捜索場所にあるパソコンを使用すれば別の場所にあるデータを無制限に取得できるとすると,捜索場所の特定を要求した憲法35条の趣旨を損なうことになりかねません。
他方,クラウドコンピューティング等が利用されていて,そもそも欲しいデータがどこに保管されているのか分からない場合,メールサーバの設置場所を捜索場所とする捜索差押許可状の発付を受けるということは事実上困難ですし,本事例のようにどのコンピュータからでもメールサーバにアクセスしてデータを消去できるような場合.必要なデータが保管されているメールサーバの所在場所を調べてその場所を捜索場所とする捜索差押許可状の発付を受け,新たに捜索を実施しなければならないというのはいかにも迂遠であって,証拠隠滅の危険性が大きいように思います。
このように,捜索場所のコンピュータとは別の場所にデータが保
管されている場合の捜索差押え方法は,大きな問題があるところでした(注3)
(注3)捜索場所にないデータを取得できるか,という問題以前に.そもそもメールサーバにアクセスするために当該サーバに係るID及びパスワードを入力することができるのか.という問題があります。この点.差押え場所にあるパソコンの内部に保管されているデータを確認するためにシステムを起動するためのID及ぴパスワードを入力するといった場合については,外部から容易に見られないように施されている措置を解除するという点で,錠を外し,あるいは封を開くことに類する行為である上.差押え現場にあるパソコンのデータを確認するという限度であれば.差し押さえるべきものかどうかを判断するのに必要となる措置ですから,刑訴法222条l項で準用される刑訴法111条1項の「必要な処分」として.システムを起動するためのID及ぴパスワードを承諾なく入力してパソコンを操作することができると考えます。しかし,外部のメールサーバのデータを閲覧するための当該サーバに係るID及びパスワードの入力ということになると.それは,捜索場所にない物を見ょうとするわけですから.差し押さえるべき物がどうかを判断するために必要な行為とは言えず,刑訴法111条1項が予定している「必要な処分」とは言えないものとも思われます。