児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

特別公務員陵虐罪

 被害者の同意があっても成立します。
 同意がなければ 性犯罪と観念的競合。

http://mainichi.jp/area/tochigi/news/20090227ddlk09040098000c.html
争点は公判前整理手続きを経て、職務執行中の行為か▽女性と性行為に及んだか−−の2点に絞られた。
 検察側は冒頭陳述で、当時、足利署刑事1課勤務だった上岡被告が、女性の担当取調官として放火事件の捜査中だったことを挙げ、同被告には女性に対する「具体的な職務権限が存在した」と指摘。性交の有無については女性の証言や、2人の通話記録などから立証できると主張した。
 一方、弁護側は、被告と女性は車内で事件に関する会話はほとんどしておらず、職務執行中に当たらないと主張。また、両日とも女性の側から呼び出してきた▽女性がキスをしてきたり、ホテルへ誘ってきた▽性交には及んでいない−−などと述べ、双方の主張は真っ向から対立した。

http://www.sponichi.co.jp/society/flash/KFullFlash20090227096.html
取り調べ女性に手出した元警部補…反省なしと5年求刑
 事件の関係者として取り調べた女性に性的な行為をしたとして、特別公務員暴行陵虐罪に問われた元栃木県警栃木署警部補(52)の公判が27日、宇都宮地裁(井上泰人裁判長)で開かれ、検察側は「反省の情がない」として懲役5年を求刑、弁護側は「虚偽の告訴だ」と無罪を主張し結審した。

第195条(特別公務員暴行陵虐)
1 裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは、七年以下の懲役又は禁錮に処する。

条解刑法第2版P516
(イ)「陵辱・加虐」「陵辱」は,はずかしめる行為とか精神的に苦痛を与える行為,「加虐」は,苦しめる行為とか身体に対する直接の有形力の行使以外の肉体的な苦痛を与える行為などと説明されているが,明確に区別し得るものではなく,要するに,暴行以外の方法で精神的又は身体的に苦痛を与える行為と解すべきである。具体例として,巡査が勤務中に窃盗嫌疑者の少女の陰部を弄したり姦淫するなどのわいせつ,姦淫行為を行った場合(大判大4・6・1録21-717),パトカーで警ら中の警察官がシンナーを吸入している可能性のある少女を同車内に連れ込んで所持品検査に名を借りてわいせつ行為をした場合(大阪地判平5・3・25判タ831-246)警察の留置場の看守が女子房内等で勾留中の女性を姦淫した場合(東京高判平15・1・29判時1835-157)等がある。本罪は職務違反行為を処罰する趣旨であり,職務違反となるか否かは被害者の意思いかんには関しない(大判大15・2・25新聞2545-ll,前掲東京高判平15・1・29)

