児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

極端に弱気な弁護士

 西村会員の初公判で、日経夕刊に奥村弁護士の弱気なコメントが極端な例として掲載されています。
 奥村弁護士は、お金を受け取るときには、委任契約に「犯罪収益ではない」という一筆を入れてもらっています。

組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律
(犯罪収益等収受)
第十一条 情を知って、犯罪収益等を収受した者は、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。ただし、法令上の義務の履行として提供されたものを収受した者又は契約(債権者において相当の財産上の利益を提供すべきものに限る。)の時に当該契約に係る債務の履行が犯罪収益等によって行われることの情を知らないでした当該契約に係る債務の履行として提供されたものを収受した者は、この限りでない。

(定義)
第二条 この法律において「団体」とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)により反復して行われるものをいう。
2 この法律において「犯罪収益」とは、次に掲げる財産をいう。
 一 財産上の不正な利益を得る目的で犯した別表に掲げる罪の犯罪行為(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならばこれらの罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。)により生じ、若しくは当該犯罪行為により得た財産又は当該犯罪行為の報酬として得た財産
 二 次に掲げる罪の犯罪行為(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならばイ、ロ又はニに掲げる罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。)により提供された資金
  イ 覚せい剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)第四十一条の十(覚せい剤原料の輸入等に係る資金等の提供等)の罪
  ロ 売春防止法(昭和三十一年法律第百十八号)第十三条(資金等の提供)の罪
  ハ 銃砲刀剣類所持等取締法(昭和三十三年法律第六号)第三十一条の十三(資金等の提供)の罪
  ニ サリン等による人身被害の防止に関する法律(平成七年法律第七十八号)第七条(資金等の提供)の罪
 三 不正競争防止法(平成五年法律第四十七号)第十一条第一項の違反行為に係る同法第十四条第一項第七号(外国公務員等に対する不正の利益の供与等)の罪の犯罪行為(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならば、当該罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。)により供与された財産
 四 公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律(平成十四年法律第六十七号)第二条(資金提供)に規定する罪に係る資金
3 この法律において「犯罪収益に由来する財産」とは、犯罪収益の果実として得た財産、犯罪収益の対価として得た財産、これらの財産の対価として得た財産その他犯罪収益の保有又は処分に基づき得た財産をいう。
4 この法律において「犯罪収益等」とは、犯罪収益、犯罪収益に由来する財産又はこれらの財産とこれらの財産以外の財産とが混和した財産をいう。

 混和すると全部犯罪収益なので、すべての金員について、真実、犯罪収益である危険があります。
 素人なら
   「情を知らなかった」
で通用するでしょうが、法律の専門家だし、犯罪者とも直接接触する機会も多い。
 形式的には「犯罪収益の収受」にあたる場合でも、実際には、相場に照らして妥当であれば見逃してくれるでしょうが、それでも
   「情を知らなかった」
の一言で逃れられるというのは甘い。
 そもそもそんなところで、当局に頭をペコペコしていては、依頼者の擁護どころじゃなくなる。
 だから、「犯罪収益ではない」という一筆を入れてもらって、安全を確保するわけです。そういう一筆をもらえない場合は受け取らない。
 
 具体的にいうと、児童ポルノを売った人の弁護をする場合、その人の財布・口座にあるお金は混和によって全額「犯罪収益等」です。何百万あっても1円ももらわない。
 まずは、犯罪に無縁な家族に持ってきてもらうわけです。保釈保証金も。
 その後、被告人から家族に犯罪収益から弁済されようと、それはこっちは知りません。
 口座にある児童ポルノ販売の収益は贖罪寄付してもらいますが、残りはやっぱり「犯罪収益等」なので、そこからも受け取りません。
 余談ですが、取り立てに来たサラ金にも「犯罪収益から払うと、お宅に迷惑かかるかもよ」というと、ひるむので有効です。

