児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「児童回春」と誤植した事例(「カイシュン」と読んでくれたところまではよかったんですが。)

じゃなくて、児童ポルノ販売罪包括一罪説の判決
 島戸検事は
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20041031#p2
では併合罪説のようですが。

 この鳥取地裁事件は、余罪が「訴因変更請求」で追加されて、「併合罪であって公訴事実の同一性がないから訴因変更できない」という異議が付いています。
 今なら併合罪だから訴因変更不許可、追起訴になるか、児童ポルノは数罪だがわいせつ図画の一罪で串刺し一罪ということになるんでしょう。

鳥取地裁平成13年8月28日宣告
平成13年(わ)第93号 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,わいせつ図画販売,同販売目的所持被告事件

理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
1平成13年4月19日ころ,代金合計1万円を前払いしたFに対し,衣服の全部又は一部を着けない18歳未満の児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したビデオカセットテープ1本及び男女の性交場面等を露骨に撮影収録したビデオカセットテープ4本を,被告人自宅から,宅配便で,上記Fが指定した横浜市所在のF方にあて発送し,同月20日ころ,これをFに受け取らせ,もって,児童ポルノ及びわいせつな図画をそれぞれ販売し
2販売の目的で,同年5月16日ころ,上記被告人自宅において,衣服の全部又は一部を着けない18歳未満の児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したビデオカセットテープ9本及びCD−R6枚,18歳未満の児童を相手方とする又は児童による性交類似行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したビデオカセットテープ2本及びCD−Rl枚,衣服の全部又は一部を着けない18歳未満の児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写し,かつ,これとは別に男女の性交場面等を露骨に撮影収録したビデオカセットテープ3本及びCD−R3枚,男女の性交場面等を露骨に撮影収録したビデオカセットテープ304本及びCD−R218枚を所持し,もって,販売の目的で児童ポルノ及びわいせつな図画をそれぞれ所持し
3同年4月18日ころ,代金合計1万2000円を前払いしたIに申し,衣服の全部又は一部を着けない18歳未満の児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写し,かつ,これとは別に男女の性交場面等を露骨に撮影収録したビデオカセットテープ1本及び男女の性交場面等を露骨に撮影収録したビデオカセットテープ5本を,上記被告人自宅から,宅配便で,上記Iが指定した大阪府にあて発送し,同月19日ころ,これを上記Iに受け取らせ,もって,児童ポルノ及びわいせつな図画をそれぞれ販売し
4同月19日ころ,代金合計1万2000円を前払いしたJに対し,衣服の全部又は一部を着けない18歳未満の児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したビデオカセットテープ1本,衣服の全部又は一部を着けない18歳未満の児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により謬識することがでる方法により描写し,かつ,これとは別に男女の性交場面等を露骨に撮影収録したビデオカセットテープ1本及び男女の性交場面等を露骨に撮影収録したビデオカセットテープ4本を,上記被告人自宅から,宅配便で,大阪府上記J方にあて発送し,同月21日ころ,これを上記Jに受け取らせ,もって,児童ポルノ及びわいせつな図画をそれぞれ販売し
5同月25日ころ,代金合計1万2000円を前払いしたSに対し,衣服の全部又は一部を着けない18歳未満の児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写し,かつ,これとは別に男女の性交場面等を露骨に撮影収録したCD−Rl枚及び男女の性交場面等を露骨に撮影収録したCD−R5枚を,上記被告人自宅から,宅配便で,上記Sが指定した大津市所在の株式会杜にあて発送し,同月26日ころ,これを上記Sに受け取らせ,もって,児童ポルノ及びわいせつな図画をそれぞれ販売し
6同月30日ころ,代金合計2万6000円を前払いしたTに対し,衣服の全部又は一部を着けない18歳未満の児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したビデオカセットテープ2本,衣服の全部又は一部を着けない18歳未満の児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写し,かつ,これとは別に男女の性交場面等を露骨に撮影収録したビデオカセットテープ1本及び男女の性交場面等を露骨に撮影収録したビデオカセットテープ10本を,上記被告人自宅から,宅配便で,大津市上記T方にあて発送し,同年5月1日ころ,これを上記Tに受け取らせ,
もって,児童ポルノ及びわいせつな図画をそれぞれ販売したものである。

