児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

気球事故の裁判例

westlawに1件あります。

裁判年月日 平成 9年 9月11日 裁判所名 大阪地裁 裁判区分 判決
事件番号 平4(ワ)4344号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 棄却 文献番号 1997WLJPCA09116001
出典
交民 30巻5号1384頁
評釈
交通事故損害賠償データファイル(過失相殺) 
主文

一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 事案の概要
 本件は、アフリカ旅行に行った原告らが、ケニアにおいて「バルーン・サファリ」と呼ばれる企画(熱気球に搭乗して上空を飛行する企画であり、以下これを単に「バルーン・サファリ」という。)に参加したところ、熱気球のゴンドラが着陸時に転倒する事故に遭遇し、これにより頸髄損傷等の傷害を負ったことから、アフリカ旅行に関して旅行契約を締結した被告に対し、民法四一五条に基づき、損害賠償請求(ただし、原告sについては、内金請求)している事案である。

 2 以上の認定事実を前提に本件事故につき被告が債務不履行責任を負うかについて検討する。
   (一) 旅行サービス提供義務違反について
 まず、原告らは、本件旅行契約は主催旅行契約であり、この場合、旅行業者は、旅行者に対し、約定通りの旅行サービスの内容を提供する義務を負い、もし旅行サービスの内容が約定通り履行されない場合には、その原因が旅行サービス提供機関にあったとしても、これによって生じた損害を賠償する義務を負うと主張する。
 しかしながら、旅行業法一二条の三に基づいて定められた標準旅行業約款(昭和五八年二月一四日運輸省告示五九号、以下「標準約款」という。)によれば、「(第三条)当社は、主催旅行契約において、旅行者が当社の定める旅行日程に従って運送・宿泊機関等の提供する運送、宿泊その他の旅行に関するサービス(以下「旅行サービス」といいます。)の提供を受けることができるように、手配をすることを引き受けます。当社は、自ら旅行サービスを提供することを引き受けるものではありません。」と規定されており、旅行業者は、旅行者に対し、自ら旅行サービスを提供する義務を負うものではなく、旅行者が旅行サービスの提供を受けることができるように手配をする義務を負うにすぎないことが明らかである。また、証拠(証人i、弁論の全趣旨)によれば、被告は、本件事故当時、標準約款と同一の内容の約款に基づいて主催旅行契約を締結していたことが認められる。
 そして、旅行業者が全ての旅行サービスを提供することは実際上不可能であること等を考えると、右約款がただちに不合理なものであるということもできない。
 そうだとすると、原告らの右主張はそれ自体失当であるといわざるを得ず、右主張を前提とするTW社を被告の履行補助者と構成する原告らの主張もまたそれ自体失当といわざるを得ない。
   (二) ところで、本件においては、被告の債務不履行責任の有無をめぐって本件旅行契約が主催旅行契約であったのかそれとも手配旅行契約であったのかが争点となっているが、前記一1(一)の事実を総合すれば、原告sは、アフリカ旅行について専門と評価される被告に本件旅行の計画を相談し、被告から送付されたパンフレットを見てバルーン・サファリに参加しようと思い、被告の専門的知識・経験を信頼して本件旅行契約を締結したことが認められるが、このような場合、旅行サービスの提供について手配をする地位にある被告は、信義則上、旅行契約が主催旅行契約であるか手配旅行契約であるかにかかわらず、安全な熱気球飛行会社を選定すべき注意義務を負うと解するのが相当である(したがって、被告の債務不履行責任の有無を判断するに当たって、本件旅行契約が主催旅行契約であったのかそれとも手配旅行契約であったのかは関係がないと解されるから、この点については判断しない。)。
 そこで、被告に熱気球飛行会社としてTW社を選定した点に過失があったか否かについて検討すると、前記一1の事実及び証拠(甲一の1、2、乙八の1ないし3、九、弁論の全趣旨)を総合すれば、被告の従業員iはAアンドK社を通じてTW社を手配したものであるところ、一方で、本件事故を起こした熱気球にはシートベルト等の安全装備が設備されていなかったこと、熱気球離陸地点及び着陸地点には風速計等の科学的装置が設置されておらず、もっぱらパイロットがその経験に照らして風速がどの程度であるかを推測し、離陸の可否を決定していたことなどの事情が認められるが、他方で、本件熱気球は、一九八六年に英国で製造され、耐航空性能証明書付きでケニアに到着し、TW社の名称で正式に登録され、耐航空性能証明は毎年更新されていたものであって、本件事故後、英国の工場で行われた検査の結果、本件熱気球は本件事故当時、耐航空性能のある状態であったこと、パイロットはアメリカ合衆国連邦航空局商業パイロット許可証、ケニア商業パイロット(熱気球)許可証を有しており、本件事故が発生するまで約一九二〇時間の熱気球による飛行経験を有していたこと、TW社は、一九八七年五月半ばから熱気球飛行を行っているところ、本件事故が発生するまで約八五〇名の乗客を搭乗させており、その間、重大な人身事故を起こしていないこと(ケニア共和国においては、本件事故が発生するまで十数年間にわたって何千時間も熱気球を飛行していたが、その間、重大な人身事故が起きたのは一九八六年に地上職員が重傷を負ったという事故一件だけであった。)などの事情が認められることを考慮すると、被告が熱気球飛行会社としてTW社を選定した点に過失があったということはできないというべきである。
