児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

懲戒事由とされた職場での暴行事件から7年以上経過した後にされた諭旨退職処分が権利の濫用として無効とされた事例(最高裁h18.10.6)

 遅すぎるし重すぎるというんですね。

http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=GIF&PG=STORY&NGID=soci&NWID=2006100601000544
7年後処分は権利乱用 社員2人の懲戒解雇無効
古田佑紀裁判長は「暴行から処分まで7年以上経過している。長期間にわたって懲戒権を行使しなかった合理的な理由はなく、処分は権利の乱用に当たる」と判断した。

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=33623&hanreiKbn=01

4 しかしながら,原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
使用者の懲戒権の行使は,企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが,就業規則所定の懲戒事由に該当する事実が存在する場合であっても,当該具体的事情の下において,それが客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当なものとして是認することができないときには,権利の濫用として無効になると解するのが相当である。
前記事実関係によれば,本件諭旨退職処分は本件各事件から7年以上が経過した後にされたものであるところ,被上告人においては,A課長代理が10月26日事件及び2月10日事件について警察及び検察庁に被害届や告訴状を提出していたことからこれらの捜査の結果を待って処分を検討することとしたというのである。しかしながら,本件各事件は職場で就業時間中に管理職に対して行われた暴行事件であり,被害者である管理職以外にも目撃者が存在したのであるから,上記の捜査の結果を待たずとも被上告人において上告人らに対する処分を決めることは十分に可能であったものと考えられ,本件において上記のように長期間にわたって懲戒権の行使を留保する合理的な理由は見いだし難い。しかも,使用者が従業員の非違行為について捜査の結果を待ってその処分を検討することとした場合においてその捜査の結果が不起訴処分となったときには,使用者においても懲戒解雇処分のような重い懲戒処分は行わないこととするのが通常の対応と考えられるところ,上記の捜査の結果が不起訴処分となったにもかかわらず,被上告人が上告人らに対し実質的には懲戒解雇処分に等しい本件諭旨退職処分のような重い懲戒処分を行うことは,その対応に一貫性を欠くものといわざるを得ない。
また,本件諭旨退職処分は本件各事件以外の事実も処分理由とされているが,本件各事件以外の事実は,平成11年10月12日のA課長代理に対する暴言,業務妨害等の行為を除き,いずれも同7年7月24日以前の行為であり,仮にこれらの事実が存在するとしても,その事実があったとされる日から本件諭旨退職処分がされるまでに長期間が経過していることは本件各事件の場合と同様である。同11年10月12日のA課長代理に対する暴言,業務妨害等の行為については,被上告人の主張によれば,同日,A課長代理がE社からの来訪者2名を案内し,霞ヶ浦工場の工場設備を説明していたところ,上告人X2が「こら,A,おい,A,でたらめA,あほんだらA。」などと大声で暴言を浴びせてA課長代理の業務を妨害し,上告人X1においてもA課長代理に対し同様の暴言を浴びせるなどしてその業務を妨害したというものであって,仮にそのような事実が存在するとしても,その一事をもって諭旨退職処分に値する行為とは直ちにいい難いものであるだけではなく,その暴言,業務妨害等の行為があったとされる日から本件諭旨退職処分がされるまでには18か月以上が経過しているのである。これらのことからすると,本件各事件以降期間の経過とともに職場における秩序は徐々に回復したことがうかがえ,少なくとも本件諭旨退職処分がされた時点においては,企業秩序維持の観点から上告人らに対し懲戒解雇処分ないし諭旨退職処分のような重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況にはなかったものということができる。
以上の諸点にかんがみると,本件各事件から7年以上経過した後にされた本件諭旨退職処分は,原審が事実を確定していない本件各事件以外の懲戒解雇事由について被上告人が主張するとおりの事実が存在すると仮定しても,処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠くものといわざるを得ず,社会通念上相当なものとして是認することはできない。そうすると,本件諭旨退職処分は権利の濫用として無効というべきであり,本件諭旨退職処分による懲戒解雇はその効力を生じないというべきである。