児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

笠間治雄「年頭所感」研修751号

 

年頭所感
笠間治雄
明けましておめでとうございます。
皆様が,御家族共々お健やかに新年を迎えられたことをお喜び申し上げますと共に,新しい年が,皆様にとっても明るい良い年になりますよう心からお祈りいたします。
さて,昨年は,大阪地検特捜部において,捜査に当たっていた検事が証拠物であるフロッピーディスクのプロパテイ情報を検察官による公判立証の障害にならないように改ざんするという事件が発覚し,検察の信用は根底から瓦解しました。検察官は,公益の代表者として刑事事件の真相を解明し裁判所に法の正当な適用を求めるべき立場であって,恣意的に証拠を隠滅するなどということが許されるはずもなく,検察の信用の失墜は,当然のことでありました。
この問題を契機として,厳高検では,当該証拠隠滅事件だけではなく関連する一連の事件についても検証し,昨年末,こうした事件が起こった原因や再発防止策などを公表しました。今春には,法務大臣が設置した「検察の在り方検討会談」の検討結果も出されるものと思います。検察が国民の信頼を回復することは.容易なことではないと思いますが,当面は,今般最高検の公表した再発防止策などの実現に向けて努力を重ねていくことはもとより,日々の業務遂行に当たって,与えられた仕事を粛々と行い,公正な検察権を行使し,適正な事件処理を重ねていくことが肝要であると思います。
その上で,今後「検察の在り方検討会議」で示される検討結果も踏まえつつ,検察の生まれ変わった姿を国民に示しながら信頼の回復を図っていかなければなりませんが,新生検察が治安維持に貢献できる組織であり続けるためには,諸々の改革の利害得失をよくよく見定めることが是非とも必要です。そのためには,検察庁職員が今回の不祥事をきっかけとして生じた検察の改革の動きを他人事として捉えることなく,自分自身の仕事に直接関わる問題として真剣に捉え,検察の在り方について考えなければなりません。
検察のみならず,法務・検察の職員が一丸となって,外部の意見に謙虚に耳を傾けつつ,力を合わせて,検察の再生を目指して頑張りましょう。
ところで,最高検は,その検証の中で,今回のフロッピーディスク改ざん事件発生の原因の一つとして,捜査主任検事が,何としても事件をまとめ上げなければならないという精神的な負担を感じていたことを指摘しました。私は,捜査主任検事がそのような精神的負担を感じていたということは看過し難い重大な事実であると思います。もちろん,そのような精神的負担を感じるからといって,今回のような証拠物の改ざんに及ぶ人はまずいないでしょう。しかし,そのような精神状態で,人の話を虚心坦懐に聞くことができるでしょうか。検察権行使に関して,「法と証拠」に基づく事件処理ということが言われ,それは極めて重要な原理原則ですが,人の話を虚心坦懐に聞くことは,その原理原則以前の捜査遂行上の大前提であると言っても過言ではないと思います。
ここで私は,自分の拙い経験から,人の話に耳を傾けることの重要性について,述べてみたいと思います。
もう昔のことです。私は,某地検が捜査中の公職選挙法違反事件に応援検事として他庁から捜査に投入されました。その事件は,当選衆議院議員及びその取り巻きの人たちによる極めて大規模な買収事件で,既に多くの被疑者が逮捕され勾留されておりましたが,私ども応援検事は,勾留10日目ころ、突然応援に投入されたのでした。・・・・
私は,この経験から,まず人の話に耳を傾けることが大事であり,そうすることによって初めて供述をする人との信頼関係を構築することができ,また,信頼関係が確立されて初めて,‘心からの自白や真摯な弁解を得ることができ,捜査の方向性を誤らずに済むということを学ぶことができたと思っております。
私が遠い昔の拙い経験について触れたのは,供述人の話に耳を傾けることの重要性を,理解し再確認していただきたいからです。
検察官が,ある特定の人物による特定の犯罪の摘発を志向しており,しかもそれが,どうしても摘発しないわけにはいかないとの異常な精神状態に追い込まれた結果であるとしたら,人の話を虚心坦懐に聞くなどということは到底できず,そのことはとりもなおさず,正しい捜査の方向性を見いだす機会を失し,捜査の方向性を誤る道を歩むことに直結していると思います。
私どもは,検察の改革に当たり,まずもって,捜査に従事する検察官が精神的負担から捜査の方向性を見誤っている事案を的確に把握して捜査の遂行を中止させ,あるいは公訴提起を阻止するシステムを構築しなければならないし,また,そうすることが,方向性を見誤った捜査を無意味化することとなり,ひいては検察官を無用の精神的負担から解放することができるようになると思うのですが,いかがでしょうか。
(検事総長