児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

停止中の軽四輪乗用自動車運転席に乗車していた女性に対し,いきなり運転席ドアを開けた上,車外から同女の右上腕部をつかんで引き寄せるとともに同女に向けて射精し,運転席シートと運転席座布団に精液を付着させた事案につき,強制わいせつ罪の成立が認められた事案(研修674P109)

 こう言ってしまうと3項製造罪とは観念的競合になりますし、強制セクスティングは強制わいせつ罪になりますよね。

本件での問題は,運転席に乗車中の被害者に向けて射精し,運転席シートと運転席座布団に精液を付着させた行為が,強制わいせつ罪にいう「わいせつ行為」に該当するかという点である。強制わいせつ罪にいう「わいせつ行為」の意義については,判例上,従来から, 「徒らに性欲を輿奮文は刺激せしめ,かっ,普通人の正常な性的蓋恥心を害し,善良な性的道義観念に反する行為」と解されている(最判昭26. 5. 10刑集5・6・1026,名高金沢支判昭36・5・2下集3・5= 6・399)。
その具体的行為としては,接吻,陰部や乳房への接触が典型的であり,いずれも相手の体に直接接触する行為である。それに対し,本件においては,被告人は,被害者が運転席に乗車していた車両の運転席ドアをいきなり開けた上,自己の陰茎を手淫して被害者に向けて射精し,運転席シー卜等に精液を付着させたもので.「わいせつ行為」自体としては,被害者の体に接触していない。そうした場合でも,強制わいせつ罪にいう「わいせつ行為」といえるかという問題である。この点に関し,判例は,直接体に触れなくても,裸にして写真を撮るといった行為はわいせつ行為に該当するとしている(東京高判昭29. 5. 29特報40・138,東京地判昭62. 9. 16判時1294・143)。その根拠は, 「相手を全裸にしてその写真を撮る行為は,相手を男性の性的興味の対象として扱い,相手に性的蓋恥心を与えるという明らかに性的に意味のある行為」であるからとされている。これを本件について見るに,自己の陰茎を手淫して被害者に向けて射精する行為は,被害者を性的興味の対象として扱い,被害者に性的蓋恥心を与える行為であることは明らかであるから, 「わいせつ行為」に該当すると考えられる。本判決も被告人の行為を「わいせつ行為」と認定したもので,特段の問題はないが,同種の教判例が少ないと思われることから,本稿で紹介することとした。