児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ所持罪は製造罪に吸収される

 千歳空港です。

 製造すれば児童ポルノができてしまうわけで所持せざるを得ないわけで、どの程度まで製造罪に吸収されるのでしょうか?製造&所持は併合罪ですし、法定刑も5年(併合罪加重で7.5年)になりましたから切実な問題です。

 ヒロポン時代から製造罪と所持罪の擬律は難しかったらしいですが、児童ポルノの製造罪と所持罪も難しい。
 重い罪なので、併合罪だというんだから、製造罪だ、所持罪だ、提供罪だって積極的に罪名を適用して立件してきてもよさそうなものですが、意外と罪名が少ないのはこの辺に理由があるのかも。

 1個罪名が消えるというのは被告人にとっては嬉しい話です。
 児童買春→製造→所持→販売の事案では、かなりの確率で実刑も予想されるわけですから、罪数の議論も積極的に吹っ掛けるべきですね。

 上告中の事件で期限切れなんですが一応最高裁に投げてみる。

 製造に引き続く所持については、所持罪は成立しないというのが最高裁判例であるから、原判決は判例違反により破棄を免れない。
すなわち、本件MOの所持については、児童ポルノであるMOの製造に伴う必然的結果として一時的に所持せられるに過ぎない。
 判例によれば、MOの所持は製造罪に吸収されるから、製造罪とは別個に所持罪を認めしかも併合罪とした原判決は著しい判例違反がある。

2 一審判決
 本件は事実関係に争いはなく、一審判決の摘示通りである。
 同じMOが製造罪の客体にも所持罪の客体にもなっている。

一審判決
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1販売の目的をもって,別紙一覧表A記載のとおり,平成13年12月27日から平成14年4月26日までの間,前後8回にわたり,新潟県所在の「ホテル」206号室ほか6か所において,M(昭和年月日生,当時17歳)ほか2名が18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童らを相手方とする性交場面又は性交類似行為場面若しくは性器等をビデオカメラで撮影し,同ビデオカメラに装着したビデオテープ12巻に記録,蔵置させるとともに,同児童らを相手方とする性交場面又は性交類似行為場面若しくは性器等を露骨にデジタルカメラで撮影した画像データを同デジタルカメラに装着したコンパクトフラッシュ等を経由した上,平成13年12月27日から平成14年2月11日までの間,同県被告人方において,パーソナルコンピューターを使用し,同画像データ51画像を光磁気ディスク1枚に記録,蔵置させ,もって,児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等を視覚により認識できる方法により描写するなどした児童ポルノを製造し,
(販売頒布関係は省略)
第4販売の目的をもって,同年7月15日午後零時10分ころ,新潟県被告人方において,前記Mほか2名が18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童らを相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等の映像がパーソナルコンピューターの画面に再生,表現できる情報を記録したわいせつ図画であるパーソナルコンピューター上のハードディスク,光磁気ディスク1枚(平成14年押第22号の1)及び別紙一覧表3記載のとおり,18歳に満たない児童である前記Mほか2名を相手方とする男女の性交場面等を露骨に撮影した児童ポルノであり,かつ,わいせつのビデオテープ(デジタルビデオテープ,8ミリビデオテープ,VHSビデオテープ)題名「ナ」等29巻(同号の2ないし30)を所持するとともに,別紙4記載のとおり,男女の性交場面及び性器等を露骨に撮影したわいせつのビデオテープ(前同)題名「d」等40巻(同号の31ないし70)を所持したものである。

3 児童ポルノたる電子データの流れ
 本件児童ポルノのうち、電子データのものの処理の経緯は次の通りである。

 中には、次のように複雑な経路をたどったデータもある。

 いずれにせよMOはバックアップであることは争いがないところであり、パソコン周辺に保管されていたことも争いがない。
 新規記録・追加記録を製造罪とするならば、製造されっぱなしのままの状態で所持していたのである。移動された形跡は全くない。
 製造すれば当然児童ポルノ所持の状態が生じるのは当然であって、所持罪は製造罪に吸収される。

4 判例
 製造罪と所持罪については主に薬物・爆発物関係で豊富な判例がある。薬物。爆発物関係の罰則も児童ポルノと同様に特別高度な違法性に着目した特別刑法であって、罪数面においても厳しく扱われている。そういう事情における罪数判断として、製造行為に必然的に随伴する場合は、所持罪は製造罪に吸収されるというのである。

東京高等裁判所判決/昭和52年(う)第1492号昭和53年1月31日

 第五、弁護人の控訴趣意第三点(法令適用の誤りの主張)について、
 所論は要するに、原判示第一の(三)の爆発物の製造罪と同第二の所持罪とは包括一罪と解すべきであるのに、原判決がこれを併合罪として処断したのは法令の解釈・適用を誤つたものであつて、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるというのであるが、爆発物取締罰則は、爆発物による公共危険の発生を未然に防止するため、爆発物の製造、所持、使用等の各段階においてこれらをそれぞれ別個、独立に規制しようとするものと解せられるから、製造に当然随伴して一時的に所持するに過ぎないような場合は格別、製造した場所から持ち出して建物爆破の目的地に向うためこれを運搬していたという本件は、その所持に独自性を認めて然るべき場合であるから、右所持罪が製造罪に包括あるいは吸収されるものと考えるべきではなく、両者は併合罪の関係にあるものと解するのが相当である。原判決には所論のような法令の解釈、適用の誤りはなく、論旨は採用できない

