児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

行政書士法違反被告事件釧路地裁網走支部H19.10.24のその後

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101220-00000571-san-soci
行政書士の資格がないのに報酬を得て家系図を作成したとして、行政書士法違反の罪に問われた北海道の男性被告(28)の上告審判決で、最高裁第1小法廷(宮川光治裁判長)は20日、懲役8月、執行猶予2年とした1、2審判決を破棄、逆転無罪を言い渡した。無罪が確定する。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101220-00000048-jij-soci
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101220-00000071-jij-soci
被告は2006〜07年、行政書士の資格がないのに家系図6通を作成し、報酬約90万円を受け取ったとして起訴された。(2010/12/20-15:19)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101220-00000078-mai-soci
被告(28)に対し、最高裁第1小法廷(宮川光治裁判長)は20日、懲役8月、執行猶予2年とした1、2審の有罪判決を破棄し、逆転無罪を言い渡した。家系図作成は近年、行政書士の間でビジネス化しているが、判決は「観賞、記念目的の家系図は、行政書士だけが作成できる『事実証明に関する書類』に当たらない」とする初判断を示した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101220-00000597-san-soci
場合によっては、無資格での家系図作成も適法と最高裁が判断したことは、作成をビジネスとする行政書士ら関係者に影響を与えそうだ。
 判決によると、被告は平成18〜19年、行政書士の資格がないのに、依頼を受けて6通の家系図を作成、計約90万円の報酬を得た。家系図は戸籍の内容を図にして、出生や死亡、婚姻の年月日などを記載。掛け軸のような巻物状で、桐箱に納められていた。

 1審釧路地裁網走支部は「不正確な家系図は社会生活に混乱を招き、事実証明に関する書類にあたる」として有罪とし、2審札幌高裁も支持していた。

 ■日本行政書士会連合会の話「判決は観賞用などである限り、事実証明文書にあたらないとしたものと理解している。今回の判決が一人歩きして、親族関係図などについても無資格者が作成できるかのように誤解され、社会生活に混乱をきたすことを危惧する」


 端緒は行政書士会の告発らしい。

行政書士の資格持たず家系図作成 容疑の男逮捕 道警と斜里署=北海道 2007.05.17 読売新聞
。同法では、行政書士の資格なく事実証明に関する書類を作成することを禁じている。家系図はこの書類に該当し、遺産相続の際の相続権の確認などに用いられるという。容疑者の活動を知った北海道行政書士会が刑事告発していた。

人気の家系図作成者逮捕 行政書士の資格なく
2007.05.16 共同通信
 戸籍を請求された道内の町役場の担当者が異体字の解釈について容疑者に問い合わせたところ、あいまいな返答だったため行政書士会に連絡、発覚した。

 一審では悪質な部類だと評価されています。

釧路地方裁判所網走支部平成19年10月24日
行政書士法違反被告事件
弁護人(私選) 川瀬敏朗
       主   文
被告人を懲役8月に処する。
この裁判が確定した日から2年間その刑の執行を猶予する。
       理   由
(罪となるべき事実)
 被告人は,行政書士でなく,かつ,法定の除外事由がないのに,業として
1 ■と共謀の上,別表1記載のとおり,平成18年6月25日から平成19年3月6日までの間,前後3回にわたり,■■被告人方において,■外2名から依頼を受け,事実証明に関する書類である家系図合計3通を作成し,その報酬として合計33万8685円の交付を受け
2 ■と共謀の上,別表2記載のとおり,平成18年7月10日から平成19年4月1日までの間,前後3回にわたり,前記被告人方において,■外2名から依頼を受け,事実証明に関する書類である家系図合計3通を作成し,その報酬として合計56万7000円の交付を受け
もって行政書士の業務を行った。
(証拠の標目)《略》
(法令の適用)
1 被告人の判示所為は包括して刑法60条,行政書士法21条2号,19条1項に該当するところ,所定刑中懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役8月に処する。
2 情状により,刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から2年間その刑の執行を猶予する。
(争点に対する判断)
 弁護人は,被告人が作成した家系図は,行政書士法1条の2第1項によってその作成が行政書士の業務とされる事実証明に関する書類に該当しないから被告人の所為は行政書士法19条に違反せず,また,仮に被告人が作成した家系図が事実証明に関する書類に該当するとしても,被告人の本件所為は可罰的違法性を欠くと主張する。
・・・・
(量刑の理由)
 本件犯行は,行政書士ではない被告人が,業として,事実証明に関する文書である家系図を作成した行政書士法違反の事案である。
 被告人は,共犯者である行政書士からその名義の職務上請求書を手に入れ,その職務上請求書を利用して戸籍謄本等を請求するほかは,ほとんど自分一人で家系図作成の業務を行っていたことが認められ、本件犯行を主体的に行っていたものである。そして,被告人は,当初本件共犯者以外の行政書士の職務上請求書を利用して家系図作成の業務を行おうとしたが,その行政書士から職務上請求書の返還を求められ,さらに相当多くの行政書士から職務上請求書の提供を断られた末に,本件共犯者から職務上請求書を入手して家系図を作成しており,家系図作成を業として行うことについての強固な意思があったものと認められる。そして,被告人は,本件において6巻の家系図を作成し,約90万円という多額の報酬を得ただけでなく,ホームページを作成したりマスコミの取材を受けるなどして家系図作成の宣伝を行い,パンフレットも5000部作成するなどして相当長期間にわたり継続的に多数の家系図作成の業務を行い,さらに多額の利得を挙げようとしていたことが認められる。以上によれば,被告人の所為は,行政書士法違反としては悪質なものであるといわざるを得ない。
 そこで,被告人には,主文のとおりの懲役刑を科した上,前科前歴が無いことなどを考慮し,その刑の執行を2年間猶予するのが相当である。 
(求刑―懲役8月)