 よって、旅行サービス提供機関の選定に過失があったとする原告らの主張は理由がない。
   (三) 次に添乗員の安全確保義務違反について検討する。
 前記一1(一)の事実を総合すれば、被告は、本件旅行の企画段階から旅行計画作成に関与しているところ、原告らは、被告の専門的知識や経験等を信頼して、アフリカ旅行に添乗員が同行することを被告に依頼し、これを受けて被告は本件旅行に添乗員を同行させたものと認められ、このような場合、被告は、信義則上、旅行契約が主催旅行契約であるか手配旅行契約であるかにかかわらず、添乗員が同行する当該旅行の具体的状況に応じ、旅行者の安全を確保するよう適切な措置をとるべき義務を負うものと解するのが相当である。そして、この場合、添乗員はいわゆる履行補助者として右義務の履行に当たると解するのが相当であり、添乗員に右義務違反が認められる場合、被告は債務不履行責任を免れないというべきである。
 そこで、添乗員Jに右義務違反があったか否かについて検討するに、前記一1(二)の事実によれば、Jは、パイロットが強風を理由に飛行延期を申し入れたのに対し、何とか今日中に熱気球を飛行してほしい旨要請し、その後、パイロットが飛行を決定して熱気球を離陸させた結果、強風下における着陸が一因となって本件事故が発生したことが認められる。
 しかしながら、添乗員であるJが旅行日程をすみやかに消化するためにパイロットに対して何とか今日中に飛行してほしいと要請すること自体、ただちに非難可能な行為とはいい難く、それでもなお右要請が安全確保義務に違反するといえるためには、右要請時に吹いていた風が、熱気球飛行には明らかに危険であると認識できるほど強いものであったことなどの事情が認められることが必要であると解されるが、本件において右のような事情を認めるに足りる証拠はない(パイロットが飛行をためらった際の風速は、パイロットの感覚によれば約五から七ノット程度であったが、この程度の風速であれば、Jが明らかに熱気球飛行が危険であると認識できたとは考えにくい。)。
 さらに、本件においては、パイロットは、熱気球が離陸した時間帯の風速について、離陸に支障がない程度に減少したと判断していること、熱気球を飛行させるか否かを最終的に決定するのはパイロットであるとされていること(乙一〇)、本件熱気球の離陸時間より前に他の熱気球が離陸し、かつ無事に着陸していること、本件事故の原因は、強風下における着陸だけでなく着陸場所の状態も関係しているうえ、パイロットの運転操作ミスも関係している可能性もあることが認められ、これらの事情を考慮すれば、Jの右要請と本件事故の発生との間の相当因果関係も認め難い。
 そうだとすれば、Jの安全確保義務を理由として被告の債務不履行責任を問うこともまた困難であるといわざるを得ない。
 なお、原告らは、TW社のパイロットは、Jの申出に事実上拘束される立場にあった旨主張し、これに沿う証拠(甲三七〔赤澤潔作成の報告書〕)もあるが、右証拠は、赤澤の意見を述べたにすぎないものであるから、右証拠の存在は、右認定、判断を左右するものではない。
 したがって、Jの安全確保義務違反を前提とする原告らの主張もまた理由がないといわざるを得ない。
   (四) 説明義務違反について
 前記一1の事実によれば、被告は、熱気球の危険性について原告らに説明していないが、本件事故発生前にケニアで発生した熱気球による重大な人身事故は一件だけであったこと、本件事故当時、被告においてもバルーン・サファリが危険であることを知らなかったこと(証人i、弁論の全趣旨)に鑑みれば、バルーン・サファリの危険性を原告らに告知しなかったことをもって被告の債務不履行責任を基礎付けることはできない。
 なお、被告は、熱気球搭乗の際の書類の内容及びバルーン・サファリを実施する会社がTW社であることについて原告らに説明していないが(被告は、旅行業者として、原告らに対し、これらの事項についてきちんと説明すべきであった。)、本件全証拠をもってしても、右説明義務違反と本件事故との間に相当因果関係を認めることはできないから、これをもって被告の債務不履行責任を基礎付けることもできないといわねばならない。
   (五) 旅程計画自体の安全確保義務違反について
 原告らは、旅程計画自体が安全確保義務に違反する旨主張するが、前記認定のバルーン・サファリの危険性の程度からすると右主張も理由がないといわざるを得ない。
   (六) その他、被告に債務不履行責任があるとする原告らの主張に即して検討しても、これを認めることはできない。
 二 以上によれば、原告らの請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないからいずれもこれを棄却する。