児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

掲示板管理者の刑事責任に関する文献

 これくらい探せないですか?
 被告人・弁護人に有利な文献はこれくらいでしょうか。
 不利な文献も多々あります。
 警察庁も幇助だと言ってたんですが、昔話です。

1 はじめに
 画像掲示板の管理者である被告人には、「法律上の削除義務」は発生しない。
 画像掲示板管理者の責任はプロバイダーの刑事責任と同じで、管理者が違法な画像を放置しても、刑事責任は発生しない。

2 学説
(1)堀内捷三教授(研修588号)
 堀内教授は不作為による幇助も困難だという。
(2)園田寿・川口直也(「わいせつ画像のデータが記憶・蔵置されたパソコン…」関大法学論集48巻2号1998年
 他人が陳列した違法画像を放置しても、「陳列」とは同視できないという。
(3)前田雅英 インターネットとわいせつ犯罪 ジュリスト1997.6.1 no.1112.
 知らない内に違法画像が掲載されるという点では、画像掲示板管理者とプロバイダーの地位は極めて類似している。
 プロバイダーには作為義務は肯定しづらいという。画像掲示板の管理者も同様である。
(4)園田寿コンピュータ・ネットワークとわいせつ罪 ジュリスト増刊『変革期のメディア』'97
 プロバイダーに削除義務は認められない。画像掲示板管理者も同じである。
(5)永井善之サイバー・ポルノの刑事規制P298
 永井がプロバイダーの刑事責任として論じるところは、画像掲示板の管理者の責任にもそのまま適用される。
 画像の認識が削除義務の前提であると述べている。
 裁判所の結論はともあれ、永井の思考過程は正当であって、裁判所にも参考になると思うので、該当部分を引用する。

3 警察庁の説明
(1)警察学論集52巻4号
 掲示板開設・管理者と投稿者の関係は、映像送信型性風俗特殊営業における、自動公衆送信装置設置者と映像送信型性風俗特殊営業者の関係と同じである。
 映像送信型性風俗特殊営業においては、自動公衆送信装置設置者が児童ポルノ映像の存在を知ったときは当該映像の送信を防止するため必要な措置を講ずるよう努めなければならない(31条の8第5項)とされているが、違法画像の存在を認識しただけでは「知った」ことにはならず、明確な認識が必要である。(警察学論集52-4P106)
 しかも、必要な措置を講じる義務に罰則はなく、措置を講じなくても「同項の規定が遵守されることを確保するため必要な措置をとるべきことを勧告することができる。」だけである。
 しかも、義務違反の場合の刑事責任については、せいぜい公然陳列罪の幇助と説明されている。(警察学論集52-4P107〜8)

 営利目的で風俗営業にサービスを提供しているプロバイダーですらこの程度の責任である。私的な画像掲示板の管理人についてはこのような明文規定がないし、勧告されることもなしにいきなり陳列罪の正犯となるというのは理解に苦しむ。

(街頭における広告及び宣伝の規制等)
第31条の8
(5) その自動公衆送信装置の全部又は一部を映像伝達用設備として映像送信型性風俗特殊営業を営む者に提供している当該自動公衆送信装置の設置者(次条において「自動公衆送信装置設置者」という。)は、その自動公衆送信装置の記録媒体に映像送信型性風俗特殊営業を営む者がわいせつな映像又は児童ポルノ映像(児童買春(かいしゅん)、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第二条第三項各号に規定する児童の姿態に該当するものの映像をいう。次条第二項において同じ。)を記録したことを知つたときは、当該映像の送信を防止するため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

(指示等)
第31条の9
(1) 映像送信型性風俗特殊営業を営む者又はその代理人等が、当該営業に関し、この法律又はこの法律に基づく命令若しくは条例の規定に違反したときは、当該違反行為が行われた時における事務所の所在地を管轄する公安委員会は、当該映像送信型性風俗特殊営業を営む者に対し、善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為又は少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため必要な指示をすることができる。
(2) 映像送信型性風俗特殊営業を営む者が客にわいせつな映像又は児童ポルノ映像を見せた場合において、当該映像送信型性風俗特殊営業を営む者に係る自動公衆送信装置設置者が前条第五項の規定を遵守していないと認めるときは、当該自動公衆送信装置設置者の事務所の所在地を管轄する公安委員会は、当該自動公衆送信装置設置者に対し、同項の規定が遵守されることを確保するため必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
(3) 公安委員会は、電気通信事業者たる自動公衆送信装置設置者に対して前項の規定による勧告をしようとするときは、あらかじめ総務大臣と協議しなければならない。

