児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

0歳児の裸体は「児童ポルノ」か?

 昨年、さいたま地裁でそういう判決がありましたが、立法者の「一般人基準」からすると疑問です。

女児わいせつ画像ネット交換:「犯状は悪質」と地裁が男に有罪判決 /埼玉
2006.12.27 毎日新聞
判決によると、被告は05年6〜7月ごろ、東京都内などで生後11カ月と4歳の女児のわいせつ画像をデジタルビデオカメラで撮影、今年3月、インターネットで知り合った児童ポルノ愛好団の知人に画像を渡した。

森山真弓「よくわかる児童買春・児童ポルノ禁止法」
Q40第2条第3項第2号・第3号には「性欲を興奮させ又は刺激する」とありますが、だれの性欲を興奮させ又は刺激するのでしょうか。また、この要件に該当するか否かは、だれが判断するのでしょうか。
大多数の者に対して、児童の(特に低年齢児童の)裸体は性欲を興奮させ又は刺激するとは考えられないという考え もありますが、どうでしょうか。
一部の少数者の性欲を興奮させ又は刺激するものも児童ポルノとして処罰の対象になりますか。
A「性欲を興奮させ又は刺激する」とは、一般人の性欲を興奮させ又は刺激することをいうものと解しています。 これに該当するか否かの判断は、犯罪構成要件に該当するか否かの判断ですので、最終的な判断は刑事事件において裁判所がするものと なります。
児童の裸体が一般人の性欲を興奮させ又は刺激するかどうかについ ては、性的に未熟な女児の陰部等を描写した写真が刑法のわいせつ図 画に当たるとした判例があり、必ずしも年少児童の裸体が一般人の性欲を興奮させ又は刺激することがないとはいえないと考えております。
なお、一部の少数者の性欲を興奮させ又は刺激するものは、一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものでない限り、児童ポルノには当たりません。

「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」解説
警察庁生活安全局少年課執務資料(部内用)
平成11年7月12日
警察庁生活安全局少年課
(3)「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とされているが、これは、前記の最高裁判所判例が示したわいせつ概念と比較すると、「いたずらに」(過度に)であることを要しないとしたものであり、かつ、「普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」であるか否かについて論ずるまでもなく規制すべきとした趣旨であるが、単に性的な興味を引く程度のものでなく、それを超えるものでなければならない。また、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」は、一般人の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」と解されることから、これに当たらない限り、一部の少数者の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であっても、本号に該当しない

 6歳の裸体についてこんな主張をしたことがあります。

4 一般人基準の不当
 そもそも法の趣旨に照らすと、一般人基準というのが疑わしい。この際、同法については特別の基準を設ける必要がある。
 もとよりわいせつ図画(刑法175条)については、「刑法175条にいわゆるわいせつとは、いたずらに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。」という判例が定着しており、具体的事件の処理を通じて、「通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうか」という基準が示され、かかる基準が定立しているといえないでもない。
 しかし、児童ポルノ法の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」というのは、文言上、わいせつ概念=「いたずらに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」よりは広い概念であり、判決例も蓄積されていないから、そもそも「通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれる」とはいえない。

 また、この基準によれば、誰を基準として「性欲を興奮させ又は刺激するもの」かどうかを判断するのかが問題となる。
 子どもの裸体が写っているだけで、一般的には性的表現とみないものでも、子どもの性に対する嗜好を持つ者にとっては、このような写真が性的好奇心の対象として用いられるという点が、児童ポルノ法の存在意義である。児童のポルノも一般人の性欲を刺激興奮させるのであればわいせつ図画(刑法175条)の加重類型(構成要件のうち性欲刺激性は軽減し、児童という要件を設けた)に過ぎないことになる。(社会的法益説の根拠となる。)

 だとすれば、通常人や一般人を基準として「性欲を興奮させ又は刺激するもの」を判断するのでは、「児童ポルノ」に該当する物は存在し得ないことになる。
 しかるに、もし裁判所が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に当たると判断した場合、当該裁判官が子どもの性に対する嗜好を持つ者であることを告白することになり、公平さや裁判官の良心が疑われる。
 だからと言って、当該裁判官が子どもの性に対する嗜好を持つ者を基準として判断することも裁判所の立場として許されない。

 また、そもそも、読む側の基準で判断するのでは、児童ポルノ処罰法の目的は全く達成できない。

 裁判所は、性欲刺激の判断方法について判示した上で、本件写真(未現像)が児童ポルノにあたるかいなかを判断しなければならない。裁判官のカミングアウトなど刑事訴訟には不必要であり聞きたくない。刑事裁判官としてはむしろ堅物の人物が期待されていることを忘れてはならない。

 原判決の言いまわしによれば、例えば静岡地裁の事例のような強制わいせつ事案に伴って裸体が撮影されても、単なる裸体であって、「両脚を開かせ性器を露出させた露骨な描写」でなければ、児童ポルノ製造罪は成立しないことになる。強制わいせつ罪が成立するほどの悪質な児童虐待であって、その記録が作出され流通しようとしているのに、児童ポルノ処罰法では規制できなくなる。これは児童ポルノ処罰法の趣旨に反する。