児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

二重起訴の判断方法

 淫行の際に写真を撮影して、家裁に児童福祉法違反(淫行させる行為・児童淫行罪)、地裁に製造罪が起訴された事件では、被告人がやったことはさておいて、こんな訴訟法の議論になっています。

第338条〔公訴棄却の判決〕
左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
三 公訴の提起があつた事件について、更に同一裁判所に公訴が提起されたとき。

 少年法37条の弊害の一つです。

 詳しく説明します。
 自然的事実は

1/1 淫行+撮影(児童ポルノ製造)
1/2 淫行

として、1/1淫行は写真上明らかだが起訴されず
起訴状では

1/1 撮影(児童ポルノ製造)→地裁に起訴
1/2 淫行 →家裁に起訴

となった場合、
 判例

同一児童に対する数回の淫行は包括一罪
児童淫行罪と児童ポルノ製造罪は観念的競合

なので

1/1 撮影(児童ポルノ製造)→地裁に起訴
1/2 淫行 →家裁に起訴

は実は科刑上一罪であって二重起訴になるのではないか?

 両事件の接点である1/1淫行が起訴されていないのでかすがいがないわけですが、公訴事実レベルとしては1/1淫行も同一性が及ぶし、一事不再理効は及ぶのだから、どっちかの裁判所でまとめて裁かないとおかしいでしょ。

1 原判決=訴因基準説の不当性
 原判決は二重起訴の控訴理由については、両事件の訴因を比較して決めるべきであるとしている(訴因基準説)。

原判決(東京高裁H17.12.26)
1管轄違い及び二重起訴並びに憲法14条違反をいう各論旨について(控訴理由第1ないし第3)
その論旨は,要するに,本件児童ポルノ製造罪と同一被害児童に対する淫行罪(以下,「別件淫行罪」という。)とは科刑上一罪の関係にあるとして,これを併合罪として本件児童ポルノ製造罪について地方裁判所に管轄を認めた原判決には不法に管轄を認めた適法があり,また,別件淫行罪が既に家庭裁判所に起訴されているのであるから、地方裁判所に対する本件起訴は二重起訴であり,原判決には不法に公訴を受理した違法があり,さらに,被告人の行為についてのみ併合審理の利益を奪い,合算による不当に重い量刑をした原判決には憲法14条1項違反の違法があるというのである。
しかしながら,本件児童ポルノ製造罪について地方裁判所に起訴された訴因は,前後6回にわたる児童ポルノの製造を内容とするものであり,他方,別件淫行罪について家庭裁判所に起訴された訴因は,平成日の被害児童に淫行させる行為を内容とするものであって,これらの両訴因を比較対照してみれば,両訴因が科刑上一罪の関係に立っとは認められないことは明らかである。
所論は,本件児童ポルノ製造の際の淫行行為をいわばかすがいとして,本件児童ポルノ製造罪と別件淫行罪とが一罪になると主張しているものと解される。ところで,本件児童ポルノ製造罪の一部については,それが児童淫行罪に該当しないと思われるものも含まれるから(別紙一覧表番号1及び4の各一部,同番号5及び6),それについては,別件淫行罪とのかすがい現象は生じ得ない。
他方,本件児童ポルノ製造罪のなかには,それ自体児童淫行罪に該当すると思われるものがある。例えば,性交自体を撮影している場合である(別紙一覧表番号1の一部,同番号2及び3)。同罪と当該児童ポルノ製造罪とは観念的競合の関係にあり,また,その児童淫行発と別件淫行罪とは包括的一罪となると解されるから(同一児童に対する複数回の淫行行為は,併合罪ではなく,包括的一罪と解するのが,判例実務の一般である。),かすがいの現象を認めるのであれば,全体として一罪となり,当該児童ポルノ製造罪については,別件淫行罪と併せて,家庭裁判所に起訴すべきことになる。
かすがい現象を承認すべきかどうかは大きな問題であるが,その当否はおくとして,かかる場合でも,検察官がかすがいに当たる児童淫行罪をあえて訴因に掲げないで,当該児童ポルノ製造罪を地方裁判所に,別件淫行罪を家庭裁判所に起訴する合理的な理由があれば,そのような措置も是認できるというべきである。一般的に言えば,検察官として,当該児童に対する児童淫行が証拠上明らかに認められるからといって,すべてを起訴すべき義務はないというべきである(最高裁昭和59年1月27日第一小法廷決定・刑集38巻1号136頁,最高裁平成15年4月23日大法廷判決刑集57巻4号467貢)。そして,児童淫行罪が児童ポルノ製造罪に比べて,法定刑の上限はもとより,量刑上の犯情においても格段と重いことは明らかである。そうすると,検察官が児童淫行罪の訴因について,証拠上も確実なものに限るのはもとより,被害児童の心情等をも考慮して,その一部に限定して起訴するのは,合理的であるといわなければならない。また,そのほうが被告人にとっても一般的に有利であるといえる。ただ,そうした場合には,児童ポルノ製造罪と別件淫行罪とが別々の裁判所に起訴されることになるから,所論も強調するように,併合の利益が失われたり,二重評価の危険性が生じて,被告人には必要以上に重罰になる可能性もある。そうすると,裁判所としては,かすがいになる児童淫行罪が起訴されないことにより,必要以上に被告人が量刑上不利益になることは回避すべきである。
そこで,児童ポルノ製造罪の量刑に当たっては,別件樫行罪との併合の利益を考慮し,かつ,量刑上の二重評価を防ぐような配慮をすべきである。そう解するのであれば,かすがいに当たる児童淫行罪を起訴しない検察官の措置も十分是認することができる。したがって,憲法14粂違反の主張を含め,所論はいずれも採用できない。

