児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

紙谷雅子「セクステイングとチャイルド・ポルノグラフイ」学習院大学法学会雑誌46巻1号

 日本法の運用としては、軽く頼んだだけでも頼んだ方が3項製造罪の正犯とされています。児童は処罰されません。
 撮りためて売っていた児童に、ストックの画像を送らせた場合にも3項製造罪(逮捕→罰金→懲戒免職)になったという冤罪のような事案も聞いています。

6 .行為と結果のバランスの取り方−私見
(1)被害,被害者と加害者
セクスティングとしてここで想定しているのは,ティーンエージャー達が仲間内でやりとりをしている「自分ひとりを被写体とする'性的ニュアンスがないわけではない写真」である.すると,そのイメージが自発的に撮影され,意図した相手に送信され,受信者が喜んで受理し,第3者には全く流布しない状況においては,被害は発生しない.だが,一旦,イメージが第3者に流布し,誰がアクセスできるのかについてのコントロールが失われると,周囲の人々から虐められ,嫌がらせを受けるだけでなく,原因となっているイメージがいつまでも存在し,将来の大学入学や就職拒否の原因となり得るので,最初の送信者=被写体は被害者である.このときの加害者は,最初の送信者=被写体のコントロールを失わせる形で第3者にイメージを提供した(情報流通の川下にいる)受信者ということになる.だが,最初の送信者=被写体自身がイメージを第3者が自由にアクセスできるような形で提供したならば,被害者自らが加害者となる.自由に流布するようになると,ティーンエージャー,すなわち未成年の性的ニュアンスを否定できないイメージはチャイルド・ポルノグラフィとして取り扱われ得る.被写体にとって,イメージ自体は性的虐待の証拠ではないが,さまざまな将来的不利益が生じるかもしれないという意味においては被害者ということができる.チャイルド・ポルノグラフィは所持や閲覧のためのアクセスも犯罪なので,嫌がらせのために送りつけることもあり得る.気の進まない受信者も,被害者となるかもしれない.個別の事情に左右されるので,一律処理にはなじまない.
(2) 当事者の年齢
未成年の性的行為に関し,一方において一定年齢以下の者を相手とすることをそれだけで「法定強姦statutory rape」とするが,他方において行為者間の年齢差が小さい未成年者間の合意に基づく性的行為に対し,そうでなければ「法定強姦」が成立する場合に「ロメオとジュリエット特例Romeo and Juliet/ c1ose in age exceptions」 を設け,ほほ同年齢の未成年者を罰しないという傾向が見られるという。被写体の年齢が送信相手と比べると著しく低い場合,チャイルド・ポルノグラフイであるとの疑いを払拭するため,送信者と受信者との聞に「支配と服従の関係」があるという推定を覆す立証を要求することが考えられる.

(3) 法が介入すべきタイミング一一試案
刑事法は,最初の送信者=被写体の(1)自発性を疑うとき,たとえば送信者と受信者との間に対等な関係が形成されていないと懸念される場合,すなわち,年齢の差(たとえば4年以上),その他「支配と服従の関係」の推定を反証できない場合, (2) 不本意なコントロール喪失を疑うとき,たとえば受信者が送信者の同意を得ずに,被写体に知らせないで,他の人々に二次的な送信した場合と被写体の同意がないことを知りながら積極的に受信した場合には,二次的送信者と二次的受信者の責任を問う.それ以外の,たとえほぼ同年齢のティーンエージャー間のセクステイングそれ自体には介入しないという枠組みが考えられる.
セクステイングとチャイルド・ポルノグラフィとの異同をきちんと認識するならば,異なるときには法の介入に対し,慎重であっても,チャイルド・ポルノグラフィと同じ害悪が発生するときにはその重大性を関係者が認識できるような対処をすること,つまりデジタル情報が「制御不能」になるのに中心的な役割を果たし,あるいは,大きく加担したならば,その害悪に着目し,処罰するという選択を可能にする仕組みもあり得る.
これら,刑事法による対応の他,最初の送信者=被写体が知らないうちに,同意しないのに,イメージが広く流布したならば,その流布のきっかけとなった,あるいは,流布に大きな役割を果たした送信者に対し,送信者の行為が被写体の被っている精神的苦痛という被害の原因であり,行為はその性質上,故意になされ,極端に酷いもので、あって,社会的に許されないと州法上の不法行為intentionalinfliction of emotional distress上の請求権を行使することができるかもしれない