児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

製造罪と強制わいせつはどうなの?

 「撮影した」という強制わいせつの場合、児童ポルノ製造罪は立件されないことが多い。撮影が「わいせつ行為」なんだから、観念的競合。

わいせつ、四国中央市元職員に実刑判決/松山地裁
2006.05.12 読売新聞社
被告は昨年8月4日と同月20日、女児8人に粘着テープで目をふさいだうえで服を脱がせ、デジタルカメラで撮影するなどした。

 そのうち、この事件の判決を見に行くことにする。

 ところで、
  神戸地裁尼崎h17
  和歌山地裁h17
によれば、強制わいせつ罪とその機会に行われた撮影行為(製造罪)は併合罪

 浜松支部の事案を借りると、

静岡地方裁判所浜松支部平成11年12月1日
 (罪となるべき事実)
 被告人は、平成一一年四月二五日ころ、静岡県浜松市〈番地等略〉五階駐車場に駐車中の普通乗用自動車内において、甘言を用いて誘い出した甲野春子(当一一年。昭和五三年五月一八日生)および乙山夏子(当八年。平成三年七月一日生)に対し、同女らが満一三歳未満であることを知りながら、「ゲームボーイを買うお金をあげるから、裸の写真を撮らせて。」などと申し向け、同女らをしてその着衣を脱がせて全裸にさせたうえ、同女らの陰部等の写真を撮影し、もって一三歳未満の婦女に対しわいせつな行為をしたものである。

こう書いてしまえば、強制わいせつ一罪なんだけど、

 被告人は、
第1 平成一一年四月二五日ころ、静岡県浜松市〈番地等略〉五階駐車場に駐車中の普通乗用自動車内において、甘言を用いて誘い出した甲野春子(当一一年。昭和五三年五月一八日生)および乙山夏子(当八年。平成三年七月一日生)に対し、同女らが満一三歳未満であることを知りながら、「ゲームボーイを買うお金をあげるから、裸の写真を撮らせて。」などと申し向け、同女らをしてその着衣を脱がせて全裸にさせ、もって一三歳未満の婦女に対しわいせつな行為をし
第2 前同日、同所において、前記児童らの陰部等の写真を撮影し、もって児童ポルノを製造し
たものである

と書いてしまうと、併合罪になる。
 事実は一緒なのに。

 併合罪説に立つと、

静岡地方裁判所浜松支部平成11年12月1日
 (罪となるべき事実)
 被告人は、平成一一年四月二五日ころ、静岡県浜松市〈番地等略〉五階駐車場に駐車中の普通乗用自動車内において、甘言を用いて誘い出した甲野春子(当一一年。昭和五三年五月一八日生)および乙山夏子(当八年。平成三年七月一日生)に対し、同女らが満一三歳未満であることを知りながら、「ゲームボーイを買うお金をあげるから、裸の写真を撮らせて。」などと申し向け、同女らをしてその着衣を脱がせて全裸にさせたうえ、同女らの陰部等の写真を撮影し、もって一三歳未満の婦女に対しわいせつな行為をしたものである。

という記載は、併合罪である児童ポルノ製造罪を含んでいて、それは起訴されていないのに訴因に記載されているので、起訴されていない余罪になったり、訴因不特定の問題も出てくる。

 こんなこと、誰も考えてなかっただろ。

 かくして、普通の弁護士なら回避したい児童に対する強制わいせつ・強姦も取り扱い分野になってきた。

追記
 併合罪の事実を一個の訴因として記載した場合の問題点

東京高等裁判所平成12年6月27日
 2 しかし、原裁判所の右の訴訟手続には、重大な法令違反があることが明らかというべきである。
 すなわち、右のように二個の所持罪を認定しようとするのであれば、これに対応する公訴事実には、二個の所持の事実が書き分けられておらず、かつ、二個の所持に分ける手がかりとなるような事実の記載もないから、併合罪関係にある二個の所持罪の起訴としては訴因の特定を欠くというほかないので、原裁判所としては、検察官に原判示事実に沿うように訴因を補正させる必要があったというべきである。
それにもかかわらず、このような措置を講じないまま前記のとおりの判決をした原裁判所の訴訟手続は、審判対象の明示・特定という訴因制度の趣旨を無視するものであり、これが被告人の防御に具体的な影響を及ぼしたかどうかを論ずるまでもなく(本件においては、原判決のように二個の所持罪を認めるというのであれば、第二の二の罪については自首の成否が問題にされてしかるべきであるが、このような防御上の論点等の存否にかかわらず)、到底是認することができない(なお、本件とは異なり、公訴事実自体に数罪と認定する基礎になる事実が記載されている場合は、訴因の補正の問題は生じないことは当然である。ただ、その場合でも、検察官に対する釈明等を通じて、被告人への不意打ちを避けるための措置を講じなければならない場合があることに注意すべきである。)

東京高等裁判所平成6年8月2日
三 ところが、検察官は、原判示第四の公訴事実について、以上のような証拠に基づき訴因を日時、場所等によって特定することなく、前記のような概括的な記載をもって、被告人を起訴したものであるから、原審としては、検察官に釈明を求め訴因をより具体的に特定させるべきであったといわなければならない。なお、被告人の覚せい剤注射を目撃した旨の中村の前記検察官調書中の供述も一概には排斥し得ず、かつ同調書の立証趣旨は前記のとおり「犯行目撃状況等」とされていたのであるから、前記公訴事実の記載につき、検察官として、同女の目撃したとする被告人の覚せい剤使用を起訴したものと見る余地もない訳ではないところ、これと被告人の供述する覚せい剤使用の事実とは社会的事実として両立し得るもので、併合罪の関係にあるから、本件において原審が検察官に釈明を求め訴因を特定識別することの必要性はいっそう強かったというべきである。しかるに、原審はこれをせず、漫然、前記のように概括的で不特定な事実を認定判示したことが明らかであるから、原審は、訴訟手続の法令違反を冒したものというべきであり、これが判決に影響を及ぼすことが明らかである。したがって、所論についての判断を待つまでもなく、原判決は破棄を免れない。