児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

外国人の年齢をレントゲン写真から推定する方法

 外国人の少年事件で時々あるんですが、本人がいるときは、レントゲンから推定する方法もあります。

<海賊初公判>自称ソマリア人の公訴棄却「成人の確証なし」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111104-00000045-mai-soci
オマーン沖のアラビア海商船三井が運航するタンカーが海賊に乗り込まれた事件で、検察が成人と判断して海賊対処法違反(運航支配未遂)で起訴した自称ソマリア人の3被告のうち1人の初公判が4日、東京地裁であった。村山浩昭裁判長は「成人であるとの確たる証拠がない」と述べ、起訴手続きを無効として、公訴棄却の判決を言い渡した。東京地検は改めて家裁送致するとみられる。

 この日、裁判長から生年月日を問われた被告は「11歳のころ、母とおじから91年12月22日と聞いた」と説明。捜査時に「21歳くらい」と供述したことについては「検察官から『だいたい何歳か』と聞かれたので推定の年齢を答えた。うそをついたわけではない。ソマリアの暦は雨期を使うので年齢の検証は難しい」と理解を求めた。法廷でのやりとりは通訳2人を介して行われた。
 事件では4人が逮捕されたが、年齢を「20年前の雨期に生まれた」などと語るなど、国籍も職業、生年月日も裏付けられなかったが、地検は3人を起訴。1人は未成年と判断して同法違反の非行内容で家裁送致したが、家裁は「刑事処分が相当」として検察官送致(逆送)としたため、改めて起訴した。

 運航支配は裁判員裁判の対象だが、裁判員法は訴訟手続きに関する判断は裁判官で行うと定めており、この日の判決は裁判官3人で言い渡された。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111104-00000628-yom-soci
自称ソマリア人の海賊は未成年?…公訴棄却
村山浩昭裁判長は「被告の生年月日を特定する資料がない以上、未成年だとする被告の説明を否定できない」と述べ、公訴(起訴)を棄却する判決を言い渡した。
 検察側は控訴せず、同日中にも被告を家裁へ送致する方針。家裁が検察官送致(逆送)とした場合、改めて起訴され、裁判員裁判で審理されることになる。
 被告の氏名や生年月日を裏付ける証拠はなく、東京地検は「21歳くらい」とする被告の供述に基づいて起訴したが、被告は公判前整理手続きで「未成年」と主張。この日の被告人質問でも同様の説明をした。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111104-00000057-jij-soci
海賊1人の公訴棄却=「成年認定に合理的疑い」―東京地裁
時事通信 11月4日(金)12時37分配信
 アラビア海商船三井の運航するタンカー「グアナバラ」(バハマ船籍)を襲撃したとして、海賊対処法違反(運航支配未遂)罪に問われた自称ソマリア人の4被告のうち1人の初公判が4日、東京地裁であった。村山浩昭裁判長は、「被告が成年だと認めるには合理的な疑いがある」として、公訴棄却の判決を言い渡した。

東京歯科大学研究年報 : 平成15年度
http://ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/388/5/5.Liberal_Arts_Science.pdf
プロフィール
1.教室員と主研究テーマ
助教授橋本正次三次元的画像撮影システムの開発と頭蓋骨および顔の異同識別
(A03‐1600‐1)(A03‐1600‐2)
黄色人種の解剖学的形質における民族間の差異に関する研究(A03‐1600‐3)
法歯・法人類学的情報による個人識別のためのコンピューターシステムの開発およびその有効性について(A03‐1600‐4)

8. 橋本正次 : 供述調書(千葉県警察本部生活安全部少年課からの検査依頼), 2004. 児童買春被疑事件において、被害者と思われる外国人の年齢をレントゲン写真から推定
10. 橋本正次 : 供述調書(千葉地方検察庁からの意見聴取依頼), 2004. 児童買春被疑事件における被害者女性のレントゲン写真から年齢推定とその信頼性に関する意見
13. 橋本正次 : 鑑定書(千葉県警新東京空港警察署からの鑑定嘱託書空鑑第79 号による鑑定嘱託), 2004. 児童買春被疑事件において、レントゲン写真からの被害者女性の年齢推定
14. 橋本正次 : 鑑定書(千葉県警新東京空港警察署からの鑑定嘱託書空鑑第80 号による鑑定嘱託), 2004. 児童買春被疑事件において、レントゲン写真からの被害者女性の年齢推定