      酒税法違反
札幌高等裁判所函館支部判決/昭和31年(う)第6号
酒類密造者が、その製造の必然の結果として所持する場合は、製造罪のほかに所持罪を構成しないが所持が製造と必然的な関係を離れて全く別個の行為と認められるときには 製造罪のほかに所持罪を構成するものと解すべきであつて、原判決が所持罪は他人の製造した密造酒を所持ずる場合に限って構成し、自己が製造した酒類を所持する場合には常に所持は製造に包含せられるものと判示したのは、法令の解釈適用を誤つたものというのほかはない。

      覚せい剤取締法違反被告事件
最高裁判所第2小法廷決定/昭和28年(あ)第1534号昭和30年1月14日

同第二点については、第一審判決の判示第二において被告人が昭和二七年二月二二日所持していたと認められた覚せい剤一八六〇本が、同判示第一の(一)、(二)において被告人が同年二月七日頃から同年五月二二日頃までの間製造したと認められた覚せい剤二五〇〇〇本の一部であつても、それが右製造に伴う必然的結果として一時的に所持せられるに過ぎないものと認められない限り、その所持は製造罪に包括、吸収せられるものと認むべきではないから、製造罪の外に所持罪の成立を認めた原判決は結局正当であつて、論旨は採用できない。)また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

最高裁判所第3小法廷判決/昭和31年(あ)第225号昭和33年6月3日
 弁護人榊純義の上告趣意第一点について。
 記録によれば、被告人に対する本件昭和二九年一二月二四日附起訴状の公訴事実は被告人が同年一二月三日頃被告人の自宅で

第一審判決判示覚せい剤注射液三四〇本を所持したという事実であり、同三〇年三月一五日附起訴状の公訴事実中の第一の(二)はその以前被告人が同二九年一一月末頃被告人の自宅でAより同覚せい剤注射液約三四〇本を譲り受けたという事実であり、原判決の是認した第一審判決はこの両公訴事実を認定したところ、同判決及び挙示の証拠によれば、右のうち前の起訴状による公訴事実(第一審判示第二の(三))におけら所持の目的物たる覚せい剤三四〇本というのは後の起訴状による公訴事実(同判示第二の(二))における譲受の目的物と同一物であること、すなわち、右覚せい剤譲受の事実とその同じ覚せい剤をその後所持した事実とが別個に起訴され判決において別個の犯罪として認定されているのであるが、しかし右公訴事実及び第一審認定事実における所持とは、被告人が判示の年一一月末頃覚せい剤約三四〇本を譲り受けた後(すなわち、覚せい剤不法譲受罪が完了した後)、法定の除外事由がないのに更にそのうち四〇本を被告人方階下蠅帳の下に、三〇〇本を二階床下に隠して同年一二月三日頃所持した事実を指すものであることが認められる。かような場合には右覚せい剤の譲受とその隠匿所持とは同一の事実でなく第一審判決のようにそれぞれ別個の覚せい剤不法譲受罪と同不法所持罪とを構成するものと解するを相当とする。このことは覚せい剤譲受行為とその覚せい剤の一部を居宅炊事場の石油罐または土蔵内に隠匿所持した行為とは各別個の罪を構成し併合罪となるとした当裁判所の判例(昭和三〇年(あ)一六六五号同三一年一月一二日第一小法廷決定、集一〇巻一号四三頁)の趣旨に照らして明らかである。されば、憲法三九条違反の論旨は前提を欠き採用することができない。


大阪高等裁判所判決/昭和28年(う)第1620号昭和28年10月26日
弁護人の控訴趣意第二点について。
 原判決がその第二において昭和二八年一二月八日覚せい剤アンプル六三〇本所持の事実を認定し、これと第一の覚せい剤アンプル一一、三〇〇本譲受の事実との間に併合罪の関係ありとし刑法第四七条により併合罪の加重をした刑期範囲内で被告人を処断していることは所論のとおりであるが、挙示の証拠によると右第二判示事実において被告人が所持していたとする覚せい剤アンプル六三〇本というのは、原判示第一事実において譲り受けたと認定した一一、三〇〇本のうち同月五日頃譲り受けた分の残りであることが明白である。
しかし覚せい剤不法譲受の事実中にはこれによつて当然生すべき不法所持の事実を包含するものと解するのが相当であるから(最高裁判所昭和二四年一二月六日第三小法廷言渡判決参照)譲受後保管態様に変更を生じ別異な所持があるものと認むべき格別の資料のない本件にあつては、不法譲受罪とは別個に不法所持罪を構成するものではないものと解すべきであり、従つて両者を各独立の犯罪なりとしこれを併合罪として処断したのは違法であつて右は判決に影響するから論旨はその理由がある。

5 判例違反
 大阪高裁S28の言いまわしを借りれば、本件児童ポルノ製造罪の事実中にはこれによつて当然生すべき所持の事実を包含するものと解するのが相当であるから製造後保管態様に変更を生じ別異な所持があるものと認むべき格別の資料のない本件にあつては、製造罪とは別個に所持罪を構成するものではないものと解すべきである。
 よって、MOについて製造罪とは別個に所持罪を認めた原判決には判例違反があるから原判決は破棄を免れない。