(2)後藤啓二警察庁) コンピュータネットワークにおけるポルノ問題・下 ジュリスト1145号P81
 風営法上努力義務が規定されているプロバイダーについてすら、画像の常時監視義務はないとされている。
(3)後藤啓二警察庁)「インターネット上の違法有害情報」ジュリスト1159号P122
 掲示板管理者の注意義務はプロバイダーに準じるとしている。
4 民事裁判例
 掲示板管理者の民事責任(名誉毀損等)についての民事判例を紹介する。
 いずれも、単に名誉毀損的発言があったことを認識しただけでは削除義務は発生しない。
 刑罰の補充性から、およそ民事責任も発生しない場合には、刑事責任は発生しないというべきである。

(1)東京高裁H14.12.25
 問題の発言を認識し、かつ、被害者からの削除要求に応じなかった場合に、不法行為責任を認めるものである。
【事件番号】東京高等裁判所判決/平成14年(ネ)第4083号*46
【判決日付】平成14年12月25日
【判示事項】インターネット電子掲示板上に他人の名誉を毀損するような文言が匿名で書き込まれた場合、右掲示板を設置運営するものに対し、右文言の削除と損害賠償請求金の支払が命じられた事例
【参照条文】民法709
      民法723
      憲法21
【参考文献】判例時報1816号52頁
 本件掲示板にも,不適切な発言を削除するシステムが一応設けられているが,前記のとおり,これは,削除の基準があいまいである上,削除人もボランティアであって不適切な発言が削除されるか否かは予測が困難であり,しかも,控訴人が設けたルールに従わなければ削除が実行されないなど,被害者の救済手段としては極めて不十分なものである。現に,被控訴人Bは,本件掲示板に本件各発言の削除を求めたが,削除してもらえず,本件訴訟に至ってもなお削除がされていない。したがって,このような削除のシステムがあるからといって,控訴人の責任が左右されるものではない。また,控訴人は,本件掲示板を利用する第三者との間で格別の契約関係は結んでおらず,対価の支払も受けていないが,これによっても控訴人の責任は左右されない。無責任な第三者の発言を誘引することによって他人に被害が発生する危険があり,被害者自らが発言者に対して被害回復の措置を講じ得ないような本件掲示板を開設し,管理運営している以上,その開設者たる控訴人自身が被害の発生を防止すべき責任を負うのはやむを得ないことというべきであるからである。

(2) 東京地裁H11.9.24
 管理者の削除義務を限定的に認める裁判例である。
 「違法性が一見して明白であること」は、管理者が問題の書き込みを自ら確認することを前提としている。