法令の適用)
罰条
児童ポルノ販売,同販売目的所持の点
包括して児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条1項,2項
わいせつ図画販売,同販売目的所持の点
包括して刑法175条
科刑上1罪(観念的競合)
刑法54条1項前段,10条(重い児童ポルノの罪の刑で処断)

(弁護人の主張に対する判断)
所論は要するに,児童ポルノの罪は被撮影者の個人的法益に対する罪であるとし,これを前提として,
(1)本件訴因変更は公訴事実の同一性がないから許されず,変更後の訴因2ないし6は審判の対象になっていない。
(2)被撮影者の児童1名につき1罪が成立するのに,本件においては,被害者の数すら特定されていないから,訴因不特定(法256条3項)による公訴棄却を免れない。
(3)児童の実在が構成要件要素であるのに,公訴事実からそれが窺われないから,法339条1項2号(起訴状に記載された事実が真実であっても,何らの罪となるべき事実を包含していないとき)により決定で公訴を棄却するか,無罪判決をすべきであるし,そうでないとしても,「実在」に該当する具体的事実をできる限り特定すべきであるのに不十分であるから,法338条4号(公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき)により判決で公訴を棄却すべきである。
(4)被撮影者が児童(18歳未満)であることの立証も,被告人が年齢を知っていたことの立証もない上,本件児童ポルノは静止画像ではCGや合成写真である可能性があり,撮影時点で被撮影者が実在しているとはいえず,被告人が実在性を認識していない。また,保護法益が個人的法益である以上,被撮影者は犯行時に実在ないし生存していることが必要であるのに,この点の確実な証拠もない。
(5)本件ビデオのうち2号ないし3号児童ポルノとされるものについては,いずれも全体から見て,ストーリー性や学術性,芸術性などを有している上,少数の児童ポルノ愛好家でなく一般人が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に当たらないから,児童ポルノとはいえない。
(6)保護法益が個人的法益であるから,被害者の同意があれば犯罪の成立は阻却される。
などと言うのである。ところで,児童ポルノ(児童回春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の俸護等に関する法律2条3項に定義された児童ポルノをいう。)を販売等する行為は,児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を与えるのみならず,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に事大な影響を与えるものであるから,かかる行為を規制,処罰することとしたものであって,対象とされた児童の保護を主たる目的としているとはいえ,このことから当然に被撮影者の児童1名につき1罪が成立するものではなく,罪数を決するに当たっては,その構成要件的評価によるべきところ,児童ポルノの販売ないし販売目的による所持は,反復継続する行為を予想するものであるから,同一の意思のもとに行われる限り,個々の販売や所持は,これを包括して1罪と解するのが相当である。そうすると,本件訴因変更は適法であり,起訴状ないし訴因変更請求書において被害者数を明らかにしなかったからといって,訴因の特定に欠けるとも言えない。
また,児童の実在性については,描写されている者が実在する児童,すなわち「18歳未満の者」であることが立証されなければならないが,それ以上に,描写された被害児童がどこの誰であるかが訴因の特定のために必要であるとは解されない上,被撮影者が18歳未満の実在する児童であることは,鑑定書等挙示の関係証拠によって十分認定でき,これがCGや合成写真であることを疑わせる状況はない。また,被告人の知情の点についても,合理的な疑いを差し挟む事情は見い出せない。(5),(6)の点についても,本罪の立法趣旨に鑑みると,これらが法の定義する児童ポルノに該当することは明らかというべきであり,また,被害者の同意によって違法性が阻却されるものでもない。弁護人の主張は,いずれも採用できない。

(量刑の理由)本件は,被告人が,インターネットのオークションを通じて購入申込をしてきた5名に対し,いわゆるわいせつビデオや児童ポルノビデオ等合計36本を合計7万2000円で各販売し,販売目的で,被告人自宅において同様のビデオ等合計546点を所持したという事案である。被告人は,平成12年3月ころから,インターネットのオークションを利用してわいせつビデオ等を販売するようになり,次第に売り上げを伸ばしていたが,平成13年1月ころからビデオの販売数が減少し,その原因が児童ポルノがないためであると考え,わいせつビデオや児童ポルノ等を販売するようになったもので,本件以外にも広範囲にわたってわいせつビデオ等を販売したことを自認している。このように,本件各犯行は,職業的で常習的なものであり,利益目的で児童の権利を侵害し,善良な社会風俗を害した被告人の刑事責任は大きい。