東京高判平15・1・29
 四 当裁判所の判断
 特別公務員暴行陵虐罪は、刑法の中で汚職の罪(平成七年の改正前の同法では「涜職ノ罪」)の章に規定されており、その保護法益は、第一次的には、公務執行の適正とこれに対する国民の信頼であると解される。もっとも、現憲法が公務員を国民全体の奉仕者とし(一五条二項)、公務員による拷問を絶対的に禁止した(三六条)ことに伴い、昭和二二年、本罪については、構成要件をそのままにしながら(なお、構成要件的行為のうち「陵虐ノ行為」という部分は、平成七年の改正により「陵辱若しくは加虐の行為」と言い換えられた。)、その法定刑を大幅に引き上げる改正(「三年以下の懲役又は禁錮」から「七年以下の懲役又は禁錮」)がなされている。このような改正の趣旨については、本罪が公務員による国民に対する犯罪という側面を有することを示し、国民の基本的人権を保護しようとしたものであるとの指摘もなされているところであるが、前記のとおり本罪が汚職の罪の一種とされていることや、「天皇のための官吏」に象徴される旧憲法下の公務員に比して、現憲法下の公務員の法的性格が大きく変化したとはいえ、公務執行の適正を保持すること自体は、国民全体の奉仕者としての公務員に課せられた最も基本的な義務であると考えられることに照らすと、前記改正後も、汚職の罪の一種として公務員の職務違反行為を処罰するという本罪の基本的性格には変わりがないと考えられ、本罪の趣旨が個人的法益を保護することのみにある、又はその保護に重点が置かれていると理解するのは相当ではない。これに対し、所論(弁護人のそれを指す。以下同じ)は、本罪の趣旨は、憲法が絶対的に禁じた拷問又はこれに類する公務員の人権侵害行為を禁圧することにあると主張するところ、この主張は、本罪の保護法益を個人的法益を中心として理解することが前提となっているように窺われるが、前記検討の結果に照らし、その前提を採用することはできない。
 したがって、本罪にいう「陵辱若しくは加虐の行為」の意味は、公務の適正とこれに対する国民の信頼を保護するという本罪の趣旨に照らして解釈されるべきである。
 このような前提で検討すると、本罪の主体である「法令により拘禁された者を看守し又は護送する者」(以下「看守者等」という。)は、被拘禁者を実力的に支配する関係に立つものであって、その職務の性質上、被拘禁者に対して職務違反行為がなされるおそれがあることから、本罪は、このような看守者等の公務執行の適正を保持するため、看守者等が、一般的、類型的にみて、前記のような関係にある被拘禁者に対し、精神的又は肉体的苦痛を与えると考えられる行為(看守者等が被拘禁者を姦淫する行為[性交]がこれに含まれることは明らかである。)に及んだ場合を処罰する趣旨であって、現実にその相手方が承諾したか否か、精神的又は肉体的苦痛を被ったか否かを問わないものと解するのが相当である。すなわち、前記のような看守者等の立場に照らすと、看守者等が、その実力的支配下にある被拘禁者に対し、前記のような行為に及んだ場合には、当該具体的状況下において、相手方の被拘禁者がこれを承諾しており、精神的又は肉体的苦痛を被らなかったとしても、公務執行の適正とこれに対する国民の信頼を保護するという観点から見た場合には、本罪の陵虐行為に当たるということができるのであって、本罪の趣旨に照らしたこのような解釈が罪刑法定主義に反するものとはいえない。
 もっとも、所論が指摘するように、本罪にいう陵虐行為の意味については、一般に、暴行以外の方法で精神的又は肉体的苦痛を与える一切の行為をいうとされているが、同時に、本罪の性格に照らして、相手方個人の承諾は本罪の違法性を阻却しないとされており、前記大審院判例も、涜職罪の一種として公務員の職務違反行為を処罰する本罪において、当該行為が被害者の意思に反するか否かはあえて問うところではないと判示するところである。所論は、前記大審院判例は、現憲法下では先例的意義を有しないと主張するが、前記のとおり、公務員の法的性格が大きく変化した現憲法下でも、汚職の罪の一種として公務員の職務違反行為を処罰するという本罪の基本的性格に変わりはないと考えられることに照らすと、前記大審院判例の趣旨が合理性を失ったと解することはできない。そして、相手方の承諾がある場合には、当該行為によりその相手方が精神的又は肉体的苦痛を被らない場合も十分に考えられるところ、前記のように相手方の承諾が本罪の成否に何ら影響しないということは、本罪の構成要件的行為の解釈にあたって当然考慮されるべきであり(この点を争う趣旨の所論は採用できない。)、前記のとおり、当該行為が現実に相手方に対して精神的又は肉体的苦痛を与えなかった場合にも、本罪の陵虐行為に該当すると解することが、所論がいうように本罪の予定する犯罪定型を逸脱したものであるとはいえない。
 そして、本件事実関係の概要は前記二で認定したとおりであって、性交の際の具体的な状況に関する被告人とB子の供述には食い違う部分もあるものの、B子は、原判示第一ないし第七の日時場所において、被告人と性交することに同意していたと認められ(原判決も同趣旨の判示をしている。)、その際、B子が精神的又は肉体的苦痛を感じていたことを示す明らかな証拠もない。しかしながら、前記のような本罪の趣旨に照らすと、被告人が、看守としての職務に従事していた際、所携の合い鍵を用いて、B子が留置されていた居室に入り込み、あるいはその居室からB子を連れ出した上で、B子と性交した行為は、本罪の陵虐行為に該当すると認められる。
 (裁判長裁判官 村上光鵄 裁判官 土屋哲夫 中里智美)