【事件番号】東京地方裁判所判決/平成10年(ワ)第23171号*47
【判決日付】平成11年9月24日
【判示事項】大学の学生が右大学の管理下にあるコンピューターシステム内に開設したホームページに掲載した文書に名誉を毀損されたとして、大学職員に損害賠償ないし名誉回復措置が請求された事案につき、本件文書が名誉毀損に当たるかどうかも、加害行為の態様の悪質性も、被害の甚大性も、いずれもおよそ一見して明白であるとはいえないものというべきであるから、大学担当職員が本件ホームページに本件文書が掲載されたことを知った時点において、これを削除するための措置をとるべき私法上の義務を負うものとはいえないとして、右請求を棄却した事例
【参照条文】民法709
      民法723
【参考文献】判例タイムズ1054号228頁
      判例時報1707号139頁
      判例地方自治199号63頁
都立大職員である情報教育担当教員が社会通念上許されない内容の公開情報の削除権を有することからただちに、右情報教育担当教員が原告らに対する関係において本件文書の削除義務を負うという結論を導き出すことはできないものというべきである。
 なお、社会通念上許されない内容の公開情報を削除すべき権限の行使は情報教育担当教員の合理的裁量に委ねられ、裁量権の逸脱、濫用がない限り、情報教育担当教員の削除権限の行使が教養部システム内部の関係者に対する関係において違法になることはないものというべきである。
(二) しかしながら、自ら管理するネットワークからインターネット経由で外部に情報が流れる場合において、右の情報の流通を原因として外部の者に被害が生じたときであっても、ネットワーク管理者は、常に外部の被害者に対して被害発生防止義務を負うことがないとまでいうことはできない。。管理者の被害発生防止義務の成否は、事柄の性質に応じて、条理に従い、個別的ないし類型的に検討すべきものである。
 ところで、インターネットにおける秩序が刑罰法規に触れてはならないとか、私法秩序に反するものであってはならないとかいうのは、理念としてはそのとおりである。しかしながら、刑罰法規や私法秩序に反する状態が生じたからといって、そのことを知ったネットワークの管理者が被害者との関係において被害の防止に向けた何らかの措置をとる義務が生じるかどうかは、問題となった刑罰法規や私法秩序の内容によって異なると考えられ、事柄の性質に応じた検討が不可欠である。犯罪行為であり、私法上も違法な行為であるからといって、当該情報の存在を知った管理者に一律に当該情報を排除すべき義務を負わせるのは、事柄の性質によっては無理があるからである。
(四) これに対して、名誉毀損行為は、犯罪行為であり、私法上も違法な行為ではあるが、基本的には被害者と加害者の両名のみが利害関係を有する当事者であり、当事各以外の一般人の利益を侵害するおそれも少なく、管理者においては当該文書が名誉毀損に当たるかどうかの判断も困難なことが多いものである。このような事を考慮すると、加害者でも被害者でもないネットワーク管理者に対して、名誉毀損行為の被害者に被害が発生することを防止すべき私法上の義務を負わせることは、原則として適当ではないものというべきである。管理者においては、品位のない名誉毀損文書が発信されることによるネットワーク全体の信用の低下を防止すべき義務をネットワーク内部の構成員に負うことはあっても、被害者を保護すべき私法秩序上の職責までは有しないとみるのが社会通念上相当である。(なお、管理者が名誉毀損文書を削除するに当たり被害者の利益にも配慮した上で削除の決断がされることが通常であろうが、このような削除権の行使は、いわば被害者に対する道義上の義務の履行にすぎず、これを怠ると損害賠償義務を負うべき私法秩序上の義務の履行とはいえないと解される。)。
  そうであるとすれば、ネットワークの管理者が名誉毀損文書が発信されていることを現実に発生した事実であると認識した場合においても、右発信を妨げるべき義務を被害者に対する関係においても負うのは、名誉毀損文書に該当すること、加害行為の態様が甚だしく悪質であること及び被害の程度も甚大であることなどが一見して明白であるような極めて例外的な場合に限られるものというべきである。
(五)  本件加害行為は、本件文書が名誉毀損に当たるかどうかも、加害行為の態様の悪質性も、被害の甚大性も、いずれもおよそ一見して明白であるとはいえないものというべきであるから、都立大担当職員が本件ホームページに本件文書が掲載されたことを知った時点において、被害者である原告らに対してこれを削除するための措置をとるべき私法上の義務を負うものとはいえないというべきである。

(3)東京高裁H13.9.5
 被害者からの削除要求があってはじめて削除義務が生じるという。

【事件番号】東京高等裁判所判決/平成9年(ネ)第2631号、平成9年(ネ)第2633号、平成9年(ネ)第2688号、平成9年(ネ)第5633号*48
【判決日付】平成13年9月5日
【判示事項】 二 フォーラム上に名誉毀損・侮辱に当たる発言が書き込まれた場合において、フォーラムを運営管理するシステム・オペレーターは、一定の場合、この発言を削除すべき条理上の義務を負う
三 システム・オペレーターについて、フォーラム上にされた名誉毀損・侮辱に当たる発言を削除する義務に違反したとは認めなかった事例
四 パソコン通信の主催者について、フォーラム上に名誉毀損・侮辱に当たる発言がされても、規約による安全配慮義務を負わないとされた事例
【参照条文】民法709
      民法415
【参考文献】判例タイムズ1088号94頁
      判例時報1786号80頁

