こんなことを言ったこともあるんですが、相変わらず、被害者は救済されません。
第6 量刑不当(国は買春(かいしゅん)被害者の救済を怠っている)
被害者を救済すべきは、第1次的には加害者であることは否定しないが、第2次的には、「関係行政機関」(15条)ないし「国及び地方公共団体」(16条)である。
本件では被告人ができることと言えば慰謝の措置であって、最大限の努力は行ったが、被害児童のケアは行われていない。
第15条(心身に有害な影響を受けた児童の保護)
関係行政機関は、児童買春(かいしゅん)の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童に対し、相互に連携を図りつつ、その心身の状況、その置かれている環境等に応じ、当該児童がその受けた影響から身体的及び心理的に回復し、個人の尊厳を保って成長することができるよう、相談、指導、一時保護、施設への入所その他の必要な保護のための措置を適切に講ずるものとする。
2 関係行政機関は、前項の措置を講ずる場合において、同項の児童の保護のため必要があると認めるときは、その保護者に対し、相談、指導その他の措置を講ずるものとする。
第16条(心身に有害な影響を受けた児童の保護のための体制の整備)
国及び地方公共団体は、児童買春(かいしゅん)の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童について専門的知識に基づく保護を適切に行うことができるよう、これらの児童の保護に関する調査研究の推進、これらの児童の保護を行う者の資質の向上、これらの児童が緊急に保護を必要とする場合における関係機関の連携協力体制の強化、これらの児童の保護を行う民間の団体との連携協力体制の整備等必要な体制の整備に努めるものとする。
法律が予定しているのは、責任は加害者に、被害者ケアは「関係行政機関」にという体制である。交通事故にたとえると、責任は加害者にあるが、治療については救急医療体制が整えられて医療機関が行うこととされているのと同じである。
ところが、児童買春(かいしゅん)被害については、法律上体制が義務づけられているにもかかわらず、実際に「関係行政機関」がケアを行うことはない。
インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律の附帯決議をみても明かである。
第156国会 参議院内閣委員会13号平成15年06月05日
○長谷川清君 私は、ただいま可決されましたインターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律案に対し、自由民主党・保守新党、民主党・新緑風会、公明党、日本共産党及び国会改革連絡会(自由党・無所属の会)の各派並びに各派に属しない議員黒岩宇洋君の共同提案による附帯決議案を提出いたします。
案文を朗読いたします。
インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律案に対する附帯決議(案)
政府は、本法の施行に当たり、次の事項の実施について万全を期すべきである。
二、児童の健全育成及び犯罪被害からの保護が本法の目的であることを踏まえ、また、児童買春(かいしゅん)が本来、買春(かいしゅん)する大人の側の責任であることを強く認識し、法第六条違反事案の捜査、処分等に当たっては、そのすべての過程を通じて、児童の特性と人権、利益に最大限配慮するとともに、当事者となった児童に対し、その心身の状況、生育・生活環境等に応じた適切な相談、指導等の保護を与える体制を速やかに充実強化するよう努めること。
三、児童がいわゆる出会い系サイトを始めとするインターネット上の有害情報にさらされている現状において、児童を保護するための予防措置を講じることが極めて重要であることにかんがみ、インターネットの安全な利用法、情報の主体的選択能力を養うことを含む情報リテラシー教育を拡充するとともに、児童が安心して気軽に利用できる通報窓口やカウンセリングの場を整備するよう努めること
(中略)
○委員長(小川敏夫君) ただいま長谷川君から提出されました附帯決議案を議題とし、採決を行います。
本附帯決議案に賛成の方の挙手を願います。
〔賛成者挙手〕
○委員長(小川敏夫君) 全会一致と認めます。よって、長谷川君提出の附帯決議案は全会一致をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。
谷垣国家公安委員会委員長から発言を求められておりますので、この際、これを許します。谷垣国家公安委員会委員長。
○国務大臣(谷垣禎一君) ただいまの附帯決議につきましては、その御趣旨を十分に尊重してまいりたいと存じます。
ありがとうございました
少年警察活動規則(国家公安委員会規則第20号)には、福祉犯の定義として、児童買春(かいしゅん)被害者を筆頭に挙げて、関係者と協力して再被害防止に努力するとされている。警察の義務である。
警察公論2003.2p40少年警察活動規則(下)
被害者のケアは、本件でも全く行われていない。放置されている。キャッチアンドリリースである。
検察官は論告において、「被害児童の心身に与えた悪影響」を指摘するが、実は検察官も警察も「関係行政機関」であって自らの法律上の責任(被害者救済義務)を棚に上げて被告人を指弾するものであって、説得力がない。被害児童に残存する悪影響があるとすれば、被告人の行為+「関係行政機関」の怠慢によるものであって、「関係行政機関」も不作為犯である。(交通事故の加害者が119番をしたのに、救急車が故意遅延して被害者が死亡したようなものである。)
被害者救済が行われないことが被告人だけの責任ではないこと、「関係行政機関」の怠慢によるものは被告人の責任から差し引かれるべきであることを主張する。
にもかかわらず、関係行政機関の責任を考慮せず、被害の責任を被告人にのみ負わせた原判決は量刑が重すぎるから破棄を免れない。