「例外」って何だろう?
「ひとつの行為が2つ以上の罪に問われた場合、最も重い刑で処罰すると刑法で規定されています。」というのだから「牽連犯」なんでしょうね。
なんか原則例外というより、単なる判例違反じゃないですか。
刑法第130条(住居侵入等)
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
・・・
東京都公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
http://www.reiki.metro.tokyo.jp/reiki_honbun/ag10122121.html
(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
第五条
1 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
一 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
二 公衆便所、公衆浴場、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいる場所又は公共の場所若しくは公共の乗物において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
三 前二号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。
(罰則)
第八条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
二 第五条第一項又は第二項の規定に違反した者(次項に該当する者を除く。)
2 第五条第一項(第二号に係る部分に限る。)の規定に違反して撮影した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
刑法
第9条(刑の種類)
死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。
第10条(刑の軽重)
1 主刑の軽重は、前条に規定する順序による。ただし、無期の禁錮と有期の懲役とでは禁錮を重い刑とし、有期の禁錮の長期が有期の懲役の長期の二倍を超えるときも、禁錮を重い刑とする。
2 同種の刑は、長期の長いもの又は多額の多いものを重い刑とし、長期又は多額が同じであるときは、短期の長いもの又は寡額の多いものを重い刑とする。
3 二個以上の死刑又は長期若しくは多額及び短期若しくは寡額が同じである同種の刑は、犯情によってその軽重を定める。
・・・
第54条(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理)
1 一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
2 第四十九条第二項の規定は、前項の場合にも、適用する。
科刑上一罪の処断刑期の決め方については、重点的対照主義・全体的対照主義の議論があります。
統一処断刑形成説では、処断刑期を「懲役刑の上限は3年、罰金刑は50万円」とするんですが、確定判例に反することになるようです。
裁判例コンメンタール刑法1巻
(2) 比較対照の対象(刑種選択・刑の加重滅軽との先後関係)
刑の軽量判定は、罪の法定刑を比較して行うのか、刑種選択や刑の加重減軽をした後の処断刑を比較して行うのか。
併合罪の場合と異なり判例は、科刑上一罪の場合には、選択刑のある場合については、刑種選択をした後に比較すべきではない
だとすると建造物侵入罪が重いのでその刑になりそうだ。
そこで重点的対照主義・全体的対照主義の議論が出てくる
(3)併科刑文は選択刑の規定されている場合(重点的対照主義・全体的対照主義)
法定刑を比較対照するとして、では、法定刑に併科刑又は選択刑が規定されている場合に、これらはどのような意味を持つか、あるいは、持たないのか。