オ  以上の諸事情を総合考慮すると,本件のような電話回線及び主宰会社のホストコンピュータを通じてする通信の手段による意見や情報の交換の仕組みにおいては,会員による誹謗中傷等の問題発言については,フォーラムの円滑な運営及び管理というシスオペの契約上託された権限を行使する上で必要であり,標的とされた者がフォーラムにおいて自己を守るための有効な救済手段を有しておらず,会員等からの指摘等に基づき対策を講じても,なお奏功しない等一定の場合,シスオペは,フォーラムの運営及び管理上,運営契約に基づいて当該発言を削除する権限を有するにとどまらず,これを削除すべき条理上の義務を負うと解するのが相当である。


(4)東京地裁H14.4.11
「自らが管理する情報送受信サービスにおいて、第三者の権利を侵害する情報が送信されていることを具体的に知っており、かつ、その送信されている情報が第三者の権利を侵害するものであることされていること、侵害行為の態様が極めて悪質であること、及び、被害の程度が甚大であることが一見して明白であるような極めて例外的な場合でなければ、そもそも係る情報の送受信を阻止する義務を負わない」というのである。違法画像の存在を具体的に知っていることを要件としている。

【事件番号】東京地方裁判所決定/平成14年(ヨ)第22010号
【判決日付】平成14年4月11日
【判示事項】ピア・ツー・ピア方式による電子ファイルの交換に関するサービスを提供している債権者に対し、著作権(自動
      公衆送信権送信可能化権)侵害を理由に、利用者へのファイル情報の送信の差止めが命じられた事例
【参照条文】著作権法23−1
      著作権法2−1
      著作権法112−1
      著作権法21
      著作権法30−1
      著作権法49−1
【参考文献】判例タイムズ1092号110頁
      判例時報1780号25頁
 (5)他方、東京地判平成九年五月二六日判時一六一〇号一三頁〔ニフティサーブ現代思想フォーラム事件地裁判決〕において裁判所は、「シスオペに対し、条理に基づいて、その運営・管理するフォーラムに書き込まれる発言の内容を常時監視し、積極的に右のような発言がないかを探知したり、全ての発言の問題性を検討したりというような重い作為義務を負わせるのは相当でな」く、「その運営・管理するフォーラムに、他人の名誉を毀損することを具体的に知ったと認められる場合」に初めて、「当該シスオペには、その地位と権限に照らし、そのものの名誉が不当に害されることがないよう必要な措置をとるべき条理上の作為義務」が生ずるものと判示している。また、東京地判平成一一年九月二四日判時一七〇七号一三九頁〔都立大学事件地裁判決〕において裁判所は、「名誉毀損行為は、犯罪行為であり、私法上も違法な行為ではあるが、基本的には被害者と加害者の両名のみが利害関係を有する当事者であり、当事者以外の一般人の利益を害するおそれも少なく、管理者においては当該文書が名誉毀損にあたるかどうかの判断も困難なことも多いものである。このような点を考慮すると、加害者でも被害者でもないネットワークの管理者に対して、名誉毀損行為の被害者に被害が発生することを防止すべき私法上の義務を負わせることは、原則として適当ではないものというべきである」とし、「ネットワークの管理者が名誉毀損文書が発信されていることを現実に発生した事実であると認識した場合においても、右発信を妨げるべき義務を被害者に対する関係においても負うのは、名誉毀損文書に該当すること、加害行為の態様が極めて悪質であること及び被害の程度も甚大であることが一見して明白であるような極めて例外的な場合に限られるというべきである」と判示している。
 これらの裁判例からは、自らが管理する情報送受信サービスにおいて、第三者の権利を侵害する情報が送信されていることを具体的に知っており、かつ、その送信されている情報が第三者の権利を侵害するものであることされていること、侵害行為の態様が極めて悪質であること、及び、被害の程度が甚大であることが一見して明白であるような極めて例外的な場合でなければ、そもそも係る情報の送受信を阻止する義務を負わないということがわかる(なお、著作権著作隣接権侵害行為もまた、犯罪行為であり、私法上も違法な行為ではあるが、基本的には被害者と加害者の両名のみが利害関係を有する当事者であり、当事者以外の一般人の利益を害するおそれも少なく、また当該電子ファイルが著作権著作隣接権侵害にあたるかどうかの判断も困難なことが多いのであるから、上記法理は、著作権著作隣接権侵害行為がなされたときにもやはり妥当するというべきであろう。)。
 したがって、利用者間で送受信される具体的な電子ファイルが債権者の権利を侵害するかどうかを具体的に知っているわけではない債務者が、債権者の権利を侵害する電子ファイルの送受信がなされることがないよう未然に防止措置を取る義務はそもそもないというべきである。

