児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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女性の臀部撮影に無罪 「服の上から、違反でない」 (旭川簡裁H19.3.9)

 「卑わいな言葉」+「着衣の上から撮影」を、条例2条の2第1項4号「前3号に掲げるもののほか、卑わいな言動」として起訴したんでしょうね。
 撮影行為については、2号・3号で中身の撮影に限定されているので、4号でというのは通常の解釈では無理でしょうね。
 言葉については認定されれば4号でいけるでしょう。

http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/kiji.php3?&d=20070310&j=0022&k=200703101465
女性の臀部撮影に無罪 「服の上から、違反でない」 旭川簡裁  2007/03/10 07:15
 【旭川】カメラ付き携帯電話で女性の臀部(でんぶ)を盗撮したとして道迷惑防止条例違反(卑わいな行為)の罪に問われた旭川市内の男性(29)に対し、旭川簡裁(北山裕之裁判官)は九日、「服の上からの撮影では条例違反とは言えない」などとして無罪(求刑・罰金三十万円)を言い渡した。
 起訴状によると、男性は昨年七月二十一日午後七時ごろ、旭川市内のスーパーで、買い物中の女性(27)の背後から近づき、卑わいな言葉を発した上で、カメラ付き携帯電話で、女性の服の上から臀部周辺の写真十一枚を撮影した。男性は、女性の通報で駆けつけた警察官に逮捕された。
 公判で検察側は「公共の場で、女性を著しく辱め、不安を覚えさせた」と主張。弁護側は撮影を認めたが、「服で隠している部分を(その上から)撮ったもので、盗撮には当たらない」などと争った。
 判決は「道条例では、衣服等で覆われている内側の身体や下着を撮影することを禁じており、服の上からの撮影に関する規定はない」と弁護側の主張をほぼ認めた。卑わいな言葉を発したことは認定しなかった。

http://www.police.pref.hokkaido.jp/koukai/seian/seifuzok/seifu-19.htm
公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
(目的)
第1条 この条例は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し、もつて道民生活の平穏を保持することを目的とする。
(卑わいな行為の禁止)
第2条の2 何人も、公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し、正当な理由がないのに、著しくしゅう恥させ、又は不安を覚えさせるような次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 衣服等の上から、又は直接身体に触れること。
(2) 衣服等で覆われている身体又は下着をのぞき見し、又は撮影すること。
(3) 写真機等を使用して衣服等を透かして見る方法により、衣服等で覆われている身体又は下着の映像を見、又は撮影すること。
(4) 前3号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
2 何人も、公衆浴場、公衆便所、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所における当該状態の人の姿態を、正当な理由がないのに、撮影してはならない。

 合田説だと、1〜3号は例示なので、着衣の撮影も4号に含めることができる。つまり、着衣でも有罪にできる。
 しかし、条例制定権者が他の条例との比較で文言を選んだとも思えない。

合田悦三「いわゆる迷惑防止条例について」(『小林充・佐藤文哉先生 古稀祝賀刑事裁判論集 上巻』)
禁止行為の内容
これも一覧表記載のとおりであるが、相当のバラエティがある。ここでは、一つの視点から概観する。
まず、禁止行為の規定の仕方の面では三種類に分かれる。
(1) 禁止行為の例示なしに一般的な禁止規定を置くのみである類型
この類型は、例えば 「人を苦しくしゆう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない」とする東京都条例(表記は現行条例のもの。以下も、できるだけ現行の当該条例に即して適示するので、同じ用語でも表記が不統一なこともある。) のような規定形式で、二〇都県ある。
(2)禁止行為の例示があるが、一般的な規定をも付加している類型
この類型は、例えば「身体に直接若しくは衣服の上から触れ、衣服で隠されている卜者等を無断で撮影する等人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない」とする埼玉県条例や、「次に掲げる行為をしてはならない」として禁止行為を列挙する中で「前二号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること」とする北海道条例のような規定形式で、やはり二〇道府県ある。
(3)禁止行為を限定列挙する類型
この類型は、禁止行為を貝体的に列挙して一般規定を置かない類型である。したがって、(1)及び(2)の類型の場合と異なり、限定列挙された行為に該当しないものは処罰されないことが明らかである。七府県あり・・・