 これからもこういう弱気なポリシーで行きます。
 犯罪収益からしか払えないという依頼者は、他の強気な弁護士さんに頼んでください。


 国会ではこういうやりとりがありますが、明文になっていないので、信用していません。

145 - 衆 - 法務委員会 - 16号 平成11年05月25日
○海渡参考人 本日は、貴重な意見陳述の機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
 私は、日弁連の三法案に対する対策本部の委員をしておりますけれども、本日の意見陳述は、私個人の見解に基づくものであり、日弁連などの団体を代表するものではありません。

 次に、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案について意見を述べさせていただきます。
 まず、重罰化の必要性がはっきりと説明されておりません。現実には、刑法の定める刑には大きな幅があり、言い渡される刑が法定刑の上限に集中しているといった事情もありません。現実に、労働組合、消費者団体の交渉に強要罪、監禁罪等が適用された例は数え切れないほどあります。労働組合のピケなどの争議行為が威力業務妨害とされた例も少なくありません。最近も、この法案に反対する活動を活発に行っていた労働組合員五名が逮捕されるという事件が発生しております。この法案が、争議団など労働組合をその標的の一つとしていることは否めないというふうに考えます。
 マネーロンダリングについてであります。
 今回のマネーロンダリングでは、麻薬、銃器など典型的な組織的犯罪とされる罪だけではなく、傷害、窃盗、詐欺、横領など刑法上の主要犯罪だけで五十以上、商標法、著作権法など極めて多数の特別法上の罪が前提犯罪とされ、その範囲が著しく拡大されました。さらに、この犯罪収益等には、犯罪収益に由来する収益さらには混和財産なども含まれるとされております。
 日弁連は、この犯罪収益収受罪が弁護活動を著しく困難にする可能性があるということをこの意見書で強く警告してきました。依頼者が一定の犯罪に基づいて取得した金を、違法に取得された金であるという未必的な認識、何か違法性を帯びた金かもしれないという認識がありながら受領すると、それだけで犯罪収益収受罪となります。暴力団構成員の刑事事件はもちろんのこと、詐欺や窃盗などのありふれた犯罪でも、被告人や被告人と生計を同じくする家族から弁護費用を受け取るということ自身が非常に危険、犯罪収益収受罪に当たりかねないという事態になると思われます。
 実は、このような事態はアメリカで既に起きていることなのです。アメリカでは、ここに書きましたユナイテッドステーツ対モンサント事件という事件、これについての一九八九年六月二十二日の連邦最高裁判所の決定で、没収となり得る財産の判決前の凍結が憲法修正六条の弁護人依頼権の保障規定、憲法修正五条のデュープロセス条項に違反しないという判決が五対四の僅差で出されています。しかし、最高裁判事のうちの四人はこの法律を憲法違反としているのであります。この法律は刑事司法システムの基本的な公正さを掘り崩してしまうとしている連邦最高裁判所裁判官が四名もいるということに注目していただきたいと思います。
 日本では、起訴前の段階では国選弁護の制度もありません。起訴前は、弁護士会が費用を出している当番弁護士制度と私選弁護士制度しかないのであります。にもかかわらず、法務省は、与党協議の場でこの判決を引用しながら、この法律のもとで弁護人が受け取る報酬に犯罪収益収受の罪を適用する可能性を肯定しております。
 贈収賄マネーロンダリングの前提犯罪に含まれています。政治家が収賄の罪で逮捕されても、私選弁護を引き受けてくれる弁護士がいないといった事態もあり得ないことではないのであります。

145 - 参 - 法務委員会 - 3号 平成11年03月23日
福島瑞穂君 そっとしておいてほしい人間が会いたいと言っているにもかかわらず、そっとしておくのが当たり前だから会わせないというのは非人間的だと考えます。
 次に、組織的犯罪対策法についてお聞きします。
 組織的犯罪法の中に犯罪収益等収受罪があります。これは弁護士にも適用されるということでよろしいんですね
○政府委員(松尾邦弘君) 弁護士にも適用されるかどうかというその御質問の方向がよくわかりませんが、もう少しお聞かせいただけますか。

