児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

掲示板管理者=プロバイダの刑事責任についての業界の対応

 リンクとか掲示板管理者の逮捕で、善良なプロバイダからの相談が多くなっています。
 以前、何かのガイドラインへのパブコメ募集の際、どうも対応が鈍いというか緩いので、「そんなに甘くないですよ。判例状況説明しましょうか?」と申し出たら、「わかってるから結構です」という回答でした。未公開の裁判例も多いし、理論構成も右往左往なのに。


追記
 たとえば、「インターネット上の違法な情報への対応に関するガイドライン」には、適切な対応を怠った場合について言及がない。

インターネット上の違法な情報への対応に関するガイドライン
http://www.telesa.or.jp/consortium/pdf/20061127guideline.pdf
ガイドラインは、①違法な情報について、典型的な事例における規制の根拠となる法令を示した上で、可能な範囲で具体的事例における考え方を示すとともに、②第三者機関が情報の違法性を判断して電子掲示板の管理者等に対して送信防止措置を依頼する手続等を整備することにより、電子掲示板の管理者等による違法な情報への送信防止措置が促進されることを目的とするものである。
第2 ガイドラインの判断基準の位置付け
上記のとおり、電子掲示板の管理者等が、他人が流通させた違法な情報に関して必要な限度で行う送信防止措置については法的責任を問われない。
一方、電子掲示板の管理者等が、他人が流通させた違法な情報ではない情報について誤って送信防止措置を行った場合における法的責任については裁判手続によって判断されるものである。よって、電子掲示板の管理者等がガイドラインに定める手続に従って送信防止措置を行ったからといって、当然に法的責任が生じないことにはならないことに留意すべきである。ガイドラインは、電子掲示板の管理者等が違法な情報について送信防止措置を行う際の判断の一助として利用されることを念頭に作成するものである。

 インターネット上の違法・有害情報への対応に関する研究会最終報告書でも、「刑事上の責任を問われるおそれが高い状況ではないと考えられる」とされている。

インターネット上の違法・有害情報への対応に関する研究会最終報告書
平成18年8月
http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/pdf/060825_6_1.pdf
1 電子掲示板の管理者等が他人の掲載する情報を放置した場合の法的責任
(1)刑事上の責任
電子掲示板の管理者等が、他人の掲載した違法な情報を放置した場合の刑事責任については、実行行為を作為(違法な情報が掲載されたディスクアレイの陳列)と捉えるか不作為(他人により掲載された違法な情報について送信防止措置を行わないこと)と捉えるか、正犯と構成するか従犯と構成するか等の法的構成に関する問題があり、これらの法的構成によって問題となる点も異なるものと考えられる。17この点、電子掲示板の管理者等について他人の掲載した違法な情報に関して刑事上の責任が肯定された裁判例18は、いずれも電子掲示板の管理者等において違法な情報の流通について積極的な関与が認められる事案であり、単に違法な情報の存在を認識したが、これについて送信防止措置を行わず放置したことのみを理由として刑事上の責任が認められたものではないと解される。
したがって、現時点においては、電子掲示板の管理者等において、違法と思われる情報について単に送信防止措置を行わないというだけでは、他に特段の事由がない限り、刑事上の責任を問われるおそれが高い状況ではないと考えられる。
しかし、電子掲示板の管理者等として、他人が掲載した違法な情報の流通に対してどの程度の関与があれば積極的な関与があるとして刑事責任が認められることになるかについて明確な基準が示されているものではないため、今後の裁判例の動向等を注視する必要がある。
将来的に、電子掲示板の管理者等が、他人の掲載した違法な情報を放置していた場合の刑事上の責任について、その範囲を明確にする必要が生じた場合等においては、諸外国の法制度を参考にしつつ立法措置を講ずることの検討も必要になる可能性があると考えられる。

17 電子掲示板の管理者等が、他人の掲載した違法な情報を放置していた場合における刑事責任については、「インターネット上の誹謗中傷と責任(情報ネットワーク法学会・社団法人テレコムサービス協会編)」第3章(111頁以下)に、関連する裁判例、参考文献等が紹介、引用されている。
18 最高裁平成13年7月16日判決(刑集55巻5号317頁)、東京高裁平成16年6月23日判決(インターネット上の誹謗中傷と責任(前出注16)136頁、151頁以下参照。)、千葉地裁平成14年9月24日判決(前出注16、134頁)等