 しかし、訴訟条件である管轄違いについては、訴因基準で考えるべきであるとしても、二重の危険・二重起訴の判断というのは、起訴段階における二重の危険の法理(憲法39条)の発露であるから、同一の事件について、訴因において何罪と構成されるか、判決において何罪と評価されるかとは別問題として、ある生の事実について、二度と起訴されない・二度と罰せられる危険はないという観点から決まる問題であるから、そこでいう「同一事件」というのは、生の事実=公訴事実の同一性によって決せられるべきである。
 また、現行刑訴法が施行されて定着している今日、訴因上から明らかな日時・場所・被害者・行為が同一の起訴が重ねて行われることはありえず、二重起訴が問題になるのはむしろ科刑上一罪や包括一罪関係の事実の一部が別々に起訴された場合の方が多いはずである。
-大コンメンタール刑訴法5-2
-注釈刑事訴訟法新版5巻
 にもかかわらず、訴因を基準に二重起訴を決するのでは、二重起訴の適用範囲を徒に狭くすることになる。

 従って、訴因にかかわらず、両事件の公訴事実が同一である場合には、二重の危険が生じ、二重起訴となる。
 その違法は、重ねて起訴すること自体が違法となるのであるから、量刑上の配慮では調整できない。

2 文献
 公訴事実基準説は通説である。
(1)大コンメンタール刑訴法5-2 P262
(2)注釈刑事訴訟法新版5巻P484
(3)新判例コンメンタール4P430
3 判例違反
判例

名古屋高等裁判所判決/昭和26年(う)第113号
昭和26年4月9日*1

は、観念的競合である昭和24年政令第389号所持罪とたばこ専売法所持罪について、「7月7日の所持」につき先に政令第389号所持罪で起訴し、たばこ専売法所持罪で起訴した場合に、二重起訴を認める。
 この場合、訴因としては別であるが、科刑上一罪であるから二重起訴と認めるというのである。
 訴因を比較するだけではだめだというのが判例であり、原判決には判例違反がある。

 また、包括一罪の場合についても二重起訴とするのが判例である。これも両事件の訴因を比較すれば、日時が違うから訴因としては異なるが、同一事件の二重起訴とされているのである。

高松高等裁判所判決/昭和26年(う)第778号、昭和26年(う)第779号

 本件においても、形式的に日時を比較すれば異なるが、被害児童は同一であるし、写真撮影の際に淫行が行われたことも、証拠上明らかであるから、包括一罪である児童福祉法違反とそれと観念的競合の関係にある児童ポルノ製造罪とが別々に起訴されたことも明らかである。