福島瑞穂君 これは与党プロジェクトの中で出てきたことで、弁護士にも適用されるというふうに明言をされています。
 これは、例えば組織的犯罪対策法が成立をして、その人間から弁護士の依頼を受けた場合に、そのお金が一定の犯罪に基づいて違法に収得されたお金であるという未必の故意があれば、弁護士もそのお金を弁護士報酬として受領しますと犯罪収益等収受罪となるというふうに理解をしているんですが、それでよろしいですか
○政府委員(松尾邦弘君) まず、弁護士が組織犯罪対策あるいは犯罪組織の一味とみなされる者の弁護に当たるという場合ももちろんあるわけでございますが、その弁護士が正当な弁護活動を行っている限りにおいては、その弁護活動そのものが問題視されることはないということはまず言えるかと思います。
 それから、先生お尋ねの弁護報酬を受け取る行為でございますけれども、弁護契約というのは、法案の第十一条ただし書きの、債権者において相当の財産上の利益を提供すべき契約に当たるということにはなろうかと思いますが、弁護報酬が犯罪収益等によって支払われることの情を知っていたという場合でない限り、弁護報酬として犯罪収益等を収受いたしましても、犯罪収益等収受罪というものは成立しないということになります。
 さらに、念のため申し上げますと、弁護人が弁護契約を締結するときに、例えば暴力団の関係者であります被告人ということになりますと、暴力団の活動によって得られた金によって弁護報酬が支払われることを認識していたという程度では、弁護報酬が犯罪収益等によって支払われることの情を知っていたということにはならないというふうに我々は理解しております。
福島瑞穂君 ただ、犯罪収益のお金がまざっているかもしれない、そうかもしれないという認識があれば、弁護士が報酬を受け取ればこれに当たるわけですよね。
○政府委員(松尾邦弘君) その程度の認識では、犯罪収益等の収受には当たらないということでございます
福島瑞穂君 では、正確にどういう場合には当たるのかを教えてください。
○政府委員(松尾邦弘君) 極端に言いますと、弁護報酬として収受した例えば現金であるとします。その現金が、実は薬物取引でその当日に被告人なり被告人の関係者が受け取ったものがさらに伝わって報酬として来たというような具体的な状況がありますと、犯罪の収益を収受したということにはなろうかと思いますが、一般的に組織犯罪の被告人の属している組織といいましても、いろいろな活動をしており、また収入も多様でございますので、暴力団の活動から得た収益であるという程度の認識では、この法案に言う犯罪収益を収受したということにはならないという意味でございます。
福島瑞穂君 例えば、犯罪を行っているある団体がいたとします。ちょっと例が悪いですが、わかりやすく言うと、政治家の贈収賄罪は今回入っておりませんが、例えば政治家が贈収賄で多額のお金を得て逮捕されたので私選弁護を頼みたい。この場合に、巨額のお金は全部その贈収賄で政治家が得たとして、その弁護を引き受けるとこれは犯罪収益等収受罪になりますか。
○政府委員(松尾邦弘君) どうも非常に具体的過ぎましてなかなかお答えがしづらいんですが、一般的に、その被告人の属している組織といいますか、その組織がさまざまな活動をしているということが通常でございます。その中にはもちろん違法な行為ということもあり得るわけでございますが、それ以外にも通常の商取引なり、あるいは利益を生むようないろいろな行為をやっているということも当然あり得るわけでございますので、単にそういう違法な活動を行っているおそれがあるという程度の団体から弁護報酬をもらうということがありましても、それはこの法律の適用対象外であるということを明確に申し上げておきたいと思います。
福島瑞穂君 お金には色がついておりませんから、混和財産となるわけです。犯罪収益等収受罪が成立するかどうか、かなり実はぶれるのではないかと思います。