児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

国会図書館で製造販売している(していた?)事実

 杓子定規に考えると、国会図書館は苦しいです。 公訴時効も遠い。
 児童ポルノ罪は児童に対する性的商業的搾取ですから、永田町で不特定多数に閲覧複写させていたというのはちょっとやそっとじゃ正当化できないんじゃないか?
 正当化の理屈をちょっと考えています。

1 はじめに
 国会図書館には児童ポルノが収蔵され、閲覧・複写に供されているという。

2 国会図書館において児童ポルノ写真集が保管され閲覧に供され有償でコピーされている事実
(1)京都地裁H12.
3号児童ポルノである写真集「×××」ほか14冊を販売した。

(2)国会図書館蔵書検索
  写真集「×××」が所蔵されていることは公知である。
 現時点では当該写真集は「作業中」とされているものの、いずれ作業が終われば閲覧可能となるのであろう。

(3)国会図書館の複写サービス
 国会図書館では有償で複写してくれる。公知である。
http://opac.ndl.go.jp/help/internet/ohelp3.html#copy_service

 著作権法の制限はあるが、児童ポルノ写真集については何の制限も見受けられない。

3 国会図書館の罪責
 国会図書館は、閲覧させる・複写させるために資料を集めているのである。

国会図書館
第二条 国立国会図書館は、図書及びその他の図書館資料を蒐集し、国会議員の職務の遂行に資するとともに、行政及び司法の各部門に対し、更に日本国民に対し、この法律に規定する図書館奉仕を提供することを目的とする。

 だとすれば、児童ポルノ法を形式的に適用するときは、国会図書館児童ポルノ写真集を所蔵し、閲覧させ、複写して、交付しているのであるから

所持行為について児童ポルノ公然陳列目的所持罪・販売(提供)目的所持罪
閲覧させた行為について児童ポルノ公然陳列罪
貸し出した場合は業として貸与罪(提供罪)
有償で複写した行為について児童ポルノ販売(提供)目的製造罪
複写物を交付した行為について児童ポルノ販売(提供)罪

が成立することになろう。

 児童ポルノ罪には「法定の除外事由」がないから、国会図書館だからといって免責されることはない。国は児童ポルノの被害の防止や被害者の救済に積極的に活動すべき明文の義務を負っているから知らなかったとは言えない。

第14条(教育、啓発及び調査研究)
国及び地方公共団体は、児童買春、児童ポルノの提供等の行為が児童の心身の成長に重大な影響を与えるものであることにかんがみ、これらの行為を未然に防止することができるよう、児童の権利に関する国民の理解を深めるための教育及び啓発に努めるものとする。
2 国及び地方公共団体は、児童買春、児童ポルノの提供等の行為の防止に資する調査研究の推進に努めるものとする。
第15条(心身に有害な影響を受けた児童の保護)
関係行政機関は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童に対し、相互に連携を図りつつ、その心身の状況、その置かれている環境等に応じ、当該児童がその受けた影響から身体的及び心理的に回復し、個人の尊厳を保って成長することができるよう、相談、指導、一時保護、施設への入所その他の必要な保護のための措置を適切に講ずるものとする。
2 関係行政機関は、前項の措置を講ずる場合において、同項の児童の保護のため必要があると認めるときは、その保護者に対し、相談、指導その他の措置を講ずるものとする。
第16条(心身に有害な影響を受けた児童の保護のための体制の整備)
国及び地方公共団体は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童について専門的知識に基づく保護を適切に行うことができるよう、これらの児童の保護に関する調査研究の推進、これらの児童の保護を行う者の資質の向上、これらの児童が緊急に保護を必要とする場合における関係機関の連携協力体制の強化、これらの児童の保護を行う民間の団体との連携協力体制の整備等必要な体制の整備に努めるものとする。

 さらに、児童ポルノ法は議員立法であるところ、国会図書館は外国の児童ポルノ規制についてたびたび調査して成果を出版しているのである。児童ポルノの害悪を真っ先に紹介して立法を支えていたのである。その国会図書館が正当な理由もなく自ら児童ポルノを製造販売していたとすれば、自己矛盾も甚だしく、立法府に対する国民の信頼は失われるであろう。

雑誌名 外国の立法
出版者・編者 国立国会図書館調査及び立法考査局 / 国立国会図書館調査及び立法考査局 編
1. 人身取引の対象とされた者の保護及び支援のために必要な制度的メカニズムを構築し、その暴力に対する罰則を定め、人身特に女性及び児童の取引を撲滅する政策を制定するための法律(共和国法 第9208号) (特集 諸外国における人身取引に関する立法動向) -- (フィリピンの人身取引に関する立法動向) / 権 香淑 訳
外国の立法. (220) [2004.5]

2. アメリカ合衆国における児童虐待の防止及び対処措置に関する法律
外国の立法. (219) [2004.2]

3. アメリカ合衆国における児童虐待の防止及び対処措置に関する法律 (アメリカ合衆国における児童虐待の防止及び対処措置に関する法律) / 土屋 恵司
外国の立法. (219) [2004.2]

4. 児童虐待防止及び対処措置並びに養子縁組改革--「2003年児童及び家族の安全保持法」による改正後の合衆国法典第42編[保健及び福祉] 第67章[児童虐待防止及び対処措置並びに養子縁組改革]の規定 (アメリカ合衆国における児童虐待の防止及び対処措置に関する法律) / 土屋 恵司 訳
外国の立法. (219) [2004.2]