5 刑事裁判例
(1) 京都地裁H9及び大阪高裁H11の事例
  画像掲示板管理者の責任については、前記大阪高裁H11で言及されている。
 ただし、この事例は、管理者は、画像数も認識し分類するなどの積極的関与が客観的に認められる事例(=作為)である。
 本件には被告人の積極的行為はないことに注意すべきである。

【事件番号】京都地方裁判所判決/平成7年(わ)第820号
【判決日付】平成9年9月24日
【参照条文】刑法175
【参考文献】判例時報1638号160頁
(争点に対する判断)
 弁護人は、((二)本件わいせつ画像のデータのうち、被告人がハードディスクにアップロードしたのは七〇〇画像分から八〇〇画像分である、その余は、会員がアップロードしたものであり、これについては、被告人は刑事責任を負わない、と主張する。
二 右(ニ)の点について
 前掲関係証拠によると、次の事実が認められる。
1 被告人は、パソコンネットである甲野ネットを開設運営し、ホストコンピュー夕ーを所有管理していた。
2 右のような地位にあった被告人は、わいせつ画像を見せて、会員を増やせば金儲けになるとの考えから、会員がわいせつ画像のデータをハードディスクにアップロードするのを単に黙認していたというのではなく、自ら電子掲示板で会員に対し、わいせつ画像をアップロードするよう奨励するとともに、わいせつ画像のデータを三〇画像分アップロードした会員には二ケ月分の会費を免除し、多数あるわいせつ画像データを会員がアクセスしやすいように分類するなどしていた。
3 被告人は、会員がアップロードした画像データの内容のすべてを確認した訳ではないとしても、画像データのおよその数を把握していたばかりでなく、その内容がわいせつ画像のデータであろうとの認識を有していた。
 右のような事実によると、会員がアップロードした画像データの分についても、被告人が正犯として刑責を負うのは明らかである。