判例(最判昭23 ・4 ・8 刑集2 ・4・307) は、10 年以下の懲役又は5 万円以下の罰金」と10 年以下の懲役又は10万円以下下の罰金」とを比較する場合、重い刑種のみを比較対照すればよいとする考え方を重点的対照主義と名付け、2 個以上の刑種(主刑)の全体について比較対照するとする考え方を全体的対照主義と名付けた上で、刑法10 条の解釈としては後者が常識的であり合理的であるとしながら、刑法施行法(明治41 年法律第29 号) 3 条3 項が「ー罪ニ付キ二個以上ノ主刑ヲ併科ス可キトキ〔併科刑〕又ハ二個以上ノ主刑 中其一個ヲ科スべキトキ〔選択刑〕ハ其中ニテ重キ刑ノミニ付キ対照ヲ為ス可シ併合罪又ハ数罪倶発〔観念的競合〕ニ関スル規定ニ依リ数罪ノ主刑ヲ併科ス可キトキ亦同ジ」と規定しているのは、併科刑又は選択刑のある場合における刑の軽重判定について、一般的に重点的対照主義を採用したものと解すべきだ、としている。
(4 ) 判例に対する批判
上記(2)(3)の判例の考え方は、結局、本条I項の「最も重い刑」の意義を、「最も重い罪を定めた罪の法定刑と解することに帰する。
しかし、この考え方を機械的に貫くと、様々な不都合のあることが指摘されてきた
第1に、・・・また、重い罪の選択別である罰金の額が軽い罪の選択別である罰金の額より低い場合、罰金を選択して、軽い罪の罰金の寡額以下で量刑することも可能となる。これらは、軽い罪のみを犯した場合に比べていかにも不当である。
・・・
そこで、科刑上一罪の場合の処断刑は、数個の罪の処断刑の最大公約数的なもの、すなわち、各罪について刑種の選択、再犯加重及ひ、法律上の減軽を行った上、その最上限及び最下限はいずれも各罪中の最も重いものに従い、一つの罪に併科刑があればその罪が最重のものであると否とを問わず、これを併科することとして、一つの新たな処断1刊を形成すべきとする考え(統一処断刑形成説。中野・前掲1390) が唱えられ、多くの支持を得ている(なお、中谷前掲365 は、理論的にはこの説が正しいとしつつ、この説が上記(2)の大審院以来の確定判例に反すること、判例の立場が実務にすっかり定着していること、後述のように、判例自体、重点的対照主義から一歩踏み出して部分的ながらも合理的解釈を行うなどした結果、実際上の不都合もほとんと生じていないことにかんがみ、判例の立場を基本的に支持しながら、明らかに不合理な部分のみを微調整することが望ましいとしている。)。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130606/k10015125641000.html
法の原則例外認め重い罰金判決
6月6日 18時57分
盗撮しようとしたとして2つの罪で起訴された男に対し、東京簡易裁判所は、懲役刑の重いほうで処罰するという原則の例外を認め、罰金刑について、より重い東京都の迷惑防止条例を適用して罰金30万円の判決を言い渡しました。
この裁判は、ことし2月、羽田空港のターミナルビルで、作業員だった23歳の男が、女子トイレに侵入して携帯電話のカメラで盗撮しようとしたとして、刑法の建造物侵入と東京都の迷惑防止条例違反の2つの罪に問われたものです。刑法には「2つ以上の罪に触れるときは重い刑で処罰する」という規定があり、建造物侵入の罪は、懲役刑が条例違反より重いため、建造物侵入の罪で処罰するのが原則です。
しかし、罰金刑の額では、建造物侵入が上限10万円で、上限50万円の条例違反より軽く、検察が罰金刑を求刑したため、裁判ではどちらの罪を適用すべきかが初めて本格的に争われていました。
6日の判決で東京簡易裁判所の横川保廣裁判官は「建造物侵入と条例違反の罰金の額が5倍も違うという不都合を見逃すことはできず、原則を修正する必要がある」と指摘し、罰金の額について条例違反を適用して罰金30万円を言い渡しました。なぜ刑の重さが逆転したのか
ひとつの行為が2つ以上の罪に問われた場合、最も重い刑で処罰すると刑法で規定されています。
これまでの解釈によると、どの刑を適用するかは、まず懲役刑の上限で判断することになっていて、東京都の迷惑防止条例は、懲役6か月ですが、刑法の建造物侵入は、より重い3年であることから建造物侵入の罪で処罰されることになります。
ところが、今回の事件では罰金が求刑され、その最高額は、建造物侵入が10万円なのに対し、迷惑防止条例は、より重い50万円となるため、裁判では、どちらの罪を適用すべきかが争われていました。
なぜ、こうした矛盾が起きたのか。理由は、去年7月から、改正された都の迷惑防止条例が施行されて、公衆トイレでの盗撮行為が処罰の対象になったことがあります。
それ以前は、盗撮行為は、軽犯罪法違反か建造物侵入の罪で処罰されていましたが、都の条例が改正されたため2つの罪に問うことが可能になりました。
その結果、2つの罪で起訴されたのに、1つの罪だけで起訴されるより罰金の額が軽くなるという法律上の矛盾が起きたのです。