5. イギリスにおける対児童犯罪・少年犯罪・性犯罪に対する最近の立法措置--イギリス「2000年刑事司法及び裁判所業務法」による資格剥奪命令・コミュニティ命令・「1997年性犯罪者法」改正
外国の立法. (218) [2003.11]

6. イギリスにおける対児童犯罪・少年犯罪・性犯罪に対する最近の立法措置--イギリス「2000年刑事司法及び裁判所業務法」による資格剥奪命令・コミュニティ命令・「1997年性犯罪者法」改正 (イギリスにおける対児童犯罪・少年犯罪・性犯罪に対する最近の立法措置--イギリス「2000年刑事司法及び裁判所業務法」による資格剥奪命令・コミュニティ命令・「1997年性犯罪者法」改正) / 横山 潔
外国の立法. (218) [2003.11]

7. イギリス「2000年刑事司法及び裁判所業務法」(法律第43号) 第2章 児童の保護 (イギリスにおける対児童犯罪・少年犯罪・性犯罪に対する最近の立法措置--イギリス「2000年刑事司法及び裁判所業務法」による資格剥奪命令・コミュニティ命令・「1997年性犯罪者法」改正) / 横山 潔 訳
外国の立法. (218) [2003.11]

8. アメリカ:児童を誘拐及び性的搾取から保護するための法律 / 中川 かおり
外国の立法. (217) [2003.8]

9. 特集 児童買春ツアー・児童ポルノ
外国の立法. 34(5・6) [1996.11]

10. 子ども買春ツアー (特集 児童買春ツアー・児童ポルノ) / 横山 潔
外国の立法. 34(5・6) [1996.11]

11. オーストラリア 1994年犯罪(子ども買春ツアー)法 (特集 児童買春ツアー・児童ポルノ) / 横山 潔 訳
外国の立法. 34(5・6) [1996.11]

12. フィリピン 児童の虐待,搾取及び差別に対する児童特別保護法 (特集 児童買春ツアー・児童ポルノ) / 山田 敏之 訳
外国の立法. 34(5・6) [1996.11]

13. スウェーデン ボーリン事件判決 (特集 児童買春ツアー・児童ポルノ) / 酒井 貴美子 訳
外国の立法. 34(5・6) [1996.11]

14. 児童買春ツアーに出かけ児童を買春した者に対する送り出し国と受入国の処罰規定 (特集 児童買春ツアー・児童ポルノ) / 山田 敏之
外国の立法. 34(5・6) [1996.11]

15. 先進諸国における児童ポルノ規制 (特集 児童買春ツアー・児童ポルノ) / 山田 敏之
外国の立法. 34(5・6) [1996.11]

16. 表 先進各国における猥褻出版物・図画等と児童ポルノの規制の概要 (特集 児童買春ツアー・児童ポルノ) / 山田 敏之
外国の立法. 34(5・6) [1996.11]

17. 先進各国における児童ポルノ取締に関する規定 (特集 児童買春ツアー・児童ポルノ) / 山田 敏之
外国の立法. 34(5・6) [1996.11]

 児童ポルノ罪の保護法益をどのようにとらえようと、国会図書館による製造販売は、立法府自らによって職業的・営利的・組織的に行われてたのであるから、それによる法益侵害は、本件のような家内工業的犯行とは比べものにならないほど深刻である。

 なお、弁護人は2002年11月に、同様の写真集が閲覧可能であり、複写に支障がないことを確認している。
 国会図書館がこのようなサービスを提供していたとすれば、児童ポルノの罪質(児童の権利侵害)に照らすと、いかなる理由をもっても正当化できない行為である。


追記

http://www.asahi.com/national/update/0717/TKY200507160368.html
児童ポルノ」閲覧制限 国会図書館、摘発対象指摘受け

国会図書館(員)の行為が公訴時効になるまで5年あります。


追記0719
正当化の根拠(調査研究)
 しかし、調査研究対象として写真集だけ集めるというのは正当事由としては弱い。
 検閲の問題もありますが、内規で内容によって閲覧制限できることにしているので、検閲になるから知らなかったとは言えない。
 しかも、誰彼問わず、目的を聞かずに閲覧させ、謄写させていたというのだから実害が発生していた恐れもある。
↓↓
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
第14条(教育、啓発及び調査研究)
2 国及び地方公共団体は、児童買春、児童ポルノの提供等の行為の防止に資する調査研究の推進に努めるものとする。

国会図書館
第六章 調査及び立法考査局
第十五条 館長は、国立国会図書館内に調査及び立法考査局と名附ける一局を置く。この局の職務は、左の通りである。
 一 要求に応じ、両議院の委員会に懸案中の法案又は内閣から国会に送付せられた案件を、分析又は評価して、両議院の委員会に進言し補佐するとともに、妥当な決定のための根拠を提供して援助すること。
 二 要求に応じ、又は要求を予測して自発的に、立法資料又はその関連資料の蒐集、分類、分析、飜訳、索引、摘録、編集、報告及びその他の準備をし、その資料の選択又は提出には党派的、官僚的偏見に捉われることなく、両議院、委員会及び議員に役立ち得る資料を提供すること。
 三 立法の準備に際し、両議院、委員会及び議員を補佐して、議案起草の奉仕を提供すること。但し、この補佐は委員会又は議員の要求ある場合に限つて提供され、調査及び立法考査局職員はいかなる場合にも立法の発議又は督促をしてはならない。