【事件番号】大阪高等裁判所判決/平成9年(う)第1052号
【判決日付】平成11年8月26日
【判示事項】パソコンネットの開設運営者が自己の管理するホストコンピューターのハードディスク内にわいせつ画像データを記憶・蔵置するなどした事案において、わいせつ物公然陳列罪の成立を認めた原判決の判断が維持された事例
【参照条文】刑法175
【参考文献】判例タイムズ1064号239頁
      判例時報1692号148頁
 被告人が責任を負うわいせつ画像データの範囲について
 所論は、要するに、パソコンネットの会員が、被告人のホストコンピュータのハードディスクにアッフロードして記憶・蔵置させたわいせつ画像データについては、被告人は、刑法一七五条の責任を負わない、というのである。
 なるほど、被告人が、本件において、ホストコンピューターのハードディスクに自ら記憶・蔵置させたわいせつ画像データは、約七〇〇ないし八〇〇画像分に過ぎず、残りの約三四〇〇ないし三五〇〇画像のデータについては、会員が、自らのパソコンを使用して、電話回線で被告人のポストコンピューターのハードディスクにアップロードしてきたものと認められる。しかし、関係証拠によると、被告人は、平成五年一一月中旬ころ、自己が所有、管理するホストコンピューターの中に、わいせつ画像データ四〇ないし五〇画像分が会員からアップロードされ記憶されているのを知り、コンピューターネットを通じてわいせつ画像を見せることにすれば、これに興味を示す会員が増え、多額の会費収入を上げることができると考え、ホストコンピューターの掲示板に「画像をアップして下さい。」と書き込んで、わいせつ画像データのアップロードを求め、会員のパソコンから、電話回線を通じ多数のわいせつ画像データをホストコンピューターに集めたこと、特に、平成六年春ころから翌七年春ころまでの間は、わいせつ画像データを三〇画像分アップロードした会員には、会費を二か月無料にする旨の広告をネットを通じて出し同時にわいせつ画像データを記録してあるフロッピーを「アルファーネット」の事務局に送付する方法でもよい旨の案内を出して、多数のわいせつ画像データを集めたこと、その上で、被告人は、右案内に基づき会員から事務局に送付されて来たフロッピーから、わいせつ画像データをホストコンピューターのハードディスクに登録し、会員からアップロードされたデータと一緒に、集めたわいせつ画像データをその種類等に応じてハードディスク内部で分類、整理し、自ら案出した説明文等もファイルデータに付記した上、これらのわいせつ画像データをアクセスしてきた多数の会員によるダウンロードが容易な状態に置いたこと、これらの作業と併行して、被告人は、平成五年一二月にネットの会費を有料とした後、二フティーサーブの掲示板に「超Hな画像があります。」と三、四日に一度の割合で書き込んで広告を出し、以後逮捕されるまで、ネットを通じてわいせつ画像の閲覧を希望する会員を募集し、入会した会員にこれらのわいせつ画像データを提供し、わいせつ画像の閲覧をさせ続けていたこと、しかも、被告人は、本件ハードディスク内に記憶・蔵置されたデータの概数を把握し、その内容がわいせつ画像のデータである蓋然性を認識していたこと等が認められる。以上にみられる本件犯行の動機、わいせつ画像データの収集方法、被告人のホストコンピューターのハードディスク内でのわいせつ画像データの管理状況及び宣伝広告を初めとするネットの運営情況等に照らすと、被告人が、自らホストコンピューターのハードディスク内にアップロードして記憶させたわいせつ画像データのみに止まらず、会員をしてハードディスク内にアップロードさせたわいせつ画像データについても、これらを会員に閲覧させ収益を上げるという自らの用途に資する目的で、ハードディスクに蔵置させ続け、会員がいつでもアクセス、ダウンロードして閲覧することが可能な状態にしつつ、これを積極的に管理していたものと認められるから、被告人は、右わいせつ画像データ全部について、わいせつ物公然陳述罪の責任を免れないというべきである。
 さらに、所論は、原判決は、被告人がユーザーからアップロードされたわいせつ画像データの存在を知りなから、それらを削除しなかった不作為を被告人の責任の根拠としているが、ハードディスク上のファイル管理という技術レベルでの管理を根拠に、ユーザーがアップロードした情報内容全般について、被告人を「情報の番人」として位置付けて、削除という作為義務を認めるべきではない、という。
 しかしながら、本件においては、すでに認定、説示したとおり 被告人は、単に会員か勝手にアップロードしてきたわいせつ画像データをそのまま放置していたものではなく、それらを自己の用途に資する目的で収集した上、分類、整理し、その宣伝を行って、会員を募集するなどしつつ積極的に管理していたのであるから 会員らかアップロードしてきたわいせつ画像データをハードディスクから削除しなかった被告人の不作為のみを問題となる所論は、本件において被告人が果たした役割を適切に評価しておらず、前提事実を異にしているから、原判決に対する適切な論難には当たらない。
 その他、所論は、原判決の認定、判断をるる論難するが、いずれも原判決のそれを左右するに足るものではない。
 論旨は理由がない。
 よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 福島 裕 裁判官 樋ロ裕晃 井上 豊)

(2) 公然猥褻被告事件 福岡高裁判決S27う933号他
 警察学論集で引用されている福岡高裁最高裁の事例は、連日行われている公然わいせつ罪に該当する演劇について、その違法性を知りながら、なおも劇場を提供したという事例であって、その後の劇場提供行為が幇助とされた。劇場の開場(=小屋を開けた)・客の案内・チケット販売・電源提供等の作為が認められる事案である。
 本件では、被告人が違法画像を認識した後には、このような作為はない。

(3) 永井の分析(永井善之サイバー・ポルノの刑事規制P319)
 永井の分析によれば、掲示板管理者が刑事責任を問われるのは、管理者がそのような投稿を積極的に勧誘した場合だという。