これまでの裁判で検察は「重い罪を犯したのに罰金が軽くなるのは不合理だ」などとして、例外的に条例を適用するよう訴え、罰金30万円を求刑しました。
一方、弁護士は法律の規定どおり、罰金は建造物侵入の上限である10万円以下にすべきだと主張し、裁判所の判断が注目されていました。
判決について、元検事の高井康行弁護士は「裁判所が例外を認めたのは妥当だが、刑法と条例の間で懲役と罰金の重さがあべこべとなっているのだから、検察は条例違反だけで起訴すべきだった。同じような問題が今後、生じないよう刑法の罰金額の上限を条例の上限より引き上げるなど改正を検討すべきだ」と指摘しています。
上記の検討が正しければ、法定刑の見直しではなく、判例変更で足ります。法定刑の見直しとなると、観念的競合になりうるA罪とB罪全部について組合せを考えて、法定刑を変えることになって、キリが無いです。
判決について、元検事の高井康行弁護士は「裁判所が例外を認めたのは妥当だが、刑法と条例の間で懲役と罰金の重さがあべこべとなっているのだから、検察は条例違反だけで起訴すべきだった。同じような問題が今後、生じないよう刑法の罰金額の上限を条例の上限より引き上げるなど改正を検討すべきだ」と指摘しています
実は、処断刑期については、3項製造罪と強要罪を観念的競合にするときにも問題になって、強要罪には罰金刑はありませんが、犯情が重いとして3項製造罪を基準にすると、罰金刑が選択できるようになるんです。
岡山支部は併合罪だとして逃げています。
広島高裁岡山支部H22.12.15
速報番号平成23年1号
原判決が,原判示第3の事実を認定判示した上,児童ポルノ製造の点が3項製造罪に該当し,強要の点が強要罪に該当するが観念的競合であるとして科刑上一罪の処理をするに当たり,犯情の重い3項製造罪の刑で処断する適条をしたことは所論が指摘するとおりである。
そこで検討するに,強要罪は,脅迫し又は暴行を用いて,人に義務のないことを行わせる行為をしたことを構成要件とし,3項製造罪は,児童に児童ポルノ法2条3項3号に掲げる姿態をとらせ,これを写真,電磁的記録にかかる記録媒体その他の物に描写することにより,当該児童にかかる児童ポルノを製造したことを構成要件とするものであって,被害児童に衣服の全部又は一部を着けない姿態をとらせて撮影し,その画像データを送信させてハードディスクに記録して蔵置することをもって児童ポルノを製造した場合に,強要罪に該当する行為と3項製造罪に該当する行為とは,一部重なる点があるものの,3項製造罪において,上記のとおり姿態をとらせる際,脅迫又は暴行によることが要件となるものとは解されず,また,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,両行為の性質等にかんがみると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるので,両罪は,観念的競合の関係にはなく,また,上記説示に照らせば,両罪は,通常手段結果の関係にあるともいえないから,牽連犯の関係にもないというべきである。
また,強要罪は個人の行動の自由を保護法益とし,3項製造罪は,当該児童の人格権とともに抽象的な児童の人格権をも保護法益としており,保護法益の一個性ないし同一性も認められないことをも考慮すれば,両罪は,混合的包括一罪ともいえず,最高裁判所平成19年(あ)第619号同21年10月21日第1小法廷決定・刑集63巻8号1070頁の趣旨に徴し,刑法45条前段の併合罪の関係にあるというべきである。
そうすると,控訴理由第2の点について判断するまでもなく,両罪を観念的競合として処断刑を導いた原判決には法令適用の誤りがあるといわざるを得ない。
しかし,正しい法令を適用して得られる処断刑のうち,懲役刑の範囲は同一であり,被害者Aにかかる3項製造罪について罰金刑を選択した場合にのみ,300万円以下の罰金を併科した処断刑が導かれることとなるが,被害者Aにかかる3項製造罪の犯情に照らすと,上記選択がなされるとは考え難く,結局,異なった量刑になる蓋然性があるとはいえず,上記法令適用の誤りは判決に影響を及ぼすものとは認められない。
研修682号
観念的競合の関係にある二罪の一方の法定刑が懲役又は罰金,もう一方が懲役若しくは罰金又はそれらの裁量的併科である場合の「最も重い刑により処断する」の意義について判示し,原判決を破棄した事例
(東京高判平16. 10. l東京高等裁判所刑事裁判速報3221号)