児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・強姦・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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客観的に性的自由を侵害する行為は、強制わいせつ罪になるのか?(陰茎切断行為 東京地裁H28.7.5)

 性器傷つける行為は強制わいせつ罪ということになるのかなあ。
 

銃砲刀剣類所持等取締法違反,傷害被告事件
東京地方裁判所判決平成28年7月5日
       理   由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 
第2 同日午前7時41分頃,同区虎ノ門□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□法律事務所において,□□□(当時□□歳)に対し,その顔面を拳骨で数回殴る暴行を加え,さらに,持っていたはさみ(平成27年東地領第4553号符号1)で同人の陰茎を切断するなどし,よって,同人に全治まで約1か月間を要する外傷性下顎骨打撲症及び通院加療約1年間を要する陰茎切断等の傷害を負わせた。
(証拠の標目)
(法令の適用)
罰条     第1 銃砲刀剣類所持等取締法31条の18第3号,22条
       第2 刑法204条
刑種の選択     いずれも懲役刑を選択
併合罪の処理    刑法45条前段,47条本文,10条,47条ただし書(重い第2の罪の刑に法定の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
没収        はさみにつき刑法19条1項2号,2項本文,包丁につき同条1項1号,2項本文
訴訟費用の不負担  刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 1 本件は,当時法科大学院の学生であった被告人が,包丁とはさみを携帯し,妻と共に,妻の勤務先の法律事務所に向かい,その途中,地下鉄駅構内で携帯していた包丁(判示第1の事実)をゴミ箱内に投棄したものの,はさみは携帯したまま同事務所に赴き,妻がその専属の事務員を務める弁護士と面会した際,同人を殴打し,その陰茎をはさみで切断した(判示第2の事実)という銃砲刀剣類所持等取締法違反,傷害の事案である。被告人が携帯していた包丁は,刃体の長さが約18.9センチメートルの牛刀で,はさみは,枝切り用のものであった。
 2 被告人は,面会した被害者に対し,妻との関係を質したが,被害者の回答が意に沿わないものであったことから,被害者の顔面を数回殴打して転倒させ,意識もうろう状態となった被害者のジーパンとトランクスを脱がせ,所携のはさみで陰茎を切断し,切断した陰茎を事務所内のトイレに流している。一連の行動は,短時間に素早く行われており,被害者には抵抗の余地を与えていない。被告人には,高校時代から大学時代にかけて,ボクシングの経験があったことからしても,殴打行為は強力なものであったと考えられるし,犯行に用いたはさみも切断する力の強いものであった。被害者が救急搬送された際,切断部位に止血措置は施されていたものの,直ぐに処置せず放置すれば,生命にも危険が生じかねない状態であった。このように,傷害の犯行態様は極めて危険性の高い悪質なものである。被害者に回復不能の傷害を負わせたという結果も誠に重大であり,被害者は,日々,肉体的・精神的苦痛にさらされ続けている。
 3 被告人が本件犯行に至った経緯をみると,被告人は,本件犯行の約5日前,妻から,被害者との間に性的関係があったことを打ち明けられて強い衝撃を受けた。そして,妻の話し振りなどから,妻が意に沿わない性交渉に応じさせられていたと考え,被害者に強い憎悪を抱いた。被告人は,被害者に対して法的手段に訴えるため,被害者と面会して被害者から言質をとり,これを録音して証拠化しようと考え,そのためのシナリオを作成する一方,本件犯行の3日前には,上記包丁とはさみを同じ店舗で購入した。被告人は,本件当日の朝,妻と共に弁護士会のセクハラ相談センターに相談に行く予定であったが,前日,妻に送っておいた上記シナリオのデータを,妻が被害者に誤送信したことから,被害者に計画が露見したと考え,直ちに被害者と面会して言質を取らなければならないと考えて,ボイスレコーダーと包丁とはさみを持ち,妻と共に,被害者の勤務先事務所に向かって,本件各犯行に及んでいる。被告人が,途中で包丁を投棄したのは,これを使って生命に関わる事態が生じることを避けるためであった。
   このような経緯や上記シナリオの内容(被害者を詰問する文言が並んでいるが,末尾には「今日のところは失礼します」との記載がある。)を見ても,被告人が包丁やはさみを購入した時点で,実際に被害者に対してこれを用いることを決意していたとまでは認められない。本件当日,被害者の勤務先事務所に赴くことにしたのも,妻のデータの誤送信が契機となっているし,被告人は,ボイスレコーダーで被害者との会話も録音している。したがって,本件犯行は計画的なものとまではいえないが,被告人が,本件犯行当日,包丁を投棄する一方,はさみはそのまま持って事務所に赴いていること,傷害の犯行が短時間に手際良く行われていること,犯行後の被告人の言動等に照らすと,本件のような事態になることは被告人も十分想定していたと認められる。
   関係証拠によれば,被告人の妻が被害者から性的関係を強要されていたとは認められない。被害者は,被告人と面会した際,被告人の妻と性的関係を持ったことを率直に認めて謝罪しており,本件犯行時の被害者の対応にも特に問題は認められない。被害者の側に,被告人の量刑を左右するような落ち度は認められない。
   以上によれば,被告人が犯行動機を形成するに至った経緯には,一定程度酌むべき事情は認められるものの,被告人の刑事責任は相当に重いといわなければならない。
 4 そうすると,被告人が,犯行後,妻に救急車を呼ぶよう指示し,現場に止まって現行犯逮捕に応じていること,現在では自分のとった行動を深く後悔し,被害者に対して謝罪の念を抱くに至っていること,刑事責任を問われるのは今回が初めてであること,被害者との間で一応示談が成立し,被害者が厳罰を望む意思は表明していないことといった事情を考慮しても,主文の実刑が相当である。
(求刑 懲役6年,はさみと包丁の没収)
  平成28年7月5日
    東京地方裁判所刑事第13部
           裁判官  家令和典