児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

外国官憲作成の調書の証拠能力

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20041201-00000022-san-soci

文献集めたことがあります。
角田正紀「犯罪の国際化と捜査」ジュリスト
宮崎礼壹「国外における捜査(証拠の収集)」刑事裁判実務大系
「国外における捜査活動の限界」 実例法学全集−続刑事訴訟法
古田佑紀「刑事司法における国際協力」現代刑罰法大系1
「国際犯罪をめぐる諸問題」捜査官のための実務刑事手続法
捜査実務全集15 国際・外国人犯罪
「児童の商業的性的搾取に反対する取組」警察学論集55巻4号

第321条〔被告人以外の者の供述書面の証拠能力〕
被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。
一 裁判官の面前(第百五十七条の四第一項に規定する方法による場合を含む。)における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は供述者が公判準備若しくは公判期日において前の供述と異つた供述をしたとき。
二 検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異つた供述をしたとき。但し、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。
三 前二号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、且つ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。但し、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。

ここにいう裁判官・検察官というのは日本の裁判官・検察官ですから、外国官憲作成の調書は3号書面です。
 員面にせよ検面にせよ、何処で作成されようと問題がないはずですが、警察権・捜査権というのは、国家の主権の行使そのものですから、外国で無断でやると主権侵害の違法性を帯びることになります。外国政府の承認を受けて日本式の調書を取らせてもらうという前例もあったと思いますが、ロッキード事件や角川事件とかで有効要件が出ていますので、最近は検察官が出張されるようです。

 奥村弁護士は、こんな意見を述べて、外国官憲作成の調書・報告書を撤回させたことがあります。自白事件でしたので、他の非供述証拠(写真など)で補強されて有罪になりましたが、外国語の証拠というのは違和感があった。

 被害者が外国にいる場合、その調書を不同意として、尋問のために被害者に来日してもらって、その際、示談なり被害弁償するという使い方もできると思います。

第1 はじめに
 検察官請求証拠(甲号証)をみると、外国警察作成の調書が多く、証拠能力に問題がある。被告人はC国ではなく日本で裁判を受けているのであるから日本の刑事訴訟のに基く裁判を受ける権利がある。日本の刑事司法に携わる者として弁護人は日本の刑事訴訟法に照らして証拠能力に疑問がある証拠に同意するわけにはいかない。
 そこで、外国警察作成の報告書・供述書等については、証拠能力について判断を求めるために、全部不同意とする。検察官にあっては、どうか321条1項3号書面の厳格な要件を立証していただきたい。
 これは、事実を争うものではなく、ただ、日本の刑事訴訟法上使用できる証拠だけを用いて事実認定をして頂きたいという、日本の弁護人として当然の要請である。

第2 供述不能
  供述者の所在は知らない。供述不能については検察官の立証が必要である。

第3 不可欠性
 検察官の主張に従えば、C国警察の調書など、存在しなくても有罪に出来るのである。不可欠性の要件を充たさない。必要性すらない。
 
第4 特信状況
 C国警察の調書は、いずれも身体拘束中の被疑者(被害者も含む)としての取調であるにもかかわらず、黙秘権の告知がされていないから任意性に疑いがある。検面調書・嘱託尋問調書とは異なり、録取者には法曹資格がない。内容も極めて簡略であり、供述内容の詳細さ、自然さ、首尾一貫性、他の証拠との一致等を認めるだけの量がない。宣誓も行われていない。偽証罪の制裁もない。しかも、弁護人等による実質的な反対尋問も行われていない。
 さらに内容をみても、被害児童は「」というが被害児童の母親は「」と言うなど、不一致も目立つ。これでは調書自体の信用性も特信状況もあるとは言えない。
 3号書面についての判決例を概観すると、公証人・裁判官・検察官・弁護人が立ちあったりと、証拠能力を獲ようと工夫してきた先人の苦労がうかがえる。本件の如き現地警察の簡単な調書が安易に証拠採用されるのならば、下記の判例にみる事件では、問題なく採用され、3号書面としての許容性など争点にすらならなかったであろう。

 窃盗事件
【事件番号】大阪高等裁判所判決/昭和25年(う)第686号
【判決日付】昭和26年2月24日
【判示事項】刑訴法第三二一条第一項第三号に該当する事例
【参照条文】刑事訴訟法321
【参考文献】高等裁判所刑事判決特報23号34頁

窃盗未遂,昭和二二年政令第一六五号違反事件
【判決日付】昭和24年7月25日
【判示事項】刑事訴訟法第三二一条第一項第三号にいわゆる「特に
信用すべき情況の下にされたものの例
【参考文献】高等裁判所刑事判決特報1号85頁

