児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

古谷伸彦「盗罪の被疑事実で送致された事案を強盗罪で起訴した事例一被害者の錯誤に基づく承諾の効力」研修670

 このタイトルで強姦罪が検討されています。
 古谷検事の見解を、高裁金沢支部H14.3.28で裏付ければ、実務上は、欺罔(偽札)による買春・売春の場合に強姦罪が成立することはないでしょうね。奥村弁護士としては、被害者が強姦被害を訴えている場合にまでそれでいけるかは疑問です。

1 被疑者Aは,金銭に窮し.売春目的の女性からであれば,その金品を奪取しても,向女は売春で摘発されることを恐れてその被害を警察
に届け出ないと考え,本件犯行を思い立った。
そして.Aは,いわゆるツ−ショット伝言ダイヤルを通じ,売春目的の被害女性Ⅴと知り合うことができたことから,Vに対し.真実はそのような現金を支払う意思も能力もないのに,自己と性交する対価として現令2万円を支払う旨うそをつき,同女と落ち合う約束を取り付けた。

(中略)

(1)強姦罪の成否
分科会では,緊縛行為に対するⅤの承諾を真意に沿わない重大な瑕疵ある承諾で無効であると考えた場合,Aは,緊縛によってⅤの反抗を抑圧して性交していることから,強盗に着手したAが女子を強姦した場合に当たり,強盗強姦罪が成立するのではないかという点についても議論があった。
この点,研修員の中には,前記最高裁判例の「そのような錯誤がなければ,そのような承諾はなさなかったであろう。」との考えを強調して,強盗強姦罪の成立を強く主張する者もおり,そのような見解も理論上は成り立ち得ないものではなかろうと思われる。
しかし,その余の研修員の多くは,本件性交の実態が,単に対価支払の点に関してのみ売春婦を欺罔して性交した事例と大差がないことなどを理由として,おおむね強姦罪の成立には否定的な見解であった。
対価支払の点に関して売春姉を欺岡して性交した事例や,いわゆる結婚詐欺の事例についてほ,具体的事案にもよるが,被害者が錯誤によって「抗拒不能」に陥ったとまでは言い難く,準強姦罪にも該当しないと考えるのが一般的見解であると思われ,そのこととの均衡を考えると,判例及び従来の通説的見解によっても,本件の場合,強姦罪(強盗強姦罪)の成立を否定すべきであろう。
また,法益関係的錯誤訳によれば,本件の場合,Ⅴは、対価取得の点には錯誤があるものの,強姦罪が保護する性的自由という法益の侵害については何ら錯誤なく承諾していることから,その有効性に影響を及ばすことはなく,強姦罪の成立は否定されると思われる

名古屋高等裁判所金沢支部平成14年3月28日
判決
上記の者に対するわいせつ図画販売,児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童買春処罰法」ともいう。)違反被告事件について,平成13年9月14日金沢地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官村主意博出席の上審理し,次のとおり判決する。

主文
原判決を破棄する・・・。

理由
本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成名義の各控訴趣意書(平成13年11月13日付け並びに「その2」,「その3」及び「その4」と題するもの),各控訴理由補充書(平成14年1月15日付け及び「最終」と題するもの。なお,各補充書中,控訴理由第23「訴訟手続の法令違反」の項は,職権発動を求める趣旨である。)のとおりであり(なお,弁護人は,同月17日付け及び同月18日付け各控訴理由補充書は陳述しない旨当審第1回公判期日において釈明した。),これに対する答弁は検察官村主意博作成名義の答弁書のとおりであるから,これらを引用する。

第1 控訴趣意中,事実の誤認の論旨(控訴理由第19)について
 所論は,原判決は,原判示第2,第3の1及び第4の各児童買春行為について,対償の供与の約束をしたことを認定したが,証拠によれば,被告人にはこのような高額な対償を支払う意思はなく,詐言であったことが明らかであるとし,このような場合には児童買春処罰法2粂2項にいう代償の供与の約束をしたことには当たらないから,同法4条の児童買春罪(以下,単に「児童買春罪」という。)は成立しないという。
 しかしながら,児童買春は,児童買春の相手方となった児童の心身に有害な影響を与えるのみならず,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるものであることから規制の対象とされたものであるところ,対償の供与の約束が客観的に認められ,これにより性交等がされた場合にあっては,たとえ被告人ないしはその共犯者において現実にこれを供与する具体的な意思がなかったとしても,児童の心身に与える有害性や社会の風潮に及ぼす影響という点に変わりはない。しかも,規定の文言も「その供与の約束」とされていて被告人らの具体的意思如何によってその成否が左右されるものとして定められたものとは認め難い。対償の供与の約束が客観的に認められれば,「その供与の約束」という要件を満たすものというべきである。関係証拠によれば,原判示第2,第3の1及び第4のいずれにおいてもそのような「対償の供与の約束」があったと認められる。所論は採用できない(なお,所論は,形式的な「対償の供与の約束」でよいというのであれば,準強姦罪で問うべき事案が児童買春罪で処理されるおそれがあるとも主張するが,準強姦罪は「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて姦淫した」ことが要件とされているのに対し,児童買春罪では対償を供与することによって性交等する関係にあることが必要であって,両者は明らかにその構成要件を異にするから,所論を採用することはできない。)。

第2 控訴趣意中,訴訟手続の法令違反の論旨(控訴理由第4及び第23)について
1 所論は,原判示第2ないし第4の各行為は,被害者らの真摯な承諾なく抗拒不能の状態でされたもので,強姦,準強姦,強制わいせつ,準強制わいせつ罪に当たるとし,いずれについても被害者らの告訴はなく,親告罪たる強姦罪等の一部起訴は許されないから,本件起訴は違法であって訴訟手続の法令違反があるという(控訴理由第23)。
 しかしながら,児童買春罪や児童買春処罰法7条2項の児童ポルノ製造罪(以下,単に「児童ポルノ製造罪」という。)は親告罪ではなく,しかも強姦罪等とは構成要件を異にしていて,児童買春罪等が強姦罪等と不可分の一体をなすとはいえず,原判示第2ないし第4が強姦罪等の一部起訴であるとはいえないから,告訴欠如の如何を論ずるまでもなく(最高裁昭和28年12月16日大法廷判決・刑集7巻12号2550貢参照),所論は失当である。なお,被告人の捜査段階及び原審公判の供述,共犯者の捜査段階の供述並びに被害者らの各供述によると,被告人らが被害者らに対して,畏怖させるような脅迫言辞を申し向けたことは認められない上,被害者らが性交等に及ぶ際あるいはその後の被告人らとのやりとりをみると,被害者らが恐怖心もあって買春に応じたと述べる部分もあるものの,他方で,買春行為の後,明日は行かないから,1日目の分だけお金を払って欲しい旨の電子メールを被告人に送信したり(原判示第2),これだけ恥ずかしい思いをしたのだからお金はもらって当然と思い,振込みでなく現金で欲しい旨申し出,受取りのため被告人が説明した場所に赴いたり(同第3の1),2度にわたって性交等に応じ,しかも2度目の際被告人に名刺を要求してこれを受け取り,記載してあった電話番号に電話をかけたり(同第4)していることなどが認められ,これら言動からすると,所論指摘の点を踏まえても,被害者らは対償の供与の約束により買春行為に応じたものと認めるのが相当であり,各被害者が抗拒不能の状況にあったということはできない。