判例

宇都宮地方裁判所判決平成3年7月11日
家庭裁判月報44巻1号162頁
       判例タイムズ770号280頁
ところで、本件起訴状には、被告人の年齢につき「一九七〇年 以下不詳生」と記載されており、検察官は、右はパキスタン政府発行の被告人の身分証明書、パスポート等の記載に基づくものと釈明し、被告人は当公判廷において「自己の正確な生年はよく分からない。一九八八年にパスポートを取得するためIDカードを作成しようとした際、係員から一八歳になっていないと言われたことから、パキスタンでは一八歳にならないと個人でパスポートを取得できないので、係員に賄賂を贈ってID力ードに一九七〇年生と虚偽の記載をしてもらった。そして、右IDカードに基づき嘘の年齢を申告してパスポートを取得した。本件の捜査段階では、偽造罪に問われると困るなどと思い、一九七〇年生と供述した。」旨述べ、また弁護人は被告人の幼名によって登録された出生証明書であるという書面等に基づき被告人の生年月日は一九七一年五月二七日であると主張する。そこで、以下被告人の年齢について検討する。
 まず、被告人のパスポート及び三枚のIDカードにはいずれも一九七〇年生と記載されているが、右の記載がいかなる根拠、資料に基づいてなされたのかは証拠上全く明らかではない。そして、検察官提出の捜査報告書、出生証明書写し及び被告人の父親の供述によれば、パキスタンにおいては出生証明制度が必ずしも十分に機能しておらず、事実本件発生後の一九九一年二月になって被告人の関係者によって被告人が一九七四年生であるという根拠不明の出生登録がなされていることが認められる。これらの事情に鑑みれば、前記ID力1ド等が被告人の真実の出生日を証する書面等に基づき作成されたものとはにわかに断定し難く、賄賂を贈って虚偽記載をしてもらったという被告人の供述を排斥することも困難である。
 他方、弁護人提出の出生証明書(弁二号証)には、被告人と父を同じくする「B」なる者の生年月日が一九七一年五月二七日と記載されているが、そもそも右「B」が被告人の幼名であるという被告人やその父の供述は極めてあいまいで信用できず、他に右「B」なる者と被告人との同一性を明らかにする証拠はない。また、被告人が在籍したというハイスクールの人格証明書(弁一号証)には、被告人の生年月日につき弁二号証と同様の記載がされているが、右記載の根拠は明らかでない。そして、先に触れたパキスタンにおける出生証明制度の実情やハイスクールでは親の申告のみにより生徒の年齢を把握する場合があるという被告人の父親の供述に照らすならば、本年の三月三〇日になって作成されている右人格証明書が弁二号証を得た被告人の関係者の申告に基づき作成された可能性を否定できないから、右証明書記載の生年月日をもって直ちに正当なものとは断定できない。
 以上の次第で、前記各種証明書等によっても被告人の生年月日を特定することはできず、結局被告人の正確な生年月日は不明であると言う外ないが、被告人らの供述や被告人の外貌、態度等諸事情に鑑みれば、被告人が未成年である可能性を否定することはできない。そうするとこのような場合、被告人に有利に少年法所定の手続規定が適用されるべきであり、公訴起訴は右手続を経た後に行われなければならないところ、本件においてはこれを経ることなく直ちに起訴がなされているのであって、本件公訴提起手続が少年法の規定に違反したため無効であるから、刑事訴訟法三三八条四号により本件公訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官上田誠治 裁判官樋口 直 裁判官小林宏司)
・・・
判例タイムズ770号280頁
周知のように、20歳に満たない者(少年)の刑事事件については、家庭裁判所から刑事処分相当として送致を受けた場合でなければ公訴を提起できない(少年法42条、20条、45条5号)。
本件は、殺人罪等で起訴された被告人が、未成年である可能性を否定できず、家庭裁判所を経由しなかった公訴提起の手続が少年法の規定に違反するとして、判決で公訴棄却(刑訴法338条4号)した事例であって、その点では格別目新しいものではない(東京高判昭36・1・25下刑集3巻1・2号1頁は、公訴提起後に成年に達した場合にも瑕疵は治癒されず公訴棄却されるべきであるという)。
しかし、本件は、被告人がパキスタン人であり、証拠上、パキスタンにおける出生証明制度か実情等から、その正確な生年月日を特定することはできないが、未成年である可能性を否定できないとして公訴棄却した点に特徴がある。
判決によれば、検察官は、パキスタン政府発行の被告人の身分証明書、パスポート等の記載に基づき被告人が成年であるとして起訴したようであり、起訴段階において特段の過誤があったとは思われない。
他方、被告人は、パスポートの取得ができるように係員に賄賂を贈ってIDカードに虚偽の年齢を記載してもらい、それに基づき嘘の年齢を申告してパスポートを取得したと供述したもので、その供述の信用性を巡って証拠が検討されたが、結局前記の判断に至ったものである。
 年齢の確認については、原則として、戸籍謄・抄本、本籍照会回答書又は外国人登録原票、パスポート等により行なわれるが、戸籍等の記載には公信力がないので、戸籍の生年月日と実際の生年月日が異なる場合には、実際の生年月日によることとなる。
その認定は、前記の文書の他、被告人の実母の供述、医師又は助産婦の出産証明又は業務日誌、近親者の日誌又は手紙等を総合して判断することになろう(改訂少年執務資料集(1)77頁以下)。
外国人の場合、戸籍制度の確立していない国もあり、本件被告人のように、年齢を証明する公の文書が必ずしも信用できないものもあるようであって、認定に困難をきたす場合が少なくないと思われる。
 証拠上、被告人の正確な生年月日を確定できない場合の取扱いには、少年であることの積極的な証明は得られないのであるから、少年についての特別法である少年法は適用できず、一般法たる刑訴法に従って処理するしかないとする見解(土本武司法務総合研究所研修教材「少年法」36頁)と、被告人の利益に従い少年として扱うほかないであろうとする見解(早川義郎「少年の刑事被告事件の取扱いについて」家月25巻8号3頁)とがある。
本件は、被告人に未成年の可能性があるとして、家庭裁判所の手続を経由すべきであるとしたもので、必ずしも明らかではないが、後説に従ったものと思われる(外国人登録原票の記載を措信し難いとし公訴提起当時被告人が未成年者であったと認め公訴を棄却した事例として宮崎地判昭34・2・16下刑集1巻2号390頁がある)。
 なお、本件の事後措置としては、被告人の正確な生年月日が明らかになればともかく、それが明らかにならない場合には、家庭裁判所に事件を送致することとなろう。
本件は、本判決後家庭裁判所に送致され、少年法20条の検察官送致決定を経て、地方裁判所に起訴されたとのことである。
 経済の発展、国際化により、わが国を訪れる外国人も多く、それにつれて外国人の犯罪も急激に増加の傾向にあるが、外国人に対する刑事事件を取扱う上で、年齢の確認も注意を要する事柄の1つと思われるので、実務の参考として紹介する。