麻薬及び向精神薬取締法違反、関税法違反、業務上横領被告事件[角川コカイン密輸入事件第一審判決]
千葉地方裁判所判決/平成5年(わ)第1197号
平成8年6月12日
(五) D宣誓供述書(甲一七〇)について証人Rの供述、D宣誓供述書の形式によれば、被告人に対するコカイン密輸入事件に関し日本国政府からアメリカ合衆国政府に対し司法共助の要請が行われたこと、検察官Rは、この要請事項の執行(ロサンゼルス在住のDの供述を得ること)の立会いのため、ロサンゼルスに赴き、ロサンゼルス郡検事局に呼出を受けて出頭したDに対して、同検事局の捜査官二名(うち一名は日本語の聴取ができる。)の立会いの下に、Rが主として質問を行い、右捜査官らも補充的に質問して本件に関する事情を聴取し、その聴取内容を、Rが日本文に記載して起案し、その内容についてDに確認させ、同人の申出により幾つかの訂正を経て内容を確認した上、Rが日本文の読み聞かせをしたこと、その後、同国公証人の前で再度Dが右書面の内容を読んで内容を確認し、更にRが右書面をDの前で日本語で朗読し、Dがその内容が真実である旨の宣誓をして署名指印し、宣誓供述書」と題する書面が作成されたことが認められる。
右の事実によれば、右書面は、アメリカ合衆国における所定の手続により適法に作成されたものと認められるところ、右書面はDの作成した供述書であるから、その証拠能力については、刑事訴訟法三二一条一項三号書面に該当するか否かを検討することで足りるものと考える。
関係各証拠によれば、Dはロサンゼルスに在住する者であり、Cに対しコカイン及び大麻を有償で譲り渡したという嫌疑がかかっているのであるから、同人が公判準備若しくは公判期日において供述することができないこと、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであることは明らかである。
ところで、右書面は、アメリカ合衆国の公証人の前で宣誓した上で作成されたものであり、内容に虚偽がある場合には、同国において偽証罪の制裁を受けるという効果を伴うものと解せられるが、このような効果を持つ宣誓をさせたことが供述強制に当たるとはいい難い上、Dの黙秘権を侵害したものともいえないことは明らかである。
関係各証拠を検討しても、R検察官やロサンゼルス郡検事局の捜査官らがDに供述を強制したり不当な影響力を与えたことはうかがわれず、供述の特信性に欠けるところはないものと考える。


麻薬及び向精神薬取締法違反、関税法違反、業務上横領被告事件
最高裁判所第2小法廷決定/平成11年(あ)第400号
平成12年10月31日
 <要旨>原判決の認定によれば、Aの宣誓供述書は、日本国政府からアメリカ合衆国政府に対する捜査共助の要請に基づいて作成されたものであり、アメリカ合衆国に在住するAが、黙秘権の告知を受け、同国の捜査官及び日本の検察官の質問に対して任意に供述し、公証人の面前において、偽証罪の制裁の下で、記載された供述内容が真実であることを言明する旨を記載して署名したものである。このようにして作成された右供述書が刑訴法三二一条一項三号にいう特に信用すべき情況の下にされた供述に当たるとした原判断は、正当として是認することができる。

外国為替及び外国貿易管理法違反、贈賄、議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律違反被告事件
最高裁判所大法廷判決/昭和62年(あ)第1351号
平成7年2月22日
このように、当初から我が国の法廷における被告人、弁護人の審問の機会を一切否定する結果となることが予測されていたにもかかわらず、その嘱託証人尋問手続によって得られた供述を我が国の裁判所が証拠として事実認定の用に供することは、伝聞証拠禁止の例外規定である刑訴法三二一条一項各号に該当するか否か以前の問題であり、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしっっ事案の真相を明らかにすべきことを定めている刑訴法一条の精神に反するものといわなければならない。

      麻薬取締法違反被告事件
東京地方裁判所判決/平成2年(特わ)第956号
平成3年9月30日
 ちなみに、本件の捜査の端緒となった前記投書については、被告人が犯人であることを裏付ける証拠として、検察官から刑事訴訟法三二一条一項三号に該当する書面として証拠調べ請求がなされたが、当裁判所は、平成三年一月一六日付け決定書のとおり、同投書は捜査機関に対して匿名で犯罪事実を密告するものであり、投書作成時の部的情況が明らかでない上、匿名投書の性質上、作成者がその文面ついて責任を負わず、作成者に対する反対尋問の機会も全くなく、そのため作成者の知覚等に誤謬が介在したり、意図的な虚言を交える可能性が他の供述書に比べて格段に高いこと等から、これが同号但書にいう特に信用すべき情況の下で作成されたものとは到底認められないとの理由で、その証拠能力を否定し、右証拠調べ請求を却下したところである。

 弁護人はこれらの裁判例に現われる特信状況に照らして、本件各調書(C国警察)が如何にして特信状況を認められるのかについて明確な判断を求める。

第4 まとめ
 本件被害者調書は、321条1項3号の要件を充たさないから、証拠として採用されるべきではない。

 
 なお、外国官憲の証拠については、ICPOルートか、外交ルートで日本に届くが、それを合法的に日本の刑事手続に載せる手続がさだめられていないので、改めて押収手続きが取られることがある。それでいいのかというのも、確認の必要がある。


で、その事件でも検事がc国に出張するか、被害者を日本に連れてくるかすればいいわけだが、弁護人もそう叫んでいたのだが、被害者は所在不明となっていて、聴取は実現しなかった。
 結局、被害感情が証拠上全く出なかったので、それなりの量刑となった。