児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

販売罪と所持罪は一罪(名古屋地裁半田支部H15.5.8)

 http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20050225/1109326968
と同じネタです。
 半田支部事件では、訴因変更がありました。裁判所はこれを許可してしまった。

名古屋地裁半田支部H15.5.8
当初訴因
  H14.11.19児童ポルノ所持(CDROM5枚)
変更後
  H14.11.19 児童ポルノ所持(CDROM5枚)
  H14.4~7月 児童ポルノ販売(8名11回CDROM62枚)

 東京高裁H15.6.4原田MAC判決に従えば児童ポルノ罪だけだったら、所持と販売は併合罪ですから、所持→所持+販売の訴因変更は不可です。違法です。時期も違うし。わいせつ図画罪が起訴されていないので、救いようがない。

東京高裁平成15年6月4日(原田判決)
2 罪数関係の誤りをいう論旨について(控訴理由第8,第11,第13,第14)
所論は,
児童ポルノ罪は,個人的法益に対する罪であるから,被害児童毎に包括して一罪が成立し,製造・所持は販売を目的としているから,製造罪,所持罪,販売罪は牽違犯であり,これらはわいせつ図画販売罪・わいせつ図画販売目的所持罪と観念的競合になり,結局,一罪となるが,原判決は,併合罪処理をしており,罪数判断を誤っている(控訴理由第8),
などという。
 まず,①の点は,児童ポルノ製造罪及び同所持罪は,販売等の目的をもってされるものであり,販売罪等と手段,結果という関係にあることが多いが,とりわけ,児童ポルノの製造は,それ自体が児童に対する性的搾取及び性的虐待であり,児童に対する侵害の程度が極めて大きいものがあるからこそ,わいせつ物の規制と異なり,製造過程に遡ってこれを規制するものである。この立法趣旨に照らせば,各罪はそれぞれ法益侵害の態様を異にし,それぞれ別個独立に処罰しようとするものであって,販売等の目的が共通であっても,その過程全体を牽連犯一罪として,あるいは児童毎に包括一罪として,既判力等の点で個別処罰を不可能とするような解釈はとるべきではない。
 もっとも,わいせつ図画販売目的所持罪と同販売罪とは包括一罪であるから,結局,原判示第2ないし第4の各罪は一罪として評価されるべきであり,この点で原判決には法令の適用を誤った違法があるが,処断刑期の範囲は同一であるから,判決に影響を及ぼすものではない。

 その前にも、大阪高裁H14.9.12は数個の販売罪を併合罪と判示しています。裁判所が調べればわかるはず。

 正しい法令適用を求めて控訴していれば販売罪については訴訟手続の法令違反で「公訴棄却」となった可能性がある。わかりやすくいえば、販売罪は落ちたはず。
 半田支部判決は執行猶予でしたが、この被告人は再犯したので、この判決の刑期が執行されます。
 こういうことがあるから、執行猶予判決でも判決書を取り寄せて法令適用をチェックしておく必要があるのです。
 このあたりになると、被疑者・被告人・捜査機関レベルでは理解できないと思うのですが、刑事訴訟法の法令適用の適否の問題で、裁判所は逃げられない問題。控訴して裁判所に聞いても怒られない。

 検察官向きにいえば、児童ポルノ事件では訴因変更による余罪追加は禁止です。
 弁護人向けにいえば、児童ポルノ事件では訴因変更請求には警戒せよ。