これが裁判所の見方です。
- 作者: 小林充,香城敏麿
- 出版社/メーカー: 判例タイムズ社
- 発売日: 1994/04
- メディア: 単行本
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小林・香城「刑事事実認定 下」P119
礒邉衛「強姦の成否」
このようにみてくると、被害者の承諾があったかどうかを判定する基準とかその認定にあたっての法則性を見出すことは至難で平準化にはなじまない性質のものといってよかろう。
しかし、そうは云っても承諾の有無を認定するうえで留意すべき点は一般的ながらいくつかを整理して掲げることができる。
イ 暴行脅迫の程度態様が強烈なものであったか、被害者の抵抗が積極的で激しく強いものであったかである。も
しこれらが認められれば凡そ承諾があったとは考えにくい。
ロ 被害者の抵抗が強く激しいものとはいえない或いはそれ程積極的でないにしても、それは被害者のおかれた具体的情況が、抵抗できないような又は拒否的な態度をとれないようなものであったのではないかという点である。その場合心理的に、身体状況の点で、或いは客観的状況の点ではたしてそうであったのか、その他の点に由来するものであったろうかが問題となる。
ハ 被害者の犯行中における挙動、所作の中にかりそめにも性行為を容認したのではないかと窺わせるようなふしがなかったか。逆に拒絶の意思を陰に陽に示す振舞があったかどうかである。もっとも、被害者の拒否的な言葉、態度、動作(泣く、大声で叫ぶ、足をばたつかせる、蹴る、逃げようとする、「いや」という、助けを求めるというような場合は一応おいて、例えば、身を固くする、いやいやして首を振る、身をよじる、両足を固く閉じて開こうとしないなど)が性交を容認したうえ羞恥心のあらわれとして示されたものか、性的技巧なのか、性交を峻拒することの明確な意思をそのような態度に表わしたものかは慎重に判断しなければならぬ場合もありうるであろう。
ニ 特に被告人の方から性行為に際して格別の有形力の行使があったわけではなく、有形力は行使されたがそれ自体は反抗を著しく困難にするものではなかったと思われるのに、被害者の方でもさはどの抵抗の状況もなく、あったとしても身体的抵抗の程度も微弱でいうなれば犯人のなすがままにされていたという状態があったような事案においては、被害者がどのような経緯、心理状況(例えば抵抗できぬ弱昧をにぎられていたかどうか)、四囲の事情(例えば助けを求めても無駄なような場所、逃げ出せないというような状況)からそういう挙動に出たかなど自然で合理的な説明がつきうる背景があったかどうかである。この場合一つの事情だけを過大視したり片面的にみることは適当ではないし、被害者の単なる主観的心理的な意思表現にひきずられてはなるまい。
ホ 被害者の強い被害感情を端的に示すものと思われる被害者からの届出、通報、告訴が犯行直後になされたかどうかの点がある。
へ 被害者の同意承諾を凡そ予期或いは期待できるような経過なり事情があったかどうか、その他情交が平穏裡におこなわれたと考えるのを妨げるような事情がなかったかである。
以上のことを指摘することができよう。