高等裁判所刑事裁判速報集平成20年329頁
札幌高裁H20.5.13
論旨は,要するに,被告人が本件で作成した家系図合計6通(以下「本件家系図」という。)は,いずれも行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」に該当せず,したがって,本件家系図を作成したという被告人の行為は,行政書士法により行政書士の独占業務とされている行為に該当しないから,被告人は無罪であるのに,本件家系図を作成した被告人の行為について行政書士法21条2号,19条1項を適用した原判決は,法令の解釈を誤り,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 そこで,検討するに,本件家系図が行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」に該当し,業として報酬を得て本件家系図を作成した被告人の行為が行政書士法19条1項に違反することは,原判決が「争点に対する判断」において正当に指摘するとおりであって,原判決に法令適用の誤りはない。
 所論は,本件家系図が「事実証明に関する書類」であることを前提としつつ,行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」については,同法がその作成を行政書士の独占業務とした趣旨からして,「事実証明に関する書類」のうち,書類の内容に不備が存在すれば国民生活に混乱を生じさせる危険のあるものだけが,同条項にいう「事実証明に関する書類」であると限定的に解釈されるべきであり,本件家系図についてはそのような危険はないから,同条項にいう「事実証明に関する書類」に該当しない,という。しかしながら,本件家系図は,被告人が取り寄せた,依頼者及びその親族の戸籍謄本,除籍謄本等の公文書等の記載内容に基づいて被告人が作成するという契約のもとで作成されたものであり,その内容は,文字や図を用いて依頼者の親族関係等を明らかにしているものであるから,本件家系図が戸籍簿等の記載内容や依頼者の親族関係等という社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる書類であることは明らかである。そして,そのような書類である以上,その内容に不備が存在すれば依頼者やその親族の生活に混乱を生じさせる危険があることもまた明らかであって,所論のいう限定的解釈を前提としても,行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」に該当することは論を待たない。また,このように解しても,行政書士法の関係規程が憲法31条,22条のいずれの条項にも違反しないことも明らかである。なお,所論は,本件家系図は,遺産分割手続時において法定相続人を確認したり,相続に基づく登記を行う際に添付することを目的として作成するものではなく,依頼者が自らの家系をたどるための観賞用の目的で作成されるものであり,その目的は家系図の装丁,印刷方法等を見れば明らかであるという。確かに,被告人は,依頼者に送付した被告人作成のパンフレット等に,家系図は1枚の和紙に記載し,その表装はプロの表装師が行い,桐の箱に収めるなどと記載し,現に,取り寄せた戸籍謄本等をもとに,パーソナルコンピュータのイラスト作成ソフトを用いて家系図の原案を作成すると,その電子データを印刷業者に送って美濃和紙に毛筆書体で印字させ,こうしてできたものを表装業者に送って掛け軸用の表装具を使って表装させ,更に,これを保管するための桐箱を木箱制作業者に作成させるなどして本件家系図を完成させていることからすると,被告人にも依頼者にも鑑賞目的がなかったとはいえないが,上記パンフレットには「こんな時にいかがですか?」という見出しのもとに「いつか起こる相続の対策に」などとも記載されており,また,依頼者にしても被告人からその利用目的を制限されていたわけでもない。被告人や依頼者が家系図作成時に想定した主たる利用目的が何であれ,社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる書類であり,その内容に不備が存在すれば依頼者やその親族の生活に混乱を生じさせる危険があるという本件家系図の性質に変更を来すというものではない。したがって,本件家系図が行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」に該当することを前提として,被告人の行為が同法19条1項に違反するとした原判決に誤りはなく,論旨は理由がない。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101220161539.pdf
主 文
原判決及び第1審判決を破棄する。
被告人は無罪。

理 由
弁護人川瀬敏朗の上告趣意は,違憲をいうが,実質は単なる法令違反の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
しかしながら,所論に鑑み,職権をもって調査すると,原判決及び第1審判決は,刑訴法411条1号により破棄を免れない。その理由は次のとおりである。


1 上記の事実関係によれば,本件家系図は,自らの家系図を体裁の良い形式で残しておきたいという依頼者の希望に沿って,個人の観賞ないしは記念のための品として作成されたと認められるものであり,それ以上の対外的な関係で意味のある証明文書として利用されることが予定されていたことをうかがわせる具体的な事情は見当たらない。そうすると,このような事実関係の下では,本件家系図は,依頼者に係る身分関係を表示した書類であることは否定できないとしても,行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」に当たるとみることはできないというべきである。

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裁判官宮川光治の補足意見は,次のとおりである
そもそも,家系に関する人々の関心は古くからあり,学問も成立しており,郷土史家をはじめとして多くの人々が研究調査し,ときに依頼を受けて家系図の作成を行うなどしてきたのである。そして,家系図の作成は,戸籍・除籍の調査にとどまらず,古文書・古記録を調査し,ある程度専門的な判断を経て行われる作業でもある。行政書士は,戸籍・除籍の調査に関しては専門職であるが,それを超えた調査に関しては,特段,能力が担保されているわけではない。家系図は,家系についての調査の成果物ではあるが,公的には証明文書とはいえず,その形状・体裁からみて,通常は,一見明瞭に観賞目的あるいは記念のための品物であるとみることができる。家系図作成について,行政書士の資格を有しない者が行うと国民生活や親族関係に混乱を生ずる危険があるという判断は大仰にすぎ,これを行政書士職の独占業務であるとすることは相当でないというべきである。