意していると考えても無理はないというべきである。
 そうすると,原告と合意の上で性交渉をした旨の被告の供述は,ある程度信用することができるというべきであり,これを信用することができないものとして排斥することはできない。
 以上によれば,被告が,原告に意に反する性交渉に応じさせた旨の認識を有していたと認めることはできないので,仮に,原告が被告から意に反する性交渉に応じさせられた旨の認識を有していたとしても,被告が原告に対して不法行為責任を負うことはない。
(3)よって,原告の本訴請求は,理由がない。
3 反訴請求について
(1)上記2(1)で認定説示したように,被告から意に反する性交渉に応じさせられた旨の原告の供述は,ある程度信用することができ,これを信用することができないものとして排斥することはできない。
 そうすると,原告が,被告から意に反する性交渉に応じさせられたとの認識を有していた可能性も十分にあるということができるので,原告が,虚偽の事実であることを知りながら,被告から強姦された旨の事実を大崎警察署に申告したと認めることはできない。
(2)上記(1)と同様の理由により,原告が,本訴で主張している請求原因事実が虚偽のものであると知りながら,本訴を提起したと認めることはできない。
(3)以上によれば,原告が被告に対して不法行為責任を負うことはないので,被告の反訴請求は,理由がない。
第4 結論
 以上のとおり,原告の本訴請求及び被告の反訴請求は,いずれも理由がないから,これを棄却することとする。
東京地方裁判所民事第49部
裁判官 飯淵健司