 中村説でも、外から見える姿態でも「卑わいな言動」となる余地があるという。

中村孝「いわゆる迷惑防止条例違反の正否が問題となった事例」研修 第671号
,(1)の事案の行為については問題である。この点,研修員の意見としては,被疑者は女性の膝下を撮影することで興奮を憶えるのであり,かつ,撮影されたⅩ女も非常に恥ずかしい思いをしているのであれば,r卑わいな言動」に該当するといえるのではないかという意見(積極説)もあった。
露出して歩いている部分であり,世間-一般に露出されている部分を撮影することが直ちに卑わいな言動に当たるとは言い切れないのではないかという意見(消極説)が多かった。
思うに,人の主観的意図,認識は千差万別であり,これを基準として「卑わいな言動」かどうかを判断することはできず,前記の判例が述べるとおり,建全な社会常識に基づいて客観的に考察しなければならないであろう。そうすると,現在における社会常識に基づき,撮影された場所がパチンコ店内という公の場所であることをも考慮すれば,やはり消極説が妥当であると思われる。(注3)
なお,原庁処理も,消極説と同様の考えの下に不起訴処分としたとのことである。
(注3)同じく膝下部分のみの撮影行為でも,周囲の状況によっては.異なった結論となることも十分あり得ると思われるo例えば,公衆便所の個室内にいる女性の膝下部分を扉の下の透き間から狙って撮影した場合には,「卑わいな言動」に該当し得ると思われる。

条例も調べてあるんですよ。刑法学会員だから。
奥村が弁護人なら、合田論文には知らないフリして、研修671を振りかざして「無罪」ということになります。

 児童ポルノの原稿(2/末締め切り)もいま書いてます。

追記
 毎日放送でのこの話題に関する弁護士のコメントは「現場で適切な対応をしていれば裁判にならなかっただろう」という程度でした。
 この問題は、着衣の中の撮影を禁止する条項+その他の卑わい行為の禁止があって、着衣の上からの撮影を禁止する条項がない場合に、もちろん解釈をするのか限定列挙だと解釈するのかという、法学概論の問題です。
 少なくとも合田論文の一覧表をみてコメントしてほしいものです。



追記0322
 4号該当性の問題でした。
 検察官控訴

服の上から盗撮、無罪判決 地検「尻を狙い卑猥」控訴 旭川簡裁=北海道
2007.03.21 読売新聞社
 検察側は「衣類の上からでも撮影目的や部位などによっては羞恥(しゅうち)心や不安を覚えさせ、条例が禁じる撮影行為は衣類の上からも含む」などと主張。弁護側は「条例が禁じるのは衣類の内側の体や下着をのぞき見たり撮影すること。被告は後ろ姿は撮影したが、尻を狙ってはいない」などと反論した。
 北山裕之裁判官は弁護側の条例解釈に軍配を上げ、「社会通念上、容認できないほどの卑猥な行為と認められない」などと述べて被告を無罪とした。
 被告側の古田渉弁護士は「被告は美しい後ろ姿に関心があった。非常識だが、処罰するほどの反社会性はない。あいまいな条例が冤罪(えんざい)を招いた」と判決を評価する。
 一方、「ウィメンズネット旭川」の村田恵子代表は「衣類の上からでも女性は脅威を感じ不快だ。相手には性的関心や意図があり、女性は望んでいない。判決には、加害者と被害者の性的被害意識のギャップを感じる」と話している。
 旭川地検松本剛和・次席検事の話「原審の事実認定及び法令解釈には承服し難い。判断の是正を求めるために控訴した」

 控訴審弁護人は研修671号を持ち出して、検察官は合田論文を持ち出すんでしょうが、
 保護法益は社会的法益だそうです。高裁は保守的だし、規定上はどっちでもいけるので、悲観的な予測です。

合田悦三「いわゆる迷惑防止条例について」(『小林充・佐藤文哉先生 古稀祝賀刑事裁判論集 上巻』)
筆者は、迷惑防止条例の卑わい行為 (迷惑行為一般についても同様である。)禁止規定の存在によって個人の利益が守られる側面があることをわ定するものではないが、それは社会法益保護を目的とする禁止規定が存在することの反射的効果であると考える。公共の場所や乗物において、卑わい行為が行われず、その場にいる持定の個人に限定されない皆が安心していられる (したがって、各別の個人のレベルでも意思及び行動の自由が確保されている)状態というのは、まさに社会法益が守られている状態なのではなかろうか。

 「ウィメンズネット旭川」の怒りは「反射的効果」だそうです。盗撮関係についてはちゃんと個人的法益とする立法を求めた方がいいですね。


追記11/13
最高裁決定h20.11.10で決着がついています。
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20081113#1226549072