Vにわいせつ行為をしたことは一切ないと事実を否認していた。そのため,捜査段階における事案の解明及び公判段階の立証にとってVの供述が極めて重要な証拠であったが, Vは,発達年齢が7歳程度の知的障害者であり, 日時の感覚はなく,質問に的確に答えることもできない状態であったことから,事案の解明自体が困難な状況であった。
そこで,本件事件につき,捜査・公判において工夫をした点などについて,ご参考になればと紹介させていただくものである。
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ほとんどの質問をおうむ返しし,言葉に詰まるなど,的確な言葉をもって供述することができないVが本件被害の核心部分については,捜査段階から自身の持つ最大限の表現を使って訴える姿は,本職においては, Aを確実に処罰しなくてはならないとの使命感を抱かせるとともに,公判廷においては裁判官だけでなく弁護人の心も打っていたように思われる。
最後に,本件は, V及びVの家族等事件関係者の協力,綿密な裏付け捜査及びVの取調べや送迎等に従事していただいた各警察官の尽力があってはじめて公判請求することができ,公判廷における十分な立証活動を実現させ,Aを適正に処罰することができたものである。この場を借りて心から感謝する次第である。